◆三人称視点◆
「じ、地縛神Wiraqocha Rasca……?」
ゲヘナの生徒であるアルは地縛神について知識があったが、リンの召喚したWiraqocha Rascaについては見たことも聞いたこともない。最強の地縛神との触れ込なら「蜘蛛」の地縛神Uruや「魔神」の地縛神Pukasaqraではないのか。
未知の地縛神を目の当たりにして戦慄するアル。ユカリはデュエルディスクの機能で《Wiraqocha Rasca》のカードテキストを確認する。ケチュア語で書かれていてもデュエルディスクなら翻訳が可能だが……、
「えっ? 攻撃力、守備力共にたった1……?」
神と名乗るからには破格の攻守4,000に立ち向かわなければ、と覚悟を決めていたが、思わず拍子抜けしてしまう。しかし、続くカードテキストの方を読んで思わず目を疑った。神に相応しい耐性はあってしかるべきだが……、
「《地縛神Wiraqocha Rasca》の効果を発動します。自分のバトルフェイズを放棄することで、相手のライフポイントを1にします」
「相手のらいふぽいんとを1に!? いんちき効果もいい加減にしてくださいませ!」
ライフポイントを1にされてしまったらちょっとしたバーンダメージを食らえばライフポイントが尽きてしまう。ユカリの心からの非難はアル、アリス、見守る便利屋68社員全員の総意でもあった。
「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ! バトルフェイズを放棄って、先攻1ターン目はバトルフェイズなんて無いでしょうよ!」
「果たしてそうでしょうか?」
「へ?」
続けて発したアルの抗議に対し、リンは顔色一つ変えずに言い返した。
あまりに堂々とした返答を受け、アルは思わず間の抜けた声を発する。
「モンスターが攻撃出来ないだけで第1ターンでもバトルフェイズは存在するのではありませんか?」
「何言ってるのよ。攻撃出来ないのにバトルフェイズがあったって意味ないじゃないの」
「そもそも公式るーるでそう決まっておりますの。つまり、リン様は《うぃらこちゃらすか》の効果は発動出来ませんわ!」
「では、公式大会でジャッジに裁定を委ねるのと同じように、公式運営に問い合わせていただいても構いませんよ」
ユカリは一瞬自分の方が勘違いしているのでは、と不安になるが、ここで相手の口車に乗って引き下がっては誰かのライフポイントを1にされてしまう。誤った解釈を通されて不利になってはたまらない。
と、まで思って早速連絡を取ろうとし、そう言えば公式運営の連絡先をユカリは知らなかった。ユカリはアルに訪ねるも彼女も知らないようだ。ユカリは少し先を走るアリスへと問いかけると、「はい、アリスは知ってます!」と元気の良い答えが返ってきた。
「キヴォトスのデュエルモンスターズ公式運営、連邦生徒会総務室の連絡先は――」
「ちょ、ちょっとお待ちくださいませ!」
公式運営は連邦生徒会総務室?
