Z-ONE先生のブルーアーカイブ5D's   作:福留しゅん

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サオリ、SRT出動を約束させる

 ◆三人称視点◆

 

「アリウス分校。初めて聞きますね……」

 

 連邦生徒会本部にてサオリとカヤの会談は続く。

 一通りの説明を受けたユキノが正直な感想をこぼした。

 

「黎明期のトリニティに迫害されたアリウスの憎悪は今も燃え滾っています。その矛先がトリニティに向けられるだけなら我々トリニティの問題として対処しますが、エデン条約締結の場で同時にゲヘナにも矛先が向けられるなら話は別です。エデン条約は失踪した連邦生徒会長が提唱したもの。なら悲劇を未然に防ぐべく連邦生徒会に協力してほしい、がトリニティの総意です」

「……。カヤ防衛室長はトリニティからの要請をSRTに対応させるつもりですか?」

「さすがに提唱者が連邦生徒会長なんですからトリニティとゲヘナに任せっきりには出来ないでしょう。もし知らず存ぜずで条約締結の会場がテロの被害にあったら、提唱した側の連邦生徒会の責任問題にもなりかねませんからね」

 

 連邦生徒会防衛室長のカヤ、トリニティ総合学園ティーパーティーのサオリ、SRT特殊学園の小隊長ユキノ。この三名の会談はスムーズに進んだ。そして洗い出された問題も認識を一致させていた。

 

「では、一番の問題は尻込みする連邦生徒会役員の説得ですか。まずは当事者のサオリが主体となって各室長を言いくるめ、ユキノ小隊長がSRT出動の必要性を説く。方針としてはこんなものですか」

「異論ありません。可能であればすぐにでも連邦生徒会役員の方々を説得する場を設けていただきたのですが……」

「別に会議時間以外なら室長室に突撃したって構いませんよ。さ、二人共。そうと決まればさっさと行きましょう。時は金なり、とはミレニアムの言葉でしたっけね」

 

 カヤは腰を上げると一切振り返らずに部屋を後にする。サオリは慌てて、ユキノも戸惑いながらカヤへと付いてく。

 

 有言実行とはこのことか、とサオリは関心した。カヤは本当に他の連邦生徒会室長の執務室に突撃し、各室長との会話を経てサオリが語る時間を与えてくる。サオリも自分の言葉でいかにエデン条約が必要かを説いた。

 

 元々は連邦生徒会長の発案なだけあって大概の室長には好意的に受け止められた。キヴォトス有数の学校同士が手を取り合う場に仕掛けられようとしているテロを防ぐのならSRT出動も止む無し、とも判断された。

 

「いいですよ。私も賛成に回りましょう」

 

 首席行政官のリンはサオリが説得するまでもなくあっさりと表明してきた。

 

「……? 何ですか、その鳩が豆鉄砲を受けたような顔をして」

「あ、いえ。主席行政官は反対するかも、と想定してたもので」

「連邦生徒会長不在の今、SRTの過度な戦力を持て余しているのが現状です。かと言ってこのままヴァルキューレに統合してしまってはあまりに勿体ない。それはカヤ防衛室長も主張してましたね」

「ええ。何も防衛室預かりにする必要は無く、連邦生徒会全体が手綱を握ればいいんです。私たちなら秩序のために正しく運用出来るでしょう」

「なら、エデン条約の一件が試金石になります。その結果を評価してから今後の方針を決めても遅くはないでしょう」

 

 成果を上げなかったらSRTは不要と判断されて廃校する。暗にそう言われる気がしてユキノははらわたが煮えくり返った。しかし表情には一切出さないまま背筋を伸ばして起立し続ける。いっそカヤに呼び出されて中断した連邦生徒会襲撃を今から決行してしまうか、とまで考え、理性を総動員して思いとどまった。

 

