「先生、そのモンスターは……」
「モンスターではありません。神です。詳しい話はまた後で」
「……! 先生、機皇神の攻撃が来るわ!」
攻撃対象だった《スターダスト・ドラゴン》がフィールドからいなくなったことで《機皇神龍トリスケリア》の攻撃がリセットされ、新たに現れた《時械神祖ヴルガータ》に攻撃対象が変更されます。
《トリスケリア》の攻撃で放たれた三重の破壊光線を《時械神祖ヴルガータ》はまともに喰らいますが、光は《ヴルガータ》の鎧に弾かれて散っていきます。やがて攻撃は収まりますが、《ヴルガータ》には傷一つ付いていません。
「《時械神祖ヴルガータ》は戦闘・効果では破壊されず、戦闘で発生する自分への戦闘ダメージは0になります」
この効果は他の《時械神》と同じですね。
「そしてダメージステップ時に《時械神祖ヴルガータ》の効果を発動。相手フィールドのモンスターを全て除外します」
そして《時械神》との最大の違いの一つがこの効果。バトルフェイズ終了時の効果発動ではないので、他のモンスターを並べていたら追撃が可能なようです。【時械神】デッキで使うならは《ヴルガータ》の強みを全く活かしきれませんが。
《時械神祖ヴルガータ》が鏡面から発した光に包まれた《トリスケリア》の姿は掻き消えます。《トリスケリア》が吸収して装備カード扱いになっていた《シューティング・スター・ドラゴン》は私の墓地に行きました。
更に他の《時械神》のようにデッキに戻る能力もありません。《セイヴァー・スター・ドラゴン》はシンクロモンスターといえどすぐ戻っていきますからね。このシンクロ時械神はフィールドに降臨し続けるのですから、《究極時械神セフィロン》同様他の《時械神》とは一線を画す存在なのでしょう。
「《時械神祖ヴルガータ》最後の効果を発動。エンドフェイズに相手フィールドに除外したモンスターを特殊召喚しますが……特殊召喚モンスターの《機皇神龍トリスケリア》は戻ってこれませんか」
そして、特殊召喚モンスターをフィールドに戻さない効果。これはまるで特殊召喚条件を持つモンスターだけはこの世に留まることを許さない神の意志に感じます。
総じてこの《時械神祖ヴルガータ》はまごうことなき神の力をもつ存在に違いありません。あまりに強大な力はこちらの身を滅ぼすどころか生徒にも多大な影響を与えかねません。今後は使い所を見極めなくてはなりませんか。
「先生。お疲れさま。あまり助言は役に立たなかったわね」
一息入れた頃合いを見計らったようにリオから通信が入りました。
「いえ。リオが《機皇神龍トリスケリア》を迅速に分析したおかげです」
「アクセルシンクロも無しに機皇神を寄せ付けないなんて……」
「神に選ばれた者だけが救われる研究をしてきたのではないのでしょう? リオは正しい道を歩んでいる。それは私が保証します」
「……。そう、ありがとう」
再び中央タワーに戻ってリオの傍に降り立った私は《ヴルガータ》のカードをデッキに戻します。
「アリスは?」
「ケイとライディングデュエル中。モモイ達はアリスを応援しているわ」
「では我々も向かいましょう。ところで、アリスへのクリアマインドの伝授は?」
「口で説明するより自分の目で見た方が合理的よ」
そう言うが、リオは穴から飛び降りました。何を、と下を覗くと彼女は呼び寄せたDホイールに乗って壁伝いに降下し、地面に降り立ったではありませんか。全く無茶をする、と呆れ半分関心半分で、私も同じようにDホイールを遠隔で呼び寄せてから地上へと降ります。
