シャーレに赴任してから少し経ちました。
基本的に"先生"と私の業務は事務仕事が半分以上、あとはキヴォトスの生徒達とコミュニケーションを取り、相談があれば親身になって解決に導くことです。超法規的機関と言われたので問題が発生すれば直ちに出動するのかと思いきや、騒動が日常茶飯事なキヴォトスにおいては各自治区が請け負っているようですね。
それにしても事務仕事が多いですね。もし"先生"だけだったら連日徹夜になるのではないかと思われる物量で、私も加わって処理しても残業が欠かせません。それに休日出勤がザラになりそうな手応えでした。そのため流石に連邦生徒会に抗議したのですが……。
「七神リン首席行政官」
「リン、で構いません。それで、何でしょうか?」
「人手に対して仕事の物量が多いように思えます。事務員を何名か雇えないのですか?」
「申し訳ありませんが連邦生徒会長がシャーレへの赴任を認めたのはZ-ONE先生方お二人だけです。連邦生徒会長が行方不明となっている現状、これ以上シャーレの人員を我々の勝手な判断で増やすわけにはいかないのです」
「労働は美徳、という考え方もあるでしょうが、それではいつか心身ともに限界が来てしまいますよ。生徒の力になれなくなっては意味がありません」
「では補助役として先生方一人に一人ずつキヴォトス内の生徒を当番に回すように致しましょう。元々は連邦生徒会長がお一人でこなしていた業務量です。四馬力なら充分でしょう」
「……分かりました。しばらくはそれで様子を見ることにしましょう」
といった次第で生徒がお手伝い当番としてやって来るようになりました。移動にもかなりの時間がかかる学校から来る生徒もいるようですが、当面の間は日替わり当番で回してみて問題があるようなら数日起きにしよう、となりました。
とはいえ突然新組織に当番に行けと言われる生徒も戸惑うばかりでしょうから、まずはシャーレオフィスビル奪還の際に世話になった四名の生徒で当番を回し、問題が無ければ日替わりで各校より派遣してもらうこととなりました。
◇◇◇
「神のカード、ですか?」
その日はゲヘナのチナツとトリニティのハスミが当番でした。
休憩時間中に質問を投げかけたのは"先生"です。
神、というと私も幾つか具体例は思い浮かびますが、どうやら"先生"やチナツ、ハスミ達の捉え方も同じだったようです。
「神と例えられる大型モンスターはキヴォトスにも存在してます。何でしたらシンクロ召喚やエクシーズ召喚はそういった強力な大型モンスターへの対抗策として考案された召喚法です」
「シンクロやエクシーズがなかった時代は最上級レベルの大型モンスターや強力な融合モンスターが幅を利かせていましたね」
リンが私達に渡そうとしていた【堕天使】や【ヴェノミナーガ】はそういった大型モンスターを駆使して戦うテーマのデッキですし、私の【時械神】もエクストラデッキに頼らない点ではその分類に入るでしょう。
「ですが、そうですね……。モンスターと呼ぶのも恐れ多いほど強力な神秘を持つ存在を神と定義するのなら、あります」
"え、本当? 例えばどんな?"
「それは私達が口で説明するより実際のデュエルをアーカイブに残ってる動画で見た方が実感として分かります。一つ言えるのは、神を従えた傑人はその大半が生徒会長や委員長など学校を代表する立場に立っていた、ということです」
「二年前のアビドス、ゲヘナ、トリニティの三強時代は本当に酷かった、と先輩方が口を揃えて断言するほどですから」
二年前、アビドス、ゲヘナ、トリニティ、と。
その情報は今後に活用できそうなのでメモを取りますか。
こういった雑談の中に有益な情報が潜んでいるものですからね。
「神のカードで思い出しました。先生方に必ず注意していただきたい点があります」
そう言ってチナツは一枚のカードを取り出して私達に見せました。
それは私の世界では遊城十代の時代に蘇った神に匹敵する力を持つカード。
その名も三幻魔。その一角である《降雷皇ハモン》でした。
しかし……カードテキストに記される効果は私の知るものと異なりますね。
カード効果への耐性が一切ありませんから。
この程度でしたら対処法はいくらでも思い浮かびますね。
これを読んだ"先生"は「あ、OCG効果なんだ」と感想を述べていました。
「この《降雷皇ハモン》。今となっては召喚コストが重い割に単体性能はイマイチ、つまり時代遅れのモンスターです。ですが、デュエリストによってはカードテキストに記される以外の効果を発動してくる場合もあります」
"え? それってまさか、罠の効果を受け付けなくて、魔法・効果モンスターの効果は発動ターンのみ有効になるって、効果耐性?"
「……! よくご存知ですね。そのとおりです。よほどモンスターの神秘と相性がいいのでしょう」
「カードの神秘をテキスト以上に引き出してくる生徒がいるかもしれない、ということを覚えておいて下さい」
その忠告は胸に留めておきましょう。
シャーレの先生という立場上、各校の上に立つ生徒との関わりは必ず生じます。
衝突することだってあるでしょう。なら、神と対峙する可能性もゼロではない。
己のデッキを万全に調整すべし、という教訓として受け止めます。
◇◇◇
「各学校の生徒が使うデッキテーマの傾向に違いはあるのか、ですか」
その日の当番はトリニティのスズミとミレニアムのユウカでした。
勿論業務をおろそかにするわけにもいかないので、このような会話は休憩時間中にしか出来ませんがね。
「みんなバラバラですよ。強いて言うならゲヘナの生徒が悪魔族、トリニティが天使族、ミレニアムが機械族を選ぶ割合が多いですね」
「あと、ミレニアムの生徒はシンクロ召喚やリンク召喚するデッキに偏ってますね。ミレニアムが開発したんだって自負がありますから」
「トリニティやゲヘナも最近はエクストラデッキを活用する生徒が多いですよ。ですがメインデッキを主軸にする生徒も依然として少なくありません」
あとレッドウィンターや百鬼夜行といった学校は種族や召喚法ではなくテーマに沿ったデッキを組む生徒が多いようです。中には自分にはこれしかないと運命の出会いをしたカードを主軸にデッキを組む生徒もいるそうな。
"じゃあさ、融合とかエクシーズとかって先にはもう行ってるの?"
