「……例の"先生"、とはまた別の人か」
「"先生"でしたら今日はシャーレで書類の山に埋もれていますよ」
突然ゲーム開発部を襲った狙撃から逃れるため廊下に逃げ伸びた一同を待ち受けていたのはC&Cリーダーのネルでした。写真で見るのと直に相対するのとでは印象が全く異なりますね。歴戦の兵士、そんな印象を覚えました。
「そっちのバカみたいにデケぇ武器持ってるあんた」
「アリスのことですか?」
「依頼を受けてな。ちっと面貸せや」
「アリス知ってます! チビメイド様からアリスへの告白イベントですね。スチル獲得です!」
「だ、誰がチビメイド様だ! ぶっ飛ばされてぇのか!?」
「ひっ……!」
ネルは思わず怒鳴ってしまったためにゲーム開発部の4人は完全におびえてしまいました。それを見て冷静になったネルは一息入れ、再びアリスを見据えます。
「誤解しないよう一応言っておくが、別にボコろうってわけじゃねぇ。でもな、俄然興味が湧いてきてな」
「興味……?」
「確認、って言った方がいいかもしれねぇが……ちょっくら相手してもらおうか。お互いを理解するのは、これが一番手っ取り早いからな」
「……分かりました」
勝負を挑まれたアリスは一歩前へと踏み出し、光の剣を構えます。
それに対してネルは特に何もしようとしません。銃を手にするどころかただ立ったままアリスを見据え続けます。
「魔力充電100%……! 光、よ……!?」
光の剣:スーパーノヴァから破壊光線が射出されようとしたその時、突然アリスの挙動がおかしくなりました。なんとトリガーを引けずに光の剣を盾のように前へと出した防御姿勢になったのです。
「相手の直接攻撃宣言時、あたしは手札の《SRメンコート》の効果を発動してたってわけだ。こいつを手札から特殊召喚して、相手フィールドの表側表示モンスターを全て守備表示にする」
「アリスの身体が勝手に守備表示になりました!?」
ネルは片手にデュエルディスクと手札を、もう片手に銃を持ちます。カードが剣でデュエルディスクが盾なデュエリストとは違う、二刀流ともいえる姿でした。
「モンスターを召喚しての連携攻撃。デュエルしながらバトるのはキヴォトスの第一線じゃあ常識だぜ。覚えときな」
「奥義伝授イベントですね! アリスはラーニングします!」
アリスもまた光の剣に収まっていた自分のデッキから手札になる5枚のカードをドローします。
「んじゃ、あたしのエースモンスターの登場だぜ! あたしはレベル3のチューナーモンスター《SR三つ目のダイス》を通常召喚して、レベル4の《SRメンコート》にチューニング!」
「アリスは相手フィールドのみモンスターが存在するのでレベル4の《レベル・ウォリアー》を特殊召喚します! そしてレベル4のチューナーモンスター《ハイパー・シンクロン》を通常召喚してチューニングします!」
デュエルではないのでネルとアリスはそれぞれ同時にモンスターを展開し、シンクロ召喚に繋げました。互いに発生するチューナーのレベルと同数のリングの形状が若干違いますね。アリスのは私にもなじみ深いいつものですが、ネルのは初めて見ます。
「その美しくも雄々しき翼を翻して、光の速さで敵を討て! シンクロ召喚!」
「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となります! シンクロ召喚!」
「来い! レベル7、《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》!」
「飛翔です、《スターダスト・ドラゴン》!」
光が迸り、二体の竜が顕現しました。
一体は決して忘れぬ遊星のシグナ―竜。もう一体はそれにも劣らぬ立派な白い雄々しきドラゴンでした。
二体は耳をつんざくほどの咆哮をあげます。
「さぁ、行くぜ!」
ネルは凄まじいスピードでアリスに接近。それと同時に《クリアウィング》も《スターダスト》へと突撃します。
アリスの光の剣では巨大すぎてネルへと照準を全く合わせられず、かと言ってネルもまた頑丈な光の剣という盾を突破出来ずにいます。時折アリスが剛腕で光の剣を振るうのでそれも攻勢を続けられない理由のようですね。
一方で《クリアウィング》は隙あらばアリスへと突撃を仕掛け、その度に《スターダスト》に阻まれる攻防が続けられます。逆に《スターダスト》もまたネルへと反撃をしますが、回り込んだ《クリアウィング》に防がれます。
「おらおらどうしたぁ!? 防戦一方だな! ま、あたしがそうさせてるんだから当たり前か!」
「……照準は、必要ありません」
「だから無理だって……いや、まさかてめぇ……!?」
「行きます!」
