◆三人称視点◆
ゲマトリアとの決闘時、ゲマトリア側は"先生"の対戦相手を準備して戦わせた。デカグラマトンの預言者しかり、ライブラリー・オブ・ロアしかり、ミメシスしかり。いずれも彼らの研究成果、作品の披露の場であった。"先生"にとってはたまったものではなかったが。
そんなゲマトリアの黒服が今、自ら決闘の場に立った。黒服自身はヒナやホシノはおろか、一般のキヴォトス生徒でも制圧するのは難しくない、というのが"先生"の分析だ。しかし、いかなる手札を持っているかは想像も出来ない。
10体のモンスターとは一体……、
「10体のモンスターとは一体何か、という警戒が見て取れますよ、"先生"」
"!?"
「では先に正体を明かしてしまいましょう。"先生"はエジプト、という国名をご存知でしょうか? ユウセイ先生の世界には存在していましたが」
"……。 知ってる"
「なら話は早い。ラー、オシリス、ホルス、アヌビス、セト……これらの神々はエネアド、つまりヘリオポリスの神々です。デュエルモンスターズでは三幻神を筆頭に様々なテーマのカードがあります。【聖刻】はエネアドそのものでしたか」
"それで?"
「私がこれから召喚するモンスターは、エネアドとは異なるエジプトの神々です。アビドスより下流の地域、ヘルモポリスで信仰された……原初の神々です」
"……! オグドアド……!"
「正解です。良くご存知でしたね。では参りましょう。出なさい、原初の水、ヌン、そしてナウネト」
黒服が2枚のカードをセットすると、現れたのは大蛇だった。カードテキスト上のステータスはただの下級モンスターに過ぎなかったが、制約解除戦という決闘で召喚されたこれらの神々は本来の神秘を発揮する。
《溟界の滓-ヌル》
《溟界の滓-ナイア》
立ちふさがった2柱の神々を相手に、"先生"たちの戦いが始まった。
盾役の前衛はホシノとスオウ。中列はシロコとクロコ、後列はヒナとノノミ。更に後ろでアヤネたちがサポートする。10人の生徒に対して"先生"が主体となって指示を送る。
目まぐるしく生徒たちに指示を送る必要が生じ、さすがの"先生"でも処理に悪戦苦闘する。そんな"先生"の反応が遅れた時のみゼアル先生が指示を送った。2人の"先生"の指示がぶつかって指揮系統が混乱する不安はゼアル先生がサブに回ることで解消された。
「やりますね。では続けて、無限の神々、フフとハウヘトが相手です」
《溟界の漠-フロギ》
《溟界の漠-ゾーハ》
ヌンとナウネトを撃破すると、間髪入れずに新たな神が召喚された。
ホシノは呆気にとられた。あまりにも戦いやすい。"先生"指揮下での戦いは初めてではなかったが、それよりも一人で戦うことが多かったホシノにとって、今までの力押しの戦いは何だったんだと思うほどに痒いところに手が伸びる。
一方のクロコは再びアビドスの皆と、それも"先生"の指揮下で戦えることに心震わせた。一人で戦う時よりもやりやすいのは当然として、"先生"一人がいるだけでこんなにも違うとは。改めて"先生"の重要性を思い知った。
「くっくっく。流石です。では続けて、暗闇の神々、ククとカウケトならどうですか?」
《溟界の黄昏-カース》
《溟界の昏闇-アレート》
黒服は立て続けに新たな神々を召喚する。
スオウは自然に納得した。そして衝撃を受けた。これでは負ける筈だ、と。"先生"指揮下での戦いが初めての彼女は始めこそ自分の邪魔にならなければ程度に考えていたが、とんでもない。1+1が10にも100にもなるではないか。
暴走したホシノを食い止めて負傷したテフヌトはサポートに回らざるを得なくなったことを歯がゆく思った。そして自分も先輩たちやアヤネと共に"先生"指揮下で戦えれば、と思ってしまったが、雑念を振り払って戦いに専念する。
「私の想定よりも早くに攻略出来ていますよ。では不可視の神々、アメンとアマウネトが相手しましょう」
《溟界王-アロン》
《溟界妃-アミュネシア》
これでオグドアドの8柱最後の一対の神々が召喚された。
シロコは戦いながらもっともっと強くなる決心をした。自分一人ではホシノを止められなかった。みんなと協力してもだ。クロコがいなかったら今頃どうなっていたか。この戦いを新たな一歩の糧にする、との気迫と共に銃を撃つ。
アヤネはやっぱりホシノ先輩がアビドスには必要なんだ、と実感した。それほど盾役で敵の攻撃から皆を守るホシノの小さな背中、大きな盾が頼もしかった。そして、もうホシノが離れていかないようにする決意を固めた。
「ふむ、さすがです」
"オグドアドは8柱だったはずだけど、残り2体はどうするの?"
