◆三人称視点◆
「よく来てくれたわね、みんな」
シャーレから出発したアル、ユカリ、アリスの3名はオレイカルコスのモンスターがはびこるD.U.区を一路サンクトゥムタワーに向かって進む。
公共交通機関は警戒態勢が敷かれてストップ。道路上では乗り捨てられた車で塞がれ立ち往生している。
アルたちはモンスターを退けながら強行突破していく。時間が限られている以上慎重に安全を確保してからでは到底間に合わない。有力な学校が軒並み足止めされている現状、頼れるのは動ける自分たちなのだから。
アルはシャーレから出発する前に便利屋68の社員たちに現地集合するよう業務命令を下していた。カヨコ、ハルカ、ムツキの3名と合流したのはサンクトゥムタワーまで残り半分の距離となった辺りだった。
「はい。アル様に呼ばれたなら火の中でも水の中でも」
「放送見たよ。とんでもないことになったね」
「それでアルちゃんはどうするつもりなの? やっぱり連邦生徒会にカチコミするの?」
「当然よ。この一年近くずっと行方不明になって、シャーレの先生に責任を押し付けて、戻ってきたらお払い箱なんて勝手すぎるわ。何としてでも存続を認めてもらわなきゃ」
連邦生徒会を敵に回すなんてとってもアウトロー、との考えもアルは浮かばないでもなかったが、しかし今は自分のアウトローより先生方の雇用の方が重要だ。便利屋68も先生方には何度も助けられ、支えられてきたから。
一行はハルカを先頭にカヨコ、アル、ムツキ、ユカリ、アリスの順に続く。ミドルアタッカーが少ないとも思わなくもなかったが、元の便利屋68メンバーにユカリとアリスが加勢したと考えれば、その戦力はヒナのような強者が相手でなければ充分に足りるはずだ。
道中のオレイカルコスのモンスターだったが、アルが予想していたよりも遭遇率は低かった。見上げればSRTの小隊が召喚したと思われるモンスターが迎え撃っていたり、脇の高層ビルからの狙撃で撃ち落としていた。カンナがSRTに根回ししたのは本当らしい。
「……あのモンスターたち、サンクトゥムタワーの近くまでは来ないみたいね」
サンクトゥムタワーの足元まで接近すると、オレイカルコスのモンスターとの遭遇率は目に見えて下がった。一般市民もそれを察してか多くの人が集まってきている。アルたちはその中を縫うように進んでいく。
「ではやはり、このもんすたぁ大量発生は連邦生徒会が手引を……」
「アリス知ってます。魔王が復活して世界がピンチになった場面です」
「代わりに連邦生徒会防衛室がサンクトゥムタワー周囲を固めてるみたいだね」
代わりに連邦生徒会防衛室の役員たちが完全武装して陣地を敷いていた。D.U.区の治安維持はヴァルキューレ、テロなどの重大事件にはSRTを派遣する連邦生徒会において防衛室直々に現場に出向くことはほぼ無く、2年生のアルはおろか3年生かつ留年生のカヨコでも見るのは初めてだった。
「あの、私が行きましょうか……?」
「いえ。ここは私から最初に一発入れるわ」
アルはデュエルディスクを展開。手札となる5枚のカードをドローする。手応えあり、と確信して微笑みながら確認すると、やはりその感覚通り望んでいたカードを引けていたため、思わず「やったぁ!」と軽く喜んだ。
「自分フィールドのモンスターが存在しないから、《パワー・バイス・ドラゴン》を特殊召喚するわ。《パワー・バイス・ドラゴン》の効果でデッキから《ダークネス・リゾネーター》をサーチして、エクストラデッキの《レッド・デーモンズ・ドラゴン》を公開して特殊召喚」
「え? アルちゃん、お決まりのバイスリゾネより動きが強くなってない?」
「召喚権を使ってないでシンクロ素材が揃った。さらなる高みに行ったみたい」
「レベル5《パワー・バイス・ドラゴン》にレベル3《ダークネス・リゾネーター》をチューニング! アウトローの鼓動今ここに列をなす! 天地鳴動の力、見せてあげるわ!」
アルがモンスターを召喚しだすと連邦生徒会防衛室の役員たちはようやくアルたちの接近に気づく。しかし迎撃する構えだった連邦生徒会一同に、まだ射程距離外のアルの展開は止められない。
「シンクロ召喚! 来なさい、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》!」
炎を燃え上がらせ、雄々しき真紅の悪魔竜が姿を現した。《レッド・デーモンズ・ドラゴン》が咆哮をあげたことでその場にいた一同が、便利屋68一同すら、その迫力に圧倒されて、恐怖で背筋を凍らせた。
「森羅万象、全てをつき貫く一撃! アブソリュート・パワーフォース!」
