イブキは……牙がかすったのか少し喉元に怪我を負っていますが、無事なようです。イブキは今にも泣き出しそうに顔を崩しましたが、にじみ出た涙を袖で拭ってユメを見据えます。
「《スターダスト・ドラゴン》でユメにダイレクトアタック! シューティング……」
「あっ! ユウセイ先生それダメ!」
「……っ!」
イブキの制止で慌てて攻撃を中断します。攻撃宣言は終えきっていませんから、ギリギリで巻き戻しが可能でした。《スターダスト・ドラゴン》も口を閉ざすだけでなく首を曲げて手で口を塞ぎました。
目を凝らしてユメの方を確認すると、彼女を守るように《アマゾネスの剣士》が立ちはだかっています。《スターダスト・ドラゴン》なら突破も容易い攻撃力ですが、そのモンスター効果は確か……、
「戦闘ダメージは相手が受ける、でしたか」
「■■■お姉ちゃんも当時のティーパーティホストも、ユメちゃんのあの手で一回はやられちゃってるんだ」
「雷帝と呼ばれている前万魔殿議長が《幻魔皇ラビエル》でワンショットキルを狙い、アビドス生徒会長の《アマゾネスの剣士》で返り討ちにあったこともあります。これは公式記録にも残っています」
「デュエルでなら分かりやすいですが、リアルファイトで出せると厄介この上ないですね……」
だとしたら迂闊に遠距離攻撃は仕掛けられません。《ジャンク・ウォリアー》で突撃させたところで《アマゾネスの剣士》を攻撃対象にされたらたまりません。《ジャンク・アーチャー》で一旦除外するのが最も無難でしょうか。
ユメは遠くで永続罠カード《アマゾネスの強襲》を発動。すると《スターダスト・ドラゴン》が倒したはずの《アマゾネスペット虎獅子》が、ゾンビ状態のままなのでこの表現はおかしいのですが、蘇りました。
そしてユメのそばで待機していた《アマゾネスの剣士》が騎乗し、こちらへと襲いかかります。《アマゾネスの剣士》が手に持つのは《脆刃の剣》。《アマゾネスの剣士》とのコンボで相手に与える戦闘ダメージは実質倍です。
「手札の罠カード一枚を墓地に送って、蘇ってウリアちゃん!」
イブキの宣言と共に砂漠からマグマが溢れ出て、中から《神炎皇ウリア》が再び姿を見せました。しかし迂闊に《アマゾネスの剣士》を破壊すればその衝撃を受けるのはイブキの方。イブキはウリアに「壊さないようにそーっと戦ってね!」と無茶振りをするので、ウリアも困惑気味でした。
その間に私たちはユメへと接近。《アマゾネスの剣士》の護衛がなくなって彼女は無防備。《蘇りし天空神》を発動する絶好の機会です。ユメは更に《アマゾネス女帝》を召喚してきますが、《スターダスト・ドラゴン》に相手させます。
「……」
後もう少しで効果範囲内に入る距離で、ユメは一枚の魔法カードを発動させました。それは《死者蘇生》。三邪神も三幻神同様に上級呪文のみ1ターン効果が効くとしたら、蘇らせるのは《邪神イレイザー》でしょう。
ユメのそばで漆黒に染まったアンクが浮かび上がります。すると大地が鳴動し始め、大地へと染み込んでいったイレイザーの闇が湧き出てきました。それはやがて沸騰したように泡立ち始め、盛り上がっていきます。
「それはさせません。フィールドに《オルフェゴール・ガラテア》がいるのでカウンター罠《オルフェゴール・クリマクス》を発動。《死者蘇生》の発動を無効にして除外します」
しかし、イロハが発動したカードによって戦車内から《オルフェゴール・ガラテア》が出てきて、巨大な槍を投擲。漆黒のアンクを撃ち抜きました。ガラス細工のように砕け散ったアンクは消滅し、闇も再び砂漠へと染み込みます。
意識のないユメも流石に想定外だったようで身体が振るえました。その間にも私たちはユメとの距離を詰めました。もはやあと1分足らずでユメに触れられるぐらいにまで迫っています。
「イブキ、今です」
「うん! イブキは《蘇りし天空神》を発動! 目覚めて、《オシリスの天空竜》!」
イブキがカードをセットすると、イレイザーの影響で空を覆っていた暗雲が晴れていきました。太陽の光が降り注ぎ、砂に覆われた黄金の大地を照らします。そんな天空より神の竜が舞い降ります。
オシリスの天空竜。武藤遊戯とファラオのしもべ。
そんなデュエルモンスターズでも伝説の存在が今、私の前に降臨したのです。
デュエリストの一人として流石に心震える光景です。
しかし見とれている場合ではありません。私はDホイールを飛び降りてユメのそばに着地。カードケースからもう一人のホシノに託された希望のカード《真実の名》を発動します。
