◆三人称視点◆
「ミカさん、一つ聞かせてください! セイアちゃんを襲撃したのも、あなたの指示だったんですか!?」
ミカが加わったアリウスの部隊の攻撃、その第一波を"先生"の巧みな指揮もあって乗り切った補習授業部一行。攻撃の波が収まったところを見計らってハナコが声を上げて問いかける。
「……? あはっ、ハナコもそんな目をするんだね。期待に答えられなくて残念だけど、そっちはアリウス側の独断だから誰の指示かは知らない。ちょっと驚かそうとしたのは事実だけど、ヘイローを破壊しろとまでは言ってなかった。私は人殺しじゃないもの。あ、ちゃんとアリウスには正式に抗議しておいたから安心してね」
「じゃあ今回のナギサさんの襲撃は?」
「そっちは私の立案でアリウススクワッドが作戦を仕切ってるんじゃない? ねえ、暗殺者の白洲アズサ」
「……っ!」
ナギサはミカとアリウススクワッドが排除を目論み、一方のセイアはミカに隠してアリウスが排除を試みた。先程サオリは語っていた。ナギサ襲撃はマダム、すなわちアリウス生徒会長の命令でなくて良かった、と。
ナギサもセイアもティーパーティーホストなのにこの違い。アリウスやミカの目的や企みはさておき、アリウス生徒会長は復讐以外の何かを見据えている? 判断材料が揃っていくにつれてハナコは真相へと近づいていった。
その時、遠くから戦闘音が聞こえてくる。ミカのティーパーティー権限の戒厳令に背いての接近、それは大聖堂の方からだった。その正体を察したミカは軽く驚きをあらわにしてハナコを睨む。
「シスターフッド……!? ティーパーティーの内紛に介入してくるなんて……!」
「まあ、ちょっとした約束をしましたので」
やがて、シスターフッド、そしてそれを率いる歌住サクラコが体育館へとやってきた。これでアリウスとミカは前方に補習授業部、後方にシスターフッドに挟まれる形となる。
「あはっ。流石にシスターフッドと戦うのは初めてだなー。なるほどね、これが切り札ってこと?」
「……あくまで戦うつもりですか、ミカさん。この状況での勝算がどれくらいか、分からないあなたではないですよね?」
「え? あー、うん。そうだね。頼もしい増援が来ちゃえば強気にもなるよね。でもさ、どんなに美しい鐘だって叩いてみないと音色は分からないよ!」
こうしてミカの合図を引き金に補習授業部とアリウスの部隊の戦いが始まったのだが……おかしい、と真っ先に感じたのはナギサだった。
自分を狙うアリウスの生徒たちの殺気は本物だが、その元凶のはずのミカに全くやる気がない。彼女が本気になったらこの場にいる誰にも手がつけられないほど強いのはナギサが一番良く知っている。本当に自分を排除したいのなら邪魔な補習授業部をアリウスの部隊で足止めして、ミカが単身でナギサを取り押さえれば済む話だ。
これではまるで、アリウスの部隊を浪費しているだけではないか。アリウスとの融和を唱えるミカが何故こんな真似を……。
そこまで考え、ふとナギサはサオリの方を見やる。サオリの過去はナギサも聞いている。彼女はアリウスに改革が必要だと唱えて生徒会長に反逆して追放された。トリニティに入学してもなお彼女はアリウスを気にしているし、何なら以前アリウスとの融和を提案したミカにも反対していなかった。
まさか、アリウスは2つある? トリニティへの復讐を目論む派閥とトリニティとの融和を願う派閥、すなわち現体制派と反体制派で。
もしそうなら今回の一件、ミカとサオリの立ち位置は……、
「……ミカさん」
「ん? なに? どうしたのナギちゃん? もしかして私が裏切り者でショック受けちゃった?」
「後でロールケーキを口にぶち込みますからね。それと「私はみんなに内緒で暗躍した悪い子です」って看板を首からぶら下げて廊下で水の入ったバケツを膝に乗せて正座してもらいます。お手洗いの掃除や中庭の草むしりも覚悟しておきなさい」
「へ!?」
「それとサオリさん、何を私は関係ないって顔をしているんですか。貴女もですよ。勿論ティーパーティーとしての業務もこなしてもらいますから。セイアさんの分も含めてね。あと次赤点を取ったらいかなる事情でも奨学金は打ち切りますので」
「なっ!?」
こんなことだったら、と後悔がよぎったが今ならまだ遅くはない。
結局、今回の件は自分もミカもサオリも、何ならみんな悪かったのだ。