「先、ですか?」
"ほら、融合ならコンタクト融合とか超融合みたいに融合カードが必要ない融合とか、エクシーズならランクアップみたいな"
「あぁ、ありますよ。ただ、使える生徒はキヴォトスでもあまりいません」
"どうして? 《超融合》とか《RUM》のカードは一般流通してるんでしょう?"
「どうしてか効果を発動出来ない生徒が少なくないんですよ。テーブルの上で紙のデッキだけでデュエルするなら大丈夫なんですけれど、ソリッドビジョンが入るとどういうわけか不発に終わる生徒が続出するんです」
これはつまり、一般的な特殊召喚方法を超えるべく一工夫しようとしたらデュエリストとしての腕を磨かなければいけないのですね。さすがに一般的なデュエリストがそう安々と超融合を使ってこられても困りますがね。
と、ここまでは他愛ない雑談でしたが、ユウカが何か思い詰めたような、そして真剣な面持ちをして私へと顔を向けました。"先生"を含めてではなく、明らかに私一人に何か答えを求めるようでした。
「Z-ONE先生に聞きたいことが。……シンクロにも先はありますか?」
その質問があまりに意外だったものですから、私は思わず驚きました。
「それは単純にシンクロモンスターにチューナーモンスターをチューニングしてよりレベルの高いシンクロモンスターを召喚する、といった単純なレベルアップではなくて、ですね?」
「はい。シンクロ召喚にも超融合とかRUMみたいに先があるのは間違いなさそうなんですけど、現在ミレニアムではその研究に行き詰ってるんです」
「そうですか……」
そして改めて質問の意図、動機を推察し……ユウカが選択を悩むのも納得いきました。既にキヴォトスではただのシンクロ召喚に限界が来ているのですね。
「簡単でいいのでどの辺りまで研究が進んでいるか伺っても?」
「2つの案が提唱されていまして、シンクロモンスターへのチューナー2体でのチューニング、それからシンクロモンスター同士のシンクロですね。それぞれダブルチューニング、アクセルシンクロと仮称してます。特にアクセルシンクロはシンクロチューナーの開発までは完了してるのに、デュエル中もそれ以外も通常のシンクロ召喚にしかならないんです」
そして既存のシンクロ召喚を発展させた召喚法の道筋も見えている、と。
「それで、解決のめどは立っているのですか?」
「ダブルチューニング、アクセルシンクロ。どちらも成功させるには何らかの要素が足りていない、とまでは判明してます。リオ会長の……あ、うちの生徒会長なんですけど、会長はデュエルディスクに搭載した小型モーメントを普段より更に加速させないと駄目だって仮説を立ててます」
「そこまで解明出来ているのでしたら私からの助言は不要でしょう。助言が必要でしたらあと一歩ですよと伝えてください」
「それが、リオ会長は進化したシンクロ召喚を成功させるモーメントの加速には精神的な解決法が必要だって主張してるんですよ。あのリオ会長の提唱ですから間違っているだろうともみんな言い切れなくて……」
そこまで到達していながら足踏みしているのは先駆者がいないためでしょう。模索の日々で段々と仮説が正しいかが不安になってきた、辺りですか。私も研究者ですからその気持ちは十分に分かります。
「一つ質問しますが、ミレニアム製のデュエルディスクはモーメント動力炉を採用しているのですね?」
「はい」
「モーメントのエネルギー源は遊星粒子。この物質は人の心、想いを読み取って性質やパワーを変える生きたエネルギーです。なので気合、根性といった精神論でモーメントの加速具合は変わるのは事実です。問題はその加速のさせ方ですが、そのリオは何と言っているのですか?」
「え、と。確かダブルチューニングは心を燃やして感情を昂らせないと、アクセルシンクロは"透き通った世界"が見えるようにならないと駄目、と論文では締めくくってました」
「……素晴らしい」
私は思わず感嘆の言葉を口から出していました。
どうも興奮気味だったのか、ユウカのみならずスズミや"先生"までこちらの方を見ているではありませんか。
一旦咳払いして間を取り、私は再びユウカを見据えました。
「もう答えは出ているようなものです。私から言うことは何もありません。そのまま走れば必ず境地に到達します」
「境地……! やはり先生が来たところにはシンクロの先があったんですね!?」
「あります」
「あの、差支えが無ければ見せてもらうことは可能ですか?」
「機会があった時に」
その日、ユウカはきちんと仕事をこなしてくれましたが、どことなく興奮冷めやらない様子でした。どうやらミレニアムでは私が予想した以上にシンクロ召喚に対して向き合っているのでしょう。
ヲ―はキヴォトスでも一般に出回ってますが、原作版ラーの翼神竜として召喚できる生徒はキヴォトスでもたった一人です。
降雷皇ハモンもGX版で召喚出来る生徒はたった一人です。
それだけ原作・アニメ効果の発動は厳しいのです。
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