◆三人称視点◆
アリウス攻略部隊の防衛線は始終有利に進んだ。というもの迫りくる「デスピア」モンスターは時折高い打点を持つ融合モンスターが襲ってくるだけ。厄介なのが攻撃力上昇効果を持つ《デスピアの凶劇》だがこれ自身の攻撃力は大したこと無く、効果発動される前にSRTが遠距離狙撃で処理していく。
戦術もへったくれもなく好き放題するかと思われた温泉開発部部員たちも塹壕内で統率された迎撃に徹した。中には《重爆撃禽ボム・フェネクス》、《ダーク・ダイブ・ボンバー》といったバーン効果を持つカードで敵を処理する部員もいる。
「《ブレイズ・キャノン・マガジン》の効果で墓地に送った《ヴォルカニック・バックショット》の効果発動~! もう2枚の《ヴォルカニック・バックショット》を墓地に送って、相手フィールドのモンスターを全部破壊するよ。汚物は消毒だぁ!」
とりわけ温泉開発部の下倉メグは次々と相手を焼き払っていく。そのためデスピアモンスターは塹壕まで到達することなく、ユスティナ聖徒会の複製も一層目の塹壕すら突破出来ずに銃弾を浴びてかき消されていく。
「更に更に! 《ヴォルカニック・バックショット》3体を除外して《ヴォルカニック・エンペラー》を特殊召喚! これで肌色の悪いシスターが特殊召喚される度に500バーンダメージを相手に与えちゃうから!」
「わたしは永続魔法《悪夢の拷問部屋》の効果を発動! 追加で300ダメージを相手に与える!」
「私も永続魔法《悪夢の拷問部屋》の効果を発動するわ!」
「あたしも永続魔法《悪夢の拷問部屋》の効果を発動する!」
「うちは《連鎖爆撃》を発動! チェーンの数×400ダメージを相手に与えるぞ!」
とりわけたちが悪いのはメグが特殊召喚した《ヴォルカニック・エンペラー》。ユスティナ聖徒会の複製が出現する度にバーンダメージを与え、それにチェーンして温泉開発部の各部員がセットした《悪夢の拷問部屋》が効果を発動。特殊召喚されたての聖徒会の複製をたちまちに処理する、というとんでもないコンボを披露してきたのだ。
これで《ヴォルカニック・エンペラー》の攻撃範囲でユスティナ聖徒会の複製の数は増えることなく、迫ってくる聖徒会の複製の複製とデスピアモンスターの処理に専念すれば良くなった。
「イチカさん! また《デスピアン・クエリティス》が来てます!」
「レベル8以上の融合モンスター以外のモンスターの攻撃力を0にする厄介なモンスターっすか……。じゃあみんな、アレ使うっすよ」
「はい、イチカさん!」
「「「《マスク・チェンジ・セカンド》を発動!」」」
「んじゃ私も。《マスク・チェンジ》を発動して場の《M・HEROダスク・クロウ》を変身融合するっすよ。現われろ新しいHERO、《M・HERO闇鬼》!」
一方、正義実現委員会の役割は前衛の温泉開発部と後衛のSRTの間で臨機応変な波状攻撃を仕掛けていた。
特筆すべきは正義実現委員会委員全員が《マスク・チェンジ・セカンド》と《フォーム・チェンジ》をデッキに入れていること。これはイチカがM・HERO主体の【HERO】デッキを使うから。イチカが正義実現委員会の部隊を率いる場合、この「M・HERO」の連携が有名となっている。
なお"先生"曰く、"これ仮◯ライダーじゃなくてほぼスー◯ー戦隊だよなぁ"。
それに対するイチカの反論、「毎年複数人出るようになってだいぶ経つっすよ」
「なによ、これ……」
一方、便利屋68社長のアルは目の前の光景に衝撃を受けていた。
無論、戦争の様子に怯えているわけではない。ゲヘナでは戦闘なんて挨拶代わりだし便利屋68の仕事で数々の騒動を経験し、何ならこの前のアビドスのように紛争にも足を何度も突っ込んでる。
彼女が愕然としているのは本能のみで突撃してくる「デスピア」モンスターに対してだ。何故ならアレの正体がアリウスの卒業生だというのだから、青春の行き着く先が(そんな青春がアリウスにあったかもアルは知らないが)これではあまりにも救われない。
「こんなの、絶対に間違ってる!」
