◆三人称視点◆
「ハーッハッハッハッ! それじゃあ温泉開発部、いざ未開の土地に温泉を掘りに出発だ!」
「正義実現委員会、ゲヘナに遅れないよう出撃するっすよ」
「SRT、出動!」
トリニティを出発したアリウス攻略部隊はカタコンベに突入。正義実現委員会やSRT単独だったら進路を確保したうえで進むのだが、温泉開発部にはそんなまどろっこしい手順など知ったことではない。未知の温泉を見つけるためには地面を掘ってでも突き進むだけだ。
程なく、一同は古聖堂強襲のために進軍していたアリウスの部隊の後方部隊と接触。温泉開発部が有無を言わさず強襲を仕掛けて開戦となった。軍事訓練を摘んだアリウスの方が有利かと予想した者もいたが、蓋を開ければ意外な結果になった。
「私たちを甘く見るなよ? 何せ温泉を掘るためにキヴォトスの西から東へ、あらゆる学校の治安維持組織とやり合ってるからな。訓練しかしてない連中とは実戦経験の量が違うぞ!」
「ちょっと、その威張ってるところのせいでヒナがエデン条約を結ぼうとしてるんでしょうよ。ヒナに加えてトリニティの正義実現委員会を相手するなんてごめんよ!」
「なあに、当のヒナ委員長はエデン条約締結後に引退する気満々だからかえって問題なくなるな!」
「ヒナは卒業まで引退しないでしょう。絶対周りが許さないわよ」
温泉開発部はアリウスの部隊を蹴散らしてアリウスへの道を進んでいく。無論無鉄砲に突っ込む温泉開発部だけの力ではない。所々にSRTの小隊が紛れ込んでいて次々とアリウスの生徒を無力化していったためだ。
ユキノはサオリに古聖堂へと向かうアリウスの部隊を背後から奇襲できるとも述べたが、サオリは前進を選んだ。そちらは古聖堂で警護中のツルギやハスミたちを信じて自分のやるべきことに専念するために。
「ん? なんだ、もう少し邪魔が入るかと思ったらもう着いたぞ」
その後、特にアリウスの部隊と接触することはなく、一同はアリウス自治区へと抜け出た。カタコンベの出口付近にも待ち伏せておらず、イチカとユキノの指示で正義実現委員会とSRTが瞬く間に陣地を構築していく。
イチカとユキノにとって意外だったのは温泉開発部も拠点の構築に助力したことだった。アリウスの自治区に出た途端に温泉を掘りにどこぞへと行ってしまうかとも想定していただけに、自分たちに合わせるのは予想していなかった。
「うん? まさか当てずっぽうに穴掘りまくってるだけとか思ってたか? 勘だって地質学や歴史学の知識に裏打ちされたものだし、組織だった動きには運営も必要不可欠だからな」
「いやぁ、温泉開発部のこと誤解してたっす。私の思ってたより何倍も厄介っすね。道理でエデン条約が必要になってくるわけっすよ」
「ハーッハッハッハッ! トリニティで温泉を掘る時はお手柔らかに頼むよ。特にあのヒナ委員長に匹敵するとまで言われるツルギ委員長には椅子に座ってのんびりしてもらいたいもんだな!」
「……。うん、全力で対処させてもらうんで、今のうちに覚悟決めておくっすよ」
「なんでさ!?」
順調に足がかりを作っている間、偵察に出ていたSRTのメンバーが帰ってきた。廃墟になっているこの周囲一帯に人影なしとのことだった。それを伝えようとサオリを訪ねたユキノだったが、携帯端末を手にする彼女の顔は浮かなかった。
「どうした?」
「アリウスの協力者が一部情報を隠してた。巡航ミサイルは4発だそうだ」
「もう一発あった……!? 今から部隊を派遣しても間に合わない……!」
「やむを得ない。あちら側の対処はあちら側に任せるしかない」
「……。そうか、了解した」
「陣地が構築出来たらすぐに出発する。ここからなら町が現存する区域に迷わずに行ける――」
その時、降下した《スターダスト・ドラゴン》から降りてきたZ-ONEがサオリとスズミの方へと駆け寄ってきた。Z-ONEはカタコンベを抜けるとすぐに白いドラゴンに乗って周辺一帯を確認しに行っていた。
「サオリ。まずいことになりました。こちらに大軍勢が迫っています」
「……! 来ましたか……!」
サオリも《RR-ライズ・ファルコン》を召喚して上空へと飛び立ち、双眼鏡で覗く。確かにZ-ONEの言った通り、現在のアリウス校舎がある方角から大群が押し寄せてきている。しかし全てアリウスの生徒……否、在校生ではなかった。
