Z-ONE先生のブルーアーカイブ5D's   作:福留しゅん

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スズミ、ベアトリーチェの所業を告白する

 ◆三人称視点◆

 

「スズミ、どうした? まさかティーパーティーが終わるまで待ってたのか? モモトークを入れてくれれば終わった後に連絡を入れたのに」

「サオリさん。内密に話があります。二人きりが望ましいですが、サオリさんが信用出来る方を連れてきても構いません」

 

 朝早くから開始したティーパーティーが閉会となったのは日が沈みかける夕刻になった。ようやく終わったかと伸びをしながら退室しようとしたサオリだったが、廊下ではスズミが彼女を待っていた。

 

 普段はあまり表情を動かさないスズミがいつになく真剣、そして深刻な面持ちをしていることからもただごとではないと感じ取ったサオリ。そんな2人の様子に同じく退室中のティーパーティー参加者が気づかぬわけがなかった。

 

「あら。自警団のスズミさん。ごきげんよう。サオリさんに用ですか?」

「こんにちは、ナギサさん。少しサオリさんをお借りします」

「いや、もう隠し事は無しだ。ナギサ様達にも聞いてもらった方がいい。ナギサ様、ミカ様。すみませんがもう少し時間は取れますか?」

「サオリさんがそれが望ましいと判断したのなら断る理由はありません」

 

 ナギサとミカは回れ右をしてティーパーティーは延長になった。まだ部屋の中で談話していたサクラコとミネもそれに気付き、ナギサに促されて同席する。ミカがセイアに再びオンラインミーティング参加を呼び掛けると、待ち構えていたかのようにすぐに接続される。

 

「スズミ。アリウスとは全面戦争してマダムを失脚させるしかない。もう私たちだけで秘密裏に進める段階は過ぎて、トリニティが一丸となって対処する必要がある」

「なるほど。ではなおさら知ってほしいことが……」

「え、ちょっと待って。もしかして守月スズミもアリウスのスパイなの?」

「ミカさん。それは後で追及するとして、今は本題を話してもらいましょう。どうぞ続けてください」

「では……唐突な質問ですが、学園を卒業した生徒はどこに行くのでしょうか?」

 

 本当に唐突な質問にサオリもミカも困惑するが、ナギサは特に反応を示さずに紅茶に口を付ける。

 

「基本的にはキヴォトスから巣立っていきますね。留年すれば学生のままですし、大学進学せずに就職してキヴォトスに留まったり退学したまま大人になる生徒も中にはいます。……もしかしてアリウスは違うんですか?」

「……これが、アリウスの卒業生の進路です」

 

 スズミはテーブルの上に何枚かカードを並べた。

 

 《喜劇のデスピアン》

 《悲劇のデスピアン》

 《デスピアの凶劇》

 

 ナギサたち純トリニティの生徒たちは見たこともないカードだったが、サオリは今でも鮮明に思い出せる。これはマダムことアリウス生徒会長がデュエルで使ってきた【デスピア】デッキのモンスターたちだ。

 

「マダムの「デスピア」モンスターが進路って、どういうことだ? まさか先輩たちはマダムにカード化されたのか?」

「……」

 

 続けてスズミはもう1枚カードをテーブルの上に置く。

 

 《凶導の福音》

 

「そ、それは……!」

 

 今度のもナギサたちが初見のカード……と思われたが、サクラコだけは声を上げて勢いよく立ち上がった。拍子に椅子が音を立てて倒れる。サクラコは羞恥心で顔を真っ赤にしながら椅子をもとに戻し、腰を落ち着かせる。

 

 一方のサオリも見覚えがある。それはヒヨリやミサキと同様にサオリが幼い頃から知っていて、かつアリウススクワッドの一員、アツコが使う【ドラグマ】デッキの儀式カードだ。明らかに不穏な雰囲気を持っていると感想を抱いている。

 

「サクラコさん、このカードに見覚えが?」

「あ、いえ。取り乱しました……。こほん、それは「ユスティナ聖徒会」のシスターたちが使っていた「ドラグマ」カードです」

 

