「先生、悪いのだけれど帰らなきゃいけなくなった」
「仕事は落ち着いていますから、正当な理由があれば早退も問題ありません」
「私が留守の間にアコ……風紀委員の行政官なのだけれど、勝手に部隊を動かしたみたいだから。はぁ……めんどうくさいけど、現場に向かう」
「そうですか。お疲れ様です。急いでいるのなら送りますよ」
ヒナの頑張りもあって仕事の消化も順調に進みましたが、携帯端末に連絡が入るとヒナはため息を漏らして帰り支度を初めました。こちらとしても明日に持ち越しても良い分を残すのみとなっていたので、構わないでしょう。
しかしシャーレのオフィスビルからゲヘナに帰るのもひと手間かかりますし、現場とやらがどこだろうと時間を要することでしょう。でしたらちょうどいい機会ですし、小回りの効く私のDホイールの出番でしょう。
「提案はありがたく受け取っておく。けれどヘリコプターを飛ばした方が……」
「Dホイールなら時速300km以上は出せますからさほど時間差はありませんよ」
「……そう、ならお言葉に甘えさせてもらう」
そうと決まれば私は机の周りを整理してからパソコンをシャットダウンし、連邦生徒会の制服から私もよく知る不動遊星の服へと着替えました。それからデュエルディスクとデッキ、ヘルメットを手に執務室を後にします。
駐車場に停めていたDホイールのモーメントを起動。まずはヒナに座席にまたがってもらい、それから私が彼女の前にまたがります。二人乗りを考慮されてないのでやや狭いですが、互いに密着すればいいでしょう。
なおヒナにヘルメットを被るように指示したのですが、キヴォトスの人は無くても問題ないと当たり前のように返事を受けています。
「ならせめて髪を結わえなさい。せっかくの手入れの行き届いた長く瑞々しい髪がタイヤに絡まって傷んでしまいますから」
「そ、そう……? 先生がそう言うのなら……」
「後ろを向きなさい。私が結わえましょう」
「えっ!? い、いえ! 自分でやるから……!」
振り落とされないようしっかり私に掴まるように伝えてからDホイールを走らせます。信号の多い市街地は普通のバイクのように走行して安全運転を心がけ、ハイウェイに入ってから速度を出すようにしましょう。
キヴォトスはネオ童実野シティのサテライトに引けを取らないぐらい治安がよろしくなく、道中ふと視線を脇にそらすと揉め事が起こっていました。しかも重火器の出番となる場合が非常に多いです。キヴォトスの人が頑丈なのを差し引いても土地柄で割り切るべきなのでしょう。
ハイウェイに入ってから徐々に加速していきます。都市間を結ぶ大動脈は直線が多いので速度が出しやすくて爽快ですね。
私も研究者になる前はよく飛ばしたものです。もっとも、はるか遠い過去なので文字としての情報しか思い出せませんが。
「今更ですがハイウェイでもバイクの二人乗りして交通違反にはなりませんか?」
「キヴォトスでは合法。ただし事故を起こしても保険は期待しない方がいい」
「それを聞いて安心しました。少し飛ばしますよ」
「私は大丈夫だから先生の好きなように速度を出して」
私は制限速度と現在の速度を逐次確認しながら前を行く車の隙間を縫うように進みます。しかしDホイールの性能を考えればこの程度は慣らし運転のようなもの。いささか物足りないですね。
ハイウェイに入って少し経った頃、後方からサイレンの音が聞こえてきました。緊急車両が接近しているようなので後方を確認すると……ヴァルキューレ警察学校の生徒が数名ほどバイクを飛ばしてきていますね。
「そこの赤いバイク、減速して路肩に止まりなさい」
どうやら私を取り締まりに出動してきたようです。そこまで速度超過はしていませんでしたが、二人乗りであることも加味されたのかもしれませんね。普通なら大人しく言うことを聞いて切符を切られるべきなのでしょうが……。
「ヒナ。この場合は指示に従うべきですか?」
「無視していい。そのまま行って」
「キヴォトスでは公的機関に逆らっても問題にならない、と?」
「単に切符切って点数かせぎたいだけだから。強硬手段に出られても実力行使で黙らせればいいだけ」
それでいいのか?と疑問も過ぎりましたが、それがキヴォトスの常識なのでしょう。私はヴァルキューレ生の警告を聞こえなかったことにし、Dホイールを少し加速させました。
それで大人しく従う気がないと向こうも悟ったようで、アクセルを吹かして追走してきます。
「止まれ! それ以上は実力行使に出るぞ!」
ヴァルキューレの生徒は銃火器の照準をこちらへと向けてきました。このままだと私やDホイールが蜂の巣にされてしまいそうです。しかし向こうはDホイールでないようですから、性能差に任せて加速して振り切ってしまいましょうかね。
