アビドスが関係する人工的な神、となれば十中八九三幻神が関わっている筈。神の怒りについては私のいた時代にも伝わっています。下手をすればアビドス……いえ、キヴォトスの危機になりかねません。
「くっそ、まさか奴絡みの厄介事がアビドス砂漠に眠っていたとは……サツキに連絡して処理班をよこさせる……いや、その前にヒナを出向かせてシェマタを確保するのが最優先か?」
「ひぃん、落ち着いてマコトちゃん。まずは無力化するのが先決じゃないかな?」
「しかし雷帝の遺産はどれも私たちには理解が及ばぬ超技術で出来ていて、手の付けようが……いや、待てよ。アビドスだと? もしかして、イブキ絡みの方か?」
ティーガーⅡのキューポラから上半身を出すマコトが同じく虎丸から上半身を見せるイブキを見つめました。イブキはお絵描きをしながら頷きます。
「うん、シェマタだったらイブキも知ってるよー」
後でマコトたちから聞いたのですが、前万魔殿議長こと雷帝の遺産と呼ばれる彼女の作品はゲヘナ以外に
「キキキッ、なら話は早い! こっちにはユメ先輩もいるし、アビドスの連中が慌てふためいてる間にマコト様が解決してやろうじゃないか!」
「でもマコトちゃん。どこにシェマタが隠されてるか知ってるの? 多分■■■ちゃんのことだから、そこまで記録残してないと思うなぁ」
「それは問題ない。そうだな、イブキ」
イブキは自分のデュエルディスクを私とマコトに見せました。ソリッドビジョンで矢印が表示されています。この機能は確か武藤遊戯の時代にバトルシティで決勝会場の場所を指し示すためのものでしたか。
イブキのデュエルディスクにセットされているのは……《降雷皇ハモン》。それもキヴォトスで一般流通しているオフィシャル版ではなく、幻魔語テキストで書かれたオリジナル版です。
「あれ?」
矢印を見つめるイブキが首を傾げました。表示された矢印がわずかながら動いているのがDホイールに乗る私からでも分かります。決して我々が移動しているだけではありません。
「まさか、シェマタが起動しているのか!?」
「うん、そうみたい……」
「まずい、実にまずい。今のアビドスの連中に運用出来るわけがないから、何も知らないハイランダーのCCCどもか? それともネフティスが嗅ぎつけたか? どちらにせよとっとと沈黙させなければな」
「では私が先行して動きを止めてきますので、イブキたちは後に続いてください。方角だけ逐次教えていただければ」
イブキはモモトークの位置情報機能と連動させて私にシェマタの在処を送信しました。私はその情報をDホイールに送り、オートパイロット機能を起動します。そして接触予測ポイントに向かってDホイールを走らせました。
あと数分でシェマタを捉える距離まで迫った時、地平線の向こうから爆発音が轟きました。続いて空に立ち上るのは黒ずんだ煙。同時にシェマタの位置情報も動かなくなります。
シェマタまであと少しになり、肉眼でその姿を捉えた時でした。
空が、紅色に染まります。
これは映像で見た虚妄のサンクトゥム出現時の現象……いえ、少し違う?
"ユウセイ!"
シェマタを壊したのは"先生"たちでしたか。
どうやら事態はモモトークで共有された情報より深刻なようです。
私はDホイールでラストスパートをかけ、"先生"の方へと向かいました。
◇◇◇
「初めまして、アヤネちゃん」
「え、嘘。まさか、前アビドス生徒会長のユメ先輩?」
「うん、そうだよ。梔子ユメ。よろしくね!」
「でも、ホシノ先輩の話だと砂漠で遭難して亡くなったんじゃあ……」
「おい、そんな話は後だ。今はシェマタの無力化が最優先だろう。立ち会うと言うなら仕事に専念しろ」
ユメと対面したアビドス対策委員会のアヤネは驚きのあまり暫く目を見開きっぱなしでした。事情を聞こうとしましたが、マコトに一喝されて慌ててイブキたちの後を追います。
シェマタの機関室は計器類や制御盤が所狭しと並べられていますが、よく眺めるとそれはシェマタの機能とは関係ない、機関車を装った所謂インテリアに過ぎませんでした。
シェマタの心臓部は機関室中央に置かれた装置で、逆に言えばこの心臓部だけでシェマタは制御されているのだそうです。動力はこの心臓部のスロットに入っているカードの力だけだとか。
「じゃあセリカちゃん。前アビドス生徒会長として現役世代にシェマタのことを引き継ぐね。本当なら解体して資材にして借金返済の足しにしたかったんだけど、出来なくてごめんね」
「い、いえ! 謝る必要なんてありません!」
「どこまでシェマタを知ってるか分からないから最初から簡単に説明すると、外側はハイランダーの超弩級砲塔列車とほとんど同じかな。でもね、シェマタはアビドスの神、《ラーの翼神竜》で動くの」