 ユスティナ聖徒会。数百年前に消えた「戒律の守護者達」。約束を破る者たちへの対処を担う制約の代行者。拷問で爪を剥がす等かなり過激な集団であった。その後身が今のシスターフッドだが、シスターフッドがトリニティ内で政治に関わらず常に中立なのはこうした歴史的背景もある。

 

「もはや後身のシスターフッドでさえ使う者がいなくなったデッキテーマが、アリウスには伝わっていたのですか?」

「これは姫……アリウスで内戦が起こる前にアリウス自治区を統治していた生徒会長の系譜で代々伝わってきた、アツコのカードです。アリウス自治区の会長はそれまで世襲性。内戦なんか無ければアツコがアリウス分校の生徒会長になっていたことでしょう」

「アリウス生徒会長の一族に伝わる……? まさか、アリウス生徒会長はユスティナ聖徒会の子孫だったというのですか?」

「……。少なくとも、トリニティへの統合に反対したアリウスの脱出を手引したのはユスティナ聖徒会です。当時アリウスを最も糾弾した彼女らが、どうしてアリウスのトリニティ自治区脱出と再建を主導したかは……私にも分かりません」

 

 言葉を失うとはまさにこのこと。サクラコはあまりの衝撃で何か言おうとしても口から空気が漏れるばかりで言葉にならなかった。そしてトリニティ中をひっくり返してでも当時の資料を探し出さなくては、との使命感が芽生えた。

 

 ドラグマのテーマ自体は2人の聖女《教導の聖女エクレシア》と《教導の騎士フルルドリス》、そして《教導の大神祇官》を要とする。これらは今のシスターフッドが使っても全く違和感は無い。

 

 一方で儀式モンスターの《凶導の白聖骸》や《凶導の白騎士》等は明らかに不穏な雰囲気を漂わせている。まるでユスティナ聖徒会、そしてそれを継承した旧アリウス生徒会長一族の在り方を暗示するかのように。

 

「話を戻しましょう。それで、アリウスの元生徒会長一族が継承してきたその儀式カードとアリウスの卒業生が何の関係が?」

「……一年に一回、アリウスでも卒業式が執り行われます。トリニティでは卒業生の卒業を在校生や自治区に住む市民が祝いますが、アリウスでは卒業生だけが体育館に集められ、在校生はその日外出禁止なんです。そして……」

「……! まさか……!」

「マダムが壇上でこの《凶導の福音》を発動して、卒業生の先輩たちをデスピアモンスターに……!」

 

 ばぁん!

 

 サオリがテーブルを叩いた音が室内に響き渡り、テーブルの上に乗せられた紅茶や菓子が激しく揺れる。サオリは怒りで歯が欠けてしまいそうになるほど強く食いしばり、両手を握りしめる。

 

 サオリがこぼす涙がテーブルの上に滴り落ち、テーブルクロスのシミとなる。スズミは何か声をかけようとしたが、一体何と言えばいい? 地獄のような内戦を終わらせたことを感謝し尊敬していた相手が羽ばたこうとする子の未来を摘んでいたなどと。それとも生徒会長本人が言うようにただ虚しいだけであれば良かったのに余計なあこがれを抱いたサオリが馬鹿だったとでも言えと?

 

「マダム、ベアトリーチェ……! 貴女にとって、アリウスは忠実な奴隷でしか、生贄でしかなかったのか……!?」

「よしなよサオリ。一人でアリウスに突撃したって返り討ちにあうのは目に見えてるって」

 

 銃を手に足早に退室しようとするサオリをミカが呼び止めた。サオリは殺気すら放つ鋭さでミカを睨みつけたが、ミカは涼しい風を受けたように平然と彼女を見据える。サオリは深く深呼吸をし、自分の頬を叩き、再び席についた。サオリの頬は紅葉のような形が真っ赤に染まっていた。

 

