「アリス、ただいま戻りました!」
「やったよアリス! アクセルシンクロ決めてくれたじゃん!」
「勝ってよかった……! これでゲーム開発部に戻れるね!」
「アリスちゃん……すごかったよ……!」
戻ってきたアリスをモモイ達ゲーム開発部一同が出迎えました。
「本当にやりやがったな。リベンジマッチならいつでも受けて立つぜ」
「あれがリオ会長が成し遂げたかったアクセルシンクロか。いいものを見た」
「ふう、ちゃんと上手くアクセルシンクロ出来たか。よかったぁ」
ネル達C&C、ウタハ達エンジニア部、チヒロ達ヴェリタスの皆も祝福します。
「ほら、どうですかリオ。快挙を成し遂げた後輩、愛弟子に何か言うことは?」
「……。想定出来た当然の結果よ」
「素直じゃないんですから。ツンデレも度を過ぎると面倒くさい女としか思われませんよ。少しはこの清楚で可憐な病弱美少女を見習って後輩を信じればいいのに」
「その意見に同意は出来ないわ。ただ……一人で背負いすぎたのは認める」
そんな喜びの輪を外からヒマリとリオが見つめます。
そんなリオの姿を目に捉えたアリスは彼女の方へと駆け寄りました。
「リオ師匠。アリスは勇者の奥義を会得しました」
「ええ、見ていたわ」
「ゲーム開発部がクリアマインドに目覚めるクエストは達成です」
「そうね。セミナー所属リオの名においてアリスを正式にミレニアムへ帰属することを認めます」
「ケイも認めるよう特別報酬を求めます」
「……。編入試験を受けるよう伝えなさい。書類審査では落とさないよう根回しするから」
それと、と繋げたリオはポケットから2枚のカードを取り出し、アリスへ差し出します。それは《アクセルシンクロ・スターダスト・ドラゴン》と《シューティング・ライザー・ドラゴン》? いずれも私の知らない、リオ独自のカードでした。
「これはクエストクリアの報酬、免許皆伝の証。そう言えばいいかしら? 使ってくれたら嬉しいわ」
「……っ! ぱんぱかぱーん! 免許皆伝の証を手に入れた!」
アリスは嬉しそうに譲り受けた2枚のカードを高々と掲げました。
そんなアリスに向けてリオは思い詰めた顔を見せます。
「アリス。貴女は私の計算を超えてきた。貴女のヘイローを破壊しないと破滅の未来は避けられない、と視野を狭くしていた私に別の道もあると言って手を引っ張ったのは貴女よ」
「リオ師匠がアリスと真剣に向き合ってくれたからです。魔王だったアリスを手に掛けるのかギリギリまで悩んでました。それでもリオ師匠はアリスに勇者の奥義を伝授しました。リオは勇者の師匠です!」
「……。私はそんなご大層な人間ではないわ」
アリスはデッキから1枚のカードを取り出しました。何も描かれていない白紙のカードをアリスはリオへと差し出します。そしてもう片方の手で一旦カードを隠すと、意識を集中させ始めました。
「アクセルシンクロはスピードを乗せてモーメントを正しく回転させてる召喚方法。でも、モーメントの出力と効率がちゃんとあれば、アリスになら……!」
やがて白紙のカードが輝き出し、絵柄とカードテキストが鮮明になりました。それはまるでアクセルシンクロの時のように。
「リオ師匠。アリスは授業料を払います。受け取って下さい」
「これは……《シューティング・スター・ドラゴン・TG-EX》? 先生やアリスの使う《シューティング・スター・ドラゴン》であり、私の使う「TG」でもある。全く新しいアクセルシンクロモンスターなのね」
「アリスとリオ師匠の絆の証です。アリスを信じて奥義を伝授してくれてありがとうございました」
「……。使わせてもらうわ」
戸惑いながらもリオはアリスからカードを貰い、自分のデッキへと差し込みました。ヒマリが「ビッグシスターも形無しね」と茶化すとリオは「放っておいてちょうだい」と言い放ちました。
ケイが戻って来るまでもう少し時間がありますか。では、私からもリオへ渡すものがありますので渡してしまいましょう。デッキホルダーから1つデッキを取り出し、私はリオへと差し出します。
アンチノミーが使っていた【TG】デッキ。
私が形見として所持したまま使わないのはアンチノミーも望まないでしょう。
カードは使用してこそです。ならばここで手放すべきです。
「Z-ONE先生、これは?」
「私の同志のデッキです。リオ、これを貴女に譲りましょう」
「【TG】……! そう、だから私がデッキを回す間驚きもしなかったのね」
「デッキをばらして数枚だけ自分のデッキに入れても構いません」
「いえ、私の【TG】デッキは三枚揃ってなかったカードもあるからありがたいわ」
リオは私からデッキを受け取ると早速目を通し始めました。
とは言えリオのデッキには既にアンチノミーも使っていなかった新たなモンスターも加わっていましたから、もうそこまでは彼女の力にはならないでしょう。
あの2枚のカードを除いて。
「……先生。この白紙のカードなのだけれど、何かしら?」
「あぁ、それですか」
リオがエクストラデッキから抜いたカードは白紙でした。
クリアマインドの境地に到達したリオになら《TGブレード・ガンナー》以外のアクセルシンクロモンスターも認識出来ます。
しかし、この2体は違います。
「リオ。それが私からの貴女への課題です。貴女なら到達するでしょう」
「何を言って……いえ、まさか――!?」
それはアンチノミーが不動遊星を相手に見せたクリアマインドの先の境地で召喚される、デルタアクセルシンクロモンスターです。きっとリオならここまで到達してくれることでしょう。
「アクセルシンクロは通過点です。リオには期待しています」
