Z-ONE先生のブルーアーカイブ5D's   作:福留しゅん

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黒服、暗躍を認める

 役目を終えたホルアクティが消え、辺りは静寂に包まれます。

 太陽が沈んで夜となったアビドス砂漠は気温が下がり、少々肌寒いです。

 

 緊張が解けたセリカが地面に座り込みました。ホシノがヒナへと手を伸ばし、ヒナは自分の足で立ち上がります。そんなヒナをマコトが笑い、ヒナはうんざりといった表情を見せました。シロコはノノミとハイタッチし、もう一人のシロコはテフヌトと腕を合わせます。

 

 シェマタに端を発した騒動もようやく終わった。

 そう何人かは思ったことでしょう。

 しかし、これは佳境の始まりに過ぎませんでした。

 

「答えろ、黒服」

 

 スオウが静かに立ち去ろうとする黒服に銃口を向けたことで、一同はまだ終わっていないのだと悟ります。そう、まだ謎が全て解明したわけではありませんし、ホシノが戻ってシェマタが大破、セトが討ち果たされたから終わり、とはいきませんから。

 

「私に《神縛りの塚》を渡したのはあのラー・ホルアクティのためか?」

「ええ、その通りです」

「2年前に姉さん、朝霧アキノに《神縛りの塚》を渡したのもお前か?」

「ええ。補足すると、《神縛りの塚》で《オベリスクの巨神兵》を制御……つまりセトを召喚してみてはどうか、と助言したのも私です」

 

 黒服の自供を聞いて真っ先に反応したのはホシノでした。彼女はすぐに銃口を黒服へと向けます。鬼のような、怒りと憎しみに染まった表情をさせ、今にも引き金を引きそうです。

 

 そんなホシノを制してユメが一歩前に出ます。真剣な面持ちで黒服を見据え、黒服もまた礼儀正しくユメと向き合います。

 

「セトと相打ちになって死にかけてた私を反転させて生き長らえさせたのも、ホシノちゃんを覚醒させるため?」

「それが主目的でしたが、純粋に冥界神オシリスたる貴女をあのまま死なせるのは惜しいと思ったのも事実です」

「■■■ちゃんとアキノ先輩にシェマタを建造するよう唆したのも黒服さん?」

「いえ、違います。厳密にはアビドス生徒会長には後の雷帝について、後の雷帝にはアビドスが困ってることを教えただけです。シェマタの建造はあくまであの2人の意志です」

 

 もう一人のシロコ、テフヌトも銃口を黒服へと向けました。今にも黒服を撃ち抜こうとする殺気をかろうじて堪えているのが伝わってきます。

 

「私に《オベリスクの巨神兵》を渡した上で《邪神ドレッド・ルート》に反転させたのも実験のうちだったわけ!? 死んじゃった、私たちが殺した、反転したホシノ先輩を《邪神アバター》の担い手として蘇らせたのも!」

「ええ。あの世界はセトの憤怒で壊滅的被害を受けた上に"先生"が重体でしたからね。多少踏み込んだ実験を行ったと認めます」

「ならまさか、ノノミが自殺する前に私に「エーテリック」モンスターエクシーズを渡したのも……」

「十六夜ノノミを私が唆したからか? 私は彼女の苦悩、そして絶望に耳を傾け、せめて生き続ける貴女の力になってはどうか、と助言したまでです。貴女にアメン・ラーのカードを委ねたのは十六夜ノノミの選択ですよ」

 

 この場にいたほとんどが、万魔殿の3人とハイランダーの双子姉妹以外が全員黒服に敵意を持って構えます。ゼアル先生と"先生"すら怒りで顔を歪ませて黒服を睨みつけました。

 

"地下生活者と示し合わせて今回の異変を起こしたのか?"

