◆三人称視点◆
第三次補習授業部模試、結果――
ハナコ:69点 合格
アズサ:73点 合格
コハル:61点 合格
サオリ:79点 合格
ヒフミ:75点 合格
「や、やりました……!?」
「ほ、本当っ!? 嘘ついてない!?」
「……!」
「成果が出たな……」
「あらあら♪」
見事補習授業部全員が合格ラインに達した。
あくまでこれは模試なのだが、それでも皆でこの結果を喜びあった。
退学を免れること以上にやり遂げた達成感でいっぱいだった。
「と、いうことで、約束通りモモフレンズグッズの授与式を初めますっ!」
「……!!」
「えっと、私は謹んで遠慮しますね」
「わ、私も……」
「私には、無理だ……頼むヒフミ。私の代わりに選んで……」
「ではこちらの、インテリなペロロ博士でどうでしょうか!」
「……! よし、じゃあこの子だ!」
「実はこのペロロ博士は物知りで勉強もできるんです。まさに今お勉強を頑張ってすごい成長中のアズサちゃんにぴったりかなと!」
「なるほど、そうなのか」
ヒフミからペロロ博士のぬいぐるみを渡されて大歓喜状態なアズサ。若干引き気味なハナコとコハル。微笑ましく見つめる"先生"。サオリはさすがにモモフレンズに夢中になるのがアズサだけではヒフミに申し訳ないので、とりあえずアズサが用意したぬいぐるみを手に取る。
押したり伸ばしたり撫でたりして感触を確かめる。そう言えば商店街などのご当地着ぐるみキャラクターはこんな感じにゆるかったなーなどと感想を思い浮かべ、アリウスを象徴するゆるいキャラクターを作るなら……とまで妄想を膨らませて、強制的に打ち切った。
「じゃあ私はせっかくだからこれをもらおう」
「ピンキーパカさんですね! それは――」
「待て。自分で調べたい。それでいいだろう?」
「はい、分かりました! じゃあ後で一緒に語り合いましょう!」
何故か後でモモフレンズトークをする約束までしてしまったが、アズサがヒフミからもらったぬいぐるみを抱きしめて「一生大切にする。友だちからもらった初めてのプレゼントだから……」と言っているのを見て、サオリは自然と笑みをこぼした。
これなら補習授業部全員で学力試験を乗り切れる。そんな希望に胸を膨らませたのだが、それは甘かったのだとサオリはすぐに思い知ることになる。そしてサオリの想定より事態が深刻化していることも。
◆◆◆
「ナギサ様! どういうことですか!?」
「どういうこととはどういうことですか?」
第二次学力試験の開催時間と会場を掲示板で調べたサオリは真っ先にナギサ本人へと電話をかけた。最悪着信拒否をされている事態も考えられたが、思いの外短いコール音の後にナギサは電話を取ってきた。
「試験範囲を三倍に拡大するのは構いません。これまでの履修範囲からはみ出てはいませんから。合格ラインを90点にするのも理解します。成績上位者は90点以上から1点を争ってますから、我々は本来このラインに立つべきなんでしょう」
「では何が不満なんです?」
「何故試験会場がゲヘナの自治区なんですか!」
サオリは怒りをこらえきれず、勉強机を叩いてしまった。傍にいたコハルがびくっと肩を震わせる。アズサが「サオリ、冷静になれ」と注意してきたのでサオリは努めて深呼吸し、心を落ち着かせる。
「私たち補習授業部は正義実現委員会の者やティーパーティーの者、シスターフッドが欲しがった者など、紛いなりにもトリニティの縮図と言って過言ではありません。そんな私たちがゲヘナの自治区に突然飛び込んだらどうなるか、想像出来ないナギサ様ではないでしょう!」
「言いたいことはそれだけですか? 試験開始時間は夜明け前ですし、電話している暇があるなら出発した方が懸命ではないでしょうか」
「最悪ゲヘナに敵対行動とみなされてエデン条約の決裂どころか戦争にまで発展しかねません! エデン条約が控えるこの時期にゲヘナを刺激するような真似は控えるべきだと具申します」
「そんな心配は不要です。補習授業部が次の試験でどんな問題を起こそうと、先方の意志は揺るぎませんから」
