「せんぱい……せんぱいっ……! 私……わたし、ずっと……」
「うん、ずっと頑張ってきたんだよね。偉いし立派だよ。後輩に好かれてるし、私も鼻が高いよ」
「そんなことないです……トラブルを起こしたり、心配をかけてばっかりです……。今回だって私一人で先走っちゃって……迷惑を……」
「大丈夫。ホシノちゃんは私なんかよりずっと凄いから。後輩の盾になって、後輩が傷つかないように、居場所を奪われないように守って。私はそんな頼もしいホシノちゃんが大好きだから」
「ユメ先輩……ごめんなさい……2年前あんなこと言って……。もうあんなこと言いませんから、帰ってきてください……。もう二度とユメ先輩を失いたくないんです……」
「うん、もうどこにも行かないよ。卒業するまで……ううん、卒業したってホシノちゃんを見守り続けるから」
そんなユメとホシノの感動の再会ですが、水を差すようにセトの憤怒の巨体が砂漠の大地に倒れ伏しました。どうやら《聖アザミナ》の効果で自傷し続けたためにグロッキー状態となったようです。
ユメは「あ……、そう言えばセトが残ってたんだっけ」と少し間の抜けた台詞を呟き、そんなユメに呆れながらもホシノは嬉しそうにはにかみました。アビドス一同もセトと対峙すべく気を取り直します。
「キキキッ、役者は揃ったようだな! じゃあ偉大なるマコト様がとっととセトを退場させようじゃないか!」
「駄目、マコトちゃん!」
「んなっ!? 何故だ!?」
「セトの憤怒は2年前に私も相打ちで倒したけど、こうして復活しちゃってる! だからただ倒すだけじゃ駄目みたい!」
マコトがセトにとどめを刺すべくなにかしようとしましたが、ユメに止められてしまいます。マコトはイブキの方を見つめ、イブキは「ここはユメちゃんに任せちゃおう」との言葉を受けて胸を張って腕を組みました。
「2年前に相打ち……? ユメ先輩、まさかただ砂漠を遭難したんじゃなくて、コイツと戦ったんですか?」
「そんなことよりホシノちゃん、今バナナとり手帳持ってきてる?」
「ごまかさないでくだ……手帳……? そうだ! 手帳! ユメ先輩、手帳を置いたいつもの場所って結局どこなんですか!?」
「へ? いつもの場所はいつもの場所で……ひぃん、揺らさないで~!」
ホシノはユメの両肩を掴んで思いっきり揺らしました。ユメは最初ホシノが冗談を言っていると受け止めたようですが、ホシノのあまりにも真剣な表情に本気で言っているのだと悟ったようです。
「あれ、おかしいなぁ。もし私が戻れなくなったら2週間後にいつもの場所に出てくるようにした筈なんだけど……」
「梔子ユメ。おっしゃっている手帳とはこれのことですか?」
困惑するユメに一冊の手帳を差し出したのは、なんと我々に同行していた黒服でした。突然の登場にホシノを筆頭にアビドス一同、ひいてはゼアル先生や"先生"まで険しい顔をして警戒心を顕にします。
ただ一人、ユメだけは喜びながら黒服から手帳を受け取りました。
「そうそうこれこれ! ありがとう黒服さん! ちなみにどこにあったの?」
「アビドス高等学校の生徒会室に」
「嘘だっ!! あそこは私が部屋をひっくり返すぐらい探したのに!」
「2年でした」
「は?」
「《封印の黄金櫃》の中にしまい、除外状態から2週間後に戻ってくるよう設定したつもりだったのでしょう。しかし実際には発動してから2年目、つまりちょうど今日になって戻ってきたようです。今日改めて探したら目立つ位置に置いてありましたよ」
ジト目でユメを見つめるホシノ。申し訳無さそうなユメ。
たまらなくなってユメが視線をそらした途端、ホシノはユメを激しく揺すりました。
「ユ~メ~せ~ん~ぱ~い~! 私がどれだけ苦労して探し続けたか分かってるんですか!?」
「ご、ごめんなさいホシノちゃん~!」
「手帳が生徒会室で除外された状態になってるなんて誰が予想出来ますか!? 生徒会室で《電脳堺姫-娘々》とか使わなかった私が悪いんですか!?」
「百鬼夜行のワカモちゃんとお友達になって生徒会室に招いたら《ネクロフェイス》で……ひぃん、冗談だから! ホシノちゃん許して~!」
ホシノは気が済んだところでユメから手を離し、深くため息を漏らします。
「で、その手帳がどうしたんですか? セトの完全攻略法でもメモしてるんですか?」
「その前に確認なんだけど、ホシノちゃんが今のアビドス生徒会長、でいいんだよね?」
「あ、いえ。私はさっきアヤネちゃんに罷免されたばっかで――もがっ!?」
「はい、そうです! ホシノ先輩が私たちの生徒会長です!」
ホシノが何かを言う前に彼女の口をアヤネが塞ぎました。更には「ですよね、みんな!」とアヤネがセリカたちに同意を促し、全会一致で頷きました。"先生"まで同調して頷いたので、もし本当は違っていたとしてもたった今ホシノは生徒会長として認められたことになります。