「くそっ! だがそれでも遅ぇよ!」
「光よ!」
一瞬の攻防だったため私も全てを見切ったわけではありませんが、分かる限りではこのような展開でした。
まずアリスは盾代わりに構えていた光の剣をそのままの状態で射出を試みました。砲口は床に向けられていたので、自分もろともネルへダメージを与えようとしたのでしょう。
それを受けてネルはレベル1のチューナーモンスター《SR赤目のダイス》を召喚、《クリアウィング》をアリスへと突撃させつつチューニングを行い、ネルの切り札である《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》をシンクロ召喚します。
《クリスタルウィング》となって速度を増したためアリスが光の剣をチャージとショットする前にダイレクトアタックを受けるのは確実。そのためアリスは《バスター・モード》を発動し、《スターダスト》を《/バスター》へと変化させて迎え撃ちます。
しかし《クリスタルウィング》の効果はレベル5以上のモンスターとの戦闘で相手モンスターの攻撃力分攻撃力をアップするというもの。結果、《スターダスト・ドラゴン/バスター》は戦闘破壊されたのです。
「光よ!」
「烈風のクリスタロス・エッジ!」
アリスが光の剣を放ったのと《クリスタルウィング》がアリスへと突撃したのはほぼ同時でした。爆音と爆風、そして爆炎が舞い起こります。腕で目元を覆いながらも前方を見据えていると、アリスの華奢な身体がこちらへと転がってきました。
彼女は制服はおろか肉体もかなり損傷しています。いくら彼女が頑丈な作りでナノマシンによる再生機能があったとしても、戦闘続行はおろか歩くのも困難でしょう。光の剣では《クリスタルウィング》の攻撃を防ぎきれませんでしたか。
「に、肉体の損傷70%……後退を望みます……」
「分かりました。私が背負いましょう」
「お願いします、急いで!」
「逃がすかよ! 《クリスタルウィング》で追撃だ!」
見えない煙の向こうからネルの声が聞こえ、同時に竜の咆哮が聞こえてきます。アリスのとどめをさすつもりのようですが、さすがにそこまで黙って見ているわけにはいきませんね。
「《ジャンク・ガードナー》の効果を発動して《クリスタルウィング》の表示形式を守備に変更します」
「《クリスタルウィング》の効果を発動してその効果を無効にして破壊するぜ!」
「ではアリスが発動していた《星屑の残光》の効果で墓地から特殊召喚されたアリスの《スターダスト・ドラゴン》の効果を発動、その効果を無効にして破壊します」
「何だってっ!?」
「ヴィクテム・サンクチュアリ!」
蘇った《スターダスト・ドラゴン》の反撃で《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》は爆散。その隙を突いて我々はC&Cを振り切ることに成功したのでした。
◇◇◇
「じゃ~ん、メイド服~!」
「ひぃっ! あ、アリス、しばらくメイド服は見たくありません!」
「それと……ネル先輩からの伝言。「また会おう」……って」
「ひぃっ!?」
ネルとの一戦で破壊した建物についてC&Cが処理してくれることになり一件落着……とは少し言い難いですね。アリスがメイド服に若干苦手意識を持ったみたいですので。
それにしても《/バスター》ですか。
シンクロモンスターを大型モンスターへと進化……いえ、退化させるカード。
大型モンスターが大正義だった状況を打破すべく考案されたのが小型モンスターの絆で召喚されるシンクロ召喚なのに、あれでは本末転倒でしょう。
「やっぱネル先輩の《クリスタルウィング》強すぎだよ! しかも何あのインチキ効果、ずるじゃん!」
「さすがに《バスター・モード》じゃあ全然歯が立たなかったね……」
「《クリスタルウィング》に単体で敵うモンスターって少ないんじゃあ……」
「じゃあさっきみたいにコンボで撃破するしかないのかなぁ」
確かにあのドラゴンはとても強力でした。もし本来のデュエルであれば《クリスタルウィング》を守る他のモンスターや伏せカードもあったでしょうから、突破は非常に困難でしょう。
もしモンスター一体で《クリスタルウィング》を凌ぐとしたら……やはりシンクロを超えねばなりませんか。とすれば、アリスにもコレを渡した方が良さそうですね。彼女がこの境地に至れるかは期待しましょう。
「アリス。次は勝ちたいですか?」
「……。アリス、次までにレベリングして最高のデュエリストになります」
「ではこちらを。アリス風に言うなら勇者の使った伝説のカードです」
「《フォーミュラ・シンクロン》と……これはエラーカードです。何も描いてません」