一方的に通話を打ち切られ、サオリは思わず自分の携帯端末を床に叩きつけたくなる衝動に襲われ、かろうじてぶん投げるだけに抑えた。携帯端末は勉強机の上に座るペロロのぬいぐるみに命中、ペロロがサオリの携帯端末を腹の上に乗せるような感じになった。
息を荒げたサオリはアズサが差し出した水を一気飲みし、感謝を述べる。それから自分の携帯端末を取りに行こうとしてヒフミに止められる。ヒフミは携帯端末を抱いたペロロの写真を撮ってから携帯端末を取りに行き、サオリに渡した。なお、それを見たアズサも自分も写真撮れば良かったと悔やんだ。
「ナギサ様は一体何をお考えなんだ……? 裏切り者容疑者をまとめて退学処分にしたい気持ちは察するが、だからとどうしてこんなエデン条約を揺るがす危ない橋を渡らせる真似まで……。本末転倒じゃないか!」
「それだけナギサさんが疑心暗鬼に陥っていて周りが見えなくなっているんだと思います。セイアちゃんがいてくれていたらここまでにはなっていなかったでしょうね……」
「行くなら今から出発しないと間に合わない。すぐに支度しよう」
「そ、そうですよ。何もしないうちから悲観していても始まりません。私たちはまず試験に合格することだけ考えましょう!」
深夜の時間帯に治安の悪いゲヘナの自治区にトリニティの生徒が足を運ぶなんて正気の沙汰ではない。しかし退学がかかっている以上は他に選択肢はない。結局ナギサの思惑通りに動くしかないのだ。
しかし、果たして障害を退けて試験会場にたどり着いたとして大人しく試験を受けさせてくれるのか? そもそも90点もの高得点を得られるのか? 万が一全員合格したとしてもナギサの一存で結果をひっくり返されないか?
「……」
ナギサに自分達の計画を明かさないことはセイアもミカも承知の上だ。ティーパーティーホストになったナギサを欺いてこそ次のアリウスの襲撃でアリウス生徒会長派の勢いを大幅に削げる作戦の成功率は大幅に上がる。
私情は捨てて大義に専念しろ、とアリウス時代の自分が注意する。ナギサ様が苦しむのを見て何とも思わないのか、とティーパーティーの自分が咎める。もうなるようにしかならないじゃん、と子供時代の自分が虚しく語る。
悩んだのもほんの数秒の間。サオリはすぐさま頭を切り替えて目の前の問題、つまり学力試験に全力で取り組むことにする。出発前に短いモモトークをとある者に送り、ヒフミたちや"先生"とともにゲヘナへと出発した。
◆◆◆
補習授業部の5人ならびに"先生"がどのような連絡を取っているかの情報は全てナギサに報告されている。彼女達の通信端末にスパイアプリを入れているわけではなく、ネットワークにあがってきたデータを解析している。加えて合宿場に設置された監視カメラでどのような行動を取ったかの映像も記録されている。
第二次特別学力試験に望むために補習授業部と"先生"が出発した際、サオリが送ったモモトークもまたナギサに筒抜けだった。もしサオリがスパイであれば彼女の背後に潜むテロリストを暴け出せる、と若干期待しながら確認したナギサだったが、すぐに失望へと変わった。
「また自警団のスズミさんへのメッセージですか……」
サオリが連絡を取る相手はほぼティーパーティーの仕事相手や正義実現委員会ばかり。エデン条約の調印に関する警備について連邦生徒会防衛室長やSRTと連絡を取り合うのはやや気になったが、さすがにそれらがエデン条約締結を阻むとは考えにくいし考えたくない。
一方で自警団のスズミとは友人関係のようで、モモトークの内容は他愛ない話題ばかりだった。テレビでやってた音楽番組で気になるアーティストがいただの模試のあの問題が難しかっただの、どれもテロへと繋がっていそうになかった。それが高頻度でやりくりされるため、さすがに疑うのも疲れてくるほどだった。
直近で送られたメッセージもパーソナライズされたショートムービーの感想を漏らすだけ。念の為ムービーもチェックしたが誰かも知らない大人が何が面白いのか分からない馬鹿をやらかすもので、時間を無駄にしたとナギサは思わず苛立ってしまう。
葉を隠すなら森の中、とは推理小説での台詞からの引用だったか。
ナギサは気づかなかった。そういった膨大な量の雑談の中にサオリとスズミは重要な情報のやり取りを仕込んでいる、と。