「くっくっくっ。既に地下生活者を捉えていますか。いえ、違います。私はあの者に便乗したまでです。今回はラー・ホルアクティまで到達しうると確信していましたので。なのでゼアル先生の世界でゼアル先生が致命傷を負ったのも、セトの憤怒が出現したのも、地下生活者のシナリオによるものです」

"それでも生徒たちを悲しませた、苦しませた元凶には違いない"

「認めましょう。で、それが分かってどうしますか、シャーレの先生方」

"そんなの決まっている"

 

 "先生"は大人のカードと取り出し、黒服に突き付けました。

 

"デュエルだ、黒服。ここで決着を付けよう"

「いいでしょう。受けてたちます」

 

 黒服は虚空よりアタッシュケースを出現させ、中からデュエルディスクを取り出しました。それを右腕に装着し、起動させます。意外にも黒服のデュエルディスクはキヴォトスで一般流通しているごく普通の型式でした。

 

「今回は総力戦ルールで行う。異存はありませんね?」

 

 総力戦、それは黒服を初めとするゲマトリアの者たちと"先生"が行う決闘。ゲマトリア側はボスデュエルのように決められたカードをフィールドに出し、それを"先生"が撃破すれば"先生"の勝利になります。

 

 一方で"先生"も通常のデュエルモンスターズのマスタールールと異なり、生徒を自分のしもべとして数えられます。その数は最大で6名。モンスターゾーンに出すストライカー4名と、ペンデュラムゾーンに出すサポーター2名。生徒はそれぞれライフが設定されていて、ストライカー4名が全滅したら"先生"の敗北です。

 

 "先生"が指揮以外で生徒をサポートするなら残りのゾーンでカードを出したり発動しなくてはならないので、基本的には生徒対ゲマトリアの刺客の決闘といった構図になるものです。

 

"……? 黒服が自分で戦うの?"

「ご心配なく。ボスデュエルのように私はこれから10体のモンスターを召喚します。それを全て倒せば先生方の勝利です」

"……。要求が2つある"

「聞きましょう」

 

 "先生"はDパッドを起動させ、出現させた空中ディスプレイで生徒を6名選択します。アタッカーとしてモンスターゾーンにはホシノ、シロコ、ノノミ、ヒナを。サポーターとしてペンデュラムゾーンにはアヤネ、セリカが配置されました。

 

 そして、もう一人のシロコもまたDパッドを展開。その手にはゼアル先生に返した彼の大人のカードが握られていました。

 

 もう一人のシロコは出現させた空中ディスプレイで生徒を4名選択。アタッカーとしてモンスターゾーンにもう一人のシロコ、スオウ。サポーターとしてペンデュラムゾーンにテフヌトとユメが配置されます。

 

「!? 先生二人がかりでの新たなデュエル方式、ですって……!?」

"私とゼアル先生のタッグで挑ませてもらうよ"

「……。くっくっくっ。面白い。この新たな決闘法のことは……そうですね、制約解除戦と名付けますか」

 

 後から"先生"に聞いた話ですが、生徒10名の同時指揮は「シッテムの箱」の奥にあった新しい機能によって可能になったそうです。これはプラナが「シッテムの箱」に入ったことで解放された機能で、これにより"先生"とゼアル先生が同時に生徒を指揮しつつ大人のカードを行使する、タッグデュエルが出来るようになったのだとか。

 

「もう一つの要求は何でしょうか?」

"黒服のライフが0になった時、一発だけダイレクトアタックさせろ"

 

 まさか"先生"の口から一発殴らせろとの発言がされるとは思ってもいませんでした。それほど"先生"は黒服、ひいてはゲマトリアに対して怒っているのでしょう。黒服も意外だったようでしばし熟考し、言葉の意味を噛み締めました。

 

「てっきり謝罪を求めるかとも思いましたが……承諾します。負けた場合は甘んじてもう一発を受け入れましょう」

 

 いずれの要求も黒服が不利になるものでしたが、黒服は要求を飲みました。これで先生2名と生徒10名による黒服との決闘の場が整いました。

 

「さて、では――」

「おい、待て。勝手に話を進めるな」

 

 そして"先生"と黒服が雌雄を決する戦いが始まる……直前でした。

 

 口を挟んだのは"先生"たちに選択されなかったマコト。これは今回の異変でゲヘナはあまり関わりがないのが理由ですが、マコトはそれを不満に思ったようではありませんでした。彼女は唯一人、ユメだけを意識しているようでした。

 

「マコト、いい加減にして。今邪魔してくるなんて、少しは空気を読んで――」

「ヒナ、お前こそ寝ぼけたことを言うな。このマコト様がわざわざ出向いたのはシャーレとゲマトリアの決闘を眺めるためじゃない。そうだな、イブキ」

「えへへ、ありがとう~マコト先輩!」

 

