Z-ONE先生のブルーアーカイブ5D's   作:福留しゅん

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Z-ONE、ゲヘナを訪問する

「お疲れさま、ユウセイ先生」

 

 ゲヘナを訪れて真っ先に風紀委員会に顔を見せると、ヒナから歓迎されました。

 

 風紀委員長の座から退いたヒナは卒業まで第一線で治安維持に努めるつもりでしたが、新たな委員長に就任したイオリに強く止められました。イオリ曰く、ヒナがいなくても風紀委員会は充分に務めを果たせることを示したいのだそうです。

 

 イオリを意を汲んでヒナはあえて手を出さないようになりました。アコが「せめて後方支援だけでも」とイオリに助言しましたが、イオリは「それじゃあ意味がない!」と固辞しました。

 

 それでどうなったかと言うと、さすがに初めの方は失敗する比率が少なくなかったそうです。世間一般の評価も「やっぱり駄目だったか」「イオリは人の話を聞かないからな」と散々でした。

 

 しかし、そこから風紀委員会は一致団結して騒動解決に取り組みました。次第に検挙率も増え、今となってはイオリは自他共に認める風紀委員長となりました。ヒナのような絶対的な強さは無くとも、皆を引っ張りつつ皆から支えられる、これも長として相応しいあり方と言えましょう。

 

「これで来年度は安泰ですね」

「ええ」

 

 ヒナとアコは一時期キヴォトスに残って起業した上でシャーレを補佐するつもりだったそうですが、"先生"がやんわりとたしなめたためにお流れになりました。2人にはキヴォトスの外、広い世界を知ってもらいたいとの"先生"の言葉を受けて、進学に切り替えたのだとか。

 

「それでも遠くないうちにキヴォトスに戻ってくるつもり。その時は私たちは大人の仲間入りしてる。もう断らせない」

「全く、凄いですよね。先生方はたった1年弱でシャーレをキヴォトスに無くてはならない存在にまでしたんですから」

「それだけ私たちの信用を勝ち取ったってこと。生徒に寄り添い続けた"先生"たちだからこそ」

「もう先生方のいないキヴォトスは考えられません。私たちが卒業してからもキヴォトスをよろしくお願いしますね」

 

 ヒナとアコはそう私に一礼して、風紀委員会の部屋から私物を片付けます。卒業が迫っているため本格的に引退する準備を進めているとのこと。けれど思い出話に花を咲かせるため、進みはゆっくりなのだそうです。

 

 風紀委員長として右へ左へとゲヘナ中を駆けずり回っていた頃のヒナは疲れが見て取れましたが、今は血色が良いです。自分の体調を呟いたヒナにアコが「名残惜しいですか?」と聞くと、「ええ、そうね。とても退屈」と返事しました。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「やっと来たか、ユウセイ先生。先にミレニアムやトリニティに行ったことは百歩譲るとしても、風紀委員会に先に足を運ぶとはな。あまり待たせるんじゃないぞ」

「取れたアポイントの関係です。悪気はありません」

「キキキッ、まあいい。マコト様直々にもてなしてやろう」

 

 万魔殿に足を運ぶとマコトの言葉通り彼女自らが私をもてなしてくれました。彼女は議長の座を退き、自分の偉大さを示すための黄金の像や絵画は早々に撤去させました。院政を敷かないどころか速やかに自分の影響力を排除したのです。

 

 選挙の結果なんとイブキが次の議長に選ばれました。さすがに幼い彼女の体力では議長の業務をこなせないと判断され、イロハとチアキがイブキを支える体制を作ったのだそうです。

 

 そんなマコトはキヴォトスに残らず大学に通うそうです。政治・経済を学び、より高みに昇るのだと豪語していました。

 

「この私が万魔殿議長だった過去の証は業績とあの歴代議長の絵画だけでいい。これからはイブキたちの時代だからな!」

「そうでしたか。撤去した像や絵画は?」

「像は潰してイブキの像制作の材料にしたぞ! 絵画は私が所蔵する数点と美術館に寄贈する数点を除けば倉庫行きだ。処分するかはイブキが卒業する2年後の万魔殿の判断に委ねる予定だ。その頃にはこのマコト様の偉大さがゲヘナ全体に言い伝えられているだろうからな!」

「なるほど。では今は後輩たちの活動を監視しているので?」

 

 マコトが片手を上げると万魔殿の書記官たちが退室し、応接室にはマコトとサツキ、そして私の3名だけになります。マコトは優雅にソファーにもたれかかり、サツキは鞭をいじりながらマコトの言葉を待ちます。

 

 室内の柱時計が時計を刻む音だけが部屋の中に響きます。これは演説者が大衆の心を掴むために間をもたせる手法でしょう。沈黙がやがて演説者への注目に変わり、期待が一心に集まる、でしたか。