そう言えばデュエルモンスターズのカードの開発、販売は連邦生徒会が担っていたっけ、と今更アルとユカリは思い出した。
しかし、その連邦生徒会とは今まさに死闘を繰り広げている最中ではないか。
そして、連邦生徒会総務室と言えば……目の前のリンが室長だ。
「では、公式運営の連邦生徒会総務室室長の私が回答します。先攻1ターン目でもバトルフェイズは……「あります」」
「な、なんですってー!?」
「嘘ですわ! 公式さいとにだってそのような記述はどこにも……!」
「では、悪役らしくもっとはっきり言いましょう」
リンはヘルメットのバイザーを上げ、ユカリたちを見やった。
「私が首席行政官権限でルールを……書き換えたのです」
ひゅ、とユカリは思わず息を呑んでしまった。
ルールを自由自在に改変出来るのならもはや何でもありではないか。
しかしデュエルディスクが正常に機能している以上、このデュエルが不正だと抗議したところで無駄だ。
リンがアリスを指差すと、《Wiraqocha Rasca》が大きく羽ばたき、頭を後ろに逸らす。それから顔を突き出すと毒々しい色をした瘴気を吐き出した。見るからに受けたが最後、ひとたまりもないと分かる。
「対戦相手が複数名いるので、対象はアリスさんを選択します。ポーラスター・オベイ!」
「手札の《エフェクト・ヴェーラー》を墓地に送って、《地縛神Wiraqocha Rasca》の効果をターン終了まで無効にします!」
地縛神の瘴気を浴びる直前、アリスの手札から召喚されたモンスターがヴェールのような羽を広げると、瘴気は弾かれてアリスには届かずに終わる。瘴気を凌ぎ切ると《エフェクト・ヴェーラー》の姿は光の粒子となって消えていった。
「……かわしましたか。神の一撃を」
「アリスは負けません!」
《地縛神Wiraqocha Rasca》の地上絵は急カーブが多く、オートパイロットでもない限りDホイーラーの腕が試される。カードのプレイングに集中してカーブを曲がりきれない場合もある。その点リンは巧みなハンドルさばきでリードを維持していた。
「4枚伏せてターンエンド。この瞬間、《月影龍クイラ》は自身の効果で破壊され、墓地に送られます」
「そこはオフィシャルのシンクロモンスター版と変わらないのね」
《月影龍クイラ》は沈み、消えていった。まるで月が地平線へと沈むように。
「では次は身共の手番ですわね。一番槍はこの身共におまかせくださいませ!」
「いえ、ここは私に任せて。ちょっと仕掛けてみたいの」
「アル様……。分かりました。お任せいたしますわ!」
「ありがとう。じゃあ、いくわよ! 私のターン、ドロー!」
アルがドローした瞬間、皆のDホイールにスピードカウンターが1つ溜まる効果音が鳴った。
「自分フィールドのモンスターが存在しないから、《パワー・バイス・ドラゴン》を特殊召喚するわ。《パワー・バイス・ドラゴン》の効果でデッキから《ダークネス・リゾネーター》をサーチして、エクストラデッキの《レッド・デーモンズ・ドラゴン》を公開して特殊召喚」
「それは……先程地上階でも行った展開ですか」
「ふふん。でも召喚するのは《レッド・デーモンズ・ドラゴン》ではないわよ。レベル5《パワー・バイス・ドラゴン》にレベル3《ダークネス・リゾネーター》をチューニング!」
チューナーモンスターの《ダークネス・リゾネーター》が緑の輪っか、レベル分3つとなり、《パワー・バイス・ドラゴン》の身体が透け、レベル分の5つの星が現れた。そんな《パワー・バイス・ドラゴン》を緑の輪っかが囲む。
「漆黒の闇を裂いて天地を焼き尽くす孤高の絶対なるアウトロー! 万物を睥睨して、その猛威を振いなさい! シンクロ召喚!」
アルによって召喚された悪魔のような竜は先程の《レッド・デーモンズ・ドラゴン》よりも筋骨隆々とした、より悪魔のような出で立ちの竜だった。炎を舞い上げ、轟くような咆哮を上げる姿は、まさに王者の竜だった。
「出なさい、《琰魔竜レッド・デーモン》!」
「なるほど。そちらで来ましたか」
「《琰魔竜レッド・デーモン》の効果を発動するわ。このカード以外の全てのモンスターを焼き払ってあげる! クリムゾン・ヘル・バーン!」
《琰魔竜レッド・デーモン》が全身から灼熱の炎を巻き上げ、フィールド全体を包み込む。Dホイールで走行しているユカリやアリスにも炎や熱波が襲いかかる。《地縛神Wiraqocha Rasca》や《太陽龍インティ》も炎の波に飲み込まれ、姿を消した。
「これで地縛神も太陽龍も焼殺よ!」
