Z-ONE先生のブルーアーカイブ5D's   作:福留しゅん

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ナギサ、ミサキと交戦する

 ◆三人称視点◆

 

 どこか無人の廃墟にて。

 エデン条約調印式の襲撃に備えてアリウススクワッドが集結していた。

 

「……準備は問題なし。そっちは?」

「は、はい! 終わりました。チェックもできてますし、色々と確認も……」

「あの人形っぽい人との接触は?」

「いい顔はしなかったけれど協力はしてくれるみたい」

「……なら問題無さそうかな。全ては整った」

「こ、これから辛いことになっていくんですね、みんな苦しむんですね……ですが、仕方がありません」

 

 そのうちの二人はミサキとヒヨリ。いずれも過去にZ-ONEやミカが遭遇した子どもで、サオリの幼馴染だ。現在のアリウスの状況をサオリに連絡していたのはこの二人である。

 

 ミサキとヒヨリ、どちらも時械神を目撃したのもあって考えはサオリ寄り。アリウスにとっての裏切り行為とも言える情報漏洩もサオリならアリウスの現状を外から変えてくれるという期待を込めてだった。

 

 この二人、当初の予定ではナギサを襲撃する部隊に加わり、どさくさに紛れてアリウスから離脱してサオリと合流するつもりだった。それなのになおもアリウススクワッドとして作戦行動するのはベアトリーチェ直々に釘を差されたのもあったが、もう一つ重大な理由がある。

 

 それがもう一人のアリウススクワッド、アツコ。

 

 彼女に異変が起こったのはナギサに襲撃をかける少し前のこと。ベアトリーチェに一人で呼び出された彼女は、ミサキたちのもとへ帰ってきた時には紫色だった髪が真っ白に染まっていた。マスクを外すと瞳の色も血のような真っ赤に変わっていた。

 

 アツコの変化は外見だけではなかった。まるで人が変わったように今まで浮かべたことのない表情を浮かべるようになった。微笑みもどこか魔性な魅力を伴うようになり、ミサキたちにはアツコが何を考えているのか全く分からなくなった。

 

 アツコを問い質した時に歌い出した鼻歌がまだミサキとヒヨリの耳にはこびり付いている。

 アツコがベアトリーチェに何かされた、と気づいた頃にはもう遅かった。

 ヒヨリはアツコから受けた印象をこう表現した。

 

「ま、まるで姫ちゃんが使ってる《赫の聖女カルテシア》みたいですよね……」

 

 もはやミサキとヒヨリにはベアトリーチェの尖兵であり続ける以外選択肢が残されていなかった。それが例えサオリを裏切ることになっても。アツコを守るために二人はサオリの敵に回った。

 

「えへへ……最後ですしサオリ姉さんに電話してもいいですか?」

「……そうだね。敵味方別れてもせめて最後まで義理は果たそう」

 

 ヒヨリは携帯端末を取り出してサオリへと電話をかける。サオリがアリウスを追放されてからはスパイ行動がベアトリーチェにバレないよう回りくどい連絡手段を取っていたので、今日のように直接電話をかけるのは随分と久しぶりだった。

 

「サオリだ。どうしたヒヨリ、緊急時以外かけないようにしようと決めてたのに、何かあったのか?」

 

 向こうから聞き慣れた、けれどとても懐かしい声が聞こえてきた。

 思わず色々と話したい気持ちを何とかこらえる。

 

「えへへ……元気そうでなによりです……」

「あいにくアリウスが懐かしくなるぐらいやることが多くて困ってる。今すぐにでもこっちに来て手伝ってほしいぐらいだ」

「こんな私でも、役に立てるなら……」

「ヒヨリ、今は懐かしんでる場合じゃない。貸して」

「えっ!? 少々お待ちを! ちゃんと私から言いますから……!」

 

 手を伸ばしてくるミサキから自分の携帯端末を守るヒヨリ。

 電話の向こうからサオリの懐かしみがこもった笑い声が聞こえてきた。

 

「あの……サオリ姉さん。この前リークした古聖堂襲撃作戦なんですけど……」

「ああ。巡航ミサイルを落とした後にカタコンベから侵攻するんだったな」

「実はですね……準備した巡航ミサイルは3発じゃないんです」

「……! 私に知らせなかった4発目があるのか」

 

 サオリがSRTを派遣して巡航ミサイル発射を阻止する要が二人からのリーク情報。それが嘘だったならもはや発射は防げない。高速で飛ぶ巡航ミサイルの撃墜は現実的でなく、着弾前に撃ち落とす他なくなった。

 

「えへへ……あと巡航ミサイルの中には永続罠《ディメンション・ガーディアン》が入ってるので、破壊は出来ません……」

「……それと《攻撃の無力化》対策に発射してからすぐに《大寒波》が発動するようになってるから」

「えへへ……最後は古聖堂から撃ち落とすつもりだったんですよね……? 悔しいでしょうねぇ」

「随分と用意周到だな。さすがはマダムと言うべきか……」

 

