ネルの攻撃は自動防衛機能を働かせたAMASに阻まれます。
それでもネルは息を荒げながらアリスに背を向けてリオと対峙しました。
「もう、てめぇに付き合う義理はねぇよ――リオ!」
「ネル……ここで裏切るつもりなの?」
「裏切る? はっ、てめえの指示が今度という今度こそ我慢ならなくなっただけだ」
「……。そう」
ネルが寝返って一転して窮地に陥ったはずのリオでしたが、彼女はそれでも落ち着いたままでした。
「ネル、貴女はいつもそう。だから、こうなることも想定の範囲内よ」
「あぁ? 何だって?」
「トキ、出番よ。状況開始なさい」
「――イエス、マム」
それは突然の奇襲でした。
音を立てずに接近しての背後からの攻撃、しかしリオは野生の勘とも言うべき反応を見せて反撃。結果、双方特にダメージを負わずに対処します。
リオと対峙するのはメイド服を来た細身の生徒。彼女もまたC&C部員ですか。
「お初にお目にかかります、先輩。コールサインゼロフォー、トキといいます」
「はっ。こっちの自己紹介は不要みてぇだな。なら、ごたくは要らねぇよな!」
あいにく私はバトルは専門外なのであくまで目で追えた範囲の理解になりますが、リオがトキと呼んだ彼女が狭い屋内を縦横無尽に動き回って撹乱、トリッキーな動きにネルが追いきれずに背後に回られ、組み伏せられました。
しかしその間ネルもただ翻弄されただけではなくシンクロ召喚を完了しており、トキめがけて《HSR魔剣ダーマ》を突貫させます。トキは特にデュエルディスクを操作していなかったのでこれで形勢逆転、かと思われましたが……、
「もらった!」
「私はあらかじめ魔法&罠ゾーンにセットしていた《重騎兵エメトⅥ》と《重騎士プリメラ》を自己蘇生し、やはりあらかじめ発動していたフィールド魔法《スタンドアップ・センチュリオン!》の効果を発動します」
突然《HSR魔剣ダーマ》を阻むように場に現れた1体の騎士と1体の武装兵器。しかしそれだけではありません。2体のモンスターはそれぞれ星の光と輪になったではありませんか。
「レベル8《重騎兵エメトⅥ》にレベル4《重騎士プリメラ》をチューニング。シンクロ召喚」
トキが召喚したシンクロモンスターが《HSR魔剣ダーマ》を一撃で粉砕。ひしゃげた《HSR魔剣ダーマ》が爆発四散します。
「レベル12、《騎士皇レガーティア》。ただいま参上です」
その姿、鋼の巨人、鋼鉄の騎士、魔導騎兵はどこまでも勇ましく、頼もしく。
「レベル12のシンクロモンスター、だぁ……? なんでそんな簡単に超大型シンクロモンスターが召喚出来るんだよ……!」
「【センチュリオン】は私が開発した超大型シンクロモンスターの召喚に秀でた次世代のシンクロデッキよ。いくらネルの《クリアウィング》でも敵ではないわ」
「ぐっ……!」
「無理に動こうとしないでください。関節が曲がってはいけない方向に曲がります」
勝敗は決しました。ネルはトキに歯が立たずに鎮圧されてしまいます。
これでリオの行く手を阻む者はゲーム開発部以外いなくなり、ロボット兵器AMASが囲っている状況下では無力化もそう難しくないでしょう。現にネルを無力化したためかAMASが段々とアリスとの距離を縮めていきます。
「違う……違うよ!」
そんなアリスをかばうようにミドリが、そしてモモイが立ち塞がります。
「アリスちゃんは兵器なんかじゃない!」
「そうだよ! アリスは絶対に魔王なんかにならない。だってアリスは勇者になるんだから!」
「さっきも言ったけれど、なら魔王から勇者へどう転職するの? 勇者になる前に魔王に覚醒しないという保証は?」
「だ、大丈夫! ケイに近寄らせなければずっとこのままだから!」
「……。そうね」
このまま強硬策に出るかと思いきや、リオは一旦AMAS全機を後退させました。
「このまま言葉を重ねたって話は平行線のまま。無理にアリスを連れて行っても良いけれど、貴女達は納得しないのでしょう?」
「あ、当たり前だよ!」
「なら、ミレニアムの生徒らしくライディングデュエルで決めましょう」
リオがポケットから取り出したのはデュエルモンスターズのデッキでした。
「私が勝ったらアリスを連れて行く。私が負けたらアリスを諦めてアリスを認める。これでいいかしら?」
「わ、分かった。そのデュエル、受けて立つんだから!」
「ならすぐにDホイールの準備をしなさい。私は先にライディングデュエルの申請を済ませるわ」
リオは踵を返すと足早にゲーム開発部の部室を後にしました。しかし残されたアリス達が逃げ出さないようAMASは撤収させず、その照準はこちらへ向いたままです。
「モモイ……」
「大丈夫だよアリス。会長が相手だってちょちょいのちょいなんだから!」
「その自信はどっから来るのよ……」
モモイとミドリのDホイールは二人乗りのバキーカー。対するリオのDホイールはレース用バイクでした。双方スタート位置までDホイールを走らせた頃にはどこからかライディングデュエルの情報が漏れたらしく、コースの左右に見物人が集まりだしています。
私はアリス、ユズ、ネル、そしてトキと共に見守ります。ネルは先ほどトキに負けたせいかどことなく不機嫌そうに椅子にもたれかかり、アリスは拳に力がこもりながらもデュエルの行方から視線を外しません。
「「ライディングデュエル・アクセラレーション!」」
両者はスタートと同時にDホイールを疾走させます。
モモイ達のバギーが必死に食らいつきますが、リオのバイクの方が早いです。
そして順位は覆ることなく第一コーナーへ。リオの先攻が確定しました。
「私の先攻」
手札を確認したリオは一瞬だけ固まりました。
それからじっくりと手札を確認し、モモイに視線を投げかけます。
「モモイ。手札誘発のカードは手札に来たかしら? 《うらら》や《G》のような」
「え? う、ううん。来てない……」
「なら、少しばかりソリティアさせてもらうわ」
ソリティア。一人トランプの遊び方の一つですが、デュエルモンスターズにおいては一方的に連続してプレイすることを指します。どうやらリオはよほど手札に恵まれたようです。
「まずは《TGサイバー・マジシャン》を通常召喚。次に手札のモンスターを《TGドリル・フィッシュ》、《TGワーウルフ》、《TGギア・ゾンビ》の順に特殊召喚するわ」
初手からリオは4体の下級モンスターをフィールドに並べました。
TG……TGですって?
