◆"先生"視点◆
私の同僚、Z-ONEは不思議な人だ。
見た目は若い。新入社員……いや、下手をしたら大学生ぐらいに見える。本人もその自覚があるようで、見た目と年齢が一致していないと本人も言っていた。不動遊星という人物のテクスチャを貼られた、と彼は語ったけれど、私には不動遊星という人物が誰なのかは分からない。いずれ話してくれるだろうか?
Z-ONE、と彼は名乗った。最後の一人を意味するこの呼び名が一体どうして付いたのだろうか。
シャーレへの赴任手続きに自分の情報をしたためなきゃいけなかったのだけれど、彼は熟考の末に氏名欄に"■■ユウセイ"と書き記した。何でもずっと使っていなかったから本名を思い出すのに苦労したんだとか。
そして、Z-ONEはなんとあの遊戯王のようにカードをソリッドビジョンとして実体化出来る技術があるところからやって来たらしい。ペンデュラム召喚もリンク召喚も無い、エクシーズ黎明期かつシンクロ最盛期の環境だったとか何とか。
"それじゃあデュエルディスクもあるのかな?"
「ええ。こちらがそうです」
へえ、これが本物のデュエルディスクかぁ。持ってみると思ったよりも軽いなぁ。プラスチックのオモチャで出来たごっこ用と同じぐらいかも。さすがにリンク召喚のためのエクストラモンスターゾーンは無いか。
「? リンク召喚とは何ですか?」
"あー、リンク召喚っていうのはね……"
私がペンデュラム召喚やリンク召喚について語るとZ-ONEは興味深げにメモを取った。そのうえでデュエルディスクをどのように改造したら適用可能かを検討しだす。流石に実際に作業に取り掛かるのは帰ってからになりそうだけれど。
驚くべきことに、このキヴォトスではデュエルモンスターズが普及していた。更にZ-ONEが来たところと同じくソリッドビジョンでモンスターを投影する技術もあって、本当に遊戯王の世界にやってきたような臨場感あるデュエルを楽しめるらしい。
「シャーレの先生として赴任されるにあたって、デュエルディスクも支給します」
リンちゃん、七神リン連邦生徒会首席行政官にして現在連邦生徒会の生徒会長代行を務める彼女は、シャーレのオフィスビル奪還後の少し落ち着いた頃に私達のために複数種のデュエルディスクを用意してくれた。
「一番オーソドックスなのはカイザーグループ製のこちら。コンパクトさを重視するならミレニアム製のこのD・パッド。デュエルフィールドも全てソリッドビジョンにしたいならミレニアム最新作のこちらがいいでしょう」
"そうだね。じゃあ私はD・パッドを貰うよ"
「私は自分のものがありますので、気持ちだけ頂きます」
「分かりました。あと、ライディングデュエル用のDホイールはどうしますか?」
ライディングデュエル。それはスピードの中で進化したデュエル。何でもZ-ONEが来たところだとモーターレースとデュエルを組み合わせたデュエルが一般的なんだとか。しかも一般交通事情よりライディングデュエルの方が優先されるようだ。はた迷惑だ。そもそも何でバイクに乗りながらデュエルするんだ、と突っ込むのは野暮だろうか?