 焦ったり怒ったりする声が向こうから聞こえてくるかと思ったら、サオリの返答はそのどれとも違った。落ち着いた様子で分析してくるせいで逆にネタバラシしたヒヨリの方が不安に駆られた。

 

「ミサキとヒヨリには悪かったが送られてくる情報を全部信用したわけじゃなかったからな。嘘が混ざっている可能性は常に考えていた」

「……じゃあ古聖堂に巡航ミサイルが直撃しても大丈夫なように対策は練ってるんだ。どんな風なのか聞いても?」

「それは見てからのお楽しみだ。もっとも、そっちが地下のカタコンベの防衛線を突破できたらの話だがな」

「問題ない。既に地上で待機してるチームで強襲をかけるだけだから」

「ちょっと待てミサキ」

 

 電話を切ろうとするミサキをサオリが止める。

 

「まだ何か?」

「姫のために動いてるんだな?」

「……時間稼ぎにも限界が見えてきた。急いで」

「分かった。もう少しだ。互いに痛かったり苦しくても文句はいいっこなしだ」

 

 通話を終えてヒヨリは携帯端末をしまった。既にSRTの襲撃を受けなかった第4の巡航ミサイルは発射を終え、あと数分で着弾する。あと少しで古聖堂はゲヘナとトリニティの要人もろとも紅蓮の炎に包まれる。

 

 だが、電話の向こうから聞こえたのはサオリの声だけではなかった。どうも他の人の声、それも大人数がいるようだった。ミサキとヒヨリには覚えがある。サオリもまた作戦行動中だと容易に当たりがついた。

 

「えへへ……まさかサオリ姉さん、私たちが動いてる隙にアリウス自治区を攻めるつもりなんでしょうか?」

「……だとしても私たちがやることは変わりない。サオリにはサオリの、私たちには私たちのやることがあるから」

 

 アリウススクワッド、作戦開始。

 サオリに一縷の望みをかけながら、二人は修羅の道を歩み始めた。

 

 

 ◆◆◆

 

 

「……。これは酷いですね……」

 

 巡航ミサイルによって破壊し尽くされた古聖堂。大量の瓦礫の中から出てきたのは調印に望むトリニティの代表、ナギサだった。彼女を古聖堂の破壊から守った《時械神ラフィオン》は役目を終えてナギサのデッキへと戻っていく。

 

「早く《マスター・ヒュペリオン》を召喚して瓦礫に埋もれた他の人の救助活動を……」

「ナギサ様!」

 

 ナギサが自分のデュエルディスクを展開しようとした時、遠くからツルギが駆け寄ってきた。引き連れていた他の正義実現委員会委員の姿がない。どうやら巡航ミサイルの攻撃で戦闘不能になったらしい。ツルギ本人の怪我も相当なもので、額から血が流れている。

 

「ご無事で何よりです。申し訳ありません、巡航ミサイルの迎撃にマシロたちが失敗したようです」

「大方巡航ミサイルに防御札を内蔵していたんでしょう。気に病む必要はありません」

「ここは危険です。今すぐ退避を」

「ですがまだ瓦礫の下で埋もれてる人たちが……」

「それよりもナギサ様の安全の方が大切です。私が随伴しますので」

「……。やむを得ません。よろしく頼みます、ツルギさん」

 

 その場をあとにして程なく、ナギサとツルギはシスターフッドのヒナタと"先生"とも合流する。"先生"は瓦礫の隙間に入ったようで怪我が無い。ヒナタは怪我を負っていて治療が必要な状態だ。

 

「作戦区域に到着」

 

 そこに、アリウスの部隊を引き連れたミサキが姿を見せる。多勢に無勢。たった2人きりで包囲された状況を語るならそれにつきた。

 

「最重要ターゲット、ティーパーティーホストの桐藤ナギサを発見。それに正義実現委員会の剣先ツルギもいる。兵力をこっちに回して。これより交戦に入る」

「アリウス分校……! カタコンベからの侵入ルートは封じているのにこの兵力……。あらかじめ地上の周辺地域に部隊を忍ばせてましたか」

 

 地下のカタコンベにはハスミを初めとして正義実現委員会でも腕利きの者を配置している。相手側は先日ナギサのヘイローを破壊しようとトリニティ構内に襲撃をかけた際の員数よりだいぶ少ないので、地下ではまだハスミたちが食い止めているのだろう。

 

 かと言って地上の戦力はまだアリウスの方が遥かに上。ここで交戦していては勝ち目はないのは明白。しかも非戦闘員の"先生"を守ってアリウスを迎撃するのは非現実的と断じても良かった。

