Z-ONE先生のブルーアーカイブ5D's   作:福留しゅん

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Z-ONE、キヴォトスを去る

 エラーによるキヴォトス各地の被害状況は、生徒たちの迅速な対応もあって虚妄のサンクトゥム出現時よりも軽微で済みました。おかげで各校予定通りに卒業式が行われることとなりました。

 

 今度こそ□□□が帰還したことを連邦生徒会役員一同は祝ったのですが、次第に落ち着くと今度は□□□への事情聴取と説教タイムが始まりました。リンのようにやり直す前の経験をほぼ引き継げた者もいませんでしたし、何ならリンやカヤだって責められたぐらいです。しかし□□□たちはどこか嬉しそうでした。

 

 あの後"先生"に聞いたのですが、アロナは"先生"に対してエラーとデュエルして勝ってキヴォトスを絶望から守りましょう、としきりに言っていたそうです。そしてエラーに語りかけようとした"先生"に「これで終わりです、"先生"!」と言って急かしたのだとか。

 

「それで、アロナは□□□だったんですか?」

"正確にはちょっと違うかな。□□□の記憶、経験、人格データを完璧に移植した、□□□の代理人みたいなもの"

 

 とあるロボットアニメの主人公の兄と忍者師匠みたいなもの、と"先生"はぼかして例えていましたが、エンジニア部の勧めもありまして視聴済みです。

 

 少し異なるのは、□□□はe・ラーに乗っ取られた肉体を奪還した後、アロナを肉体側にインストールし直すつもりだった点。エラーとしてなおも絶望と戦っていたのは想定外だったようです。

 

 では□□□が戻ってアロナはどうしたか? 実はシッテムの箱にアロナとプラナが常駐した状態は負担が大きかったようで、アロナはしょっちゅう昼寝という体の休止状態になっていたとか。そのため、アロナは□□□にアロナとしての経験と記憶を継承し、卒業することを選んだのです。

 

「大丈夫です、"先生"! これからはプラナちゃんが"先生"のサポートをしますし、私だって消えるわけじゃありませんから!」

"ありがとう。アロナがいてくれたから私はここまでこれた"

「どういたしまして。"先生"、ほんとうにありがとうございました……!」

 

 キヴォトス各地で卒業式が執り行われました。ところが全校でシャーレの先生に参加してほしい、と希望されまして、連邦生徒会主導で卒業式の日程を調整、我々は弾丸ツアーを決行することになりました。

 

 卒業する3年生一同はとても立派でした。進学先や就職先に思いを馳せる生徒、泣き出してしまう生徒、普段と変わりなく友達と喋る生徒など、多種多様な反応を見せてくれました。

 

「ほらナギちゃん、よしよし。泣かないの」

「ごめんなさい、ミカさん。もう少しだけ……」

「困った。いつものように心境を語りたい所だけど、今日ばかりは言葉で表さず、沈黙で表現したい」

 

 しかし、私の予想と違った生徒も少なからずいまして、例えばトリニティのナギサは感極まって泣いてしまい、ミカの胸を借りていました。そんなミカも涙が溢れていましたし、セイアは温かく見守りますが、打ち震えている様子でした。

 

 全校を回り、シャーレに戻った夜には私たち3人は疲れ果ててしまいましたが、無事生徒たちを羽ばたかせることが出来たことを祝し、乾杯しました。学園都市のキヴォトスでアルコール類を飲む機会などほぼありませんが、たまにはいいでしょう。

 

"あっという間の一年だったね"

「ええ、そうですね。終わってみれば早かったものです」

"初日から色々あってどうなるかと思っちゃったけど、何とかやれたかな"

「"先生"との別れを惜しんている卒業生が多かったことが物語っています」

"それを言うならユウセイもだよ。私一人だったらどうなってたことか"

「いないならいないなりに上手くやっていたと思います。ただ……□□□がやり直す回数は増えていたかもしれませんが」

 

 我々シャーレの先生はこれまでの一年を振り返って思い出話に花を咲かせました。初めはささやかなビールとつまみから始まりましたが、次第にワインやウイスキーに手が伸び始めます。新しい菓子袋の封も切りました。

 

「お疲れ様でした、先生方」

 

 そんなお疲れ様会にリンが顔を見せました。

 彼女の連邦生徒会の制服姿は今日が見納めです。

 その最後が同級生や後輩ではなく我々とは光栄です。

 

"あ、リンちゃん。おつかれ。……キヴォトスってお酒は何歳からだっけ?"