 この場の雰囲気に似つかわしくないほど明るく、イブキは笑顔を振りまきました。そんなイブキもまたユメに視線を送ります。ユメはきょとんとしながら左右を窺い、やがて自分を見ていると悟ると自分を指さしました。

 

「ユメちゃん、デュエルしよう! いっぱい、いーっぱい楽しもうね!」

 

 その誘いはとても純粋でしたが、あまりに場違いだったのでホシノは危うく舌打ちしかけ、もう一人のシロコは射殺すような冷たい視線を投げかけます。ヒナはマコトを睨みつけますが、マコトは不敵に笑うばかりでした。

 

「あのね、イブキちゃん。後でデュエルしてあげるから、今はちょっと……」

「えへへっ、じゃーん! これな~んだ!」

 

 イブキが傷つかないようやんわりと断ろうとしたユメでしたが、イブキはそれを完全に無視して可愛らしい鞄から封筒を取り出します。その膨らみ具合から書類の束の他にディスクも入ってそうです。

 

「これはねーシェマタの設計図と研究データなの!」

 

 その場の空気が一変しました。

 特にホシノとヒナの反応は凄まじく、ホシノは今にもイブキに飛びかかりそうでしたし、ヒナはマコトを射殺さんばかりに凝視します。

 

「キキキッ、何を驚く? 雷帝がアビドスに譲渡したのはシェマタ現物の所有権だけだ! 出発前にも改めて確認したが、ゲヘナは知的財産権を手放してなかったぞ」

「マコト、あなた……!」

「ユメ先輩がイブキにデュエルで勝てばシェマタに関する一切合切を無条件でアビドスに譲渡することをマコト様が約束しよう。ああ、負けた場合でも条件付きで譲ってもいい」

 

 イブキはユメに手を伸ばしました。生徒たちが萌え袖と呼ぶいつもの袖余りではなく、袖をめくって手を表に出した状態で。

 

「イブキが勝ったらゲヘナに来てよ!」

「へ?」

「「「!!?」」」

「イブキといっしょにおべんきょうしてー、いっしょにプリン食べてー、いっしょにお昼寝するの! イブキとせいしゅんを楽しむの!」

 

 もう我慢できない、とホシノが飛び出そうとした直前、ユメはデュエルディスクを展開してイブキの方へと歩み寄りました。イブキもまたデュエルディスクを展開し、"先生"や黒服たちから離れていきます。

 

 ユメとイブキはそれぞれデュエルディスクにデッキをセットする前、結構な枚数のカードを入れ替えました。《神炎皇ウリア》に特化させたデッキから組み替えたイブキは分かりますが、ユメは【アマゾネス】デッキから変えたのでしょうか?

 

「そうだね。せっかくイブキちゃんが私を生き返らせてくれたんだもの。デュエル、楽しもうね」

「! うんっ!」

「ユメ先輩っ!」

「ホシノちゃん!」

 

 納得がいかないホシノに対してユメはシャドーボクシングらしき仕草をしました。あまり迫力がなくむしろ可愛らしい動作でしたが、それがホシノに向けて「遠慮なくぶん殴っちゃえ!」と言っているようで、ホシノは力強く頷いてから黒服を見据えます。

 

""「デュエル!」""

「「デュエル!」」

 

 2人の先生と黒服。

 ユメとイブキ。

 2つのデュエルの幕が切って落とされました。

 

「イブキの先攻だよ! イブキは3枚の罠カードをセットしてから墓地に送って……」

 

 イブキの独特な立ち回りに真っ先に反応したのは対戦相手のユメではなくヒナでした。

 

 そう言えば普段イブキは《仮面魔獣マスクド・ヘルレイザー》をエースモンスターにしたカジュアル寄りの【仮面】デッキを使っているんでしたね。だとしたらイブキがこのモンスターを使役する光景をヒナが見るのは初めてになりますか。

 

「降来して! 第一の幻魔、《神炎皇ウリア》!」

 

 三幻魔を従える本気のイブキにヒナは驚愕したようでした。




本概念のアビドス3章ボスは黒服とイブキ、はずっと前から考えてました。黒服はアビドス3章に出ても良かったのに、と思います。

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