「勇者の奥義を習得した時に真の姿を見せるでしょう」
「……! ぱんぱかぱーん! アリスは伝説のカードを手に入れた!」
なお、ミレニアムプライスの結果については語るまでもないでしょう。
モモイ達の熱意が伝わって正当に評価されました。そしてゲーム開発部はひとまずの存続が決定したのです。
「やったぁぁ!」
「アリスちゃん! 私たち、特別賞を受賞したんだよ!」
「えっと、アリスはこれからも……みんなと一緒にいて、良いのですか……?」
「うん……これからも、よろしくね……!」
「……はい! これからも、よろしくお願いします……!」
モモイ達が喜び合う姿は私も嬉しく思いますが、それはそれとしてやるべきことは果たさなければいけませんね。ミレニアムプライス優先で後ろ倒ししていたアリスの編入試験は近いうちに実施してもらわねばなりません。
そして、アリスは何者なのか。
それを判明させないことには目の前の日常がいつ壊れてしまうか分かったものではありません。
ある日突然何の兆候も無しに平穏がもう二度と戻らなくなるなんて、モモイ達は、そしてアリス本人も味わうべきではありません。
◇◇◇
私はエンジニア部にアリスを連れて行き、ウタハと約束していたアリスの精密検査を行います。確認したいのはソフト面ではなくハード面です。
「さすがに非接触のスキャニングとか触診ぐらいだけど、結果は検査レポートにまとめたよ」
「私が知りたいのはアリスの動力源です。あの小柄な身体であれほどの出力を出すには相応のものが必要でしょう」
「それはスキャンデータを見てもらった方が早いかな」
彼女はパソコンを操作して大画面にスキャンした映像を表示します。人工筋肉、フレームの骨、消化器官などの内臓、人体に似せた造りですね。唯一異なるのは脳に相当する頭部と心臓に相当する動力源ですか。
「超小型のモーメント……」
間違いない。これは我々の世界の技術です。
それも私達人間のではなくモーメント側の技術、それも《機皇》に使われていた代物に違いありませんでした。
「《機皇》?」
「分かりやすく言うと勇者の時代から数百年後に現れた機械軍団の総称です。目的は全人類を抹殺することによる世界の浄化」
「ぜ、全人類の抹殺!?」
付き添いで来ていたモモイが驚きの声をあげました。彼女が真っ先にリアクションしただけで他の子達も似通った反応を見せています。当のアリス本人はまだきょとんとしているようでしたが。
「ミレニアムが開発したモーメントはデュエルディスクやDホイールを始めとして様々な電気製品、設備に使われるようになっています。アリスの動力源もまたモーメントですが、出力と効率性が圧倒的に違います。おそらくアリス一人だけで余裕でミレニアム全体を支えられるでしょう」
「それって凄すぎない? モーメントって単なるバッテリーとか発電機だけじゃなくてスパコンとしても使えるよね」
「さすがに演算能力は頭部のモーメントが担っているようです。ただ一つ、現在のキヴォトスでは到底到達しえない科学技術で作られたのがアリス、ということです」
「超古代文明の傑作、はたまたは地球外の高度文明の贈り物……想像の幅が広がるね」
そしてこの技術は私にも成しえません。機皇の軍隊で世界を蹂躙している最中に開発を進めたモーメントはロールアウトさせる前に破滅的な逆回転による自爆を決行しましたからね。
何故この技術がキヴォトスに流れ、しかも技術が流用されてから相当の年月が経っているようなのかは分かりませんが、モーメントで動力源と頭脳が構成されている構造自体は決して悪ではありません。
「分かりました。ありがとうございます」
「先生。その、アリスに危険性は……?」
「ありませんよ。プログラムが初期化……いえ、記憶喪失状態なのでスペックを持て余している、とでも頭の片隅に留めていればいいでしょう」
「そうなの? 良かったぁぁ」
モモイ達は私の説明を受けて安堵して胸を撫で下ろしました。
私はそんなやり取りを見つめつつ、考察もし続けます。
一都市はおろか国一つを統括しうる演算能力と出力を兼ね備えたスペック。それが《機皇帝》のような一兵器の新型だったとはとても思えません。そして《機皇》共にとっての切り札だったアレとも違うでしょう。
アリスの役目は言わば統制者。
さながら女王……外見年齢を考慮すれば王女と言ったところですか。
◇美甘ネル
使用デッキは【スピードロイド】
エースモンスターは3種類の「クリアウィング」シンクロモンスター。
切り札は《HSRカイドレイク》。
この話時点ではまだ《クリアクリスタルウィング》のシンクロ召喚は出来ない。
ご意見、ご感想お待ちしています。