「ところで"先生"は私がどうやってそちらのアヌビスの世界でラーとオベリスクを、こちらの世界でオシリスを反転させたか。興味はありませんか?」
"ない。……いや、あるか。もう二度とそんな生徒を悲しませるふざけた真似はさせない"
"いや、ちょっと待ってもう一人の私。……まさか黒服、お前の反転は……"
「くっくっくっ。あのクズノハが言ったそうですね。反転は直らない。死者が蘇らないのと同じだ、と。彼女は理解が足りないようなので私が訂正しましょう」
黒服は9,10柱目となるモンスターを呼び出した。
これまでの8柱の神々も強力だったが、今度の2柱はそれらと位が違った。
それは明らかに先ほどホシノが召喚したラーに匹敵する神格だったからだ。
睡蓮、そして原初の太陽の神々、ネフェルトゥムとラー。
《溟界神-ネフェルアビス》
《溟界神-オグドアビス》
これが黒服の切り札にして黒服の所持する最高神達だ。
「太陽が沈んでもまた昇るように、再反転は可能です。このネフェルトゥムと原初のラーの神秘であればね」
"……!?"
「ただし、エジプトの神々の神秘を持つアビドスの生徒に限定されますが。くっくっくっ」
"それじゃあ、もしかして……"
「一つ忠告を。色彩に染まったアヌビス……砂狼シロコを再反転させたいならよく考えた方がいいでしょう。2人の砂狼シロコが同一世界に存在することになってしまいますからね」
一つの世界に同じ存在が2つあってはいけない。もし存在したなら矛盾を嫌う世界が抑止力を働かせ、クロコを世界から排除するだろう。それだけならまだマシで、世界を矛盾ごと消去してしまうかもしれない。
クロコが色彩に染まったままでいいのか。それは"先生"を大いに悩ませた。クロコ本人はゼアル先生がいることもあってそこまで気にしている様子もなかったが、それでも普通の生徒に戻してやりたい気持ちがあった。
「ううん、大丈夫。私は私を捨てたりしない」
しかし、そんな心配はクロコがあっさりと蹴り飛ばした。
「私は私の歩いてきた道を否定しない。みんなとの思い出も、私が犯した罪も、全部背負ってこれから進んでいく」
"シロコ……"
「大丈夫。私は一人じゃないから。"先生"もいるしセリカもいる。それに……こっちの"先生"とかよわシロコだって。私は私で、もうよわシロコじゃない。それを、私の青春をお前に否定させない」
「……。その結論に至るのは想定外でした。この誤差は……いえ、考察は後にしましょう。今は術がある、とだけ覚えていただければ結構です」
さすがにネフェルトゥムとラーの2柱相手では10人がかりでも大苦戦する。少しの油断で一気に戦局が傾きかねない。指揮をする"先生"もゼアル先生も神経を尖らせて戦いを分析、適時指示を送る。
そんな時だった。
ユメが《覇王天龍オッドアイズ・アークレイ・ドラゴン》を召喚したのは。
アークレイ・ドラゴンに圧倒された大多数と異なり、ヒナは統合召喚そのものに着目する。
ヒナはホシノとの一対一の戦いで辛勝した。しかし暴走したホシノには一方的に負けてしまった。クロコが複数名と言えど優勢に戦ったのに。雷帝の時も、エデン条約の時も、いつだって自分の力が必要な時は己の力不足を悔やむばかりだった。
もっと力あれば。けれどどうやって? 鍛えればいいのか? それとも技術を学べばいいのか? いっそ新たな神秘でも獲得するか? 悩むばかりの日々が続き、結局あまり進展がないままホシノと戦って結局あのザマだ。
しかし、アークレイ・ドラゴンを目の当たりにしたヒナは、まるで天啓を得たようだった。
ヒナは黒服が「《覇王龍ズァーク》? いえ、違う……あれは覇王龍の本来の姿……なのか……?」と覇王天龍に目を奪われている隙に自分のデッキから手札となる5枚を取り、《轟雷帝ザボルグ》をアレコレして召喚する。
「自害なさい、ザボルグ」