ユメは戸惑ったものの、やがて真面目な面持ちでホシノと面と向かいます。
それを受けてホシノもまた真剣にユメと向き合いました。
「じゃあ、前アビドス生徒会長から現アビドス生徒会長への引き継ぎをします」
「……。はい」
「本当は私の代で終わらせた方が良かったんだ。だからホシノちゃんはこれを守らなくてもいいから。私は……先輩たちの想いを無駄にしたくなかったから、せめてきちんと後輩に伝えるだけ伝えよっかなって思った」
「……はい」
「アビドス生徒会長の使命は神をキヴォトスに降臨させることです。そのためにこの神々が力になるでしょう。まずはこの神々を召喚し、ファラオとなりなさい」
ユメはバナナとり手帳を開き、間に挟んでいたカード3枚を取り出して、ホシノに差し出しました。受け取ったホシノはそれを見て目を見開きました。横から覗いたノノミやセリカたちも驚きの声を上げます。
「これ、まさかオリジナルの三幻神のカード!?」
「カードの色自体他のカードと全然違いますね」
「《ラーの翼神竜》はヒエラティックテキストで書かれてるせいで何て書いてるのか全く読めません……」
「ん……カード自体に凄い力を感じる」
シロコたちの反応にユメは苦笑いを浮かべました。
ここまで来る際にユメから聞いた4年前のアビドスでの学生生活模様から察するに、アビドスの悲願に対してユメは複雑な思いを抱いているようです。
「ホシノちゃんならオリジナル版のカードに頼らなくてもオフィシャル版で神の神秘を引き出せるから、普段は飾っておくだけでいいよ」
「ちょっと待ってください。アビドスの悲願って三幻神を呼び出すことじゃないんですか?」
「ううん、違うよ。それがこのカード」
ユメは手帳からもう1枚カードを抜き取ってホシノに渡しました。私にはそれは単なる白紙のカードにしか見えませんし、シロコたちにもそうだったようです。しかし、受け取ったホシノの反応は違うものでした。
「私には無理だったけど、ホシノちゃんには分かるんじゃないかな? そんな気がするの」
「これが……アビドスの望み……」
「これを使ってお終いにしよっか。アビドスの苦しんだ過去も、運命も。それで新しい一歩を歩みだそうよ」
「……。はいっ」
ホシノは我々よりも前に出て、一人でセトと対峙しました。それからユメから返してもらった盾のデュエルディスク機能を起動させ、ユメから受け取ったオリジナルの三幻神のカードをセットしていきます。
すると、大地が鳴動し、大きく割れ、隆起した中から青き巨人が姿を表しました。圧倒的存在感とプレッシャー。私の時代にもその姿、その名は記録に残されています。三幻神の一角、《オベリスクの巨神兵》の降臨です。
《オシリスの天空竜》
《オベリスクの巨神兵》
《ラーの翼神竜》
三幻神が今、ここに集結したのです。
デュエリストであればこの光景を目の当たりにして心震えないわけがありません。そして出来ることなら私ではなく不動遊星やアンチノミーといった時代を代表するデュエリストに見て欲しかったです。
「そして今、アビドス生徒会長の名のもとに……神を束ねる!」
それだけではありませんでした。
ホシノの宣言とともに三幻神が光り輝き、太陽よりも眩く輝き始めました。しかしその光は決して熱くなく、地上のものを焼かず、むしろ温かく優しい光でした。そんな中、黒服とノノミはただ眺めるばかりの私たちとは別の反応を示します。
「おお……おおっ! ついに至高の神秘、崇高をこの目で……!」
「まさかあれは……アメン・ラーと並ぶ……!」
光の中から現れたのは光の女神という他無い存在でした。
原初にして原点、まさに創造神と呼ぶのが相応しいでしょう。
慈愛あふれるこの神は、何故かどことなくホシノを思わせました。
「《光の創造神ホルアクティ》!」
これが……初代決闘王の武藤遊戯の手記にのみ記された神……。
ホルアクティを前にしたセトは明らかに圧倒され、怯えたようでした。
しかし次にはエネルギーをチャージし、大規模な雷撃を射出します。
そんなセトの攻撃を前にし、ホルアクティは静かに手をかざしました。
「闇よ、消え失せろ!」
ホシノの宣言と共にホルアクティから発せられた光が辺りを包み込みます。私たちにとっては心地よいものでしたが、セトにとっては終わりをもたらすもののようです。発せられた雷撃はかき消され、セトの内側から光が発せられました。
やがて、セトは光の中へと消滅していったのでした。
ホシノがホルアクティを使う。これも本概念でやりたかったことです。もうこれが最大の山場でいいんじゃないかな、とすら思います。
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