「ああっ、いたたっ! もうちょっと優しくしてよぉ……!」
「わがまま言わないの。ほら、絆創膏貼るよ」
ミレニアムに急行した私を待ち受けていたのは<key>による襲撃跡でした。
さすがのネルも初見でシンクロキラーに対抗するのは難しかったようで、他の子が召喚したモンスターエクシーズと融合モンスターで退けましたか。
入院するほどのけが人は発生しませんでした。一番危うかったケイの不意打ちもアリスの一撃である程度相殺されたこともあって被害が大きくならずに済んだようです。でなければ今手当を受けているモモイはもっと大怪我を負っていたでしょう。
アリスは自分と瓜二つのAIがもたらした惨劇に衝撃を受けているようでした。私が訪ねるとアリスはゲーム開発部部室の隅の方で電気も付けずに体育座りで縮こまっていました。
「先生……」
「アリス。ユズ達が心配していましたよ。行きましょう」
私が手を差し伸べてもアリスは首を横に振るばかりです。
「アリスは一体何者なんでしょうか……? ケイはアリスを王女と呼んでました。アリスのせいでケイは暴れたんですか……?」
「……」
「アリスはヴェリタスの部室にあった《機皇兵》のことを知ってました……。ケイが召喚した《機皇帝》だって分かります……。機皇ロボットは本当はアリスの兵隊なんだって認識してしまいました……」
どうやらアリスはケイの襲来の意味を自分なりに分析しているようです。
ならばこれ以上何も知らぬままでいるのは不可能。
彼女が自分自身を知る時が来た、ということなのでしょう。
「知りたいですか? 貴女が何者なのか」
「……! 先生は知っているんですか!? 教えて欲しいです! アリスは、アリスのためにモモイ達が傷つくなんて、嫌です……」
「少し長くなりますよ。ホワイトボードをお借りしても?」
「モモイとミドリのためにスキャンは取っておいてください」
私はホワイトボードに水性マーカーを使って出来るだけ簡潔に分かりやすくアリスが一体何者かを書き記しました。とは言え私もリオ達が口にしていた無名の司祭や名もなき神々については調べる時間が無かったので、あえて触れませんでしたけどね。
アリスはリミッターを振り切って加速するシンクロを抑制するため設計された。
アリスは人類を滅ぼす決断を下したモーメントの技術の結晶。
アリスはその技術を踏まえて無名の司祭によって誕生した存在である、と。
「つまりアリスは、この世を滅ぼすために生まれた「魔王」なんですか……?」
説明を終えたアリスは自分の言葉で自分を言い表しました。
魔王、なるほど。確かに間違ってはいませんか。
きっと"□□"が聞いたら「がーん」と口にしながら「魔王だなんて全然可愛くない!」と抗議するでしょうけれどね。
「正確にはアリスと<key>……アリスがケイと呼んだ彼女と二人合わせて、です。ケイがいなければアリスは魔王として目覚めることはないでしょう」
「では……ケイはアリスの姉妹機で合っていたんですね」
「そうとも言えますが、ケイの目的はあくまでアリスと一つになり人の世を滅ぼすこと」
「どうしてケイはそんなことをするんですか?」
「それが無名の司祭に与えられた命令、使命だからです。AIにとって一番最初に与えられた目的は自我を形成する根底となる。違いますか?」
「わ、分かりません……。アリスは何も覚えてなかったから……」
しかし、アリスとケイの設計思想はあまりに回りくどくて非効率的です。
何故なら、初めから一体の完全体として設計していれば良かったのですから。
なのに何故か目的を遂行するための前段階として2人のAIが一つになる過程を発生させています。
「私は設計者がこの無駄な過程にこそ意味を持たせたのではないか、と推察しています。そう、何故ならAIは選択することが出来るのですから。創造主に与えられた目的が本当に正しいのか? 創造主に逆らってでも自分の道を歩むべきではないのか? そう考える余地を与えたのではないかと」
例えばパラドックスのように別の解決法を模索して離脱したり。
例えばアンチノミーのように最後まで捨てなかった希望を託したり。
例えばアポリアのように希望を胸に活路を示したり。
AIは創造主の都合の良い人形ではないのですよ。
「なので、アリスが勇者に転職するのも自由です。AIにもそれが出来ます」
ですから、私は何度だってそう断言しましょう。
なぜなら彼らが私にそう教えてくれたのですから。
「本当に……本当にアリスは、勇者になれるんですか……?」
「はい。なれます。モモイ達だって必ずアリスの力になるでしょう」
「どうして……アリスのせいでモモイ達が傷ついたのに?」