ソリッドビジョンで投影されたカルトゥーシュには何も刻まれていませんが、私はそれをユメの前にかざしました。垂れる前髪の隙間からユメの目がぎょろりと動き、カルトゥーシュを見つめます。
「貴女の名は梔子ユメ。アビドス高等学校の生徒です」
「梔子……ユメ……」
「もう彷徨わなくてもいいのです。帰りましょう、アビドスに。ホシノたちが待っています」
「ほしの……チャン……帰ル……あびどす……」
ユメの手から手札のカードがこぼれ落ち、振るえながらカルトゥーシュに触れました。するとカルトゥーシュにヒエラティックテキストが刻まれます。あいにく私には読めませんが、おそらくユメの名が記されたのでしょう。
「魔法カード《死者蘇生》、発動!」
そんなユメの頭上にイブキが発動させた《死者蘇生》のアンクが輝きます。今度は闇に染まって破壊することなく、ユメへと淡く温かな光が降り注ぎます。光を浴びたユメは沈黙し、ウリアやスターダストと戦っていたアマゾネスたちも自然消滅しました。
やがてユメはゆっくりと顔を上げ、伸び切った前髪をかき分けた後に周囲を窺います。その面持ちは邪神に操られた死者のものではなく、現世を歩む生者のもの。きょとんとしながら私、イロハ、イブキへと視線を巡らせました。
「ここは……?」
「ここはアビドス自治区の砂漠です。日付は……」
「ユメちゃん……ユメちゃああぁぁん!!」
「イブキちゃ……わわっ!?」
まだ意識が微睡んだユメに説明しようとしたら、ユメに向かってイブキが飛びつきました。ユメは受け止めきれずにイブキごと倒れます。それでもイブキはユメの胸の中でユメの名を呼びながら泣き続けたのでした。
ユメは始めのうちこそ困惑したものの、やがて微笑みながらイブキをあやします。それはまるでトリニティの聖堂に像や壁画に残された聖母のようです。私とイロハはイブキが満足するまで温かく見守り続けたのでした。
◇◇◇
ユメとイブキは昔からの友人関係だったのだそうです。イブキはユメにとても懐いていたので、ユメが亡くなったことがとても悲しかったのだとか。そして真相を知ったイブキはユメを蘇らせるために頑張っていたのでした。
「ひぃん、2年も経っちゃったの~?」
「ユメちゃん、どこまで覚えてる?」
「うーん、ビナーを何回も追い払ってイブキちゃんとも何度も戦ったのは分かるんだけど、日付の感覚は全然。あとこんな私がアビドスに戻っちゃいけない、とは覚えてたみたい」
「キキキッ、準備しておいたアビドスの制服はサイズぴったりだったようだな。このマコト様に感謝してくれよ、ユメ先輩」
「うん! ありがとうねマコトちゃん!」
「……っ。……実に興味深い。イブキやあの小鳥遊ホシノが懐くわけだ……」
戦いが終わったのでティーガーⅡに乗ったマコトと黒服が合流。ユメにこれまでの出来事を教えました。邪神の操り人形になってもユメは意識が朧気ながらあったようで、すんなりと自分に起こったことを受け入れました。
なお、ユメは死亡届が出ているのでアビドス中退扱い。正当な手続きを踏めばアビドスへの復学も叶うでしょう。年齢相応に社会人になる選択肢もありますが、落ち着いてからユメが決めれば良いのです。
ユメが蘇ったので一件落着。確認できていなかったメールとモモトークをチェックして……"先生"がアビドスでの騒動に巻き込まれて深刻な状況に陥っていることにようやく気づきました。
「マコト」
「どうしたユウセイ先生。ようやくこの羽沼マコト様と手を組む気になったか?」
「列車砲シェマタのことは分かりますか?」
「……!?」
マコトの顔から不敵な笑顔が消えて真剣な……いえ、深刻な面持ちに変わりました。歌を歌いながらスケッチブックに絵を描くイブキを温かく見守っていたユメもシェマタの名称を耳にした途端に私へと振り向きました。
「……4年前に雷帝が当時のアビドスと共同開発した人工的な太陽神のことだ。しかしユメ先輩に譲渡して解体処分予定だと雷帝が残したリストには記録されてたぞ」
「えっと……ごめんマコトちゃん! 壊す前に私死んじゃったから、シェマタはまだ残ってるんだ」
「な、なにー!?」
マコトはまるでピアノの鍵盤を叩いた時のような効果音が似合う表情で愕然としました。ユメはひたすらマコトに謝りますし、イロハは深くため息を漏らし、黒服は面白そうに見つめるばかり。
私は軽く頭を押さえました。どうやらまだ事態は終わっていないようです。
◇棗イロハ
使用デッキは【オルフェゴール】
エースモンスターは《オルフェゴール・ガラテア》
切り札は3種類の《宵星の騎士ギルス》
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