アンチノミーが使ったデッキ。
まさかリオが【TG】デッキの使い手とは……いえ、そう不思議でもありませんか。
アクセルシンクロを研究してきたリオが選定するテーマは限られますからね。
「そして《TGサイバー・マジシャン》の効果で手札の《TGラッシュ・ライノ》を素材にシンクロ召喚を行う。レベル4《TGラッシュ・ライノ》にレベル1《TGサイバー・マジシャン》をチューニング。シンクロ召喚、承認。レベル5《TGハイパー・ライブラリアン》」
「レベル1《TGドリル・フィッシュ》にレベル1《TGギア・ゾンビ》をチューニング。シンクロ召喚、承認。レベル2シンクロチューナー《TGマイティ・ストライカー》」
「《TGハイパー・ライブラリアン》の効果で1枚ドロー。《TGマイティ・ストライカー》の効果を発動し、デッキから《TG》魔法・罠カード1枚を手札に」
「レベル3《TGワーウルフ》にレベル2《TGマイティ・ストライカー》をチューニング。シンクロ召喚、承認。レベル5《TGオーバー・ドラグナー》」
「1枚ドロー。シンクロ召喚に成功したので《TGオーバー・ドラグナー》の効果発動。墓地の《TGサイバー・マジシャン》、《TGラッシュ・ライノ》を守備表示で特殊召喚」
「……いけそうね。手札の《TGブースター・ラプトル》を特殊召喚」
「現われろ、未来を導くサーキット。アローヘッド確認、召喚条件は「TG」チューナーを含む効果モンスター2体以上。私は《TGサイバー・マジシャン》、《TGラッシュ・ライノ》、《TGブースター・ラプトル》をリンクマーカーにセット、サーキットコンバイン。リンク召喚、承認。リンク3《TGトライデント・ランチャー》」
「《TGトライデント・ランチャー》の効果でデッキ・手札・墓地より《TGカタパルト・ドラゴン》、《TGストライカー》、《TGワーウルフ》を特殊召喚」
「レベル3《TGワーウルフ》にレベル2《TGストライカー》をチューニング。シンクロ召喚、承認。レベル5《TGワンダー・マジシャン》」
「1枚ドロー。《TGワンダー・マジシャン》の効果は魔法・罠ゾーンに1枚も無いので不発よ。《TGカタパルト・ドラゴン》の効果で手札の《TGジェット・ファルコン》を特殊召喚」
「レベル2《TGカタパルト・ドラゴン》にレベル3《TGジェット・ファルコン》をチューニング。シンクロ召喚、承認。レベル5《TGスター・ガーディアン》」
「1枚ドロー。《TGスター・ガーディアン》の効果で墓地の《TGワーウルフ》を回収。特殊召喚の効果は使わないわ。シンクロ素材になった《TGジェット・ファルコン》の効果で相手ライフに500ポイントのダメージを与える」
「2枚伏せてターンエンド。さあ、モモイのターンよ」
結果、リオのフィールドには伏せカード2枚、リンクモンスター1体、そしてレベル5シンクロモンスターが4体並びました。
この盤面で返されたことと怒涛のソリティアを受けてモモイとミドリは明らかに動揺を隠せていません。
◇飛鳥馬トキ
使用デッキは【センチュリオン】
エースモンスター兼切り札は《騎士皇レガーティア》
シンクロに秀でたミレニアムでもこれほどレベル12シンクロモンスターを簡単に出せるデッキは無い。まさに次世代のデッキ。
◇調月リオ
使用デッキは【TG(テックジーナス)】
エースモンスター兼切り札は《TG■■■■・■■■■》
元々は別のデッキを使っていたが、アクセルシンクロの研究にはこのテーマが最も合理的だと判断して使っている。
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