みんなして怪しい素振りを見せて相手を疑って、そのまま誤解を解こうと話し合わなかった、相手を信じられなかった自分たちが。
ハナコもまたナギサの発言を受けて不明確だったアリウス側の状況がパズルのピースのように瞬く間に組み上がっていく。
そんなようやく真実に到達しつつあるハナコの様子を見たミカは嬉しそうに微笑むばかりだった。
「それじゃあ、せっかくだからこっちも切り札に来てもらおっか!」
「切り札……!?」
アズサが警戒をあらわにした次の瞬間、体育館の壁が外側から破壊され、瓦礫が床へと散らばっていく。踏み込んできた一団を目にしたヒフミや"先生"たち、サクラコらシスターフッド、そしてナギサすらも驚く。
「救護騎士団団長、蒼森ミネ。および救護騎士団一同。要請により参りました」
シスターフッドとは別の意味でティーパーティーに干渉されにくい集団の介入により事態は更に混沌となる。そして何より、表向き入院中となっているセイアの介護に回っているだろうミネの登場は、皆にとって衝撃を与えた。
「メイン盾が来たからこれでこっちの勝ちじゃんね。言っとくけどミネ団長も相当強いよ。救護騎士団全体ならシスターフッドにも引けを取らないんじゃない?」
「……ミカさん。そういう黒幕ムーブはもういいですから、事態の収拾を」
「え、えぇ~?」
そんな緊迫した空気は、ナギサの一言で打ち壊される。いい加減にしろ、との批判の目線が鋭い。がくっと力が抜けてしまうミカ。
「ミカ様。今回の救護対象は彼女たちですね。直ちに救護を開始しますがよろしいですね?」
「ちょ、ちょっと待ってミネ団長。外とタイミング合わせなきゃ駄目だから」
「でしたら私からセイア様に連絡を取って正義実行委員会にも作戦開始してもらいましょう。侵入してきたアリウスの部隊の逆包囲も完了しているでしょうし」
「サオリちゃんまで急かさないでよー!」
「は……? どういうことだ聖園ミカ! まさかお前、我らを騙したのか!?」
「えー? アリウス側からも非難されちゃうのぉ?」
ミカが集中砲火を受けてる間にサオリはセイアに電話をかける。向こうは携帯端末を手元に持っていたのか、ワンコールでセイアの声が返ってきた。
「セイアだ。その様子だとそちらは準備が整ったようだね。上手くアリウスの生徒たちはトリニティの自治区に誘導できたかな? ミネ団長とも合流できたようで何よりだよ」
「はい、セイア様。私たちはこれよりミカ様と共に内側から打って出ますので、セイア様は正義実行委員会に外側から食い破るよう命じてください」
「了解だ。ところで現体制派と反体制派と見分ける方法は事前に聞いた通りで良かったかな? 確か見分けがつくバッジを付けてる、だったか」
「はい。それ以外のアリウスの者は全員無力化のうえで拘束してください」
「では直ちにハスミに連絡を……」
「セイアさん!」
通話が終わろうとした瞬間、サオリが耳元に持っていっていた携帯端末に向けてナギサが声を張り上げた。わずかにキーンとの高音が耳の中で鳴り響く。サオリはすぐにスピーカーモードに切り替えた。
「ナギサか。何も知らせなかったことはただ謝るしかない。サオリやアズサを見ていたらミカの案に乗ってみたくなってね。お叱りなら後でたっぷりと受けよう」
「ええ、積もる話は後です」
サオリとナギサは異常事態に動揺するアリウスの面々を見据えた。ミカ、シスターフッド、救護騎士団、そして補習授業部。もはや袋のネズミになったのはアリウスの方だった。
「ではトリニティ、反撃開始だ」
セイアの合図とともに真っ先に飛び出したのはミカでもアズサでもなく、救護騎士団団長のミネだった。跳躍した彼女は高く放物線を描きながらアリウスの部隊へと急降下していく。その間、盾の後ろに仕込んだデュエルディスクで立て続けにカードを展開した。
「魔法カード《融合》を発動し、3体の《V・HERO》を手札融合!」
「えっ!? ちょ、私が近くにいるのに初手からそれ!?」
「父(パテル)と子(フィリウス)と聖霊(サンクトゥス)の御名において、全ての苦しむ者に救護を! 融合召喚!」
ミカが飛び退いたのとミネ、そしてミネが召喚した融合モンスターが落下したのはほぼ同時だった。補習授業部を取り囲むように展開したアリウスの部隊ほぼ中央に落下し、発生する衝撃波で多くの生徒をなぎ倒す。
「三位一体の救護者、《V・HEROトリニティー》! 戦場に、救護の手を!」
