「と、言ったわけでユウカ。セミナーに所属する貴女の権限で編入生募集要項を追加し、直ちにアリスを受験させましょう」
「分かりました。ミレニアムとしても学力が十分備わっているなら多少経歴が怪しくても目を瞑って問題無いでしょう」
次の日、セミナーのユウカがアリスの資格審査に来ました。私からの意見をユウカは受け入れ、アリスは数日後に編入試験を受けられるようになりました。これでアリスは正式にミレニアムの生徒となることでしょう。
「え……?」
「っていうことは!?」
「規定人数を満たしたゲーム開発部の存続を承認します」
「やったぁ!」
「よかったぁ……!」
「ただし「今学期」までは、ね」
「わー、い……え?」
ところが現在、部活の規定人数を満たすだけでは不十分で、同時に部としての成果を出さなければならないのだそうです。結局ゲーム開発部が「ミレニアムプライス」で新作を出さなければならないのは変わりないようですね。
「結局G.Bibleが必要なんじゃん! またあの廃墟に行くの!?」
「G.Bibleを探しに行くなら……わたしも、一緒に行く」
「ユズちゃん……」
「パンパカパーン、ユズがパーティーに参加しました」
「うん、よし! やるしかない、行こう!」
「みんなで部室を守ろう!」
そうしてロボット兵器達を退けて再び廃墟にやって来た先にあったのはDivi:Sion Systemなるプログラム。アリスことAL-1Sを認識しているようでしたが、電力限界のためにデータ転送を提案してきました。G.Bibleのデータと共に。
……怪しい。実に怪しい。
明らかに何らかの意図でデータを転送するよう促していますね。
どう考えても拒絶一択なのですが、さすがにG.Bibleに寄せるモモイの期待を打ち砕くのもいかがなものかと思ってしまいます。
「じゃあ、ゲームガールズアドバンスにデータケーブルを接続して……」
「いえ。それより私のデュエルディスクへ移した方がいいでしょう。データに問題が無いかを解析して転送しますので」
「え? そう? じゃあ先生にお願いするね」
なら一旦私が預かって調べれば良いでしょう。
幸いにもミレニアムには設備も揃っていますから、いざとなればスパコンを借りてしまうのも手ですか。無論、スタンドアローン状態にして接続するのが条件ですが。
◇◇◇
ゲーム開発部部室に戻ってきた私は早速取り込んだデータの解析を実施……する前に、一旦デュエルディスクを物理的に破損させてオフラインにしてしまいます。これで無線を介して未知のデータが悪さをする心配をひとまず無くしました。
「さて、では解析してみますか」
「Z-ONE先生ってそんなことも出来るんですね」
「むしろこちらの方が本職ですね」
私はデュエルディスクのソリッドビジョンで空中キーボードと空中モニターを出現させて解析に取り掛かります。
ふむ、移植されたデータは二つ。1つ目はモモイご所望のG.Bibleで、2つ目は単なるゴミデータ……と見せかけた高圧縮されたフォルダですか。迂闊に解凍すれば一気に容量が膨れ上がってデュエルディスク内のデータは破壊されてしまうでしょう。
「高圧縮フォルダ?」
「悪意ある圧縮ファイルのことです。ファイルを展開すると何京倍ものデータ容量になってシステムをクラッシュさせます。ただ、単に容量を取るだけの無意味なデータではなくれっきとしたプログラムのようですね」
「それって……トラップとして同梱されたんですか?」
「いえ。単にデュエルディスクのメモリ容量に合わせて圧縮したのでしょう」
推測される必要な解凍後容量は……一国の中枢モーメントに匹敵しますね。アーククレイドルのあった元の世界ならまだしもキヴォトスではミレニアムですら取り扱いは厳しいと言わざるを得ません。
この<Key>と名前が付けられているフォルダをどうするかは後で考えるとして、今はG.Bibleに専念しますか。こちらも起動にはどうやらパスワードが必要なようですね。
「それじゃあパスワードを直接解析しなきゃ駄目ってこと?」
「ええ」
「うーん。ヴェリタスに出来ないか頼んでみる?」
「いえ。何のためにデュエルディスクにデータを移したか分かりますか?」
私はモモイ達を連れて一旦部室から外に出てからデュエルディスク内のツールを起動。すると前方にソリッドビジョンのデュエルフィールドが出現。合わせて自分の手元にデジタルで手札が表示されました。
「パスワードを詰めデュエルの形で表示したかったからです」
「へぇ~。じゃあ詰めデュエルを解けばパスワードも突破されるんだね」
「ええ、その筈です、が……」
相手のモンスターゾーンに出現したのはまさかの《F・G・D》でした。
《F・G・D(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)》。5つの異なる属性を持つ首を生やした巨大なドラゴン。それぞれの口が咆哮を上げる様子は圧巻の一言です。突然の出現にモモイ達も驚きの声を上げます。
「詰めデュエルとは何ですか?」
「んーとね。詰め将棋のデュエル版で、自分と相手のライフ、デッキ、手札、フィールド、墓地の状況は全部決まってて、課題をクリアすれば勝ち、みたいな。普通だったら1ターン以内に勝利しろ、かな」
「うわーん! 攻撃力5,000のモンスターがフィールドにいて相手のライフが9,999なんて1ターンキルは無理です! サレンダーします!」
「召喚したモンスターの攻撃力を15,000まで上げてワンショットキルが正解?」
