Z-ONE先生のブルーアーカイブ5D's   作:福留しゅん

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サオリ、アリウスを追放される

 ◆三人称視点◆

 

 Vanitas vanitatum et omnia vanitas.

 ――旧約聖書『コヘレトの言葉』1章2節より。

 

 

 アリウス分校を二分して勃発した内乱。そのきっかけ、両陣営がどんな大義を掲げて銃を向け合ったのか、もはや正確に把握している者はアリウスに誰一人としていない。ただ一つ言えるのは、結局どちらの悲願も叶わなかったということだ。

 

 アリウスを統一したのは一人の大人だった。生徒会長の座についた彼女の方針により以降のアリウスは運営されていくことになる。違和感を覚える者も少なからずいたものの、生徒会長が地獄の戦乱を治めたことは事実なので、ほとんどの子が彼女に従った。

 

 そんな中、アリウスでは生徒会長の教育方針とは異なる思想を持つ者が少なからずいた。表立って生徒会長の意に背くことはしなかったが、彼女達の根底には生徒会長にも上塗り出来ない絶対的な存在があった。

 

 彼女達は口を揃えてこう言った。

 私たちは神を見た、と。

 

 神が降臨した。その報告は生徒会長も受けていた。アリウスの統一も時間の問題となった局面、攻め入った町中で神が現れたのだという。神を降臨させた少女はその特徴からトリニティのティーパーティーに属する生徒だとは分かった。しかしいくら調べても当時のティーパーティーメンバー全員と特徴が一致しなかった。

 

 神を目にした者達に及ぼした影響は大なり小なり計り知れない。生徒会長がいくら教育しても目撃者たちは神を忘れることがない。いずれ神を心の支えとして自分に背かないか。そう言った懸念から、生徒会長はより一層厳格な教育を施すことでの引き締めで上書きを試みた。

 

 そうした教育方針に逆らう生徒に対して、なにも生徒会長自らが手を振るうような真似はしない。神を目撃していなかった者から優秀な子を選抜し、アリウス内の統制をある程度担わせた。具体的にはアリウスの秩序を乱す兆候が見られる問題児、不満を抱く生徒をそういった優等生に処罰させたのだ。

 

 ある少女は神を目撃しなかった。故に血で血を洗う戦争を終結させた生徒会長の教育方針に何の疑問も抱いていなかった。

 問題児、不良、異端者。少女は生徒会長に命ぜられるがまま生徒会長に、大人に逆らおうとする子供を処罰した。少女は特に罪悪感も達成感も得ず、淡々と事務的に命令をこなしていった。

 

 少女がそういった教育方針に疑問を抱いたのはいつだっただろうか?

 

 生徒会長が全て正しいなら教育するにつれて皆いい子になってしかるべきなのに。中には少女が目撃していない神を語り続けてその後見なくなった子も現れる始末。無論狂信者の戯言に心動かされる少女ではなかったが、それでも一つの考えが少女にも芽生えた。

 

 生徒会長の言う通りにしていれば良い、というほどこの世界は単純ではないんじゃないか、と。

 

 するとどうしたことだろうか。今まで何の感慨もわいていなかった悪い子への処罰に違和感を覚えるようになった。違和感はやがて心の痛み、苦しみへと変わっていった。自分の手で相手が傷つき、泣き、倒れると胸が締め付けられるようだった。

 

 罪悪感。そうアリウスの外で呼ばれる感情の正体を少女は知らなかった。

 

 そう言った芽生える不快感に蓋をして少女は淡々と命令をこなした。

 希望も絶望もない。波乱も平穏も無い。さざ波一つ立たない毎日。

 虚しさだけが彼女に許された感情だから。

 

「マダム。貴女にデュエルを申し込む」

 

 なのに、どうして"彼女"は……、

 

「ほう? 私にデュエルを挑みますか。アリウスにはデュエルモンスターズの情報が来ないよう遮断していた筈ですが」

「カードは拾った」

 

 このアリウスでなおも希望を抱き続けるのだろうか?