ミネと《トリニティー》が暴れまわる様子を目の当たりにして茫然とするサオリ。彼女が単身で戦闘地帯に突入して全員吹っ飛ばす姿は何度か目撃したことがあるが、モンスターと連携しての戦闘を見るのはこれが初めてだった。
どうやら他の補習授業部の面々もハナコを含めて同じだったようで、ナギサだけが誇らしげに含み笑いを浮かべる。彼女もデッキから手札5枚を抜き、目を通してからカードを展開していく。
「ミカさん。殲滅します。私に続きなさい」
「え、あ、うん。今日はナギちゃんのモンスターが前衛なんだね。いいよ、合わせるから」
「シンクロ召喚。《マスターフレア・ヒュペリオン》」
「シンクロ召喚! 《天穹覇龍ドラゴアセンション》!」
ナギサが召喚したシンクロモンスターが動揺の広がるアリウスの部隊に突撃。ミカ本人がそれに続き、ミカのシンクロモンスターが援護攻撃する。対するアリウスの面々もデュエルディスクを展開しようとするが、そうはさせじとシスターフッドの者達が一斉射撃で妨害する。
「あいにくデュエル中ではないのでリアルダイレクトアタックでのプレイングの妨害は反則ではありませんので。卑怯とは言いませんよね?」
体育館の外でもアリウスと正義実現委員会との大規模な戦闘が始まったようで、いたるところから爆発音が聞こえてくる。「凄い……」と感嘆の声を漏らしたのはヒフミか、それともコハルか。
銃を構えて自分もと飛び出そうとするアズサの肩にサオリに手が置かれた。
「アズサ。私たちも加勢するぞ。ミカ様とミネ団長が怪我をされたら大変だ」
「……! 分かった」
「雌伏のハヤブサよ。逆境の中で研ぎ澄まされし爪を挙げ、反逆の翼翻せ」
「漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙、今ここに降臨しろ!」
「エクシーズ召喚! 現れろランク4! 《RR-ライズ・ファルコン》!」
「エクシーズ召喚! 現れろランク4、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!」
サオリとアズサが各々のエクシーズモンスターとともに突撃。ミカ達に加わる。
しばし圧倒される"先生"の脇腹が急にくすぐったさが襲い、間の抜けた悲鳴を発する。犯人はハナコだったが、"先生"を見つめるその眼差しは真剣なものだった。
「各々で戦闘を始めちゃいましたけど、じきに収集がつかなくなるでしょう。"先生"、取りまとめとみなさんへの指揮をお願いしますね」
「ええ。私もさすがにモンスターのコントロールと指揮は兼任出来ませんから」
"……。分かった。じゃあみんな、私の指示に従って"
「「「了解(です)(だよ)(だ)!!」」」
その後の戦局は特に語る必要もない。
予定調和のようにトリニティがアリウスを圧倒し、アリウスの乱は夜明けまでには鎮圧された。サオリに同調した反体制側はすぐさま投降し、抵抗したり退却を図った現体制派は残らず拘束された。
そして全力疾走の末に第三次特別学力試験に臨んだ補習授業部一同の採点結果は以下の通りとなった。それをみんなが喜びあったのは言うまでもない。
ハナコ:100点 合格
アズサ:97点 合格
コハル:91点 合格
ヒフミ:94点 合格
サオリ:95点 合格
《V・HEROトリニティー》の召喚口上は我ながら上手く書けたと思います。
◇蒼森ミネ
使用デッキは「V・HERO」主体の【HERO】
エースモンスターは《V・HEROトリニティー》、《V・HEROアドレイション》
切り札は《D-HEROデストロイフェニックスガイ》、《D-HERO Bloo-D》
◇歌住サクラコ
使用デッキはコンタクト融合主体の【HERO】
エースモンスターは《H・HEROネオス》
切り札は《E・HEROシャイニング・ネオス・ウィングマン》、《*****■■■・■■■》
◇白洲アズサ
使用デッキは【幻影騎士団】
エースモンスターは《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》
切り札は《ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン》
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