◆三人称視点◆
「《花札衛-雨四光-》で攻撃」
百鬼夜行の治安維持組織、百花繚乱のキキョウが召喚したシンクロモンスターが闇をもたらす漆黒の太陽に向けて攻撃を仕掛けるも、まるで霞を切るがごとく手ごたえが無く貫通してしまう。
その間も漆黒の太陽から泥のようにあふれ出る闇が魑魅魍魎を形作り、百鬼夜行の街を跋扈する。百花繚乱や修業部の生徒が一丸となって退治していくものの、際限なく生まれ出ずる妖怪を止めるすべが無かった。
「困った……攻撃が当たらない」
「妖怪どもは普通に倒せるけど、親玉だけは「怪談」っぽいなぁ」
「……やっぱり、魑魅魍魎の群れを突破して「百蓮」で攻撃するしかないと思う」
「んー」
結局のところ数少なく通用する「百蓮」で仕留める他無い、との結論に結びつくのだが、ナグサはアヤメが空亡をじっと観察して浮かない表情を浮かべるため、慎重に見極める姿勢を崩さなかった。
「アヤメ先輩、どうしたんだ一体? 何がそんな心配なんだよ?」
「「怪談」は人の恐怖を煽ってこそ。あんな目立つ場所で化け物を生み出し続けるだけなんだったらただのモンスターでしょ」
「つまり、あの黒い太陽は「百蓮」みたいに「怪談」に有効な攻撃手段を誘ってる。アヤメ先輩はそれを危惧してるのね」
「かと言ってそれ以外有効な手立てが見つからないのもまた事実なんだよなー。ま、今はキキョウが委員長なんだし、判断は任せるよ」
既に後輩に席を譲ったアヤメたちは百花繚乱に籍は残してるものの、方針を決めて指示を下すのはキキョウやレンゲたちの役目だ。キキョウはしばし考え込み、やがてアヤメを見つめる。
「……。ただ妖怪を倒し続けても何の進展も無い。なら一度仕掛けてみるべきね。ナグサ先輩、頼める?」
「分かった。任せて」
「アヤメ先輩は私たちの援護をお願い。言っとくけれど、援護でいいから」
「勿論。頼りにしてるよ、キキョウ委員長」
突貫するナグサを守るようにレンゲを先頭、左右をキキョウとアヤメが固め、襲いかかる妖怪族モンスターを退治していく。時には自分たちもモンスターを召喚して戦わせ、道を切り開く。
やがて空亡がナグサの射程距離範囲内に入り、百蓮で狙いを定める。そうはさせじと魑魅魍魎が猛威を振るうも、百花繚乱を支えるキキョウたちの敵ではない。やがてナグサが百蓮の引き金を引こうとした、まさに直前だった。
「ナグサ、危ない!」
アヤメが体当たりでナグサを倒したため、百蓮での狙撃は明後日の方向にそれて空亡には当たらなかった。ナグサがいた位置は空亡が纏うおどろおどろしい火炎による放射攻撃の跡で黒ずんでいた。
火炎放射を浴びたアヤメの片腕が焼けただれた。アヤメは以前の騒動で得たままとなっている怪異で腕を覆い、指を動かして問題がないことを確認する。ナグサが何かを呟きかけたが、アヤメは手で制した。
「ふーん。有効な攻撃を仕掛けようとした敵には後の先で攻撃してくるんだ」
「いやアヤメ先輩、大丈夫かよ!? ちゃんと手当した方が……!」
「それでキキョウ委員長。なにか有効な策は見つかった?」
「……。アヤメ先輩に囮になってもらう手なら」
以前「黄昏」に侵食されたアヤメが姿を見せて異変を巻き起こした際、シュロが怪談を執筆して具現化することで攻撃が通るようになった。同じように怪談には怪談で対抗する。アヤメが空亡の注意をそらしている間にナグサが百蓮で仕留める。これが今考えうる唯一有効な策だろう。
「でも、それじゃあアヤメが危険な目に遭っちゃう。私を庇って怪我したのに、あの黒い太陽の攻撃をさばききれなかったら……」
「大丈夫ー。守りなら任せて~」
「助太刀します、みなさん」
容赦なく牙を剥く妖怪たちを盾で弾き飛ばしたのは修行部のツバキ。直後にミモリとカエデも加わってナグサたちが体勢を立て直すまでしのいだ。立ち上がったナグサとアヤメは助けに来た修行部に感謝を述べた。
空亡は纏っていた炎を燃え上がらせ、明後日の方向へと噴射する。標的は百鬼夜行の建物を縦横無尽に動き回り、角から電撃を発する落書きのような怪奇だった。アヤメは初めて見るが、キキョウたちはひと目見ただけで誰の仕業か分かった。
