Z-ONE先生のブルーアーカイブ5D's   作:福留しゅん

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ホシノ、反転する

 ◆三人称視点◆

 

「知ったような口ぶりだね、風紀委員長ちゃん」

 

 砂漠のど真ん中、膝を屈したホシノがヒナに銃口を向けられている。2人の死闘は勝敗が決している。しかしヒナの言葉にホシノはなおも耳を貸そうとしなかった。いや、そもそも会話が成立していたのだろうか?

 

「すべてが思い通りに行くわけがない。むしろ、思い通りに行かないことのほうが多い」

「……」

「亡くなった人は蘇らないし、過去は変えられない。ユメ先輩の死が、決して覆らないように」

「それは……」

 

 ここでようやくヒナはホシノの様子がおかしいと気づく。もはやホシノはヒナを見ていない。幻覚を見ているのか、それとも単にヒナを認識出来なくなったか。どちらにせよ放ってはおけないと彼女へ歩み寄ろうとして、足が動かなかった。

 

「……どうして? なんで、先輩が死ななくちゃいけなかったの?」

 

「一体どころから間違えちゃったんだろ……あんな最後になるなんて……」

 

「……ねえ、どうして?」

 

 ヒナは後ろ足を少し下げて重心を落とす。すぐにでも行動に移れるように。

 

「手帳、手帳は……どこ?」

 

「先輩が言う「あそこ」って?」

 

「いったい、あの手帳には何が書いてあるの?」

 

 今すぐ引き金を引いてホシノを昏倒させるべきか。

 それとも落ち着くまで様子を見るべきか。

 ヒナは普段なら考えるまでもなく前者を選択するのだが、本能が警報を鳴らし続ける。目の前の存在は危険だ、と。

 

「あの時、私が怒らなければ……」

 

「あの時、私が反対しなければ……生徒会に入らなければ……」

 

「いや、そもそも……私がいなければ」

 

 ――ユメ先輩は、死なずに済んだ。

 

「っ! 小鳥遊、ホシノ!」

 

 ヒナは愛銃に搭載しているデュエルディスクのフィールドにカードをセットした。呼び出されたのは《魔王超龍ベエルゼウス》。【DD】デッキとは相性がイマイチなのでもっぱらリアルファイト要員で使役する、ヒナを象徴するエースモンスターだ。

 

「ベエルゼウス・ジェノサイダー!」

 

 全てを食い散らかす暴食の魔王の一撃。しかしその二首の龍がホシノに噛みついたものの、その牙がホシノに届く前に食い止められてしまった。ホシノから発せられた膨大な量の闇によって。

 

「――私だ。私が殺したんだ。私のせいだ」

 

 私が、私が……私が。

 

 私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。

 私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。

 私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。

 

 私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。私が。

 

 わ た し が

 

「そんな……《ベエルゼウス》が一撃で……!?」

 

 ホシノを中心に発せられた衝撃波でヒナの小さな体が舞い上げられる。地面に叩きつけられまいと身を翻して着地した頃には、遠い向こうでヒナの魔王超龍が闇に捕食されていた。闇がいつの間にか己のモンスターと同じ姿となって。

 

 そしてホシノ自身にも明らかな変化が見て取れる。服装や髪型などの外見的特徴の変貌は些細な点だ。肝心なのは、彼女から発せられる気配だろう。ヒナも直に対峙したのは指で数えられる程度だが、もはやホシノ自身が神に匹敵するプレッシャーを放っていた。

 

 戦闘破壊されないはずの《ベエルゼウス》を喰らい尽くした闇の魔王超龍はやがてその姿を崩し、暗黒の球体と化してホシノの頭上に浮かぶ。まるで漆黒の太陽のようだ、とヒナは感想を抱く。

 

 逃げろ、と本能が叫ぶ。

 逃げるわけにはいかない、と理性は訴える。

 ヒナは久々に味わう恐怖を押さえ込み、後者を選択。

 恐怖をかき消すほどの闘争心をもってホシノを睨んだ。

 

「時の闇に潜むパラダイム。必然の力が因果律の悪魔を呼び覚ます……!《DDD運命王ゼロ・ラプラス》!」

 

 ヒナが新たに召喚したモンスターは攻撃時に攻撃力が相手モンスターの元々の攻撃力の倍になる効果を持つ。あの闇の球体がどれほどの攻撃力を持とうと関係ない。もし向こうが攻撃力変動効果を持つのなら《ゼロ・パラドックス》で畳み掛けるまで。

 

 そしてヒナは《ゼロ・ラプラス》に攻撃命令を下すが、直前に闇の球体が揺らめき、形を変えていくではないか。闇はやがて《ゼロ・ラプラス》へと姿を変え、ヒナの《ゼロ・ラプラス》を一方的に戦闘破壊してしまう。

 

「まさか、相手モンスターの姿になって必ず凌いでくるモンスター……!」

 

 モンスターではない、神だ。

 闇の球体の正体を知る者がいたらこう言ったことだろう。

 反転したラー、《邪神アバター》を上回るすべなど存在しない。

 

 《ゼロ・ラプラス》の破壊に驚き、敵の正体を分析したのは瞬きする程度の時間に過ぎない。しかし、そんな隙をホシノは見逃すはずもなく、ヒナに向けた銃の引き金を引いた。

 

 

 ◆◆◆

 

 

"……!"

