「とりあえずこのままじゃ可哀そうだし、服でも着せてあげよっか」
私が頭を押さえている間にミドリがかいがいしく少女へと服を着せます。どうやらミドリと少女の体躯は近かったらしく、服が小さかったり服に着られてはいません。
ちなみにその様子を観察していたらモモイから「えっち」だのと言われました。今は外見こそ18歳前後の不動遊星ですが、年はモモイの何倍も重ねているので特に劣情は催しませんがね。
着替えが終わった一息入れたその時でした。少女の方から電子音、まるで電子機器の起動音のような音が聞こえてきました。
「休眠状態を解除します」
そのアナウンスが流れた後、少女が目を覚ましました。
「め、目を覚ました……?」
「……。状況把握、難航。対話を試みます……説明をお願い出来ますか?」
「せ、説明が欲しいのはこっちの方! あなたは何者? ここは一体なんなの!?」
驚きながらもモモイとミドリは少女とコミュニケーションを開始。どうやら少女は記録、目的などが消失されているようです。そして人との意思疎通に必要なプログラムも失っている初期状態だと推察出来ました。
「ふふっ、良いこと思いついちゃった」
「いや……嫌な予感しかしないんだけど……」
「???」
そんな記憶喪失(とあえて表現します)の少女はモモイの言葉にクエスチョンマークを何個も思い浮かべたようです。そんな少女に向けてモモイは躊躇いもせず手を差し伸べました。
「じゃあ、一緒に行こう!」
少女はモモイの手を取り、モモイは少女の手を引っ張って立たせました。
そして、モモイはこの冷たく暗い孤独な空間から少女を連れ去ったのです。
◇◇◇
「さて、とりあえず名前は必要だよね。アリスって呼ぼうかな」
「……本機の名称、アリス。確認をお願いします」
「そう、アリス! AL-1Sなんて長くて呼びにくいからね。どう、気に入った?」
ミドリからは安直だのそもそもスペルも違うしアルファベットの"I"ではなくアラビア数字の"1"だろう、との指摘が入ります。
……このやりとりも猛烈なデジャブに襲われてしまい、もどかしくて気持ち悪くてたまりません。
「……。……肯定。本機、アリス」
モモイによって新たな名称を与えられた少女、アリスは嬉しそうにはにかみました。こうして見ると本当に人としか思えない程感情が豊かです。どれほどの労力、どれほどの技術で彼女が作られたのか。科学者として興味がわきます。
モモイは次のステップだと彼女をゲーム部存続のために新入部員に仕立て上げる大胆な案を持ち出しました。部員を確保することで定員割れの状況を解消する算段のようです。
「アリス! 私たちの仲間になって!」
で、アリスを正式に部員として加入させるにはまずミレニアムに在籍させる必要があり、モモイは学生登録と学生証を入手する予定を立てました。それと並行してミドリはアリスが人として違和感のないコミュニケーションが取れるようにすることになります。
ただ、闇鍋ゲーをやらせるのは如何なものかと思いますが?
「や、闇鍋ゲー……!?」
がーん、とピアノの効果音が流れてくるような愕然とした表情になるミドリ。
しかし言わずにはいられませんね。
「私も子供の頃や学生時代はそれなりにゲームも嗜んでいましたから、ここに来る前にゲーム開発部がどのような作品を作っているのか調査しました。その過程でモモイ達の成果物も勿論プレイしました」
「えっ。Z-ONE先生も「テイルズ・サガ・クロニクル」やってくれたんですか?」
「ええ。ネットの情報にも頼らずに自力で全クリしました」
「え、と。それで……どうでした? 面白かったですか?」
そうですね。言いたいことは山程あります。プレイ開始数分で不条理を味わったこととか単語の意味が違うとかストーリーがしっちゃかめっちゃかだとか。クソゲーとは全く異なるやりたいこと全部入れてるから闇鍋ゲーですねとか。
しかし、TSCは単なる流行りに乗っただけの量産ゲーでもなければ名作の焼き増しゲーではありませんでした。モモイ達がここにこんな要素を入れたら面白い、という思いを何度もぶつけられましたよ。
「面白いつまらないで語るなら、面白かったですよ」
「ええっ!? ほ、本当に? お世辞じゃなくて?」
「ただそれは私が制作者の意図を読んだからであって、作品単体ではレビューサイトの評価が全てでしょう」
その上で断言させてもらいます。
アレは教育上全くよろしくありません。
ましては現在まっさらな状態のアリスに薦めるなんて言語道断かと。
「せめて王道と呼べる名作を初めにやらせたらどうですか? テイルズ・サガ・クロニクルが人間の常識だと認識されたら責任を持てますか?」
「大丈夫だ、問題ない。ゲームに込めた熱意は本物だから!」
「難易度については私達が後ろからアドバイスしますから」
「……」
きょとんとしているアリスを見つめ、改めて考えます。
強烈な刺激を与えて情緒豊かにするのも有りかもしれない、と。
