「ユウセイ先生に敬礼。お疲れ様です」
「楽にしてください。視察にきたわけではありませんので」
SRTを訪問すると、ユキノが出迎えてくれました。
再開したSRT特殊学園は連邦生徒会長が健在だった頃と比べて権限や予算の制限こそありますが、それを創意工夫で補って以前と同レベルの水準で治安維持活動を務めています。
しかしSRTが活躍してヴァルキューレがお役御免になるかといえばそうでもなく、ヴァルキューレとSRTは州警察と連邦捜査局みたいな関係です。各学園の自治区にまたがる犯罪の場合は治安維持組織と連携して解決に取り組みます。
ようやく元の状態に落ち着いたSRTは、ユキノが率いるFOX小隊が表舞台で活躍することはついに叶いませんでした。これは残り少ない期間を新生SRTの立て直しと後輩たちの育成に専念したからです。
彼女たちFOX小隊は進学しないことに決めました。キヴォトスではヴァルキューレやSRTが台頭したこともあって影は薄いですが、警察機構も存在します。新たに特殊部隊を設立してそこに所属するのだとか。
「勿論私たちが動けば速やかに解決できた事件も少なからずありますし、FOX小隊を望む市民の声があったことも事実です。しかし私はSRTの未来に自分たちの時間を捧げました。後悔はありません」
「とても立派です。背中で行動を示すことも重要ですが、それで付いてこれる者ばかりではありませんので」
「3年生がいなくなっても、連邦生徒会長が卒業しても、SRTは健在です。引き続きキヴォトスの平和を守ることでしょう」
そんなユキノですが、私とこうして話している間も3年生たちの訓練の教官を務めています。彼女を含めて皆後少しで去っていく身でありながら、まるで今年のごたごたで付いた自分たちの錆を削ぎ落とすかのようです。
やはり他の学校と同様に胸騒ぎがして準備しているのか、と問うと、カヤからの指示があって警戒しているそうです。卒業シーズンで浮かれた輩が馬鹿騒ぎしないように厳戒態勢を敷く予定だとか。
「戦いに身を置く者としてそれなりに直感は働きますが、防衛室長や首席行政官の様子から判断すれば、何かが起こる可能性が高い。単なるテロであれば我々が速やかに対処するのですが……」
「おそらくは未然に防げる厄災ではありません。後手に回るのは歯がゆいですが、いざとなれば各学園は自分たちの自治区の防衛に専念するしかないでしょう。その時はSRTとヴァルキューレが頼りです」
「ええ、最後の一仕事です。後輩たちに託して身軽になった今、現場でお役に立てます。本来は出番など無い方が喜ばしいのですが……光栄に思う自分がいます」
「今までSRTのために身を挺してきたのです。そう思うことは決して悪くはありません」
ユキノは一礼し、グラウンドで走り続ける3年生の列の一番うしろに加わり、檄を飛ばしながら自分も走り始めました。
◇◇◇
「ああ、いらっしゃいユウセイ先生」
「お、来たね。待ちわびちゃったよ」
百鬼夜行の百花繚乱を訪れた私はナグサとアヤメの出迎えを受けました。
花鳥風月部の巻き起こす怪奇騒動、そして黄昏による危機を乗り越え、百鬼夜行は今日も賑わいを見せています。百花繚乱もまたかつての栄華を取り戻したように華やかで賑やかで、しかし他と同じく来年度に向けての準備に追われています。
目覚めたアヤメは委員長には戻らず、そして彼女が第一線に戻ることもなく、後輩の訓練から道場の掃除までこなす裏方に徹しました。一般市民の期待を一身に背負った重圧から解放された彼女はとても晴れ晴れとした表情を見せてくれます。
ナグサはキキョウたち他の委員の手助けもあって立派に委員長を務めました。アヤメが追い込まれた教訓から過度に請け負わず、陰陽部や修行部などと連携して治安維持に取り組みました。
ナグサは進学しませんでした。と言うより、百鬼夜行の生徒たちはよほど専門知識を学びたいと思わない限りは進学しないのだそうです。家業を継いだり嫁入りしたり、が進路として多い傾向のようです。
アヤメはそんな例外の一人。彼女はキヴォトスの外へ進学するのだとか。百鬼夜行から離れて世界を見てみたい、と語っていますが、一回全てを否定された彼女の心は一旦距離を置く道を選んだようです。
「ま、ナグサが残るし大丈夫っしょ! 私は思う存分外で学生生活を謳歌するのだー」
「またそんなこと言って……私に内緒で外の大学の受験に望んだって聞いた時、凄く驚いたし、衝撃だった。私を置いていくのか……って」
「それよりユウセイ先生。他の学校って今どんな感じだった?」