《喜劇のデスピアン》、《悲劇のデスピアン》、そして《デスピアの凶劇》。いずれもデスピアモンスターたち。スズミの目撃情報が正しいならアレらはアリウスの卒業生の成れの果てなのだろう。
そして、それに加わる幽霊のような雰囲気のシスターの集団。古聖堂にも出現したユスティナ聖徒会の複製がアリウスにも召喚され、アリウスの手足となりアリウス攻略部隊へと向かっていた。
「ユスティナ聖徒会の複製……! ゲヘナ、トリニティ、ユスティナ聖徒会の系譜、通功の古聖堂……そうか、エデン条約を乗っ取ったのか!」
サオリは今回のアリウスの作戦目的まではミサキやヒヨリに教えてもらっていない。しかしトリニティとゲヘナの首脳陣を一網打尽にするだけならわざわざ調印式の会場をゲヘナを唆して古聖堂にするわけがない。あのマダムのことだからきっともっと深い目的がある。そう踏んで寝る間も惜しんで調べ上げた。結局今に至るまで分からずじまいだったが、結果を目の当たりにしてようやく理解した。
どうやら陣地作成中の温泉開発部も気づいたようで、すぐさまスコップから銃器に武装を切り替えて塹壕の中へと入った。正義実現委員会やSRTの隊員も作業の手を止めて迎撃準備に移った。
「まずいぞ……。これまでのアリウス卒業生丸ごとでも厄介なのに聖徒会の複製は倒したところで無尽蔵に召喚されるぞ」
「しばらくはここで防御戦に徹するしかないんじゃない? 温泉開発部の連中が塹壕まで掘ってるから耐え凌げそうだし」
上空を飛んでいるのにミカの声が聞こえたと思ったら、《閃こう竜スターダスト》が《ライズ・ファルコン》と並んで飛行してきた。白いドラゴンにまたがったミカがサオリと同じように上空から敵味方の様子を窺う。
「ミカ様は《大天使クリスティア》を召喚出来ませんか?」
「んー。【代行者】デッキはナギちゃんが一番うまく使えたからなぁ。私は蓋をするんじゃなくて高い攻撃力でぶん殴る方が性に合ってたし」
「……。向こう側でナギサ様方が解決するのを待つしかありませんね。それまでは私たちで敵軍を蹴散らし続けましょう」
サオリは《ライズ・ファルコン》を敵の軍勢めがけて急降下させる。けたたましく鳴き声を上げた《ライズ・ファルコン》が炎に包まれ巨大化しつつ敵めがけて突撃していく。ユスティナ聖徒会の複製が撃ち落とそうと銃を撃つが怯みもしない。
「《RR-ライズ・ファルコン》の効果発動! オーバーレイユニットを1つ使い、攻撃力を相手フィールドの特殊召喚された全てのモンスターの攻撃力分アップさせる! 更にもう1つの効果で特殊召喚された相手モンスター全てに攻撃できる!」
キヴォトスにおける《ライズ・ファルコン》の攻撃力アップ効果の対象は相手モンスター1体のみ。サオリが特殊召喚されたモンスター全体に効果を及ぼせるのはモンスターの神秘を引き出しているからだろう。
「バトルだ! 《RR-ライズ・ファルコン》でアリウスの軍勢に攻撃! ブレイブクロー・レボリューション!」
サオリの《ライズ・ファルコン》が次々とデスピアモンスターやユスティナ聖徒会の複製をなぎ倒していく。しかしそんな一網打尽にする一撃は長続きしなかった。突如としてサオリは《ライズ・ファルコン》から振り落とされてしまった。
これには覚えがあった。サオリの使う「RR」モンスターは闇属性ばかり。そのせいでベアトリーチェとのデュエルでは《烙印追放》でこちらのモンスターを除去された上に融合モンスターを場に出される場面が何回かあった。
《烙印追放》の効果で場の《悲劇のデスピアン》1体とサオリの《ライズ・ファルコン》が融合、《デスピアン・クエリティス》が融合召喚され、邪竜のごとき禍々しき鎧がサオリの前に立ちはだかった。
「くっ! 《RUM-ソウル・シェイブ・フォース》を発動! ライフを半分払って墓地の《RR-ライズ・ファルコン》をランクの2つ高いモンスターエクシーズにランクアップさせる! 私は1体の《ライズ・ファルコン》でオーバーレイネットワークを再構築! ランクアップ・エクシーズチェンジ! 現れろ、ランク6! 《RR-レヴォリューション・ファルコン-エアレイド》!」
