◆三人称視点◆
ミレニアム自治区郊外、廃墟。
機皇帝グランエルを破壊されたケイは王女奪還のために戦力を補充すべくここを訪れていた。ヴェリタスの部室に持ち込まれた機皇兵のようにまだ見つかっていない王女の兵隊が眠っている可能性が高いためだ。
それにしても、とケイは己のデータが収まったZ-ONEのデュエルディスクを見つめる。現在ケイの身体はこのデュエルディスクがリアルソリッドビジョンで常時投影したもの。無線機能を破壊されている上に有線接続でのデータ移行も出来ない。言わばケイはこのデュエルディスクという牢獄に閉じ込められた状態だった。
そこまではまだ理解出来る。しかしそこまでしておいてデュエルディスクのソリッドビジョン機能まで破壊しなかったのは明らかに片手落ちだ。しかもご丁寧にデュエルディスクには【機皇】のデッキまで入っている始末。味方ではないのは明らかだが明らかにお膳立てされている。
ケイの記録にはかつてZ-ONEのやってきた世界でモーメントが人類抹殺のため世界中に機皇帝を送り込んだ際、数名のデュエリストがクリアマインドを駆使して鎮めようとした試みが残っている。Z-ONEの姿は明らかにそのうちの一人、数世紀前の英雄である不動遊星そのままだ。
ケイが記録する最後はモーメントが王女を稼働させずに機皇神も制作せず、人類もろとも自爆する決断を下したところ。あの後不動遊星の姿をした今Z-ONEを名乗るデュエリストがどうなったかは把握してないが、【機皇】デッキを組めるほどに機皇を解析したのなら、一体あれからどれほどの年月を経ているのだろうか?
「Z-ONE、貴方は……本当にAIにも可能性が、奇跡があると信じているのですか?」
しかし<key>の使命は名もなき神々の王女を覚醒させること。
それは止めないし止められない。
止められるものなら止めてみるがいい。
ケイは廃墟で見つけた王女の武装を起動させる。
向かう先は王女を隔離する要塞都市エリドゥ。
ここで残る機皇ロボットを全て費やしてでも使命は果たす。
「王女……今から迎えに参ります」
ここに、リオ、モモイ達、ケイによる三つ巴の戦い、開幕。
◇◇◇
「出来たよ。シンクロチューナー2体。でも試験はしてないからぶっつけ本番になるけど、いい?」
「お、サンキュー」
「こっちも出来たよ。シンクロチューナー2体」
「ありがとう。早速使ってみるよ」
一夜明けた早朝、ヴェリタスおよびエンジニア部は無事にシンクロチューナーの開発に成功しました。既にエリドゥへの侵入方法は固まっており、あとはアリスを迎えに行くだけです。
「セミナーは全員シンクロチューナー持ちなんでしょう? 実際に開発してみて思い知ったけれど、リオ会長の開発力を改めて思い知らされたね」
「なのにアリスのヘイローを破壊するなんて最終手段に踏み切ったんだから、きっと私たちの想像を絶する苦悩があったんだろうね。だからって許されないけれど」
「それで、先生はC&Cに同行して正面突破を? それともゲーム開発部と一緒に?」
「迂闊に別行動してリオの注意が散漫になりケイに突破されては意味がありませんので、ゲーム開発部に引率して大人しくしますよ」
そうして作戦が開始され、私達はエリドゥへの侵入に成功します。
城塞都市エリドゥはその名に相応しく大規模に開発された都市でしたが、今はまだ作業用ロボットが徘徊するだけの無人の摩天楼。それがまるでリオのたった一人でもキヴォトスを守ろうとする決意の表れに見えました。
「予想はしてたけれど……本当に一日も待てずにここまで来たのね」
地下を通って地上へと出た私達がアリスのいる中央タワーへと向かおうとしたその時、突然ヴェリタスとの通信が妨害されます。変わってこちらへ通信を入れてきたのはリオでした。
「それで、私の課題は出来たかしら? クリアマインドかもう一つの境地、私の前で発表して頂戴」
「勿論! だから私は会長の元からアリスを連れ戻すよ!」
「お姉ちゃん……」
「モモイ……」
リオの問いかけにモモイは自信たっぷりに答えました。シンクロチューナーを受け取ってすぐにこっちに来たのでデッキ調整もろくに出来ていませんが、彼女にはアクセルシンクロを成し遂げられる確信があるのでしょうか?