 

「トリニティやミレニアムも感づいて備えているようだが、この私は3年生が卒業するまでにもう一波乱あると睨んでいる」

「根拠は? 備えあれば憂いなし、で押し通すのにも限度があるでしょう」

「キキキッ! あまりマコト様……いや、キヴォトスの生徒を舐めるなよ? シャーレの先生たちがなにか隠し事をしていることなどとっくにお見通しだ」

「……。私も"先生"も表に出していないつもりでしたか?」

「一言でまとめてしまうなら「女の勘」だ。確か女は無意識処理能力と知覚能力が男連中と違う、科学的根拠がある性の違いによる能力の違いだったか? 私らから見ればバレバレだ」

 

 そう言われてしまうともはや何も言えません。"先生"や私たちが生徒にも隠しながら警戒していることを感じ取り、同じように最後まで気を抜かないようにしているとは。世界崩壊した後、男所帯で長年過ごしてきた私としては盲点でした。

 

「杞憂に終わちゃったらいずれやる同窓会で笑い話にすればいいんじゃない?」

「いーや! このマコト様の見立てでは最後に絶対何かがあるね。もう一つ証拠を提示してやろうか?」

「聞きましょう」

「連邦生徒会長、彼女がまだ帰ってこないのが何よりの証じゃないか」

 

 そう、未だに連邦生徒会長は戻ってきていません。

 

 アロナはシッテムの箱に留まったままです。連邦生徒会長の肉体を乗っ取ったエラーはこれまで姿を表さないままです。彼女の言ったとおり表舞台には上がってこないのです。

 

 このまま卒業まで観劇して連邦生徒会長に負けを認めるか? 否。

 エラーは最後になにか仕掛けてくる。それを防がねばならない。

 それが"先生"、ゼアル先生、リンやカヤ、ゲマトリア、そして私の共通認識です。

 

「次の火種は連邦生徒会か? ユウセイ先生も用心することだ。連邦生徒会どもはキヴォトスをエデンどころかバビロンにしかねん」

「例えそうなったとしてもやむを得ない事情があってでしょう。であればやってはいけないことをしたなら叱り、そしてそうしざるを得なかった苦しみに寄り添うまでです」

 

 私の答えにマコトはしばし目を見開いて私を見つめました。しかしやがて満足そうにグラスの中に入っているぶどうジュースを飲み干します。

 なお、彼女の年齢ならキヴォトスでは飲酒が可能ですが(年年齢19以上で合法)、学校内では一切飲酒していないそうです。

 

「……ユウセイ先生もだいぶ"先生"に感化されたようだな。ユウセイ先生も"先生"に影響されたか?」

「少なくとも、あそこまで大人の責任を貫き通している姿から見習うべき点は多々あると考えます。彼の数倍は生きた私でもそう思うぐらいですから、生徒たちにとってはかけがえのない財産となったことでしょう」

「キキキッ! 違いない!」

 

 マコトたちとの談笑はこの一年間の振り返りにシフトします。

 彼女はゲヘナでの生徒生活を名残惜しいと感じながらも徹底して先を見据えていました。きっとこの先でも彼女なら立派にやっていくことでしょう。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「いらっしゃい、先生。待っていたわ」

 

 美食研究会、温泉開発部、救急医学部などを巡り、最後に便利屋68に顔を出しました。

 

 今年卒業するカヨコはそのまま便利屋68に就職します。これ以外の進路は初めから検討の余地が無い、と断言していたので、当然の結果でしょう。

 

 ただ、カヨコにとって意外だったのはアルが彼女に別の可能性を提示してきたことでした。便利屋68はカヨコの帰りをずっと待っているから、外で学んできてもいいんじゃないか、と。カヨコは笑いながら否定し、アルに頭を下げて便利屋68一筋になりました。

 

「まさか中退はしていませんよね?」

「大人の社会だと経歴が物を言うからね。きちんと卒業してきた」

「雇用契約は? 部活動の延長のままではいられないでしょう」

「もちろん。でも契約書を作成したのは私なんだ。雇用者が雇用側の書類作るのって変な気分だよね」

 

 カヨコは今後ムツキやハルカが便利屋68に就職した際のことを考えて、しっかりと自分の雇用計画を練ったのだそうです。おそらくはアルたち4人は今後も引き続きキヴォトスで活動し、活躍していくことでしょう。

 

 そんなカヨコは普段仕事を請け負うには過剰なほど兵站の備蓄を増やしているといいます。マコトと連絡を取り合い、彼女もまた不測の事態に備えているのです。マコトと異なる点は、学園の方針関係なく便利屋68として動けるため、融通が利くことです。

 

「何かあったら私たちを呼んで。すぐ駆けつけるから」

 

 そう宣言し、カヨコははにかみました。

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