相手側が動く前にサオリは新たなモンスターエクシーズを召喚する。こうした矢継ぎ早のエクシーズ召喚こそがサオリの【RR】デッキの真骨頂だ。
なお、前回のベアトリーチェとのデュエルでは《RR-レヴォリューション・ファルコン》をエクシーズ召喚したため、《デスピアン・クエリティス》の効果で攻撃力を0にされてしまって戦闘破壊に持ち込めなかった。新たなモンスターエクシーズを場に出したのはその対策だ。
「X召喚したので効果発動! 《デスピアン・クエリティス》を破壊してその攻撃力分のダメージを与える! レヴォリューショナル・エアレイド!」
効果破壊すれば攻撃力を0にされようが構わない。ただモンスターが群れているだけで防御札も無い相手側は上空高く飛び上がった《レヴォリューション・ファルコン》の爆撃になすすべなく《デスピアン・クエリティス》を破壊される。
効果破壊された《デスピアン・クエリティス》がフィールドから離れたことで、サオリの前に《デスピアの大導劇神》が特殊召喚された。突然の打点3000の出現にサオリは新たなRUMを発動させようとするが、直後に天から降り注いだ光によって《デスピアの大導劇神》は消滅する。
「アルティメット・アセンディング・ウェーブ!」
その攻撃を加えたのはミカがレベル8の《スターダスト》とレベル2の《天輪の双星道士》でシンクロ召喚した《天穹覇龍ドラゴアセンション》。ミカは《ドラゴアセンション》を降下させてサオリを見下ろす。
「もう、一人で先行しちゃ駄目じゃん。またさっきみたいに自分のモンスターを融合素材に使われちゃったら敵のど真ん中で無防備になっちゃうよ」
「……。すみません、焦りすぎました」
「今は気張らないでゲヘナの連中に戦わせてればいいよ。サオリちゃんはアリウスの生徒会長とまたデュエルするんでしょ? なら体力と精神力を温存しないと」
「……。そうでしたね」
サオリは《レヴォリューション・ファルコン》に飛び乗るとミカとともにその場を離脱、アリウス攻略部隊の陣地へと帰還する。丁度塹壕までデスピアモンスターの群れが迫ってくるところだった。
しかし、大半の者が塹壕に身を潜ませる中ただ一人、温泉開発部部長のカスミだけは堂々と敵軍の前に立つ。銃を構えない代わりにデュエルディスクは装備済み。一切怯みも怖気づきもしない。温泉開発に勤しむいつもの彼女のままだ。
「ハーッハッハッハッ! せっかくの機会だ! 私が全力で温泉開発する際のとっておきを見せてやろうじゃないか!」
カスミはモンスターゾーンにいきなり3枚のカードをセットした。そんなプレイングはZ-ONEはおろかサオリもミカもユキノも、同じゲヘナのアル、そして温泉開発部部員すら知らない。そして、次にカスミが見せた召喚法にこの場にいた誰もが驚くしかなかった。
「温泉開発の魂目覚めよ! 地面を掘る黒鉄の竜よ鳴いて響け! マキシマム召喚!」
それは3枚のモンスターカードを1体の超大型モンスターとして召喚する、融合やシンクロ等の1枚の強力なモンスターを召喚する方法とは一線を画すものだ。
「山を削り、大地を穿ち、世界中の温泉を掘りまくれ! 出でよ、《幻竜重騎ウォームExカベーター》!」
重機に詳しい者はZ-ONEを含めてこの場にいなかったが、いればその黒鉄の竜はバケットホイールエクスカベーターという露天採掘に用いられる大型建設機械だと分かっただろう。カスミはそういった重機の幻竜族でまとまった【幻刃】デッキを愛用している。
「アリウスの大地は掘り心地がよさそうじゃあないか! さあ、作業開始だ!」
それを合図にアリウスとアリウス攻略部隊の戦が始まった。
◇鬼怒川カスミ
使用デッキは【幻刃】
エースモンスターは《幻刃竜ビルド・ドラゴン》
切り札は《幻竜重騎ウォームExカベーター》、《夢幻刃龍ビルドリム》
◆キヴォトスにおけるスピードデュエル、ラッシュデュエル事情
ルールとしては存在するがマスタールールの方が主流なのでプレイ人口は少なめ。
キヴォトスではデッキをラッシュデュエルのカードで統一すれば自分だけラッシュデュエルのルールを持ち込んでのマスターデュエルでデュエルが可能。
カスミの他にはヒマリが有名。
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