「おーやおやぁ。ナグサちゃんったらぁ、そんなところで土まみれになって、恥ずかしいですねぇ」
少し遠くから飛んできた幼い声の正体、花鳥風月部のシュロの姿を捉えたナグサは眉を潜める。空亡の出現は花鳥風月部が元凶との線も疑っていたのだが、どうやら違うらしい、と思い込みを少し反省する。
更に空亡は全く別の方向に火炎放射する。炎が向かった先には新手の大蛇の化け物がおり、建物の隙間を動き回ることで回避。代わりに建物が燃え上がっていく。戦闘を有利に進めるために多少の犠牲はやむなし、との合理的な戦法だ。
「《天叢雲之巳剣》の効果を発動。相手に捨てる手札が無いので、妖怪族モンスターを特殊召喚する効果を無効にする!」
大蛇の化け物、《天叢雲之巳剣》より放たれた雷の如き大剣は空亡に突き刺さり、産み落とされようとしていた妖怪が霧散する。
アヤメが視線を向けた先で不敵な笑みをこぼしていたのは同じく花鳥風月部のアザミ。百鬼夜行の町で怪しまれないようにするためか、いつぞや変装した時のようなおとなしめの着物を纏っている。
「……。ナグサ先輩、今のうちに」
「そうね。みんなが気をそらしているうちに、やれるべきことをやろう」
アヤメは修行部と共に別れて空亡の注意を向ける役を。その間にナグサは空亡を仕留める役を。それぞれが己の役を果たすべく、動き出す。全ては自分たちの学校、生活圏、百鬼夜行を守るために。
◆◆◆
「ううっ。まさかあの厄介な3匹の龍が復活するとは」
「マリナちゃん、アレは違いますよ。レッドウィンター連邦学園で封印している3体の氷結界の龍はきちんと封印されっぱなしだと確認出来ています」
「うむ。カムラッドも言っていたぞ。偽物が出没しているとな!」
レッドウィンター連邦学園に出現したのは3体の氷結界の龍、ブリューナク、グングニール、そしてトリシューラ。それぞれがレッドウィンターの周りを囲っているのが現状だ。
氷結界の龍そのものも厄介だがそれよりも過酷なのは現地の環境。周囲一体は急激に気温が下がり、猛吹雪が吹き荒れている。いかに寒さと慣れ親しんだレッドウィンターであっても迂闊に外で活動するのをためらう厳しさだ。
他の自治区のように雑魚モンスターを従えての襲来ではない。あくまでレッドウィンターを包囲しているだけ。そのため、地道に一体ずつ処理していくのがセオリーなのだが、あいにく慎重に進める理由など無い。
「ふふふ、レッドウィンターにとっては大したイベントでもないな! ……ないよな?」
「その通りです、チェリノ会長。直ちに討伐部隊を差し向けて一掃してしまいましょう」
「連邦生徒会はシャーレの先生を粛清するつもりらしい。ここはD.U.区への道を塞いでいるトリシューラを真っ先に片付けましょう」
「ええ。他の氷結界の龍は後回しにし、D.U.区へ派兵するのがよろしいかと」
「うむ。良きに計らえ! カムラッドにはおいらたちの助けが必要だろうからな!」
彼女らは粛々と、しかし大胆に自分たちの自治区で発生した問題を自分たちの手で片付ける。それはクーデターが日常行事と化したレッドウィンターならさほどの大事でもない。卒業を目前に控えるチェリノの偉大さを示す記録にまた一つ華を添えるだけだ。
しかし一方でレッドウィンター内だけには留まらない。山海経との交流を初め、彼女たちの活動範囲はレッドウィンターの外、キヴォトス全土に広がりつつある。同志となった者が困っているなら困らせている相手を代わりに粛清する。それがレッドウィンターの流儀だ。
◇アヤメ
使用デッキは【武神】
◇御陵ナグサ
使用デッキは【不知火】
◇桐生キキョウ
使用デッキは【花札衛】
◇不破レンゲ
使用デッキは【六武衆】
◇天地ニヤ
使用デッキは【機巧】
◇桑上カホ
使用デッキは【上級スピリット】
◇和楽チセ
使用デッキは【御巫(みかんこ)】
◇土生アザミ
使用デッキは【巳剣】
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