そこでは機皇軍団の中央タワーへの侵入を防いでいたC&Cが私達と同じようにアリスのデュエルをこの目で確かめようと移動を開始しているところでした。機皇ロボットの残骸の中には《機皇神龍アステリスク》の成れの果てもあり、よく倒したものだと関心しました。
「よう先生。それにリオも。その調子だと後はあのチビが決着付ければおしまいか」
「ええ。これでアリスの、そしてキヴォトスの行く末も決まります。見届けましょう」
ネルとトキが今にも倒れそうなほど満身創痍な状態でしたが、これは機皇軍団を相手したせいではなく2人の死闘の結果だとか。ネルはそれでもアカネに支えられるのを拒絶。自分の足で歩き出します。
「リオ様。申し訳ありません。アビ・エシュフを使いながらも勝てませんでした」
「敗因はトキには無いわ。私の設計したアビ・エシュフが戦いについていけなかった。次は空中戦に適応するよう演算能力を上げておくわ。それまで傷を癒やすことに専念なさい」
「……イエス、マム」
トキは流石に中破したアビ・エシュフをその場に安置してから向かいます。リオがDホイールに乗せていくことを提案するとトキは遠慮なくリオの後ろに乗りました。ネルに自慢げな顔をするのは何故ですかね。
エリドゥにもライディングデュエル用のメイン会場があり、モモイ達はそこにいました。そしてモモイ達の傍にいたヒマリが私達の到着に気づいて軽く会釈してきました。
「ヒマリ、どうしてここに?」
「この清楚系病弱美少女が囚われの身になった経緯は先生の隣にいる誘拐犯が一から十まで語ってくれますよ」
「リオが意見が一致しなかったヒマリを拘束してたのは理解しました。となりの彼女が脱出の手助けを?」
「特異現象捜査部のエイミ。よろしくね」
挨拶もそこそこにモニターへ視線を移すと、どうやらアリスとケイのデュエルは接戦のようです。ケイの墓地情報を見る限り、機皇帝グランエルと機皇帝スキエルが攻略されているようですね。
「アリスはどうやって機皇帝を撃破したのですか?」
「えっ!?」
……?
何故モモイが挙動不審になってミドリがモモイをジト目で見つめるのですか?
ヒマリが微笑ましくモモイを見つめる様子からも嫌な予感がするのですが。
「お姉ちゃんがアリスに悪知恵を吹き込んだんです。《地砕き》で機皇帝グランエルを、《サンダー・ボルト》で機皇帝スキエルを一掃してました」
「だって破壊耐性持ってない方が悪いんじゃん!」
「ケイがとっても悔しがってた……」
「実際デュエルではその手が有効なのですから、使わない手は無いでしょう」
ああ、成程。確かに。プラシドがルチアーノにそんな破壊をされて激昂してましたっけ。そんな搦手に弱い機皇帝を補うための《ゴースト・コンバート》だった筈なのですが、ケイは今回まだドロー出来ていないようですね。
ケイのフィールドには機皇帝ワイゼルが存在し、アリスのフィールドには《スターダスト・ドラゴン》が存在します。機皇帝ワイゼルはパーツを換装しており、ケイは機皇神を呼ばずにワイゼルで押し切る算段のようです。
ケイは機皇帝ワイゼルで《スターダスト・ドラゴン》に攻撃。アリスは《くず鉄のかかし》で防御します。《ワイゼルA5》に換装出来ていたら《かかし》を無効にして破壊出来ていたのですがね。
「アリスのターンです。ドローします。……。アリスは《シンクロン・エクスプローラー》を召喚します。効果で墓地の《ジャンク・シンクロン》を特殊召喚します。レベル2《シンクロン・エクスプローラー》にレベル3《ジャンク・シンクロン》をチューニングします」
合計レベルは5? 《ジャンク・ウォリアー》でも出すつもりですか?
