Z-ONE先生のブルーアーカイブ5D's   作:福留しゅん

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アズサ、補習授業部に己の正体を明かす

 ◆三人称視点◆

 

 第二次特別学力試験の試験会場が爆破されたことを受けて受験できずじまいになった補習授業部は最後の特別学力試験に臨むべくひたすら勉強にうちこんだ。その結果、5人全員が安定して模試でナギサが課した試験範囲と合格ラインを突破できるまでになった。

 

 そして迎えた第三次特別学力試験の前夜。明日の本番に備えて早く眠りに付いた補習授業部の面々だったが、真夜中になってアズサが起き上がり、音を立てずに寝室から出て行った。その様子をハナコが伺い、後を付ける。

 

 トリニティ構内でも使われていない建屋にやってきたアズサはハナコも知らない人物と待ち合わせ、会話し始める。その人物はハナコが覚えているトリニティに所属する生徒全員の顔と名前とは一致しなかった。

 

「アズサ、日程が明日の午前中に変わった。約束の場所で命令を待つように」

「ま、待ってミサキ。明日は……」

「何か問題でも?」

「ま、まだ準備が出来てない。日程を早めるのはリスクが大きすぎる」

「明日の決行は確定事項。しっかり準備しておいて」

「……」

「明日になれば全てが変わるから。私たちのアリウスにも、このトリニティにも、不可逆の大きな変化が起こることになる」

 

 トリニティのティーパーティーホスト、桐藤ナギサのヘイローを破壊する。そのためにアズサはトリニティに潜入している。そうアリウスの生徒を名乗ったミサキは断言した。

 

「上手くやればいい。百合園セイアの時みたいに」

「……分かった。準備しておく」

「……アズサ。忘れてないよね。「vanitas vanitatum」」

「……全ては虚しいもの。どんな努力も、成功も、失敗も……全ては最終的に、無意味なだけ。……一度だって、忘れたことはない」

 

 打ち合わせは終わり、アズサは合宿所へと戻っていく。そんな去っていくアズサの背中を見つめるミサキの眼差しは、アズサに念を押した虚しさよりもどことなく期待がこもっていた。

 

「そう、これで大きく前進する。あとは彼女が上手くやってくれる……」

 

 ミサキの言う彼女とはアズサのことか、もしくは別人のことか。ハナコは後者だと確信したし、何なら彼女とは誰なのかも察しがついた。しかし、相反する2つの推理が思い浮かび、どちらなのかはまだ断定しかねていた。

 

 先回りして合宿所へ戻ったハナコは起きていたヒフミやコハルに、明日の試験会場は正義実現委員が派遣されて建物全体を隔離することを告げた。エデン条約に必要な重要書類の保護を名目にしているが、補習授業部の妨害が目的なのは明白だった。

 

「全く……どうやらナギサさんは本気で私たちを退学させようとしているようですね……」

「どうしてそこまで……」

「……私のせいだ」

 

 そこにアズサが戻って来る。顔色を悪くさせて身体を震わせたアズサの周りにヒフミたちが集まった。

 

「アズサちゃん!? ど、どこに行ってたんですか……?」

「みんな、聞いて。話したいことがある」

「アズサ、それは……」

「サオリ。もう隠しておけないし、隠しておきたくない」

「……。そうか。分かった」

 

 アズサは意を決して補習授業部全員に向けて自分の正体を告白した。ナギサの探しているトリニティの裏切り者が自分で、アリウス分校の出身。今は書類上の身分を偽って任務のためトリニティに潜入している、と。

 

「えっと……何それ? アリウス? どういうこと?」

「アリウス分校……かつてトリニティの連合に反対した、分派の学園です」

「そう、私はここに来るまで、ずっとアリウスの自治区にいた。その任務というのは……ティーパーティーの桐藤ナギサのヘイローを破壊すること」

「「「……っ!?」」」

 

 サオリ以外の面々は息を呑む。

 