「……いいよ。ずっと待ってる」
私はこれまで巡った各学校の様子をアヤメに伝えました。興味深げに耳を傾けていたアヤメでしたが、有事に備えていることに驚く様子はありません。むしろ「やっぱりね」といった感じでした。
「百鬼夜行の生徒が使うデュエルモンスターズのモンスターって、妖怪族ってカテゴライズされたこともあるんだ」
「今はアンデット族に括られているのでしたね」
私の世界では遊城十代の時代で多種多様なデッキを駆使したデュエリスト、三沢大地が【妖怪族】デッキを使っていたと記録されています。【不知火】や【妖仙獣】の先駆けだったと言えましょう。
「そんな妖怪たちがざわめいてるのよ。恐怖、それから畏怖で」
「カードの精霊……いえ、妖怪がですか?」
「うん。私も感じてる。これから来る何かに怯えてるみたい」
カードの妖怪たちまで何かが起こると予感しているとは。
だとしたら我々の想定以上の異変が巻き起こる可能性もあるのですか。
警戒を強めすぎては生徒や一般市民を過度に不安にさせてしまいますし……。
「何か異変の予兆があれば直ちに連絡を。すぐに対処します」
「うん、分かった」
今は用心に用心を重ねる他ありません。
◆三人称視点◆
「ふむ、こんなものですか」
連邦生徒会防衛室にて、防衛室長だったカヤは既に2年生への引継ぎを終えて平役員として執務にあたっていたのだが、今日付でそれも引退。自分のデスクから私物を片付けて段ボールに詰め終えたカヤはハンカチで汗を拭った。
SRTの再建によりD.U.地区の治安は一定の回復を見せ、予算不足が深刻だったヴァルキューレもZ-ONEによる新テーマデッキにより検挙率を上げている。及第点と言える成果だったのではないか、とカヤは内心で自賛している。
「お疲れ様です、カヤ」
「おや、リン。貴女もここでの仕事を終えましたか」
少し休もうと椅子に腰かけたタイミングでリンが部屋へと入ってくる。リンもまた主席行政官ならびに連邦生徒会長代行の座から退き、一役員として今日まで残件を処理していた。それも今日で終わりだった。
リンやカヤだけではない。3年生役員は今日をもって完全に引退。明日からは在校生たちがキヴォトスを引っ張っていく。しかしリンもカヤも心配はしていない。アオイを始めとして優秀な人材が揃っているし、"先生"が引き続き力になってくれるから。
「あと少しですね」
「ええ、もう秒読み段階に入ったとみなしていいでしょう」
リンやカヤの会話は傍から聞けば卒業について語っているように聞こえるだろうが、無論そうではない。幾多ものキヴォトスを滅ぼしうる危機を乗り越えてもなお2人に油断は無い。
失踪した連邦生徒会長がその全てを捧げて決闘する相手、エラー。
絶望の化身たる存在はこれまで一切介入しないまま、キヴォトスが絶望に染まる捻れて歪んだ終着点を楽しんだ。
連邦生徒会長が帰ってこない。それがまだ決闘が続いている何よりの証拠だ。
「油断は禁物です。最後の最後に絶望の淵に追いやられるかもしれません」
「ええ。敵がこのまま黙ってゴールするのを見過ごすとは思えません」
「虚妄のサンクトゥム発生時のような異常なエネルギーは?」
「検知していません。嵐の前の静けさのように平和そのものです」
どこからでもかかってこい、と意気込みたくなるが、こうまで予兆すら無いと疲れて気が抜けてしまう。そんな一瞬の油断が命取りだとカヤは気を引き締め直す。リンも同じで、不安と緊張で表情は固かった。
カヤは窓からD.U.地区を見下ろす。天まで伸びる高さのサンクトゥムタワーからの景色は絶景だが、あまりにも高い階だと地上が遠すぎて現実感が薄れてしまう。この何事もない世界を守りたい、との意志はカヤもリンも同じだ。
「リン先輩、カヤ先輩。ここにいましたか」
お茶とお菓子で休憩に入ろうとしていたカヤとリンだったが、アオイが入室してくる。アユムとモモカも一緒で、部屋に入ってこないだけで他にも連邦生徒会会員が複数名廊下で待機する。
「自分の荷物はまとめ終わっています。後は手配通り私たちの部屋まで運んでください」
「先輩には悪いけれど、最後の仕事をしてもらいたいの」
「連邦生徒会内の引き継ぎ、各学園への祝辞、もう残務は無い筈ですが?」
「いえ、あるでしょう」
アオイが自分のデュエルディスクにカードをセットすると、彼女の背後から闇の瘴気が発生し、やがて禍々しい姿のドラゴンへと姿を変えた。否、果たしてそれはドラゴンと呼んでいい存在だろうか?