しかしそんな予測をアリスは軽々と抜き去っていきました。
それは私も不動遊星も通っていない道。まさにアリスの走るロードだったのです。
「集いし願いが新たな未来を導き出す、光さす道となります! シンクロ召喚! 希望の出発、《アクセル・シンクロン》!」
《アクセル・シンクロン》……? そんなシンクロモンスターなど私のデータには無い。無論遊星も使っていなかった。
もしやと私はモモイの方を見ると、彼女は自慢げにこちらに親指を立ててきました。
そうでしたか……。私はてっきりモモイの《パワーツール》を進化させてシンクロチューナーにするかと思ってましたが、まさかモモイがアリスに希望を託すとは。
「《アクセル・シンクロン》の効果を発動、レベル3の《スチーム・シンクロン》を墓地に捨てて《アクセル・シンクロン》のレベルの3つ下げます」
「合計レベルは10、まさか……!」
「ケイ、見ていてください。これが世界を救い、そしてアリスとケイの新しい光さす道になる、勇者の奥義です!」
アリスがDホイールを加速させ、ケイを追い抜きました。アリスのすぐ後ろに《スターダスト・ドラゴン》と《アクセル・シンクロン》が続きます。
「"透き通った世界"を見通す透き通る心の境地、クリアマインド! レベル8《スターダスト・ドラゴン》にレベル2になったシンクロチューナー《アクセル・シンクロン》をチューニングします!」
「や、やめ……止めて下さい、王女よ……。何故貴女がその境地を、私に対して行うのですか……!」
「集いし夢の結晶が新たな進化の扉を開く、光さす道となります!」
アリスのDホイールが極限まで加速。やがてアリスと2体のシンクロモンスターは光となり、限界を突破しました。
「アァクセルシンクロー!」
エクストラデッキからドローした白紙のカードが書き換わり、アリスと共に白銀のドラゴンが飛び立ちます。ドラゴンが天空を舞った後は雪のような光が空に散りばめられました。やがてドラゴンはアリスのもとへと降り、並走するように飛びます。
「生来です、《シューティング・スター・ドラゴン》!」
アリス……やりましたね。
貴女は自分自身の手で未来を切り開いたのですよ。
クリアマインドの境地で自分のモーメントを正しく制御出来ることでしょう。
ケイはアリスがクリアマインドに達したことに絶望していましたが、未だフィールドの機皇帝ワイゼルは健在。気を取り直してアリスを追走します。
「い、いくらアクセルシンクロモンスターを召喚したところで機皇帝ワイゼルは倒せませんよ。《一族の結束》の効果で機皇帝ワイゼルは4,000も攻撃力を上昇させてます。到底《シューティング・スター・ドラゴン》では太刀打ち出来ませんね」
「それはどうでしょうか?」
「何ですって? ……! まさか……!」
ケイの顔が青ざめます。そう、《シューティング・スター・ドラゴン》の効果を思い出したのでしょう。5枚デッキから引いてチューナーの数だけ連続攻撃出来る効果を。
「《シューティング・スター・ドラゴン》の効果で連続攻撃します! デッキから5枚めくります」
アリスはめくった5枚のカードをケイに見せつけました。
《エフェクト・ヴェーラー》(2枚目)
《ジャンク・シンクロン》(3枚目)
《アンノウン・シンクロン》
《スターダスト・シンクロン》
《クイック・シンクロン》(2枚目)
アリスのデッキに眠る残りほぼ全てのチューナーモンスターを引き当てました。
「そんな! 合計5回の攻撃ですって!?」
「バトルです! 《シューティング・スター・ドラゴン》で攻撃!」
「ぐっ! 《ワイゼルG3》の効果を発動! 攻撃対象をこのカードに変更! 更に1ターンに1度戦闘では破壊されません!」
「では2,3,4回目の攻撃でそれぞれ《ワイゼルT》、《ワイゼルA3》、《ワイゼルC》を攻撃します!」
「ぐぅぅっ!」
パーツごとに攻撃できるのが仇となりましたね。《ワイゼルG3》以外を攻撃表示にしていたせいでケイは攻撃ごとにダメージを受けています。そして、パーツを失ったことで機皇帝ワイゼルは大幅に弱体化しました。
「最後に《機皇帝ワイゼル∞》を攻撃です! スターダスト・ミラージュ!」
「機皇帝が、王女の鍵たる私が……!」
《シューティング・スター・ドラゴン》の攻撃が直撃し、機皇帝ワイゼルは爆発四散。残った《ワイゼルG3》も自壊。爆風がケイを飲み込みます。
「あああぁぁっ!」
ケイのライフポイントは0になり、アリスの勝利が決定しました。
本概念を思いついた際にケ/イにしようとプロットを立ててたのですが、さすがに没にしました。アリスが《シューティング・スター・ドラゴン》をアクセルシンクロ召喚する展開はそこから発展させたものです。
ご意見、ご感想お待ちしています。