「それはどうでしょうか?」
「へ?」
しかし、次の瞬間だった。炎が貫かれ、中から飛び出た流星が《琰魔竜レッド・デーモン》を撃ち抜いた。更に流星は大空へと高く舞い上がり、その真の姿をアルたちに見せる。アリスを初め、誰にとっても馴染み深い、秀麗なる白き竜を。
「《スターダスト・ドラゴン》……!」
「伏せていた《スターライト・ロード》を発動し、《琰魔竜レッド・デーモン》の破壊効果を無効にして破壊。その後エクストラデッキから特殊召喚しました」
「くっ、まあいいわ。まだ手札の消費は1枚で、召喚権も残ってるもの。早めに消費させたって前向きに考えることにするから」
アルは手札から永続魔法《クリムゾン・ヘルガイア》を発動して、デッキから《ソウル・リゾネーター》をサーチする。まさかの「SP」以外の魔法カードにリンは少し目を開いた。
「《スピード・ワールド2》の効果で魔法カードのプレイ時にはダメージを受けてもらいます」
「2,000ポイントでしょう? 必要経費としてちゃんと支払うわ」
と、ライフが0にならないなら問題ではない、と高をくくっていたアルだったが、バーンダメージによる衝撃がソリッドビジョンではなく現実のものとして襲いかかってきたため、危うくハンドル操作を誤るところだった。
「思っていたより衝撃が激しいわね……! でも、《ソウル・リゾネーター》を召喚して効果発動! デッキから《ボーン・デーモン》をサーチするわ」
その後、アルは《クリムゾン・ヘルガイア》を墓地に捨てて《ボーン・デーモン》を特殊召喚。《クリムゾン・リゾネーター》を墓地に送り、《レッド・ライジング・ドラゴン》をシンクロ召喚。効果で蘇生した《クリムゾン・リゾネーター》の効果でデッキから「リゾネーター」モンスター2体を特殊召喚する。
「特殊召喚した《レッド・リゾネーター》の効果で《レッド・ライジング・ドラゴン》の攻撃力分ライフポイントを回復するわ。これで経費は日当付きで精算完了ね」
「1枚初動でもうここまで立て直しを……!?」
「レベル6《レッド・ライジング・ドラゴン》にレベル1《ミラー・リゾネーター》をチューニング! アウトローの決断、勝利の剛剣に炎を宿し、大地を引き裂くわ! シンクロ召喚! 来なさい、炎の鬼神竜、《クリムゾン・ブレード・ドラゴン》!」
アルが召喚した新たなシンクロ竜は真紅の剣士のようだった。アルがたまに用いる《クリムゾン・ブレーダー》のようであり、「レッド・デーモン」の亜種のようでもあった。
「バトル! 《クリムゾン・ブレード・ドラゴン》で《太陽龍インティ》に攻撃よ! クリムゾン・ストーム・マーダー!」
「攻撃力はこちらの《太陽龍インティ》の方が上です。返り討ちですよ」
「この瞬間、《クリムゾン・ブレード・ドラゴン》の効果を発動して、戦闘対象のモンスターを破壊するわ! これで《太陽龍インティ》の効果は使えないわね!」
「リバースカー……いえ、止めておきましょう。通します」
《クリムゾン・ブレード・ドラゴン》の剣が《太陽龍インティ》を両断、爆発四散する。戦闘ダメージは発生していないが、余波でリンは若干ハンドルを取られる。
「地縛神を神として召喚したなら、地縛神だけがフィールドにいる場合はプレイヤーに直接攻撃できる。《伝説のフィッシャーマン》と同じだったわね」
「太陽が沈んだから私はがらあき……とでもお思いですか?」
「へ……?」
「《太陽龍インティ》が破壊され墓地に送られたので、墓地の《月影龍クイラ》の効果を発動。このカードを特殊召喚します」
《太陽龍インティ》という太陽が沈むと、《月影龍クイラ》という月が昇り始めた。再びリンを守る下僕として立ちはだかった。
「なな、なんでよー!? 《太陽龍インティ》が《月影龍クイラ》を蘇らせるタイミングが早すぎるじゃないの!」
「ダークシンクロモンスターの《月影龍クイラ》の蘇生タイミングは、弱体化したシンクロモンスター版と異なってタイムラグはありませんよ」
「え、と。それじゃあ《太陽龍インティ》が破壊されたら《月影龍クイラ》が蘇って、《月影龍クイラ》が破壊されたら《太陽龍インティ》が蘇る……」
「まさに無限るーぷですわ!」
地上にいる限り太陽と月は頭上で輝き続ける。
この当然を覆さない限り、アルたちに勝機は無い。
4人のサバイバルデュエルとか、頭の中がパンクしそうです。
架空デュエルを毎度考える方は本当に凄いと思います。
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