「それは聞きました。昔のアビドスがラーを再現した結果がこのシェマタなんだって……」
ユメは心臓部のカードスロットを順番に指で軽く叩きました。
それから当時のアビドスが神の怒りを回避しつつ神の力を再現するため、オフィシャル版相当までカードパワーを下げたラー関連カードを直列に同期させた。それがシェマタのからくりだと語りました。
しかし実験は失敗。なおも神の怒りを買ってしまい、アビドスはシェマタでの神の再現を断念しました。雷帝にとってその結果は予測通りだったようですが、彼女の研究には成功だろうと失敗だろうと関係なく、あっさりと手を引いたのです。
「《神縛りの塚》……。そっか、スオウちゃんはこれでシェマタを無理やり動かしたんだ」
心臓部11個目のスロットに収まった《神縛りの塚》を引き抜いたユメは、それをビリビリに引き裂きました。それから機関室の片隅に置かれた屑籠へと容赦なく放り込みます。その時の表情を目の当たりにしたアヤネは軽く悲鳴を漏らします。
「だからシェマタを完全停止するんだったらここからラー関連カードを全部取ればいいんだけど、アビドス側でロックを解除したかったらオリジナルの三幻神のカードが必要なんだったっけ」
「うん、そうだよ」
「ひぃん、ホシノちゃんに託しちゃったよ~。ごめんイブキちゃん、どうにかならない?」
「ゲヘナ側でロックを外すんだったら、オリジナルの三幻魔のカードをセットすれば良いんだよ」
イブキが11個目のスロットに幻魔語でテキストが書かれたオリジナルの《降雷皇ハモン》をセットすると、他の10個のスロットからカードが外れました。それをユメが一枚一枚丁寧に回収していきます。
そして最後の一枚が取り除かれた瞬間、待機状態だったシェマタが完全に機能を停止しました。動作音も収まりましたし、各種制御盤のランプも消灯、イロハが懐中電灯で照らしていなかったら暗闇の中に閉じ込められていたでしょう。
しかし、実際はそうなりませんでした。何故ならユメの手に渡った《ラーの翼神竜》関連カードが光り輝いたからです。それはまるで神に認められた者のみに下される神託、天啓がユメに下されているようです。
「……行かなきゃ。ホシノちゃんが苦しんでる」
ユメは足早にシェマタ機関室出口から出ていくと、召喚した《アマゾネスペット虎獅子》に乗ってどこかに……いえ、先程シェマタとは別の位置から耳をつんざいた爆発音の方へと向かっていきました。
「ああもう! 相変わらずユメ先輩はマイペースだな! 毎日付き合ってたホシノはどれだけ酔狂だったんだ!」
「マコト先輩、イブキたちもユメちゃんを追おうよ」
「ふむ? ゲヘナがアビドスの問題に介入する義務など無いのだがな」
「ねーマコト先輩ーお願い!」
「キキッ、案ずるなイブキ。アビドスに無かろうとユメ先輩個人には義理があるからな。彼女に恩を売って損はない」
マコトは上着を翻してシェマタを後にし、ティーガーⅡに乗り込みました。そしてユメを追うよう操縦手に指示し、発進させます。イロハとイブキも虎丸に乗ってマコトに続こうとしましたが、そんな彼女たちに先ほど"先生"たちといてこの場に留まったハイランダーの生徒たちが声をかけます。
「私も乗せてくれ」
「無茶だよ監督官! しばらく寝てろって!」
「無茶は禁物ー」
「それでも私は見届けなきゃいけないんだ。私が起こしたことの結末を。頼む」
監督官と呼ばれた生徒がその場で土下座しようとするのを小柄な生徒2人が止めました。イロハは「はあ……面倒くさい」とため息を漏らし、イブキは少し不機嫌に頬を膨らませながら「ねーねー早く行こうよぉ」とイロハにせがみます。
結局イロハは時間を優先してハイランダーの生徒3名、スオウとヒカリとノゾミを乗せて出発します。虎丸は5人乗りなのでスペース的余裕はあるのだとか。スオウは満身創痍なようでヒカリとノゾミが抱えながら乗せていました。
「さて、では私たちも出発しましょう。アヤネは私の後ろに。しっかり私に掴まってください。オフロードなので跳ね飛ばされないように」
「は、はい」
私もアヤネと二人乗りでDホイールを走らせました。
向かう先は"先生"たちやユメ、イブキの向かった、ホシノのいる方へ。
そこで私は奇跡を目の当たりにすることになったのです。
マコトがユメと親しいのは雷帝経由で知り合ったのがきっかけで交流していたからです。このあたりを詳しく書くのだったら原作でゲヘナ編が出たらですね。
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