 

「私が勝ったらマダムは生徒会長を辞任してほしい」

「私にそのデュエルを受けるメリットが全く無いのですが、その辺りはどう考えているのですか?」

「考えてない。けれど私にはこれしか取れる方法が無い」

「……。いいでしょう、受けて立ちます。私が勝った場合は、そうですね……退学処分にでもしますか」

 

 退学処分。アリウスにおいてはそれは死を意味する。

 

 アリウスでの籍を失えばアリウス自治区から追い出されるだけではない。陸路では他の学校の自治区に行くのは不可能な陸の孤島。それでも人里までたどり着ける希望を抱きながら何も持たされずにさ迷い歩き、最後には息絶える。そんな人生は虚しい限りだと言わんばかりの重い罰だった。

 

「このアリウスはいわば流刑地。トリニティという集いに参加しなかっただけで迫害された者が流れ着いた最果て。弾薬や食料一つ取っても入手がままならない状況下で、私は皆が絶望せぬよう腐心してきた自信があります。そんな私に反旗を翻すとは、一体何が不満だったのですか?」

「不満は無い。マダムには私達アリウスの生徒を戦乱から救ってくれた大恩がある。そして限られた土地にあるここアリウスで多くを望めばまた暴力が支配する地獄に戻ってしまう。マダムは正しくて、きっと間違っているのは私の方だ」

「そう自覚がありながらも私に逆らうのは、貴女達が目撃したという神のせいかしら? 別にその神を否定しようとは思いませんが、その神が貴女達に微笑んだわけではないでしょうに。希望を求めてすがったところで虚しいだけですよ」

「あの神に導いてほしいわけじゃない。私は……希望を信じたい。それだけだ」

 

 希望。アリウスで育ってアリウスで成長しながらどうしてそれを信じられるのだろうか。それとも神を目の当たりにした子は皆同じように明日にはいいことがあるとでも思っているのだろうか。

 

 少女には生徒会長に反旗を翻した"彼女"が理解できなかった。馬鹿なやつ、大人に勝てるわけがないのに、と冷める自分もいれば、自分を主張できて羨ましい、と嫉妬する自分もいた。もしかして自分も"彼女"みたいに強くなればこれまで色褪せた空虚な世界も違って見えるのだろうか?

 

「では大人の力の一端を見せてあげましょう。速攻魔法《超融合》を発動。貴女の場の《RR-サテライト・キャノン・ファルコン》とこちらの《デスピアの凶劇》を融合します」

「何ッ!?」

「貴女のデッキはモンスターエクシーズをランクアップすることに長けていますが、このようにランクアップされる前に素材にしてしまえばいいのです。ああ、RUMでエスケープはさせられませんよ。《超融合》の発動に対してカードの効果は発動出来ませんから」

「くっ……!」

「融合召喚、《赫灼竜マスカレイド》。永続魔法《失烙印》の効果でカードをサーチします。さあ、まだ貴女のターンは続いてますよ」

「なら、《RUM-ソウル・シェイブ・フォース》を発動!」

「《赫灼竜マスカレイド》がモンスターゾーンに存在する限り、ライフを600払わなければカードの効果は発動できませんよ」

「構わない! そのうえでライフを半分払って《RR-サテライト・キャノン・ファルコン》を特殊召喚し、ランクアップエクシーズ! 現われろ、ランク10、《RR-アルティメット・ファルコン》!」

「出しましたか。貴女の切り札を」

 

 デュエルは一進一退に見えたものの、最終的には"彼女"の方が生徒会長に押し切られて敗北した。

 

「《デスピアン・プロスケニオン》の効果を発動。戦闘破壊したモンスターの元々の攻撃力と元々の守備力の内、高い方の数値分のダメージを相手に与えます」

「ぐ、うぅぅっ!」

「そして最後は貴女のモンスターでトドメを刺してあげます。《デスピアン・プロスケニオン》の効果で特殊召喚していた貴女の《RR-サテライト・キャノン・ファルコン》でダイレクトアタック」

「うわあぁぁっ!!」

 