アルは《パワー・ジャイアント》を特殊召喚、その際に墓地に捨てた《魔轟神ルリー》を特殊召喚する。続いて《ダーク・リゾネーター》を召喚し、《パワー・ジャイアント》を《ダーク・リゾネーター》でチューニングした。
普段ならここから《琰魔竜レッド・デーモン》をシンクロ召喚するのだが、今日は違った。普段はあまり使わないが何もアルのレッド・デーモンは《琰魔竜》だけではない。
「社長の鼓動今ここに列をなす! 天地鳴動の力、見せてあげるわ! シンクロ召喚! 来なさい、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》!」
キヴォトスにカードがある時点でアルが亜種ではないシグナー竜の《レッド・デーモンズ・ドラゴン》をシンクロ召喚出来るかもしれない、とZ-ONEは推測していたが、実際に目の当たりにすると彼は不思議な感覚に襲われた。
しかし、次に目の当たりにした光景はZ-ONEの想像を超えたもので、シグナーではない彼にはかつてなし得なかったものだった。アル自身も無意識のうちにプレイしたものなので、後日意識して再現しようとしても中々上手くいかなかったりする。
「私は魔法カード《シンクロ・オーバーテイク》を発動して、デッキから《救世竜セイヴァー・ドラゴン》を特殊召喚! 私はレベル8《レッド・デーモンズ・ドラゴン》とレベル1《魔轟神ルリー》にレベル1《救世竜セイヴァー・ドラゴン》をチューニング!」
「アルちゃん、一体何を……!?」
「研磨されし孤高の光、真の覇者になって大地を照らす! 光り輝け! シンクロ召喚!」
ムツキが驚くようにこれまでのアルの過去のプレイングと照らし合わせても一体何をシンクロ召喚しようとしているのか、便利屋68の面々すら分からなかった。というか《救世竜セイヴァー・ドラゴン》というカードすら見たことがない。それだけに何かとてつもないことが起こるのでは、とのわくわくが止まらなかった。
そして現れたドラゴンにその場にいた誰もが目を奪われた。アルが好んで使う《琰魔竜》のような悪魔のようなドラゴンとは違う。かと言って他の《レッド・デーモンズ》のような悪魔とドラゴンが調和した姿とも異なる。四枚翼の赤い竜は神々しさすら感じさせる存在感を放ち、降臨した。
「大いなるアウトロー! 《セイヴァー・デモン・ドラゴン》!」
それはまさに赤き竜ケツァルコアトルの化身。アルは赤き竜が授けたシグナーの力抜きにその神秘を開放してみせたのだった。それは以前ハスミたちの語った神のカードと呼ぶに相応しいものだろう。
「《セイヴァー・デモン・ドラゴン》の効果発動! そこの《デスピアン・プロスケニオン》の効果を無効にして攻撃力を吸収するわ! パワー・ゲイン!」
《セイヴァー・デモン・ドラゴン》が口から放った波動を受けてこちら側の墓地を利用しようとしていた《デスピアン・プロスケニオン》は効果を失い攻撃力も0となる。すかさずSRTが集中的に狙撃して破壊されていった。
「行きなさい《セイヴァー・デモン・ドラゴン》! そしてアリウスの卒業生たちを解放するのよ! アルティメット・パワーフォース!」
アルの命令を受けて《セイヴァー・デモン・ドラゴン》は炎を身にまといながら突撃を開始。戦場を飛翔して次々と「デスピア」モンスターを撃破していく。撃破された、そして戦闘不能になり倒れ伏す「デスピア」モンスターの身体が燃え盛り、「デスピア」モンスターとしてのテクスチャが剥がされ、アリウスの生徒たちへと姿を戻していった。
「いいじゃないの! このまま……!?」
しかし、無償の奇跡など存在しない、と言わんばかりに戦場を飛ぶ《セイヴァー・デモン・ドラゴン》に変化が訪れる。突然その身体が光り輝いたかと思ったら、元の《レッド・デーモンズ・ドラゴン》に戻ってしまったのだ。
慌ててアルは《セイヴァー・デモン・ドラゴン》のテキストを確認し、たった1ターンしかその姿を保てないと分かって「な、なんですってー!?」と叫んだ。どうりで破格な効果だったわけだ、と納得して肩を落とす。
「こんなことだったら《ステイ・フォース》でもデッキに入れておけば……!」
「アル」