アオイのデッキは《銀河眼の光子竜》をエースモンスターとする【ギャラクシー】。しかし目の前のモンスターはフォトンドラゴンやタキオンドラゴンではなかった。あえて言えば暗黒の集合体、ダークマタードラゴンか。
「キヴォトスを絶望に染め上げる、連邦生徒会長の命令が」
「調停室長!? くっ……! 光臨なさい、《極神皇ロキ》!」
「アオイ……! 出なさい、《太陽龍インティ》!」
暗黒のドラゴンが攻撃を仕掛ける前にカヤとリンは自分のエースモンスターを召喚させる……が、出現した直後、《極神皇ロキ》は光に貫かれ《太陽龍インティ》は一刀両断されて破壊されてしまう。
アユムのデッキは【アルカナフォース】。彼女の切り札、《アルカナフォースEX-THE DARK RULER》ならロキを倒しても不思議ではないが、アユムが召喚したモンスターは《THE DARK RULER》と似て非なる存在だった。
モモカのデッキは【シャーク】。しかしモモカが召喚したモンスターはエースの《バハムート・シャーク》や切り札の《S・H・Ark Knight》ではなく、赤い甲冑を身に纏った歴戦の武将のような出で立ちをしていた。
《アルカナフォースEX-THE LIGHT RULER》と《CX 冀望皇バリアン》。
どちらともカヤもリンも見たことがなかった。
「《ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》でダイレクトアタック。絶望のダークマターストリーム」
「くっ! カヤ、後を頼みます……!」
「リン!?」
リンが召喚した《月影龍クイラ》に突き飛ばされたカヤはガラス窓を破り、サンクトゥムタワーから落下していく。遠く離れていくカヤの目には《ダークマター・ドラゴン》の闇に飲み込まれるリンの姿が映った。
アオイはどうしてしまったのか。アユムもモモカも今朝普通に会話したばかりだった。少し目を話した隙に彼女たちの身に何かあったのか。様々な疑問は浮かんだが、先程のアオイの発言から判断はついた。
「エラー……! 連邦生徒会長として連邦生徒会を乗っ取るつもりですか!」
ついに来てしまったのだ。敵の直接攻撃が。
◇扇喜アオイ
使用デッキは【ギャラクシー】
エースモンスターは《銀河眼の光子竜》
切り札は《ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン》、《超銀河眼の光子龍》
たまに《No.107 銀河眼の時空竜》軸にデッキを切り替えることあり。
エラーに渡されたのは《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》
◇岩櫃アユム
使用デッキは【アルカナフォース】
エースモンスターは《アルカナフォースXXI-THE WORLD》
切り札は《アルカナフォースEX-THE DARK RULER》
エラーに渡されたのは《アルカナフォースEX-THE LIGHT RULER》
◇由良木モモカ
使用デッキは【シャーク】
エースモンスターは《バハムート・シャーク》
切り札は《No.101 S・H・Ark Knight》
エラーに渡されたのは《CX 冀望皇バリアン》
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