「はぁ……しょうがない。蹴散らす」
ヒナは肩に背負っていた銃を弄り、まさかのカードプレートを組み立てました。それから腰のカードホルダーから取り出したデッキを入れ、手札5枚をドローします。なんとヒナの愛銃はデュエルディスクも兼ねているようです。
ヒナはヴァルキューレの生徒にデュエルを挑む……様子でもありません。どうやらデュエルモンスターズをリアルファイトに活用するようです。リンから説明だけはされてましたが、本当に私の世界に似ていますね。
「私は手札の《DDケルベロス》と《DDスワラル・スライム》を《DDスワラル・スライム》の効果を発動して手札融合」
「融合カード無しで融合、ですって……!?」
成程。これではユウカ達ミレニアムの生徒達が焦るのも無理はありません。融合召喚がこれだとエクシーズ召喚は2体分のエクシーズ素材になれるモンスターが登場していてもおかしくありませんね。
「融合召喚。生誕せよ、《DDD烈火王テムジン》」
現れたレベル6の融合モンスターはヒナの命令を受けて追跡してくるヴァルキューレの生徒へ襲いかかりました。ヴァルキューレの生徒側はさすがにいきなりモンスターをけしかけられるとまでは思ってなかったようで、無茶な回避で横転する生徒も何名か発生しました。
まだ後を追ってくるヴァルキューレの生徒もようやく事の深刻さを把握したようで、ハンドル部分にデュエルディスクをセット。デッキから手札になるカードをドローします。
「制圧する! わたしは魔法カード《二重召喚》を発動し、《ゲート・ブロッカー》と《ジュッテ・ナイト》を通常召喚! そしてレベル4の《ゲート・ブロッカー》にレベル2の《ジュッテ・ナイト》をチューニング!」
本来ならモンスター効果や魔法カードを駆使して緻密な戦術を立てるのがデュエルです。けれど今回はリアルファイトの延長線上なのもあってかターンという概念も無く、相手にリアルダイレクトアタックされる前に強力なモンスターを立てることが優先されるようですね。
「であえ、《ゴヨウ・ガーディアン》! お前達を逮捕する!」
《ゴヨウ・ガーディアン》。レベル6でありながら攻撃力2,800もある禁止級の強さを持つシンクロモンスター。私の世界でもセキュリティのみが使用できるポリスモンスターです。不動遊星の時代ではやすやすとは倒せない難敵だと位置づけられていました。
「……はあ、めんどうくさい相手。私は《DDゴースト》を召喚する」
ヒナが召喚したのはチューナーモンスター。このままDDの大型シンクロモンスターを呼び出すのかと思いましたが、ヴァルキューレ生を鋭く見据えるヒナの横顔を目の端にとらえて違うと分かりました。
「勿体ないけれど見せてあげる。魔王の力を」
その言葉を発したヒナの様子は小柄な少女とは思えない迫力と威圧感があり、その矛先であるヴァルキューレの生徒達が軽く悲鳴を上げるほどでした。
「レベル6の《DDD烈火王テムジン》にレベル2の《DDゴースト》をチューニング。神に背く悪魔を束ねし魔王よ。混沌渦巻く現し世に陰りをもたらさん」
《DDゴースト》が2つの緑のリングとなり6つの星になった《DDD烈火王テムジン》を囲いました。
「シンクロ召喚。来なさい、《魔王龍べエルゼ》」
ヒナが召喚したレベル8のシンクロモンスターは異形のドラゴンでした。悪魔族モンスターであっても不思議ではないほど禍々しく、居合わせたものに恐怖と絶望を与えてきます。
これほどまでの邪悪な存在感を放つなど、通常のモンスターでは考えられません。まるで不動遊星達シグナーが呼び出すシグナー竜の対極。しかしシグナー達が宿敵としたダークシグナーの神々ともまた異なった闇が感じられます。
「《魔王龍ベエルゼ》で《ゴヨウ・ガーディアン》に攻撃。バエルズ・カーニバル」
《魔王龍ベエルゼ》の腕のようだった双頭のドラゴンが《ゴヨウ・ガーディアン》へと食いかかり、その身体を引きちぎります。それはさながら攻撃名のとおり魔王の食事風景でした。
「う、うわぁぁっ!?」
恐怖に駆られてハンドル操作を誤ったヴァルキューレ生のバイクが横転、クラッシュしました。
◇空崎ヒナ
使用デッキは【DD】
エースモンスターは《魔王龍ベエルゼ》。
切り札は《魔王超龍ベエルゼウス》。
本当ならEXデッキもDDDで統一したいが、ベエルゼがしっくりくるので使ってる。
ヒナが使うベエルゼの人体部分はどことなくヒナに似ている。
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