「やっほー☆ ユウセイ先生、いらっしゃい」
「ようこそ、トリニティへ。私たちはユウセイ先生の来訪を歓迎いたします」
「よく来てくれた。首を長くして待っていたよ」
トリニティ総合学園にやってきた私はまずティーパーティーに顔を出しました。それぞれの派閥の長だったナギサ、ミカ、セイアは卒業を迎えるためいち早くその座を2年制に明け渡し、次期ティーパーティーの補佐に留まっていました。
既にトリニティ内での取り決めも2年生が主軸になっていて、3年生はアドバイスをするだけ。ナギサたちは優雅にティーパーティーと洒落込むだけです。3人とも優秀なだけあって早々と進路が決まり、受験戦争とも無縁に終わりました。
「2年生たちは来年やっていけそうですか?」
「ええ。もうこの時期は私たちは見守るだけで済んでいます。むしろ現役から退く者が口を挟んだところで不快なだけでしょう」
「後輩たちには後輩たちのやり方があるしね。私たちが思いもよらなかった提案が出てきて面白かったよ」
「アリウス分派が加わって勢力図が大きく動いたからね。我々の代で収束出来たことは喜ばしく思うよ」
エデン条約の一件で統合したアリウス分校は色々と問題が発生したものの、阻害はされず、しかしトリニティの価値観を押し付けず、上手く付き合っているようです。そのために奮闘したサオリの頑張りは後ほど振り返るとしましょう。
さて、そんなティーパーティーですが、次のホストにはサオリが選ばれました。元からサンクトゥス派でホストだったセイアの片腕を任されていたこと、アリウス分派をまとめ上げたことを認められ、賛成多数で就任したそうです。
「恐れ多いですが、認められたからには期待に答えなければいけませんので」
「サオリでしたら立派に務められます。緊張しすぎる必要はありません」
「そうですね……。至らない部分は助けてもらう。これが重要ですものね」
和やかなお茶会はあっという間に時間が過ぎ、私が席を立とうとする頃合いを見計らったかのように、ミカが1枚のカードを提示してきました。それは私がキヴォトスに来た頃に彼女に渡した《時械神ミチオン》でした。
「ユウセイ先生。これ、返すね。さすがにキヴォトスの外まで持っていくわけにもいかないし」
「大天使の力を宿す時械神には何度も助けられました。けれど私たちはこれから神の救済無しでやっていかないといけませんから」
「今度助けを求める子に渡してほしい。それが我々の願いだ」
「受け取りましょう。代わりにこちらを」
ミカから《時械神ミチオン》、ナギサから《時械神ラフィオン》、セイアから《時械神ガブリオン》のオリジナル版カードを返してもらい、私は代わりに時械神のオフィシャル版カードを彼女たちに授けます。
「私の所持していた「時械神」カードはオフィシャル版としてリリースされます。じきに一般市民が【時械神】デッキを組めるようになるでしょう。こちらはリリース前にもらった試作品です」
「カードテキストは同じですがカード自身から力は感じ取れません」
「でも普通のカードから神秘を引き出すなんてキヴォトスじゃあお茶の子さいさいだし、何も問題ないよね」
「キヴォトスの外でその現象が起こるかは未知数だ。過信は禁物だよ。ロザリオ代わりに身に着けておく感覚でいいんじゃないかな」
3名とも自分のデッキに渡された時械神のカードを入れました。ミカやセイアは自分のデッキと相性が悪いはずですが、それでもごく当たり前のようにデッキに入れたあたり、大事に使っていたことが伺えます。
「ありがたく頂戴します、ユウセイ先生。これからも大事に使いますので」
「元気でね、ユウセイ先生。手紙……は受け取れるかなぁ? ビデオ通話でたくさんおしゃべりしようね」
「ああ、ユウセイ先生と知り合ってからかなり経つのに、まだ語り足りないよ。こんなに名残惜しくなるとは思わなかった」
「ナギサ、ミカ、セイア。改めて卒業おめでとうございます。貴女達は貴女達の道を進み続けなさい」
3人はトリニティから巣立った未来の自分たちに思いを馳せながらもこれまでのトリニティでの生活を思い返していたようですが、気持ちは前向きで安心しました。これからも応援します。
◇◇◇
「ユウセイ先生、お疲れ様です。ご足労いただきありがとうございます」
「こ……こんにちは、ユウセイ先生」
正義実現委員会に足を運ぶとハスミとツルギの出迎えを受けました。2人とも既に委員長と副委員長からは退任しており、更にここ最近ではよほどでなければ任務にもつかなくなり、後進の育成に専念しています。
新たな委員長はイチカは務めています。本人は他の子に押し付ける気まんまんでしたが、他の委員たちからの熱い支持もありましたし、何よりツルギとハスミが「イチカなら任せられる」との言葉を受けて腹をくくったとのこと。