「な、何が起きて……?」

「あっちで爆発が! っていうか、空が……」

「これは……」

 

 大破した列車砲シェマタが完全に走行不能になったことを確認していた"先生"たちは、空が紅色に染まったことに驚きを隠せない。なにかとんでもないことが起こっている、と思わせるには充分すぎた。

 

「ぐっ……」

「おい、しっかりしろって監督官!」

「むーりー、完全に伸びてるー」

 

 ヒカリとノゾミにシェマタの機関室から引っ張り出されたスオウは気を失っていた。機関室の動力はまだ生きているが、肝心の走行機能と発砲機能は損傷しているので、シェマタは無力化したも同然だろう。

 

「ひとまず、列車砲は停止できましたが、今度は何が……?」

「なんかもう、列車砲どころじゃなさそうだけど!?」

"ホシノ、ヒナ……!"

 

 爆発音が聞こえてきた方角に向かって歩き出す"先生"。シロコたちアビドスの一同も足を動かし始めようとして、不意に反対方向から何か聞こえてきた。それは道もない砂漠で聞こえるはずもないDホイールの駆動音のようだ。

 

 "先生"たちが視線を向けた先からは1台のDホイールが接近していた。そのDホイールには"先生"は見覚えがあったし、この状況においての彼の参戦はとても頼もしく感じた。

 

"ユウセイ!"

 

 Dホイールでやって来た者、Z-ONEは"先生"たちの前で止まる。そして彼は走行不能になって煙を上げるシェマタ、戦闘に次ぐ戦闘で消耗したシロコたち、そして疲弊した"先生"へと瞳を素早く動かす。

 

「遅くなりました。どうやら最後にいただいた連絡より深刻な状況になっているようですが、大丈夫でしたか?」

"今のところは何とかね。ユウセイこそゲヘナでの仕事を切り上げてもらっちゃって大変だったでしょう。後で生徒にも埋め合わせしておかないと……"

「いえ、こちらに出向けたのはその延長線上なのもあります」

"……あれは……虎丸?"

 

 Z-ONEが向かってきた方角から見えてきたのはゲヘナ万魔殿のイロハが乗っている戦車、虎丸だった。前回の風紀委員会の件やこのシェマタの件で疑心暗鬼に陥っていたアヤネやセリカたちは警戒心を強める。

 

「私たちが用があるのはこの列車砲シェマタです。先を急ぐのでしたら遠慮なさらずに行ってください。用が済んだらすぐにそちらに駆けつけますので」

"分かった。じゃあ私たちは先に行くよ"

「えっ!? ゲヘナの連中を放置して行っちゃうの……!?」

「私も今このタイミングはちょっと気になっちゃうと言いますか……」

 

 Z-ONEの発言にセリカとアヤネが反対意見を述べる。かと言ってこのままシェマタにかかりっきりのままではいられない。

 そこでZ-ONEはアビドスの誰かを一人立会人として残してはどうかと提案した。

 

「……。それなら私が立ち会います」

「アヤネちゃん、だったら私も」

「駄目。セリカちゃんはシロコ先輩とノノミ先輩の助けになってあげて。私はヘリをホシノ先輩に撃ち落とされて火力支援が出来なくなっちゃってるから……」

「……分かった。でもアヤネちゃんの出番は無いかもね!」

 

 セリカは胸を張って自分の胸を強く叩いた。

 シロコもノノミもアヤネに向けて強く頷く。

 

「ん、アヤネが来る頃には全部片付いてる」

「アヤネちゃんは生徒会長なんですから、どーんと構えててくださいねー」

"こっちのことはこっちで何とかするから、アヤネはそっちに専念して"

「みんな……分かりました。どうか、気をつけてください」

 

 シロコたち3人は"先生"に引率されて爆発音の発生源、ホシノのいる場所へと向かっていった。"先生"たちの背中が爪の先ほどの大きさになった頃に虎丸が到着する。

 

「あの、ユウセイ先生。ゲヘナがシェマタを狙ってきたのって……」

「いえ、シェマタ本体に用はありません。あれはマコトやヒナの方針通り破壊処分するのが適切でしょう。もっとも、そのためにも所有権は整理しなければいけませんが」

「ええ……そうです。私たちはシェマタの心臓部が必要なだけです」

 

 停車した虎丸のキューポラから気だるそうに出てきたのは万魔殿のイロハ。次にイブキが元気いっぱいに姿を見せる。2人はアヤネやハイランダーの生徒たちに挨拶だけ送り、シェマタの機関室へと足を向けた。

 

 そして、虎丸からもう一人が這い出てきた。どん臭そうな動きで虎丸から降り、イブキたちを追いようとして、アヤネに気付いた。彼女は笑顔でアヤネに挨拶をして、礼を述べて、駆け足でイブキたちに追いつく。

 

 アヤネは彼女を知っている。会ったことはないけれど、写真や動画で見たことがある。そして語られたことだって。けれど、まさか彼女と会うことになるなんて想像もしていなかった。会えるとすら思っていなかった。

 

「あの人は……」

「その説明は後にしましょう。イブキたちを待たせるわけにはいきません」

「あ、はい。……生きていたいんですね」

 

 様々な疑問を胸に、アヤネもユウセイと共にシェマタの機関室へと向かった。




ここからようやくオリチャーの効果発動。どうしてZ-ONEがこの場に来たか、のいきさつは数話後に。

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