「またゲヘナの雷帝のような傑物が現れてからでは遅いと思うのですがね、私は」

「そのためのシャーレです。何でしたらSRTをシャーレ直属の部隊にすることも選択肢に入れていいかと」

「キヴォトス全体の抑止にもなりえるSRTの責任を先生に委ねる、ね。子供だからって大人に甘えるにしてもあまりに無責任ではありませんか?」

「……。非難は甘んじて受け入れます」

 

 リンとはこの後の会議の場でSRT出動の議決を取ることで合意を取り、三人は部屋を出た。サオリは視線だけユキノに向けたが、彼女は冷静さを保ちながらも怒りが抑えきれない様子だった。

 

「良かったですね。これでエデン条約締結の場でSRTを動かせます」

「はい、ありがとうございます。これもカヤ防衛室長のおかげです」

「具体的な作戦はアリウスの内部情報を入手してから立てますか。アリウスに諜報員を送り込めればいいんですけど、連邦生徒会は現存していたことすら把握していませんでしたからね。そちらをあてにするしかありません」

「勿論こちらが入手した情報はSRTにも転送します」

 

 ところで、とカヤは歩みを止めてサオリの方を向いた。

 外面のいい人の笑顔を浮かべたままで、その眼差しはこちらを見通すようで。

 

「正直な話、サオリはエデン条約に賛成なんですか?」

「質問の意図が分かりません」

「トリニティにもゲヘナ嫌いは多くいるでしょう。ゲヘナの生徒がトリニティ自治区で騒ぎを起こしたとして、わざわざ角付きと一緒に取り締まりたいと誰が思いますか? 自分達の手で叩き出したいと思う方が普通です」

「それでは互いに憎しみを生むばかりだから、協力し合って治安維持に尽力するのが重要だ。それがナギサ様の意見です」

「一理ありますが、そのためにエデン条約が必要でしょうかね?」

 

 カヤが言いたいことはサオリにも分かった。

 連邦生徒会長の失踪により明暗を分けた事項があった。

 

 エデン条約は空中分解しかけ、シャーレは無事に発足された。

 連邦生徒会長ほどの人ならシャーレ発足と同じようにエデン条約についてもリン達に引き継げた筈なのに。

 とどのつまり、連邦生徒会長にとってエデン条約なんてその程度の代物だったのだろう。

 

 そんな連邦生徒会長の期待に答えるようにシャーレの先生達は、アビドスでのカイザーグループとの衝突や、ミレニアムでの謎の機械軍団襲来を初めとして、決して長くない期間で問題を幾つも解決してきた。

 

 特筆すべきはシャーレオフィス奪還とアビドスでの一幕。"先生"はゲヘナ、トリニティ、ミレニアムの生徒を巧みに指揮していた。そう、衝突するばかりだったゲヘナの風紀委員とトリニティの正義実現委員会が、だ。

 

 シャーレの"先生"がいれば、エデン条約なんていらないんじゃないか?

 

「ええ。私はナギサ様とは違って必ずしもエデン条約が必要とは考えてません」

「それでもエデン条約を推し進めるのは、現段階ではまだシャーレよりエデン条約の方が将来のためになるだろう、って判断したからですか」

「はい」

「分かりませんね。サオリは受験組だそうじゃないですか。ナギサさんを賛成するだけならまだしも、こうして自分の足で駆けずり回るほどトリニティが気に入りましたか?」

「いえ、別に」

 

 きっぱりと断言したサオリの顔へユキノは思わず振り向いた。

 揺るがない意志がはっきりと見て取れた。

 

「ならどうして? 母校の暴走を止めたいからですか?」

「争いをなくしたい。それ以上の理由が要りますか?」

 

 今のサオリを突き動かす原動力は全てその一言に集約されていた。

 アリウスのため、トリニティのため。それもあるが、正直二の次だ。

 自分のように物心ついた頃から銃声に怯え、足音に身を震わせ、爆音に耳を塞ぐ毎日を送る子どもが出ないように。

 

 故にサオリはアリウスの内戦を終わらせた生徒会長を今なお心から尊敬しているし、同時にさらなる争いを生まんとする生徒会長を退場させると心に決めている。アリウス、そしてトリニティでの立ち回りは全てその意志に集約される。

 

(私は、一体何をしようとしていたんだ……?)