「そう。だからと言って素直に通せないわ。――アバンギャルド君、発進」
リオの指令を受けて現れたマシンは前衛的なデザインをしていました。
機皇帝グランエルと同じくタンク型の下半身。上半身は人型。腕は四本で武装はシールド、バズーカ砲、ガトリングガン、アサルトライフル。極めつけは頭部で、〔目皿目〕のような顔をしていました。
エンジニアであるなら誰でも分かりますが、金属板を曲面にする加工はとても難しいです。それなら平板を溶接で結合させる多面体構造にするか、鋳造で形成にするかです。ボディや腕などはそうした美しい曲線を描いたデザインをしています。
なのに〔目皿目〕の顔がもたらすアンバランスさはAMASのような兵器としての機能美を遥かに超える個性をもたらしています。個体名も相成って目の前の秘密兵器が唯一無二であり相手に強烈な印象を与える存在になっているのです。
「いいデザインをしていますね」
なので、総合評価は私が口にしたとおりです。
……なんですかモモイとミドリ。
そんな信じられないものを見た視線をして。
そっちのエンジニア部三人。同調するように唖然とするのは如何なものですか。
「え? え? 先生、何言ってるの! あれダサいじゃん!」
「確かに。あんまり可愛いデザインじゃないけれど……」
「ダサい、可愛くない、はいいデザインと両立しますよ。あの個性は中々頭から離れないでしょう。アバンギャルド君にやられた相手を想像してみて下さい」
「……凄く嫌だし悔しがりそう」
「あれが量産機でしたら話は違いますがワンオフ機ならではの理にかなったデザインと私は評価します」
と説明しますがゲーム開発部一同もエンジニア部三名も納得いってない様子。
一方ソリッドビジョンで自分の姿を投影するリオはどことなく嬉しそうでした。
言わないでおきますが、ダサい可愛くないは否定していませんからね。
「そう。評価してもらえるのは嬉しいけれど、批評会はまた今度にしましょう」
アバンギャルド君が我々を取り囲むように距離を縮めるAMASと共に動き始めました。勿論モモイ達は突破を試みたのですが……アバンギャルド君の予想以上の強さに太刀打ちできず、逆に包囲されてしまいます。
どうやらリオが決戦兵器と位置づけるだけあって戦闘能力も並外れています。デュエルモンスターズでの攻撃力に置き換えれば3,000~4,000ほどでしょうか。加えて3本の腕での連続攻撃とシールドでの攻撃無効効果持ち。殺意マシマシですね。
「何アレ!? 無茶苦茶強いじゃん……!」
「このままじゃ本当に危ないかも」
「危機一髪って感じだね」
自力では敵わないと判断したモモイがデュエルディスクを展開、素早く手札をドローしてモンスターを展開し始めます。
「戦って駄目なら効果破壊すればいいんだよ! 《A・O・Jカタストル》をシンクロ召喚してあのダサいロボットに攻げ――」
「シンクロモンスターの攻撃またはモンスター効果の対象になったことでアバンギャルド君の効果発動。相手の攻撃または効果を無効にし、吸収するわ」
「へっ!?」
「リプロダクション・シンクロ・アブソープション」
それも想定のうちよ、とリオが言っているのが聞こえてきそうです。
モモイがシンクロ召喚した《A・O・Jカタストル》はアバンギャルド君の両目から発せられた怪光線……もとい、トラクタービームを浴びて身動きが取れなくなりました。更に口が開いて掃除機のように吸引を始めます。吸い寄せられた《A・O・Jカタストル》はあっけなくアバンギャルド君に吸収されました。
「ああぁ! 私のシンクロモンスターが飲み込まれちゃった!?」