ザボルグが切腹し、ヒナのエクストラデッキから8枚のカードが墓地に落ちていく。儀式以外の召喚法をマスターした【DD】だからこそ、あのアビドス生徒会長のように新たな境地に到れる。
「《ミラクルシンクロフュージョン》を発動。墓地に送った融合モンスター《DDD烈火王テムジン》、シンクロモンスター《DDD疾風王アレクサンダー》、エクシーズモンスター《DDD怒濤王シーザー》、そしてペンデュラムモンスター《DDD死偉王ヘル・アーマゲドン》を除外して……」
「……!? その召喚法は……!」
「四天の王者を統べ、異次元をも征する至高の王よ。今こそ私の前に現れてこの世界に君臨なさい。統合召喚」
4体の「DDD」モンスター達が異次元の渦へと消えていった。そして光と闇が入り混じった柱と共に、多次元を統べる絶対王者が降り立つ。その存在感はあの覇王天龍に勝るとも劣らない。
「生誕なさい、《DDDD偉次元王アーク・クライシス》」
アーク・クライシスが手のひらを2柱の神々へと向けると、衝撃波を伴わず、目には見えない何かが発せられた。するとネフェルトゥムとラーより神性が失われて、目に見えて弱体化する。
「統合召喚に成功した《アーク・クライシス》の効果で、貴方のモンスターの効果を全て無効化するわ」
「何!? まさか、神にまで効果を発揮するとは……!」
「《アーク・クライシス》で《溟界神-ネフェルアビス》に攻撃。ドゥーム・オブ・ディメンション」
「ぐ……! 《ネフェルアビス》が一撃で……!」
アーク・クライシスの正拳突きでネフェルアビスは爆発四散。これで残るは1柱だけになったが、黒服が驚かされる暇もなかった。既に最後の神オグドアビスにはクロコ……いや、クロコだった何者かが迫っていた。
「あれはまさか……ZEXAL!?」
そう、ゼアル先生が精霊となったことで可能となったクロコとゼアル先生の奥の手。ゼアル先生とプラナが行っていたエクシーズチェンジをクロコ主体でクロコとゼアル先生が行い、新たに誕生したZEXALだ。
"「ホープ剣・フューチャースラッシュ!」"
ZEXALクロコがホープ剣でオグドアビスを一刀両断。オグドアビスも爆発四散して退場となった。これにより黒服の10体のモンスターは全て敗れ、"先生"たちの勝利が確定した。
しかし生徒たちはこれまでのゲマトリアとの決闘と違い、勝利を喜び合わない。まだ肝心の黒服が残っているから。これまで決闘に敗れたゲマトリアは大人しく退散したが、今度ばかりは逃すつもりはなかった。
「……参りました。貴方達の勝利です」
"黒服。約束通り罰ゲームは受けてもらう"
「一発だけダイレクトアタック、ですね。もちろん、甘んじて受けましょう」
"……。言ったね?"
「え?」
"先生"と黒服が会話している間、ヒナがホシノに何やら囁く。黒服を殺さんばかりに睨んでいたホシノはヒナの助言に少し顔をほころばせた。そしていたずらっ子のように黒服へと笑いかける。
黒服が嫌な予感を抱くのをよそにホシノは1枚のカードをセットした。大地を鳴動させて現れたのは、セトの神秘を持つ三幻神の一角、《オベリスクの巨神兵》。その偉大なる巨神が拳を握りしめ、黒服へと振り下ろす。
「ちょっと待――」
「オベリスク・ゴッド・ハンド・クラッシャー!」
オベリスクにぶっ飛ばされた黒服は地平線の彼方へと消えていった。
"先生"たちの完全勝利だった。
夜が明け、温かな光がホシノたちに降り注いだ。
シェマタに端を発する騒動が、異変が、戦いが終わったのだ。
◇黒服
使用デッキは【溟界】
エースモンスター兼切り札は《溟界神-オグドアビス》、《溟界神-ネフェルアビス》
しかしこのキヴォトスでのデッキであって、世界を渡れば別のデッキにするだろう。
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