 

 それを聞いたユキノは頭を殴られたような衝撃を受けた。

 

(連邦生徒会を襲撃して役員たちを脅してSRTを存続させようとした? SRTなら確かに最新の装備を整えられて、ヴァルキューレや各学校の風紀を取り締まる組織を超えて事件を解決出来て、訓練や任務の苦楽を共にする仲間がいて……)

 

 そして、ユキノは己を恥じた。

 

(それが、一体何だって言うんだ? ヴァルキューレに行けば確かに果たせる正義の範囲は狭まるだろう。しかし、だからといって連邦生徒会を脅して存続させたSRTに大義はあるのか……? 私は、何のためにSRTの門を叩いたんだ……?)

 

 公安の犬になるためじゃない。暴力装置の部品になるためでもない。

 ましてや己という武器を他人に使わせて銃口を罪なき人に向けるためなんかでは決してない。

 SRTの隊員となって果たしたかったこと、自分にとっての正義、それは……。

 

(……馬鹿だったな。SRT特殊学園を存続させるために正義を歪めるなんて。別に入れ物なんかにこだわらなくたって私たちはSRTを貫き通せばいいんだから)

 

 ユキノは自虐的な笑みを零し、カヤの後に付き従う。

 思考を巡らせているうちにカヤはサオリの答えに関心したようだった。

 そして連邦生徒会防衛室としてエデン条約締結に協力することを約束した。

 

「口約束だけではアレですから後で今日の議事録を送りましょう」

「助かります。アリウスの作戦内容が分かり次第打ち合わせさせてください」

「ええ。その間SRTには爪と牙を研いでもらうとしましょう。ユキノ小隊長」

「はい」

「FOX小隊も招聘されることでしょう。ですから今は目の前の任務に集中して、後のことは私に任せなさい」

「承知しました」

 

 では私はこれで、とカヤは室長室へと戻っていった。

 残されたサオリとユキノは共に本部の玄関ホールへと向かう。

 その間二人は一言も喋らなかったが、相手を無視していたわけではない。

 

「サオリ、だったか」

「はい、何でしょうか?」

「トリニティの正義実現委員会やシスターフッドについては我々SRTも把握している。しかしサオリの物腰や挙動はどちらとも違うな。私たちに近い、兵士のものだ」

「隠してませんがアリウス出身なので。母校での訓練が体に染み付いているのかと」

「だとすると制圧するアリウスの生徒は軒並み貴女並の練度な可能性も考えられるのか。ではそれを想定してカリキュラムを立てておこう」

「それは頼もしい。当日もあてにさせてもらいます」

 

 二人は建物から出た。あとはそれぞれの学び舎に帰るだけ。喫茶店などに立ち寄っていこうとの思考が浮かぶ二人ではなかったし、夕食を一緒にしようとの発想なんてもっての他。帰ってからもやることが山盛りなのだから、ここでお別れだ。

 

「ありがとう、サオリ」

 

 だから、ユキノから感謝されてサオリは大層驚いた。

 彼女とは単に依頼の打ち合わせをしただけ。一体何が彼女の琴線に触れたか。

 ただ一つ分かるのは、憑き物が落ちたようだ、だろうか。

 

「おかげで目が覚めた。私は私の信じるSRTの正義を遂行する。期待してくれ」

 

 ユキノは踵を返し、摩天楼の中へと消えていった。

 

 サオリは大仕事を果たした安堵で一気に身体から力が抜けて疲労感が溢れ出るが、ここで再び気を引き締めないといけない、と自分を戒める。トリニティに帰ればサンクトゥス派リーダーの仕事を消化しなければいけない。

 

 そして何より、定期試験が近づいている。

 生徒である以上は学業が本分。忙しいからと手を抜いていいわけがない。

 今日も睡眠時間削らないとなぁ、と肩を落としながらサオリは帰路についた。




SRT3年生の実装はよ。

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