アルの攻撃宣言を受けた《レッド・デーモンズ・ドラゴン》がバリケードを張った防衛室役員一同へと突撃、灼熱の掌底を打ち付けた。すると爆風と熱風が発生、防御陣形を紙のように吹き飛ばした。
「ふふん。《レッド・デーモンズ・ドラゴン》の前には防御なんて無意味よ。デモン・メテオ!」
「さ、社長の《レッド・デーモンズ・ドラゴン》が相手を蹴散らしてる間に、私たちも行こう」
「ハルカ、突貫します……!」
「アリスも戦闘開始です!」
「しんがりはおまかせくださいませ!」
突破口が開いたことでアルたちは突撃。混乱する防衛室の生徒は瞬く間に退けられ、アルたちの突破を許してしまう。だったら追撃を仕掛けようとして、背中を見せた防衛室部隊に容赦なく弾丸の雨あられが襲いかかった。
「こちらFOX 1、制圧完了。引き続き進行する」
「作戦本部、了解」
必要最低限の報告をし、FOX小隊のユキノは自分の部下や他の小隊にハンドサインで進む。SRT3年生の小隊は行く手を阻むだろう防衛室の部隊を制圧、FOX小隊を初めとする精鋭でアルたちの援護に回っていた。
そうした助けもあってアルたちは特に問題なくサンクトゥムタワーに到着。しかし入口はシャッターが降ろされ、その前ではアユムを初めとする調停室の役員が守っていた。
「え、と……止まってください。一歩でも近づいたら連邦生徒会への敵対行為と見なします」
「連邦生徒会への敵対、ねぇ」
アユムの警告をアルは鼻で笑った。
「笑わせないで。私たちが連邦生徒会に楯突くんじゃない。連邦生徒会が先にキヴォトス全体に宣戦布告したのよ。シャーレの先生への解雇通告でね」
「そ、それは……」
「少しでもシャーレの先生に恩があるならそこをどきなさい」
「……無理です。連邦生徒会長からの命令は絶対ですので」
そう、と冷たく呟き、アルはアユムを睨みつけた。
「だったら力付くでごかすから、覚悟なさい!」
「それは……無理です」
アルは一歩踏み込んだ。いや、正確には踏み込んだはずだった。
しかし、実際にはアルは一歩後退していた。
アルにとっては瞬きにも満たない間に急に位置が変わった感覚だった。
アルは銃を握りしめながら前進。しかし二歩進むとまた二歩下がっていた。
「……は?」
「動揺してますね。動揺してる、それは恐怖してるってことですよね。やっぱり止めた方がいいんじゃあ……」
「そんな筈ないわ! 私は確かに前に進んだんだから!」
混乱するアルはアユムに突撃。左、右と床を蹴って……、また二歩下がった。
思わずアルはカヨコたちに視線を向けるも、カヨコたちにも何が起こったのか理解出来なかった。アリスが観測した記録を再生しても、1/60fpsの前後でアルは移動している。まるで移動過程が丸ごとすっぽ抜けたかのようだ。
「え、と。これが最後です。大人しく帰ってくれませんか?」
「くどいですわ! ここで引き下がるなど百花繚乱の名がすたりますわ!」
「勇者は勇気を持って困難に立ち向かいます。アリスは負けません!」
「……。でしたら仕方がありません」
アユムの背後にモンスターが出現した。それは無機質なロボットのようで、破滅をもたらす悪魔のようで、異形の天使のようだった。一般流通しているカードのためユカリたちも知っている。
「《アルカナフォースXXI-THE WORLD》のテキスト外効果を発動します。この効果で貴女方の世界は閉ざされて、私だけの世界に。ザ・ワールド!」
一瞬の出来事だった。
《アルカナフォースXXI-THE WORLD》は刹那の間にアユムとアルたちの中間位置に移動しており、上下方向に真っ二つにされていた。
そして、《THE WORLD》の真正面で手刀を振り下ろし終えて着地していたのは、ゲヘナ生の便利屋68にとって馴染みは薄かったが、トリニティ生であれば誰もが知っていただろう、銀色の宇宙戦士だった。
「光を超えた速さになれば時間の概念を超越します。時を止める《THE WORLD》のテキスト外効果は私の《E・HEROネオス》の敵ではありません」
直後、アユムの周りにいた左右の人員が吹っ飛ばされた。
驚いたアユムが左右を見渡すと、一方では赤い屈強な戦士こと《V・HEROトリニティ》。もう一方は巨大な盾を掲げた救護の天使。そして、《E・HEROネオス》の側に降り立ったのは厳格なシスター。
トリニティ救護騎士団前団長ミネ、そしてシスターフッドのサクラコ、参戦。
今回のサクラコはシスター服ですが、インナーは覚悟礼装です。当然ネオスにも覚悟を決めてもらいます。
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