 

「今は"先生"の安全が最優先です。"先生"を連れてここから離脱しましょう」

「あぁ……暴れるのは私の役目だ。くひひひっ……さぁ。相手してやるぜ、虫けらども! かかってきなぁっ!!」

「ツルギさん、援護します!」

 

 ツルギがアリウスの部隊と交戦開始。ナギサも《マスター・ヒュペリオン》でツルギの援護に回る。さすがのアリウスでもツルギとナギサの《マスター・ヒュペリオン》を相手に苦戦するが、ナギサたちの思わぬ伏兵が姿を見せた。

 

 青白い肌のガスマスクをしたシスター。その姿はヒナタが本で見たことがある、ユスティナ聖徒会の服装。その複製体が数十、数百と現れ、ナギサ達を取り囲み始めたのだった。

 

 一体、また一体と仕留めても陽炎のように消えるばかり。再び別の複製体が現れて数が減る様子がなく、きりがなかった。

 

「ま、マズいですね……せめて、先生だけでも脱出を……!?」

「……追いついた。聖徒会の複製も確認。条約に調印が為された……それに、人形との取引も上手く行ったみたいだね、アツコ」

「きええぇぇぇぇぇっ!」

 

 ツルギが聖徒会の複製を仕留めても新たな複製が出現する。

 そんな様子を観察していたナギサは……深くため息を漏らした。

 ミサキはナギサが危機的状況に陥って気が触れたかと思ったが、そうでないのはナギサの目からも明らかだった。

 

「聖徒会の複製を無尽蔵に顕現させる……まさか、こんなギミックで私たちトリニティを倒すための秘策だとしたら、なめられたものですね」

「……!?」

「アリウスは長い年月の末にトリニティがどういった学園かを忘れてしまったようですので、改めて教えてさしあげましょう、大天使の威光を」

 

 そう言うとナギサは新たな最上級天使族モンスターを召喚した。

 《大天使クリスティア》。【代行者】デッキを初めとして様々な天使族テーマデッキで使われる、特殊召喚メタのモンスターだ。

 

「《大天使クリスティア》がフィールドに存在する限り、互いにモンスターは特殊召喚できません。もちろん、そちらの聖徒会の複製体とやらでも、ですよ」

「……! そんな手で防いでくるなんて……!」

 

 ミサキが驚くのには理由がある。

 確かに天使族使いが多くいるトリニティには《大天使クリスティア》の使い手も少なくない。しかし、だからといってデュエル以外で《大天使クリスティア》を召喚しても特殊召喚を防げるほどに神秘を引き出せる生徒はほぼいない。そしてナギサは表立って戦闘をした記録が無いので、ナギサがこの現象を引き起こしたのがアリウスにとって想定外なのも無理はなかった。

 

「ツルギさん。相手の数も有限になったことですし、このまま掃討します」

「いけません、ナギサ様。"先生"と一緒に退避を」

「私なら大丈夫です。戦闘力ではツルギさんたちよりはるかに劣りますけれど、その分デュエルの腕で補ってますから。確かツルギさんのデッキには《大天使クリスティア》が入ってなかったでしょう? 複製の特殊召喚を封じ込めないと一人で残るのはかえって危険です」

「……。危険と判断したら抱きかかえてでもこの場を離脱します」

 

 ツルギはデュエルディスクを展開しようとして、止めた。《大天使クリスティア》がいる状況では《神の居城-ヴァルハラ》が使えないし、《マスター・ヒュペリオン》もナギサの傍にいる。なら自分は自分だけで戦うまでだ。

 

「ヒナタさんは今のうちに"先生"を安全な場所まで避難させてください。この場においては私よりも"先生"の無事こそ最優先ですから」

「……私たちは、先生の退路を守ります」

「先生に何かあっては収拾がつかなくなりますから」

"……。分かった、どうか無茶はしないで"

 

 ヒナタとともにその場を離脱する"先生"を見届けたナギサとツルギは改めてミサキと対峙する。

 アリウスの部隊、そして聖徒会の複製体。特殊召喚を封じても数の上では圧倒的不利な状況。

 しかしツルギもナギサも負ける気が全然しなかった。逆にミサキの額からは汗が頬を伝って流れ落ちる。

 

「……ごめん、姫、ヒヨリ。私はここまでみたいだ」

 

 このあと、ミサキたちのアリウスチームⅡ部隊がナギサとツルギに制圧されるまでにはそれなりに長い時間を要した。ミサキも聖徒会の複製を囮に撤退を試みたが、邪魔者をなぎ倒して襲いかかられ、あえなく御用となった。




デュエルモンスターズが普及した本概念のキヴォトスでは無尽蔵に特殊召喚されるユスティナ聖徒会の複製に対するメタはいくらでも思いつきそうですね。

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