「こうなりゃ旅は道連れっすよ。ミサキさんが副委員長やってくれるなら引き受けてもいいっすから」
「げっ。……面倒なんだけれど。やらなきゃ駄目?」
「駄目っす。じゃなきゃ私はミサキさんを次期委員長に推薦するっすから。実直な任務遂行で着実に成果上げてますし」
「汚すぎる……。はあ、まあ、いいや。副委員長は引き受けるから、イチカが委員長をよろしく」
就任当時このような会話があったようで、ミサキが副委員長になりました。
アリウス分校では実戦に備えての訓練が重要視されたこともあり、アリウス分校の転入生はそれなりの数が正義実現委員会に所属しています。ミサキは正義実現委員会内で派閥争いが起こらないよう部隊を固まらせませんでした。そんな努力もあって今は正義実現委員会としてひと塊になっています。
ツルギのような圧倒的強さと抑止力、ハスミのような優れた統率力。これらはイチカとミサキにはありません。ですがその分この2名が率いる正義実現委員会はより各々の奮闘が求められ、各委員がその使命に目覚め、結束の力が強まったように感じます。
「ええ。もう私たちがいなくてもトリニティの治安は安泰です。イチカとミサキがやり遂げてくれるでしょう」
「……後は今年度のようにキヴォトスの存亡がかかった脅威への対処ですが、今から心配していても始まりません。私たちに出来ることはイチカたちに備えさせ、信じることだけです」
「あとは卒業を待つばかりですが……どうも胸騒ぎがします」
「私たちは最後まで気を引き締めて警戒に当たりますので、ユウセイ先生もどうかお気をつけて」
イチカとツルギの忠告は重く受け止めます。
私もこのまま何事もなく終わるとは思っていません。後少しで希望が掴める、といった段階で足首を捕まれ、絶望の底まで引きずり込む。悪党の手口など昔から決まっていますので。
だからとキヴォトスの生徒たちを危険な目にはあわせませんし、誰一人として犠牲を出すつもりもありません。そのためなら我々シャーレの先生は身を挺して生徒たちを守るつもりです。
◇◇◇
「ようこそお越しくださいました、ユウセイ先生」
「忙しい中時間を作っていただき、ありがとうございます」
「いえ、本来なら私たちがシャーレに最後の挨拶に向かうべきところだったのです。感謝を述べるべきなのはこちらです」
シスターフッド、図書委員会などに顔を見せた後、私は救護騎士団を訪ねました。救護が必要な者を相手に忙しくしているかと思いきや、ミネたち3年生は医薬品や救護セットなどの備蓄のチェックをしていました。
ミネは既に団長の座を後輩に譲っていましたが引退はしていません。団員の一人として卒業まで現場で働くのだと引き継ぎ時は意気込んでいました。しかし今はそんな現場や病室からも手を引き、裏方に回っていました。
ミネはキヴォトスの外の医学部に進学します。より高度な救護を行えるよう専門知識を会得するのだとか。これまでのように現場で立ち回る日々を送れなくなりますが、雌伏の時だと自分に言い聞かせる決意を固めているとのこと。
「見ての通り1、2年生だけで回していけるかの最終チェック中です。卒業する私は救護が必要な現場に飛び込めません。卒業ギリギリまで私がそうしていては次の体制作りに支障をきたしますので」
「それがいいでしょう。次の1年生が加わった際に組織が混乱しないよう、今のうちに固めておくべきです。ところで、何故備品のチェックを? 常に監理が行き届いていると認識していましたが」
「他の皆さんも感じているようですが、何かが起こる気がしてならないのです。それこそ、あの虚妄のサンクトゥムが出現した時のような……」
あれほどキヴォトスに被害をもたらした異変はありませんでした。それ以降は"先生"たちが未然に防いだこともあって大事には至っていません。だからと最後まで無事とも保証されていません。
何事もなければ「心配しすぎて損しちゃったね」と笑い合えばいいんです。危機感を抱かずに今ある当たり前を盲信することこそが最も破滅への近道なのですから。なのでミネたち3年が念には念を入れることは正しい、と私は思います。
「何かあればご用命を。救護騎士団がすぐに駆けつけますので」
「とても心強いです」
ミネは最後までキヴォトスで救護を続ける強い意志を示しながら、万が一に備えて仕事を続けました。
こうして3年生の進路を書いていると終わりが近づいているなぁ、って気がします。
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