「満19才からですので、私はまだ無理です」

"ふぅん。じゃあ19才になってるマコトやカヨコは飲めたんだ"

「生徒であるうちは自粛していたと思いますよ」

"じゃあ頑張ったリンちゃんにはこれね"

「ノンアルコールビール……。舐める程度で良ければ付き合います」

 

 リンはノンアルコールの缶ビールを空けてショットグラスに注ぎました。私たちは改めて乾杯します。チーズとビーフジャーキを口に運び、ショットグラス内のノンアルコールビールが空になった辺りでリンは我々を見据えます。

 

「ゼアル先生とユウセイ先生の退任手続きは完了しました。書類は電子データで全て送っていますが、こちらに封筒でも用意しています」

"ありがとう。助かるよ"

「お二方の出発は明日ですか?」

"うん。明日にはシロコと一緒に別の世界に旅立とうと思ってる"

 

 ゼアル先生はシャーレを退任し、もう一人のシロコと共にこのキヴォトスを去る道を選びました。そして彼らは別の世界を旅して回るのだそうです。その過程で苦境に陥りそうなキヴォトスがあれば、少し手助けするつもりなのだとか。

 

 もう一人のセリカことテフヌトは自分だけ置いていかれることに愕然としましたが、テフヌトはまだ2年生。来年いっぱいは生徒としてアビドスで学なきゃ、とゼアル先生に説得され、1年後卒業したら必ず迎えにくることを約束しました。

 

「先生方がいなければきっとここまでは来れなかったでしょう。改めて礼を述べさせてください」

"そんなことないよ。私たちは生徒を支えて力になってあげただけだから"

「それが何よりもの頼りになりましたので。

 

 私も先日リオに語ったようにこのキヴォトスから去る……と言うより、元の世界に戻ります。不動遊星たちなら未来を変えてくれていますので、生きながらえたのですからこの目で確かめたいのです。彼らの、そして我らの掴んだ未来を。

 

「アオイたちにとっては残念でしょうが、これが今生の別れということでもありません。またいつかこのキヴォトスを訪ねてください」

"うん、分かったよ"

「勿論です」

 

 私のDホイールには時械神の力が少し残っていました。おそらくあと一回分の次元跳躍が可能と見込まれます。なのでこちらに戻ってくる場合、ルートの確保から初めなければなりませんが……不可能ではないでしょう。

 

「あっ! リンちゃんったら、いつの間に抜け出してると思ったら、やっぱりシャーレに行ってたんだ!」

「いや、貴女だって気付いてて見逃したでしょう。シャーレに行く口実が出来たって喜んでたじゃないですか」

 

 そんな風に色々と喋り合っていたら、□□□やカヤが姿を見せました。抜け駆けしたリンにご立腹のようですが、酒と菓子を差し出したら彼女たちも同席しました。大人としてどうなのか、と思わなくもありませんが。

 

 さすがに卒業したとは言え子供を夜遅くに付き合わせるわけにはいきませんので、ほどほどの時間でお開きになりました。酒も入っていたので我々はシャーレの仮眠室で寝ることにします。

 

 荷物整理や旅支度は終えています。

 あとは、このキヴォトスから去るだけです。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「あっ! おはようございます、ユウセイ先生!」

 

 朝食を取って身だしなみを整え、いざ出発。駐車場に降りてDホイールを起動、地上へと出ると、そこではDホイールに乗ったアリスが待ち構えていました。

 

 彼女だけではありません。リオやネルを初めとしたミレニアムの主だった生徒、ミカやサオリといったミレニアム以外の生徒の姿も見られます。

 

「これは私の出発を見送りに……ではなさそうですね」

「はい! アリスはユウセイ先生にライディングデュエルを申し込みます!」

 

 リオたち一同を見渡すと、どうやら私が去る前にデュエルを挑み、対戦者をアリスに決めたことを悟ります。卒業式前に申し込まれたデュエルには一通り答えましたが、最後に改めて、といったところでしょう。

 

「いいでしょう。挑まれたデュエルには答えるのがデュエリストです」

「じゃあ、すぐそこにハイウェイに乗ったら開始です!」

 