「つまり、アリウスの残存勢力は半分以下になった在校生だけでなくモンスター化した卒業生も加わる可能性がある、と」

「デスピア化したアリウスの元生徒を治す手段は?」

「無理だろうね。《融合解除》や《シンクロキャンセル》と違って儀式カードを経たモンスターは不可逆的な変貌を遂げてる。眠らせるのがせめてもの情けだろう」

「デスピアをドラグマに戻すカードは無いんですか? それを使えばあるいは……」

「少なくともシスターフッドの記録には残っていなかったと記憶してます……」

 

 その場が静寂に包まれる。各々どのような手段ならアリウスの卒業生たちを元のキヴォトスの人に戻せるかを考えたが、特に思い付くような解決法は見いだせなかった。しかし誰もが認めたくなかった。もう手遅れだとは。

 

「スズミさん。デスピア化した元生徒のヘイローはどうなっていましたか?」

「……。あまり気にしてなかったのでうろ覚えですけど、デスピア化した卒業生からはヘイローが消えてました」

「ん? ヘイローの形が歪になってもいないし、ヒビが入ったり砕け散ったりもしてないの?」

「いえ。もしそうだったら印象に残ってたと思います」

「ただヘイローが消えてるだけだったら意識が無いだけかもしれませんね。デスピアモンスターとしてのテクスチャーを剥がせばあるいは……?」

「問題はどうやるのかってところなんだけど。私の《閃珖竜スターダスト》も浄化の神秘はあるけれど、効くかは分からないよ」

「卒業生については戦闘不能にした後拘束して、治す方法は後で模索すべきだろう。この場で議論しても埒が明かないよ」

 

 ベアトリーチェ、とサオリが名を叫んだアリウスの現生徒会長。彼女はセイアを殺害し、エデン条約調印式でアリウスをけしかけ、アリウス卒業生をデスピア化させ、そもそも内戦に介入してアリウスを掌握し、一体何を目論んでいるのか? アリウスにいたサオリやスズミを含めて誰も見当がつかなかった。

 

「こうなれば一刻の猶予もありません。直ちにアリウス自治区へと赴いて全員救護しなければ」

「セイアさんや私の暗殺未遂を大義名分にすればエデン条約調印を待たずに先制的自衛権を行使出来るとは思いますが、学園同士の全面戦争に発展しては少なくない犠牲を払うことになります」

「エデン条約調印式での強襲を退けて疲弊したアリウスへ攻め入る。当初の予定どおりが一番堅実かと思いますが」

「甘いです! 追い詰められたアリウス生徒会長がアリウスの生徒を生贄に捧げて私たちも知らない神を召喚してくるかもしれません!」

「んー。そんな難しく考えなくていいんじゃないかな?」

 

 ミカは自分の髪を指で巻きながら呑気にも聞こえる調子で発言した。本人から言わせれば呑気ではなく余裕なんだと否定してくるだろうが。

 

「エデン条約調印式で向こうが人員を多く割いて強襲してくるのは分かってるんだから、同じタイミングでこっちからも攻めちゃえばいいんだよ」

 

 それはまさに守り手が攻め手となる逆転の発想だ。

 しかし口で言うのは簡単だが、多くの課題が山積みなのは皆の共通認識だった。

 

「アリウスはカタコンベを活用してこちらに部隊を派遣してくる以上、古聖堂への侵攻と同時にトリニティの攻略もしかけてくる可能性が高いです。古聖堂とトリニティ自治区の防衛に加えてアリウス攻略に人を割くとなると、余裕があまり……」

「古聖堂の防衛こそゲヘナ側にもっと人員を投入してもらうべきだろう。私がゲヘナに赴いて交渉すればそこまで無碍にはされないさ」

「いけませんセイア様! 貴女はまだ安静にしていなければいけない救護対象です。出歩くどころかゲヘナに行くなんてもってのほかで……!」

「同情を買いたいわけじゃないが、だからこそ向こうも真剣に検討してくれるだろう」

「何ならゲヘナもアリウスと密約交わしててこっちをはめるつもりだろってでっち上げてもいいと思うよ☆」

「ミカさんにしては察しが良いじゃないですか」

 