若干涙目になったモモイの叫びがエリドゥの摩天楼にこだまします。
「アバンギャルド君は王女の武装、機皇神を相手することも想定して設計しているわ。当然シンクロキラーの能力だって再現して搭載してる」
「そ、そんなぁ」
「それで、何か手はあるかしら? 別にシンクロモンスターで競わないでモンスターエクシーズやリンクモンスターで対抗しても……」
リオの言葉が途中で止まりました。視線を向ける先は手に持っていたタブレット。どうやら何か予想してなかった事態が発生したようで、彼女との通信が突然途絶してしまいました。
その直後、私達を取り囲むAMASとアバンギャルド君の動きに異変が起こりました。まるで急に動作不良を起こしたように動きが鈍くなります。いえ、これは余計な負荷がかかって上手く制御できていませんね。
「間に合った。ハッキング出来たよ」
「チヒロ先輩!」
間一髪、ヴェリタスがアバンギャルド君達にハッキングに成功。制御権を奪い返される前に攻めに転じたモモイ達がアバンギャルド君にダメージを与えていきます。先程まで気持ち悪いぐらいスムーズに攻守完璧な動きを見せていた直前の姿は見る影もありませんでした。
結果、追い込んだ隙に打ち込まれたエンジニア部の秘密兵器でアバンギャルド君は沈黙。モモイ達は危機を脱したのでした。
「アバンギャルド君は強敵だったね……」
「どうする? 復旧されないぐらいに壊しておく?」
「いや、それは逆にまずい。アバンギャルド君はこの要塞都市エリドゥのガーディアンロボット。私達の追跡者にさせたらいざケイが攻めてきた時その目的を果たせなくなってしまうからね」
「私たちエンジニア部が残ってアバンギャルド君を修理改造しちゃいます! なので先に行って下さい!」
「つまりここからの私たちは足止め役。頑張って」
エンジニア部三名はその場に残ることとなり、私とゲーム開発部の三名で先へ進むことになります。
迫りくるケイ率いる機皇軍団を阻むために。
「ウタハ、コトリ、ヒビキ。危なくなったらすぐに逃げなさい。命を賭してまで時間を稼ぐ必要はありませんから」
「ああ、Z-ONE先生は研究者や設計者よりの科学者か。私達のように現場で実際に物を組み立てる技師にとって最も重要な言葉を教えるよ」
「ご安全に、です! 安全はコスト、納期、品質のどれよりも優先されるいちばん大切な要素ですよ!」
「つまり危険には人一倍注意してるから、安心して」
「……。頼みます」
こうして私達はエンジニア部を残し、エリドゥの中央タワーを目指して駆け出しました。
《アバンギャルド君》
特殊召喚・効果モンスター
星12/光属性/機械族/攻4000/守4000
このカードは通常召喚できない。
手札、フィールドから「AMAS」モンスター3体を墓地へ送った場合のみ特殊召喚できる。
(1):このカードがSモンスターの攻撃対象または、効果の対象に選択された場合にその相手Sモンスター1体を対象として発動できる。その攻撃または効果を無効にし、その相手Sモンスターをこのカードに装備する。
(2):この攻撃力は自身の効果で装備したモンスターの攻撃力分アップする。
(3):自分の墓地に存在する「AMAS」モンスター1体をゲームから除外する事で、このカードの破壊を無効にする事ができる。
(4):1ターンに1度、発動できる。このターンこのカードは2回攻撃できる。
(5):1ターンに1度、この(4)の効果を発動したターンのエンドフェイズに発動する。このカードを破壊する。
※攻撃無効効果は装備魔法によるもの。
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