 私とアリスは互いに顔を見合わせ、Dホイールを走らせます。本日は快晴、ライディングデュエル日和です。一般道からインターチェンジを抜け、やがて複数の車線が伸びるハイウェイに入ります。

 

『デュエルが開始されます。デュエルが開始されます。レーンセレクション、使用可能な最適レーンをサーチ。デュエルレーン、ミレニアムに申請。AUTHORIZATION』

 

 専用のコースが構築されたことで私たちは加速。スピードの向こうへと突き進んでいきます。最初に出会った頃とは全く違う、歴戦のDホイーラーとしての気迫がアリスの運転から感じ取れました。

 

「「ライディングデュエル・アクセラレーション!!」」

 

 さて、このデュエルの内容は語るまでもないでしょう。私とアリスは喋り合うよりも、一緒に遊びに行くよりも、はるかに濃密な交流をライディングデュエルで果たしました。アリスは立派に成長していて、私としても喜ばしい限りです。

 

「集いし星が新たな力を呼び起こす、光さす道になります! シンクロ召喚! 出てください、《ジャンク・ウォリアー》!」

「ここで《ジャンク・ウォリアー》!?」

「《ジャンク・ウォリアー》はシンクロ召喚した場合、自分フィールドのレベル2以下のモンスターの攻撃力の合計分攻撃力がアップします! パワー・オブ・フェローズ!」

「そのために《機皇帝》を手札に貯めていたのですか……!」

 

 デュエル終盤、アリスは破壊をトリガーに合体済み版「機皇帝」3体を特殊召喚しました。こちらのシンクロモンスターへの対抗策と思いきや、そこでアリスは《ジャンク・シンクロン》を通常召喚したのです。

 

 機皇帝は私の世界を滅ぼした元凶、モーメントによる人類抹消の兵器、本来はシンクロ召喚への抑止力、そしてモーメントの王女たるアリスの武器です。まさかその機皇帝でシンクロモンスターを強化する……いえ、機皇帝とシンクロモンスターの絆を見ることになるとは……。

 

「バトルです! 《ジャンク・ウォリアー》で《コズミック・ブレイザー・ドラゴン》に攻撃します!」

「《コズミック・ブレイザー・ドラゴン》をエンドフェイズまで除外して効果を発動。その攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させます」

「アリスはアリス自身のデッキマスター能力を発動します! 相手のシンクロモンスターがカードの効果を発動するためにフィールドから離れた場合、またはカードの効果でフィールドから離れた場合、その効果を無効にして、そのモンスター1体を相手フィールドに特殊召喚します!」

「デルタアクセルシンクロキラー……!」

 

 《コズミック・ブレイザー・ドラゴン》が光の粒子となって別次元へと消えましたが、アリスはDホイールに装備した光の剣:スーパーノヴァから光線を放つと、別次元から光の竜を引きずり出します。

 

「スクラップ・フィストぉぉっ!!」

 

 《ジャンク・ウォリアー》が大空に舞い上がり、一回転しながら拳を《コズミック・ブレイザー・ドラゴン》に打ち付けました。《コズミック・ブレイザー・ドラゴン》は光を発しながら爆発しました。

 

 見事です、アリス。

 己の運命を自分の手で変え、自分の道を歩み始めました。

 名もなき神々の王女、アトラ・ハシース、デカグラマトンの預言者、究極神。

 幾多の試練を乗り越えてきた貴女は、まごうことなき勇者です。

 

「ユウセイ先生、ありがとうございました!」

「楽しいデュエルでした、アリス。また会いましょう」

 

 きっとあなた達でしたらこれから先も青春を謳歌し、皆で頑張り、大人へと成長していくことでしょう。

 私も遠くから祈りましょう。そして何か不測の事態が起こった時に駆け付けられるよう、私はこれからも疾走し続けます。

 

 私はDホイールの装置を起動し、キヴォトスを後にしたのでした。




次回、最終回です。
ちなみにZ-ONE対アリスのラストデュエルは色々と考えてはいた(OCGでのデュエルような攻防、Z-ONEが新たなシンクロ時械神を召喚して《時械神竜》が切り札、など)のですが、省略することにしました。《ジャンク・ウォリアー》がスクラップ・フィストでフィニッシュすることに変わりませんので。

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