 付き人は下がらせたのでナギサは自分で紅茶をティーカップに注ぎ入れる。それから壺から砂糖をすくい、中へと入れてかき混ぜる。ミルクは入れない。紅茶の風味が損なわれるから。

 

「え……? 半分冗談で言ったつもりだったんだけど?」

「ゲヘナ側の思惑は単純ですよ。万魔殿はエデン条約調印式まではこぎつけたい、風紀委員は締結まで持ち込みたい。そもそもあの万魔殿の議長が連邦生徒会長が仲介しなくなったエデン条約に前のめりなのはおかしいと思いませんか? D.U.ではなく古聖堂を会場に指定したのも向こうですし、アリウスからの囁きに乗っていても不思議ではありません」

「うーん。言われてみればそうかも……」

「一方の風紀委員会ですが、委員長以外大した事ないと言われているそうですね。アビドスでは便利屋68でしたっけ? ゲヘナの問題児相手に一蹴されたそうですし。あちらとしてはこちらの正義実現委員会の手を借りられるようになれば来年度も安泰でしょうね」

「なるほどねー。ゲヘナの連中も一枚岩ってわけじゃないのね」

 

 だから補習授業部の第二次特別学力試験の会場をゲヘナに設定して向こうに迷惑をかけてもエデン条約は揺るぎない、と言っていたのか、とサオリは納得した。

 

「アリウスとの密約の有無はさておき、協力を要請すれば万魔殿は快諾するさ。どうせ風紀委員会に人を更に動員するよう命令するだけだからね。嫌がらせする絶好の口実が出来た、と喜んでくれるまであるかもしれないよ」

「わーお。向こうの風紀委員長さんにはちょっと同情してあげてもいいかな」

「これでアリウス攻略に正義実現委員会のメンバーをある程度回せるようになりましたが、SRTへ協力要請するにせよ本来の契約はあくまでエデン条約締結に関してですよね。先制防衛を加味しても連邦生徒会が承認するかは不透明です」

「それは私が連邦生徒会と交渉してきます。幸いにも防衛室長は理解してくれていますから、何とか承認してもらってきます」

「残るは……アリウスの現生徒会長ですか」

 

 一番の問題点はそれ。いかにしてベアトリーチェを失脚させるか。

 

 無論サオリは再びデュエルした時に備えてデッキを改良しているが、デュエル外となると彼女を上回れる気がしない。それほどベアトリーチェは狡猾で底知れず、対峙して無事で済む保証が無いからだ。

 

「ミカさんとツルギさんのタッグで乱戦に持ち込みますか?」

「それなら上手くデュエルに持ち込めるよう舌戦で勝つべきだろうね。彼女は以前サオリとのデュエルには応じたんだろう? なら大人であってもデュエリストだから、デュエルの結果には従わないなどとは言ってこないさ」

「所詮子どものお遊びだからって開き直ってこない? 大丈夫?」

 

 キヴォトスにおいてデュエル、すなわち決闘の結果は絶対。負けたからと相手が尻尾巻いて逃げてしまい状況が全く進展しなかった、などという事態は本来ありえないのだが、明らかにキヴォトスの外から来ただろうベアトリーチェにその理屈が通用するとは限らない。

 

「……。マダム以外の大人の立会人がいればもしかしたら?」

「そうは言いましても、"先生"はエデン条約調印の立会人になっていただくてはいけません。ゲヘナが条約締結を土壇場で反故する可能性も無くはないですし、参加は必須です。連邦生徒会が我関せずを貫いている以上、連邦生徒会役員を代役には立てられないでしょう」

「なら、もう一人の先生に来ていただかなければいけませんね」

 

 サオリやミカの頭にもう一人の先生が思い浮かぶ。

 Z-ONE。ティーパーティー三名に時械神のカードを授けたデュエリスト。

 

 エデン条約調印式、その日が刻一刻と迫ってくる。

 アリウスの、そしてトリニティの行く末を定める決戦の時は近い。




おかしい。本当なら3章と4章は原作通りの順で消化するはずだったのに、いざ書いてみたら同時進行になったでござる。

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