 モンスターのダイレクトアタックを受けて吹っ飛ばされ地面を転がる"彼女"。その場にいたアリウスの生徒達は誰一人として彼女を助けようとはしない。神を目撃していた一部の生徒達も"彼女"の完敗を見届けてやはり希望など存在しないのでは、と虚しさを覚えた。

 

「少々残念ですよ。神なんか目撃しなければ貴女もいい子に育ったでしょうに。外に連れ出しなさい」

 

 敗れた"彼女"はアリウスから追放された。死体は見つかっていないがきっとどこかで野垂れ死んだことだろう。一部の生徒は"彼女"がそう簡単に死んだりはしない、どこかで必ず生き延びている、と信じているが、キヴォトスでその後の彼女が目撃されたとの情報は入ってきていない。

 

 しかし、少女は見た。アリウスの郊外から草一本生えない荒野の向こうへと姿を消していく"彼女"の目を。何もかも失った筈の"彼女"は諦めていなかった。強く鋭い眼差しを前方に向けて確かな足取りで去っていったのだ。なら、いつか彼女はまた自分達の前に姿を現すだろう。おそらく自分達が想像もしなかった場面で。

 

 少女もやがて成長して中等部を卒業する時期が見えてきた。このまま高等部へ進級するのだろうと当たり前のように思っていたが、生徒会長より思わぬ命令が下された。それは今までの自分が想像もし得ない新たな道へと繋がっていた。

 

「トリニティに進学、ですか?」

「ええ。この偽造した身分でトリニティの生徒になりなさい。貴女なら問題なく入学試験も受かることでしょう。トリニティ全体の様子、そしてティーパーティーの動きを定期的に報告する以外は自由になさい」

「何故、私なんですか?」

「理由を知って何の意味が?」

「……っ。申し訳ありません」

「件の神に毒されてない者から適材を選定しただけです」

「承知しました。直ちに準備に取り掛かります」

 

 アリウス以外の自分を想像も出来ないまま少女はトリニティの入学試験に合格。中等部での全過程を終えてアリウスを去る日を迎えた。生徒会長による秩序を守る立場にいた少女に友と呼べる存在などおらず、見送られることもない寂しい出発となると考えていた少女は、ふと疑問が生じた。

 

 そういえば、高等部を卒業する先輩達はこの先どうするんだろうか?と。

 

 少女は荷物を建物の影に隠して高等部の敷地に潜入。在校生が校舎に集められる中で卒業生は卒業式が行われる講堂に集められているようだった。少女は建物には入らずに壁を登って窓から中の様子を窺った。そこでは生徒会長が何やら卒業生に向けて語りかけ、1枚のカードを卒業生に向けて突き出す。

 

 見なければよかった、と少女は心底後悔している。

 

 それからトリニティに着くまでのことはほとんど記憶に残らなかったが、逃げるように全力疾走したらしい。荷物を回収していたのが奇跡に近いほどその時の少女は恐怖し、絶望し、そして救いがあってほしいと心から願った。

 

 全ては虚しい。それを少女は否定しない。

 しかしあんな最後は嫌だ。虚しいままにあんな風になりたくはない。

 中等部を卒業した少女には何が正しいか、自分がどうあるべきかなど、もう何も見えなかった。

 

「錠前、サオリ……さん」

「守月……スズミか」

 

 そして少女、守月スズミは再会する。

 アリウス分校から離れた場所、トリニティ総合学園にて。

 "彼女"、錠前サオリと。




スズミが元アリウスなのも某掲示板の別概念からになります。某掲示板のスレのように自警団内で絆を深め合う展開にはなりません。

◇錠前サオリ
使用デッキは【RR】
エースモンスターは《RR-ライズ・ファルコン》
切り札は《RR-サテライト・キャノン・ファルコン》
なお今ならランク10までランクアップ可能

◇ベアトリーチェ
使用デッキは【デスピア】
エースモンスターは《デスピアン・クエリティス》
切り札は《デスピアン・プロスケニオン》
デスピアカードはキヴォトスには存在しないで外から持ち込まれたもの

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