「キヴォトスにもライディングデュエルがあるのですか?」
リンちゃんの言葉にZ-ONEが食いついた。それまで淡々とした物言いだった彼から思った以上に感情がこもった反応が返ってきたからか、リンちゃんは戸惑いを露わにしてた。大人びて見えてもそう言った細かな動作は年相応だなぁと思った。
「ええ。シンクロ召喚を開発したミレニアムが中心になって普及させています。ミレニアムの生徒とならやる機会もあるでしょう。Z-ONE先生はご自分のDホイールをお持ちのようですが……」
"いや、私は要らないよ。スタンディングデュエルをやれれば充分だから"
「プロDホイーラーのマシンには及びませんが、そこそこ性能のあるミレニアム謹製のDホイールを車庫に入れてますので、ご自由にお使いください」
"……分かった。折角だからもらっておくよ。時間があれば練習してみる"
それと、とリンちゃんは続けてポケットから紙のケースに入れたデュエルモンスターズのデッキを3つ取り出して私の前に置いていった。パッケージのデザインはまるでスターターパックみたいだなぁ、と思った。
「それと先生用のデッキも準備しています。トリニティから【堕天使】、ゲヘナから【ヴェノミナーガ】、ミレニアムから【アンティーク・ギア】が提供されました」
これらはシャーレオフィスビル奪還の際に力を貸してくれたトリニティのハスミ、ゲヘナのチナツ、ミレニアムのユウカが準備してくれたらしい。何でも各学校の教員が一般的に使うデッキなんだとか。
せっかくなので一応全部に目を通してみる。私の知らないカードも加わっていて全体的に強化されている。テーマごとにカードが揃っているようで複数のテーマを混ぜてデッキの完成度を上げるのはキヴォトスでは一般的じゃないようだ。
"あ、ごめんね。デッキは自前のがあるから要らないんだ"
「私も不要です」
とは言ってもなぁ、3つともメインデッキが主体のテーマだから私の好みに合わないのだよね。やっぱエクストラデッキからどーんと強力なモンスターを特殊召喚した方が楽しいというか。
「そうでしたか。どのようなデッキかお聞きしても?」
"どうせならリンちゃんとデュエルした時のお楽しみに取っておきたいんだけれど"
「そうもいきません。お二人がいらっしゃったところではどうだったかは知りませんが、このキヴォトスではデッキの弱さが命に関わります」
……。
…………わっつ?
いや、そんなところまで遊戯王っぽくなくて良くない?
"え、と。もしかして、デュエルに負けると魂を取られるとか?"
「召喚されたモンスターが物理現象を起こします。リアルソリッドビジョンによるものだったり、カードの持つ神秘が現実に干渉してきたり、実体化の要因は様々です」
"へ、へええ……凄いや"
「あぁ、ちなみにキヴォトスでは一般生徒でも攻撃力500~1500のモンスターとなら同程度に戦える、と認識してください。デュエル以外で生半可なモンスターを召喚したところで返り討ちにされます」
いや、ちょっと待って。
もしかしてモンスターをリアルファイト要員として召喚して戦わせられるの?
しかも普通の生徒が攻撃力1500超えって、下級モンスターなら破格って言えるぐらい高いんだけど。
「ヘイローの無い一般市民も護身用に自分のデッキとデュエルディスクを持ち歩くぐらいです。キヴォトス内を出歩くなら銃と同じぐらいの必須品ですよ」
純粋に重火器で戦い合うのとデュエルモンスターズ要素も加わってるのとどちらがマシなのだろうか。まさかのまさかだけれど、一国を守護するぐらい強力な神のカードを使うデュエリストとかいたりしないよね?
"いや、それでも私は自分のデッキを信じるよ。パワー不足だったらカード屋に行ってストレージを漁るだけだからさ"
「……では"先生"のデッキを拝見しても?」
"はい。これが私のデッキ。ファンデッカーだからそこまで強くはないけれどね"
私は鞄の中に入れていた自分のデッキをリンちゃんに手渡す。リンちゃんはしげしげと私のデッキ、そしてエクストラデッキを眺め、感謝を述べて私に返してくる。
「【希望皇ホープ】ですか。先生らしいと言えばらしいですね」
"でしょう? やっぱり格好いいモンスターでフィニッシュ決めたいよね"
「ふふっ。確かに。わくわくを思い出します」
"ソリッドビジョンが実用化されてるなら、もしかしてやれたりするのかな。いっけぇ《希望皇ホープ》! ホープ剣・スラッシュだ! ってさ"
「ええ。思う存分なさってください」
白状しよう。この時の私はとても楽観視していた。
だってしょうがない。遊戯王みたいなデュエルを楽しめるって聞いてワクワクしない方がおかしいでしょう。
けれどカードが実体化するということがどれほどの影響を及ぼすか、そしてどれだけの脅威か。私はこの後散々思い知らされることになる。
キヴォトスのデュエルモンスターズは遊戯王OCG環境とほぼ同じです。
ヲーな太陽神や〇ンチホープな絶望神も一般に出回ってます。
ただし時械神のような一部キヴォトスにも無いカードもあります。
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