「嘘でしょ!? そ、それってつまり……」

「アリウスはティーパーティーを消すためなら何でもしようという覚悟でいる。トリニティと和解したいとか、そういう嘘をついてミカを騙したんだろう」

「なるほど、ミカさんを……確かに彼女は政治には向いてないと言われていましたが……。おそらく全てが終わった後、その罪をミカさんに着せる想定なんでしょうか」

「え、と……サオリちゃん?」

 

 ヒフミの視線が自然とサオリへと向けられる。サオリがアリウス中等部の卒業生なのは公然の事実。ならアズサを刺客にしてナギサの排除をもくろむアリウスの作戦にサオリも関わっているのではないか、と思うのはごく自然のことだった。

 

「事実だ。アリウスはミカ様の純粋な願いを利用してトリニティへの復讐をもくろんでいる」

「……! そうか、サオリはまだミサキたちと連絡を取り合ってるんだな……」

「そうは言っても息災か確認し合う程度だ。ミサキやヒヨリがマダム派に寝返って嘘の情報を吹き込んできていないとも限らないから、全部を鵜呑みには出来ない」

「ミサキやヒヨリに限ってサオリを騙すなんて……」

「そんな甘い考えではマダムの思うがままだ。それはつい最近までアリウスにいたアズサの方が良く分かっているだろ?」

"マダム? ミサキ? ごめん、もうちょっと詳しく説明してもらえるかな?"

「それは……」

「私から話す。私はトリニティに入学する前にマダムに反逆して永久追放された身。アリウスに狙われるなら私の方がいい」

 

 アズサとサオリの会話で固有名詞が飛び交ったので途中で"先生"が手を上げた。言いよどむアズサを制してサオリが名乗り出る。アズサの物騒な発言はとりあえず後回しにし、今は聞くことに徹する。

 

「そもそも"先生"は私がアリウス分校の中等部卒業生とは知っているな?」

"うん、プロフィールに書いてたからね"

「正確には違う。私はアリウス分校の生徒会長に反旗を翻して退学処分で永久追放されたからな。何故か卒業資格だけはくれたからトリニティに入れたが、この選択もマダムの手のうちかもしれない」

"そのマダムって人は? 学園の理事長?"

 

 アズサとサオリの視線が交錯する。それだけでマダムなる者がアリウスの重要人物だろうと"先生"は察した。

 

「いや……マダムはアリウスの生徒会長のことだ。マダムが私たち生徒にそう呼ばせている。人を見た目だけで判断するのは軽率だが、マダムは明らかに子供ではない。なんせ私たちが幼かった頃に起こっていた内戦を終結させたのが彼女だから」

"つまり、アリウスでは大人が生徒会長を務めてるってこと?"

「ああ。それから今に至るまでマダムがアリウスの全てを取り仕切っている。生徒達の生活様式、教育方針、思想から何から全てを」

「思想まで……そう聞くとまるで洗脳教育ですね……」

 

 ふと、"先生"はアビドスで出会った異質な存在、自分と同じくキヴォトスの外から来た黒服のことを思い出す。彼は裏でカイザーPMCと手を組んでホシノを手中にしようとしていた。ゲマトリア、と名乗っていたか。

 

 無論、怪しい大人だからと決めつけるべきではないが、どうしても同じように匂う。己のエゴのために生徒を利用し、苦しめる悪い大人の匂いが。そう予想すると自然と拳に力がこもった。

 

「次にミサキとヒヨリだが、二人はアリウス分校2年生。私の幼馴染だ。ミサキたちはアリウススクワッドになったと聞いてるが、この情報は正しいか?」

「合ってる。アリウススクワッド……マダム直属の特殊部隊に加わってる。それと……」

「ナギサ様のヘイローを破壊するよう命令したのはミサキだな。違うか?」

「……! それもミサキがサオリに教えたのか?」

「いや、それならいい。てっきりマダムからの勅命かもと危惧していたもので」

 

 そこでサオリは口を閉ざす。

 