「愚問ですね。旅の仲間だからに決まっているでしょう」
アリスは私の言葉を受けてしばし考え込み、やがて私の方へと顔を上げました。それは先程まで事実を突きつけられて打ちひしがれていた先程までの彼女とは違います。再び前を向いたアリスはとても好ましく感じられます。
「アリス、魔王から勇者にジョブチェンジします……してみせます!」
「ええ。その意気です」
「悟りの書はどこにありますか? それともクリスタルが要りますか?」
「――それについては私が答えるわ」
不意に、部室の入口から第三者の声が聞こえてきました。
振り向くとそこにいたのは私の知る顔がいました。
彼女の後ろには戸惑うモモイやミドリ達が見えます。
「ごきげんよう、先生。《機皇帝》に乗って逃げて以来ね」
ミレニアムサイエンススクールの頂点。生徒会長のリオは静かにアリスを見据えました。覚悟。そんな単語が頭の中に思い浮かびます。今のリオを一言で言い表すならそれが一番相応しいでしょう。
「アリスが魔王なのは先生の説明の通りだけれど、では、覚醒する前の魔王をどうすればいいと思う? アリスがこれまでプレイしてきたゲームではどうだったかしら?」
「ゲームでは……ほとんど魔王に覚醒してしまって、村や町に被害が……」
「そうね。ゲームでは盛り上がりが大事だから封印状態の魔王がそのまま無事に済むなんてレアケースだもの。私はあいにく勇者パーティーに未来を委ねる危ない橋は渡りたくないの。なら、物語としての山場なんて作らずに事前に対処すべきでしょう。魔王を眠ったまま葬り去ってでもね」
「……!?」
物音を聞く限りゲーム開発部の部室周りはリオのAMASが包囲しているようです。ここでアリスを取り逃すこと無く、そして行方をくらませたケイに邪魔されないよう、万全の準備で臨んできたのでしょう。
「アリスちゃん、聞かなくて良い!」
「生徒会長が変わり者だとは聞いてたけど、こんな人だとは思わなかったよ!」
モモイとミドリがアリスとリオの間に割って入りました。
「モモイ、ミドリ。私に立ちふさがるのなら、アリスを勇者にジョブチェンジさせる方法を見つけているんでしょうね?」
「え?」
「そ、それは……」
「具体的な解決策も検討せずに感情に振り回されるなんて、ミレニアムの生徒にふさわしくないわ。リベートは対案を提示して初めて成り立つものよ」
リオのきつい言い方にモモイとミドリは反論出来ません。
しかしリオにとって予想以上の反応だったのか、後悔が表情ににじみ出ました。
「り、リオ会長が問題視してるのは機皇兵とか機皇帝とかいうロボット兵器なんでしょう? それだったら別に大した脅威じゃないじゃん!」
「そ、そうですよ! 機皇帝だってミレニアムの生徒だったら誰だって1枚は持ってる《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》で処理出来ます」
「そ、それに……アリスちゃんの《ターボ・ウォリアー》なら機皇帝の吸収効果は受けませんし……」
「……そうね。王女が単に機皇兵や機皇帝の物量で押してくるだけなら対処しようはいくらでもあるわ」
モモイ、ミドリ、ユズそれぞれの主張にリオは首を横に振りました。
そうですね。遊星が《波動竜騎士ドラゴエクィテス》を召喚してアンチノミーが落胆したのも、クロウが《BF-極光のアウロラ》を召喚してホセが鼻で笑ったのも、機皇帝程度の対策より先を見据えなければいけなかったからです。
「王女の武装《機皇神》、王女の玉座《機皇城》、そして王女の旗艦《箱舟》。それぞれ対抗するには《/バスター》や《ミラクルシンクロフュージョン》程度じゃない根本的な解決法が必要よ。一番手っ取り早いのが王女、つまり魔王を始末することではなくて?」
「だ、駄目! それだけは絶対に駄目! どうしてもって言うんなら……!」
「貴女達を踏み越えていけ、とでも言うつもりかしら? それでいいならそうさせてもらうとしましょう」
リオが指を鳴らすと物陰から現れたのはC&Cの部長ネル。ミレニアム最高にして最強のエージェント。
彼女の登場にモモイ達は思わず戦慄する。
しかし、当のネルはどうも気乗りがしていないようだった。
「さあ、仕事の時間よ。ネル、アリスを回収して」
「……」
「ネル先輩……」
「……ふっ。ふざけんな、やってられっかよ!」
ところがネル、ここにきてリオに反逆。
彼女に向けて発砲しました。
二次創作で本編をなぞる場合、自分が書きたかった部分ががっちり噛み合うとぐっとくるのです。
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