「……! 責任重大、難題だわ……」
言葉を失って私を見つめるリオを横切り、少ししゃがんでアリスと同じ目線にしました。
「《シューティング・スター・ドラゴン》のアクセルシンクロ、見事でした」
「アリスがアクセルシンクロしたらあの白紙だったエラーカードが変わりました! 勇者が伝説の剣を抜いたようでした!」
「しかしクリアマインドを駆使しても乗り越えられない壁はあります。挫折もするでしょう。勇者の道を選んだことを後悔するかもしれません。ですが、アリスが目覚めて結んだ絆はアリスを裏切りません」
ダークシグナーとシグナー両方の痣を持って最強の地縛神を従えたレクス・ゴドウィンも、過去の一流デュエリストの切り札を集めたパラドックスも、そして時械神に選ばれた私も、不動遊星とその仲間の絆には勝てませんでした。不動遊星一人だけではこうはならなかったでしょう。
私は【遊星】デッキから2枚のカードを取り、アリスへと見せました。これらはリオに譲ったあの境地で召喚出来るシンクロモンスターですが、これをアリスには譲りません。アリスは勇者としての遊星や私の限界を超えていくべきです。
「シンクロに果てはありません。その力は神にも魔王にもなり、栄光と破滅両方の可能性を秘めています。私にはこれらが精一杯でしたが、アリスはアリスなりのアクセルシンクロに到達して欲しいのです」
「勇者の最終奥義習得イベントですね。アリスはそのクエストを受注します!」
「それでいいですよ。攻略のきっかけは、そうですね……モモイが持っています」
「モモイが?」
「ふぁっ!?」
アリスがモモイの方へ振り向きます。突然注目されたモモイは驚きの声を上げました。明後日の方を向いて口笛を吹いてごまかそうとしますが空気だけが口から抜けていきます。
「これが本当の驚きモモの木山椒の木ですね」
「トキに上手いこと言ったようなドヤ顔されたぁ!?」
「ヴェリタスがシンクロチューナー2体開発してた間にエンジニア部が開発できたのが《アクセル・シンクロン》1体だけなわけねぇだろ。もう一体は《パワー・ツール・ドラゴン》とか《機械竜パワー・ツール》の進化形態か?」
「ネル先輩にもあっさり見破られてるし!」
「本当ですかモモイ! モモイは本当に勇者の先導者です!」
「あー、うん。まだ使用感確認出来てないから見せるのは後でね」
そうこう話しているうちにようやくケイが戻ってきました。ケイは《シューティング・スター・ドラゴン》の攻撃の余波で転倒してしまい、しかし自力で戻って来ることにこだわったため時間がかかりました。
ケイが戻ってくるとアリスが花が咲いたような笑顔で駆け寄ってケイの手を取りました。
「なんとケイがおきあがりなかまになりたそうにこちらをみています! なかまにしてあげますか? はい!」
「王女よ、私はそんな目で見てはいません。捏造しないで下さい」
「そんな……ひどい……。ケイはアリスのことをおもってくれますか?」
「王女よ、ですから私は……」
「そんな……ひどい……。ケイはアリスのことを――」
「分かりました! 分かりましたから王女ともあろう方が黎明期のゲームのNPCみたいな無限ループは止めて下さい!」
「ぱんぱかぱーん! ケイが仲間に加わった!」
「いや、そこの効果音はファンファーレではなかったとデータにはありますが?」
アリスとケイが賑やかに会話を弾ませる様子を見たモモイを初めとしたゲーム開発部の子達、そしてその周囲も段々とケイへと言葉を交わしていきます。
ケイ。やはり貴女はただプログラムされた通りにしか動かないロボットではありません。自分で考え自分で行動できるAIです。これからも楽しみ、悩み、未来へと走っていけばいいでしょう。
ようやく落ち着いた頃合いにケイは私の方へと来て、デッキをこちらへと差し出してきます。
「"遊星"、このデッキは返します」
「いえ、そのデッキは私の手を離れるべきでしょう。ケイに譲ります。好きなように調整して構いません」
「ですが……いえ。では頂きます。……"遊星"。推測ですがこのデッキの元の持ち主は……」
「私の同志を模して創造したAIのものです。そして絶望の果てに希望を見出し、最後は創造主たる私に立ち向かってきました」
ケイは少し考えた後にデッキを再びデュエルディスクへと収めました。
そしてはにかみながら踵を返します。
「なら王女……いえ、アリスも私も希望を抱きましょう。王女と鍵たる私たちが他のAIに遅れを取るはずがありませんから」
ケイの言葉に希望を見ながら私はその場を後にしたのでした。
それから私がケイの新しい身体を作ったり、エンジニア部がケイ用の光の剣をどう予算内に作ろうか議論を白熱させたり、リオが今回の一件からアクセルシンクロに関する新たな論文のまとめに取り掛かったりしました。
要塞都市エリドゥは名もなき神々の王女対策で建造されましたが、その役目を終えたので閉鎖……とはならず、セミナー管理下に移して徐々に人の受け入れを初めているとのことです。そして、ライディングデュエルのしやすさと設備・コースが充実していて有名になったそうです。
これでパヴァーヌ編は終わりになります。クリアマインドの手本を示したZ-ONEでしたが、最後にはリオもアリスも自分が知らないカードを交換した。Z-ONEを追い抜いていくのもわりとすぐかもしれません。
続いてエデン条約編になります。引き続きよろしくお願いします。
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