 ナギサへの復讐はアリウスの憎悪からのものであって生徒会長の命令ではない。それが確認出来ただけでも有力な情報だった。で、あれば、サオリが立案してミカと共に進める計画は問題無く進行中と判断出来る。

 

 問題なのはそれを補習授業部や"先生"達に打ち明けるか、だが……止めた。ここでばらしてしまった結果アリウス分校の生徒たちが再襲撃した際に余計な真似をされると困るからだ。

 

(すまない、アズサ、"先生"、みんな……。終わったら全てを打ち明ける。いくらでも謝罪しよう。けれど、これだけは成し遂げないといけないんだ)

 

 調整代は自分達で持ったままにする。でなければ今までナギサ様にすら黙っていた意味が無い。そうまでしてアリウス側の手勢を削いでおかなければアリウスの現体制を打ち崩すことなど出来やしないから。

 

「明日の朝、アリウス分校の生徒たちがナギサを狙ってトリニティに潜入する。私はそれをどうにか阻止しないと」

「あ、明日……!?」

 

 本館には戒厳令が出ている状態。ナギサの命令で正義実現委員会は本館にいないタイミング。要人襲撃には最適な日に定めるのは当然のことだった。ハナコは頭が回ると評したが、サオリは別の考えが頭に浮かんだが、口にはしない。

 

「……どうしてナギサさんを守ろうとするんですか? それは誰の命令で?」

「……これは誰かに命令されたわけじゃない。私自身の判断だ。桐藤ナギサがいなければ、エデン条約は取り消しになってしまう。キヴォトスの混乱はさらに深まるだろう。その時また、アリウスのような学園が生まれないとは思えない……」

「だから平和のために、ということですか? とっても甘くて、夢のような話ですね。今回の条約の名前と同じぐらい、虚しい響きです」

「……」

「ハナコ。今はそんなことを言っている場合では……」

「アズサちゃんは嘘つきで、裏切り者だった……。トリニティでも本当の姿を隠し、アリウスでも本音を隠していた。アズサちゃんの周辺には、アズサちゃんに騙された人たちしか――」

「――ハナコ」

「……!?」

 

 ハナコの言葉が止まった。いつの間にか彼女の頭部にはサオリの銃口が向けられていたからだ。サオリからハナコに向けられるのは明確な敵意。引き金に指もかけられていて、いつでも火を噴きかねない。

 

"サオリ!"

「頼む。これ以上は喋るな。私はハナコに失望したくない」

「サオリちゃん……」

「それともハナコも……お前もまたトリニティの生徒なのか?」

「!?」

 

 ハナコは目を見開いてサオリへと勢いよく振り向いた。サオリは反射的に引き金を引きたくなったが、ハナコの顔を見て止めた。愕然とした彼女は顔色を変え、震えだし、やがて口を押えてふらついた。慌てて"先生"が彼女を支える。

 

 サオリにとってトリニティは人の醜さのるつぼだ。くだらない誇り、取るに足らない見栄、ろくでもない伝統。アリウスなどという得体の知れない中等部出身の受験組が受ける悪意も相応のもの。そのほとんどを蹴散らし、黙らせてきたサオリだが、今目の前でハナコがアズサに向けた言葉の刃はまさにそれだった。

 

 それにしたってここまでの反応をされるのは予想外だった。ハナコからうかがえるのは後悔、そして自己嫌悪。こちら側が罪悪感を感じる程酷い状態に陥っている。たまらず銃をしまって頭を下げる。

 

「すまない。言い過ぎた」

「い……いえ……。今のは私が悪かったんです。気に病まないでください」

 

 それからサオリは沈黙。補習授業部のみんながこれまでの頑張りを振り返り、そして次に望む最後の試験に臨む決意を固め合った。試験開始時間とアリウス襲撃時間が被っている問題についてはハナコが今度は自分達から仕掛ける番だと提案。"先生"を含めて皆それに乗ることとなった。




エデン条約編を初プレイした時はどんな展開になるかはらはらでした。言いたいことが無いわけじゃないですけど、それでもアリウスとベアトリーチェはいい悪役だったと思います。

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