サオリからのメッセージを受け取ったスズミはモモトークでショートムービーへの感想を書き込み、次の日にD.U.地区のシャーレに向かって出発した。偶然か必然か、その日はスズミがシャーレの当番の日だった。
「おはようございます、先生。今日はよろしくお願いします」
「おはようございます。では早速業務に取り掛かりましょう」
"先生"がトリニティの補習授業部を受け持っている間も先生がこなさなければならない事務業務は山のようにある。シャーレで留守番しているZ-ONEとシャーレ当番の生徒がそれを処理する。そんな日々をZ-ONEはここ最近送っていた。
"先生"からZ-ONEへの情報共有はある程度行われていたが、"先生"も補習授業部に専念するためにその内容は簡潔なもの。詳しい内容をZ-ONEが知るすべは無い……筈だったが、当番で来たミカが遠慮なく喋るのである程度は把握している。
「ところで先生。サオリさんから言伝があります」
「ああ、補習授業を受けている最中だそうですね。彼女から何か?」
「ティーパーティーホストを務めるナギサさんの力になってほしい、だそうです」
仕事に一区切り付いた頃合いを見計らい、スズミが本題を切り出した。Z-ONEがキーボードを叩く手が一瞬だけ止まる。
「今回のトリニティに関する件は"先生"の裁量に任せるべきだと私は思います。そういうのを確か、船頭多くして……すみませんが忘れました」
「ああ、料理人が多すぎるとスープが駄目になる、ですか。しかし"先生"は目の前の補習授業部に専念するあまり、ナギサさんやミカさんまで気を回す余裕が無いように見受けられます」
「ナギサと面識がない私が言ったところで聞きやしないでしょう。私より適役のミカ達がナギサに黙っておく選択をした以上、私の出る幕はありません」
「それを加味してもなおどうにかならないか、とサオリさんは希望しているようです。我儘だとは私も思いますが、どうにかなりませんか?」
Z-ONEは暫くの間考え込み、普段A0サイズの図面や地図を乗せるテーブルの上にデュエルモンスターズのカードを並べだした。その数ざっと見ても数百枚。何の意図があって、と思わずZ-ONEを見たスズミは、その表情の真剣さに驚いた。
「この中からカードを1枚だけ取りなさい。本当にナギサが助けを必要としているのなら、その助けに必要なカードが彼女の手に渡るでしょう」
「私が引いてもいいんですか?」
「ええ。そしてノーマルカードを引いたところでスズミが悲観する必要はありません。その時は私はナギサの力になれない。ただそれだけです」
カードの事前情報が無い以上は迷ったところで意味はない。スズミは自然に手が伸びた先のカードを取り、めくって確認する。白くも黒くもないメインデッキに投入する天使族のレベル10最上級モンスターのようだ。
カードテキストもさることながら手にしただけでも分かった。このカードはただのモンスターではないと。およびおそらく自分では召喚すら出来ないだろうと。そして、確かにこのカードならナギサの助けになるかもしれない、とも。
「見たことがないカードですが、先生の以前いた地域での先行販売品ですか?」
「!?」
Z-ONEが目を見開きながらスズミの方へと駆け寄り、スズミの後ろからそのカードを覗き見る。そしてスズミに聞こえない小声で何やら呟き、やがて頷いてからスズミの肩を叩いた。
「いいですかスズミ。そのカードは必ずナギサの手に渡るよう届けて下さい。いいですね?」
「……。分かりました。今日戻ってからナギサさんに手渡すようにします」
スズミが引いたカードは《時械神ラフィオン》。
この守護天使ラファエルの神秘を宿した時間を統べる器の神はセイアの時のようにナギサを守ってくれるのか。それとももっと別の奇蹟をもたらすのか。スズミには想像出来なかった。
物語が原作通り進んでいる関係でZ-ONEの出番は当分ありません。こうなるとまるで別の概念を書いている感覚になります。
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