諦めないこと。試行錯誤の末に答えを見つけること。それを学べるかも、と。
「……そこまで推すのなら、そうしてみましょうか」
「さっすが先生、話が分かる!」
結局それ以上の妙案も浮かばなかったのでミドリの案に乗ることにしました。
科学とは試行錯誤の連続ですから、と自分を納得させてしまいましょう。
テレビゲーム黎明期を彷彿とさせる理不尽な難易度のインディーズゲームにアリスは果敢にプレイ。どうやら興味や期待に相当する感情が芽生えたようで、モモイとミドリのアシストがありながらも3時間のプレイ時間でエンディングまでたどり着きました。
「……面白さ、それは明確に存在……。プレイすればするほどまるで別の世界を旅しているような、夢を見ているような……」
ゲームから学習したアリスの言葉は最初よりも多彩になっていました。
「あらためまして、ゲーム開発部の部長、ユズです。これからよろしくね」
「ユズが仲間になりました、パンパカパーン! ……合ってますか?」
「あ、うん。だいたいそんな感じ、かな」
そこにユズが加わって次にアリスに何をやらせようかを相談し始めましたが、「ファイナル・ファンタジア」や「アイズ・エターナル」、「ゼルナの伝説」など、私も知っているタイトルがあがりました。私の時代では完全のレトロゲームの分類でしたが名作は時代を経ても楽しめるものですので。まさかキヴォトスでその名を聞くとは思ってもいませんでしたがね。
「次にやるべきは「ロマンシング物語」だよ。あ、でも第3段だけはちょっと、個人的にはやらなくても良いかなって……」
「待ちなさい。それは聞き捨てなりません。「ロマンシング物語3」は確かにストーリー面では未完成ですが、ゲーム性なら全RPGの中でも傑作と評していいでしょう」
「でもRPGは没入感があってこそ。「ファイナル・ファンタジア」だって新機種になった「4」からが本番だし……。でも「ロマンシング物語」は「リメイク1」も「リメイク2」も後付は良かったし、「リメイク3」が出たら評価を改めたいかな……」
我慢できずに途中で口を挟んでしまったのはご愛嬌です。
モモイ達三人のおすすめゲームをアリスはプレイ開始。休むことなく様々な種類のRPGゲームをクリアしていきます。それはモモイ達が眠った夜にも継続。アリスはゲームに没頭していたようなので私も中座して仮眠を取りました。
で、また口調の変わったアリスにモモイはミレニアムの学生証を授けました。何でもモモイの知り合いにミレニアムのメインサーバーにハッキングしてもらい、アリスが在籍していることに生徒名簿のデータを書き換えたのだとか。
「いや、駄目に決まっているでしょう」
さすがに注意しなければいけませんか。
「大丈夫大丈夫! ヴェリタスの仕事なんだからバレっこないって」
「そういう問題ではないでしょう。それともミレニアムはそういった不正行為も成績優秀であれば見過ごされる校風なのですか?」
「うっ、それは……」
発覚したら最後、不正行為を働いたモモイが処罰されるだけでなくミドリやユズ、そしてアリス本人にも迷惑がかかるでしょう。そして安直に楽な手段ばかり選んでいたら肝心な時にしっぺ返しを喰らいかねません。
「モモイがアリスを部員にしたいと言うから、調べましたよ」
私はタブレットを操作してモモイ達にミレニアムサイエンススクールの公式ホームページを見せます。そこには編入生募集要項についてが記載されています。優秀であれば中等部の卒業生である必要は無いようなので、アリスにも受験資格はあります。
「でも次の編入試験はもっと先だよ。全然間に合わないじゃん」
「定期実施される通常の編入試験はそうですね。しかしトリニティやゲヘナより歴史の浅いミレニアムは多くの優秀な人材を集めたいはず。セミナーと交渉すれば臨時の編入試験を開催してもらえるかもしれません」
「してもらえるかな? 融通効かせてくれないんじゃない?」
「私からセミナーのユウカに話します。彼女にバレる前に正攻法で行くべきです」
「……。分かった。じゃあ任せちゃっていいかな?」
「ええ。もちろん」
どうやらモモイも納得してくれたのでアリスの加入については解決……ではありません。後で編入試験の過去問を5年分ほど収集して提供しますか。アリスの頭脳なら数日もあれば余裕で会得出来るはずです。
◇才羽モモイ
使用デッキは【D(ディフォーマー)】
エースモンスターは《パワー・ツール・ドラゴン》、《機械竜パワー・ツール》
切り札は《パワー・ツール・ブレイバー・ドラゴン》
ちなみにシナジーは無いが《エンシェント・フェアリー・ドラゴン》や《妖精竜エンシェント》もデッキに入れている。
◇才羽ミドリ
使用デッキは【A・O・J】と【ジェネクス】の混合。
エースモンスターは《A・O・Jカタストル》
切り札は《A・O・Gリターンゼロ》
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