相手と自分の伏せカードは1枚ずつ。モンスターゾーンには相手側に《F・G・D》が1体のみ。こちらの手札は6枚。デッキは5枚。それと手札には特殊勝利効果を持つあのカードが……成程。
「モモイ。やってみますか?」
「え? 私が?」
「頭の体操ですよ。何ならミドリ達と相談しながら挑んでみなさい」
私はデジタル表示の手札をモモイに渡します。
受け取ったモモイや後ろから覗き込むミドリ、アリスはフィールドと手札とで視線を交互させ、あーでもないこーでもないと相談し合います。
ちなみに6枚の手札は以下のとおりです。
《ダーク・ネクロフィア》
《トランス・デーモン》
《暗黒界の術師スノウ》
《暗黒界の導師セルリ》
《暗黒界の狩人フラウ》
《封印されしエクゾディア》
そしてこちらの伏せカードは《アドバンスドロー》。
突破口は既に見えていますね。
「えっと。まずは《トランス・デーモン》を通常召喚! 効果を発動して悪魔族の《暗黒界の術師スノウ》を墓地に捨てて……《暗黒界の術師スノウ》の効果を発動、でいいのかな?」
恐る恐る回し始めたモモイでしたが、段々と答えに近づいてくるにつれて自信が出てきたようです。段々と効果発動宣言はハキハキしだし、プレイングも堂々としたものになっていきます。
「最後に《アドバンスドロー》で《ダーク・ネクロフィア》をリリース! デッキから2枚ドロー」
「おお……!」
「? 何が起こるんですか?」
「これで……《エクゾディア》のカードが5枚揃った! 私の勝ちぃ!」
ガッツポーズをしたモモイですが、あいにくまだデュエルは終わっていません。
手札に《エクゾディア》のカードが5枚揃った揃ったことでモモイの上に巨大な魔法陣が描かれ、そこから巨大な手、足、顔が出現。古の召喚神エクゾディアが姿を現します。これには周囲にいた他のミレニアム生も注目してきました。
「凄い、これが《エクゾディア》……!」
「私、初めて見た……」
「わぁぁ……!」
ところがせっかく召喚された《エクゾディア》は何もしません。ただ相対する《F・G・D》を威圧するだけ。モモイが不思議がっていたらその脇腹をミドリに小突かれます。
「お姉ちゃん、ソリッドビジョンが出てるデュエルだから効果発動宣言しないと」
「あっ、そうだった」
指摘されたモモイは慌てて咳払いし、5つ首竜に向けて拳を突き出します。
「いっけー《エクゾディア》! 怒りの業火エクゾード・フレイム!」
モモイの宣言と共に動き出した《エクゾディア》は手の平から発した攻撃で《F・G・D》を完全粉砕。パスワードの厳重な守りを象徴するかのようなドラゴン族最大攻撃力のモンスターを消し飛ばしました。
普段見れない特殊勝利に周りの観衆は拍手を送ります。モモイが自慢げに手を振って見せている間、私は空中キーボードを叩いてG.Bibleのロックが解除されたことを確認します。
「どう、先生? G.Bibleはちゃんと見れるようになった?」
「ええ、大丈夫ですね。部室に戻ってから皆で確認しましょう」
「やったぁ! これでゲーム開発部はこれからもずっと続けられるよ!」
「ぱんぱかぱーん! アリスたちはクエストをクリアしました!」
そうやって期待に胸を膨らませたゲーム開発部一同、何なら私を含めて、は部室に帰り、いざG.Bibleのお披露目となります。いざ起動して「最高のゲームを作れる秘密の方法」が固唾を飲んで読み始めましたが……、
「……お、終わりだああっ!」
出てきたメッセージは「ゲームを愛せよ」とのある意味究極の心理。しかしモモイ達にとっては何の役にも立たない助言でした。
「あの、モモイ……デイリークエストしないのですか?」
「アリス……私のライフポイントはとっくにゼロだよ……」
「ごめんね、アリスちゃん……私たちは……G.Bible無しじゃあ、良いゲームは作れない……」
もはや万事休す、という諦めムードが部室内を漂っていましたが、ただ一人、アリスだけは違いました。
「……いいえ。否定します」
アリスは一生懸命説明しました。モモイ達が作り、アリスが初めてプレイしたゲーム「テイルズ・サガ・クロニクル」が面白く、製作者がどれだけ愛を込めたか、そしてゲームの世界を旅してどれだけ胸が高鳴ったか、夢を見ることの素晴らしさ、そしてエンディングに近づくにつれていつまでもこの夢を見続けたいと思えた、と。
「アリス……」
「……作ろう」
「えっ?」
「叶うなら、この夢が……この先も終わらないでほしい」
わくわくを思い出したモモイ、アリス、ユズは再びゲーム制作への意欲を燃やし、残り一週間弱まで迫ったミレニアムプライスに向けて全力で取り組む意思を表示しました。
「さあ、ゲーム開発部一同、テイルズ・サガ・クロニクル2の開発、始めよう!」
「「「うん!」」」
こうして食べる時間も寝る時間も惜しんだ結果、締め切りまで残り数秒まで迫りましたが、ゲーム開発部は完成品を収められたのでした。
そんな熱意が伝わったのか、ミレニアムプライスの結果を待ちきれずにweb上にアップロードすると、急速な勢いで伸びていくダウンロード数と評価に皆が嬉しい悲鳴を上げながら固唾を飲んで見守り続け……。
「よう」
ミレニアム最強のエージェント武力集団であるメイド部、通称C&Cの襲撃を受けたのでした。
ちなみにこの詰めデュエルはデュエルリンクスのものです。昔はアニメでもたまに詰めデュエルやってくれましたが、今はあんまりですね。
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