そんなアルの肩にZ-ONEの手が乗せられた。
「Z-ONE先生?」
「素晴らしいものを見せてもらいました。私も貴女に続いて、アリウスの生徒会長の手で望まぬ姿にさせられた生徒たちを救うとしましょう」
「えっ!? まさか……先生も!?」
「永続魔法《光来する奇跡》を発動。発動時の効果処理として《想い集いし竜》をデッキトップに置きます」
続けてZ-ONEは《ジャンク・ジャイアント》を特殊召喚し、《ボルト・ヘッジホッグ》を通常召喚。その2体で《スターダスト・ドラゴン》をシンクロ召喚する。《スターダスト・ドラゴン》を使う生徒にアルは何度も遭遇したことがあるが、Z-ONEの竜はどういうわけか他のより力強さを感じた。
「私は《光来する奇跡》の効果で1枚ドロー。ドローした《想い集いし竜》を特殊召喚し、更にその効果で《スターダスト・ヴルム》を特殊召喚」
これでZ-ONEの盤面は先ほどのアルと似たようなものとなった。
「私はレベル8《スターダスト・ドラゴン》とレベル1《スターダスト・ヴルム》に、《救世竜セイヴァー・ドラゴン》扱いとするレベル1《想い集いし竜》をチューニング! 集いし星の輝きが、新たな奇跡を照らし出す。光さす道となれ! シンクロ召喚!」
そして、この《スターダスト・ドラゴン》の進化形態をこの場にいたキヴォトスの生徒たちは初めて目撃することになる。アルがシンクロ召喚した《セイヴァー・デモン・ドラゴン》と対を成す、もう1体の救世竜を。
「光来せよ! 《セイヴァー・スター・ドラゴン》!」
それは《シューティング・スター・ドラゴン》とも異なる雰囲気を身にまとう光り輝く白き竜だった。ミカはそれを見て「綺麗」と呟き、サオリは「時械神とは違った神の化身……!?」と驚く。《セイヴァー・スター・ドラゴン》が咆哮を上げると本能で恐怖したのか、デスピアモンスターが一瞬たじろいだ。
クリアマインドに目覚めたZ-ONEもシグナーではないので本来この赤き竜ケツァルコアトルの化身は召喚出来ない。《救世竜セイヴァー・ドラゴン》はどれほどの年月をかけても再現出来なかったため、《想い集いし竜》を開発して擬似的に再現するのが精一杯だった。
「《セイヴァー・スター・ドラゴン》の効果を発動。《デスピアの凶劇》の効果を吸収します。サブリメイション・ドレイン! その効果で《セイヴァー・スター・ドラゴン》の攻撃力を上昇させます」
《セイヴァー・デモン・ドラゴン》で一掃されたデスピアモンスターが再び残光の方へと押し寄せてくる。そのうちの一体から力を吸い取った《セイヴァー・スター・ドラゴン》の煌めきが増した。
「《セイヴァー・スター・ドラゴン》で攻撃! シューティング・ブラスター・ソニック!」
デスピアモンスターと化したアリウス卒業生に向けて《セイヴァー・スター・ドラゴン》が突撃。次々と撃破されていく。大きく吹き飛ばされたその身体はモンスターの表層が剥がれ落ち、生徒の姿に戻っていった。
「《セイヴァー・スター・ドラゴン》はターン終了時にエクストラデッキに戻りますが、永続魔法《光来する奇跡》の効果で場に残り続け――」
「先生!?」
《セイヴァー・スター・ドラゴン》を維持した途端だった。突然Z-ONEの身体から力が急速に抜けていく。危うく膝を崩しそうになったが、アルがZ-ONEの肩を担いで転倒を防いだ。アルがZ-ONEを確認すると顔色が白くなっているではないか。
アルは《セイヴァー・スター・ドラゴン》をフィールドに出し続けるのには途方もない力が必要だと気づく。神の加護や神秘の適性が無く赤き竜の化身を科学で再現したZ-ONEは驚嘆されるべきだが、それでは足りないのだろう。
「《幻竜重騎ウォームExカベーター[R]》の効果を発動するぞ。自分の墓地のカード1枚をデッキの下に戻して、《光来する奇跡》を破壊する!」
フィールドに貼られたソリッドビジョンの《光来する奇跡》の上から巨大なカッティングホイールは振り下ろされ、破壊される。それがカスミのマキシマムモンスターのものだと分かってZ-ONEとアルが彼女の方を向くと、カスミはいつもの調子で高らかに笑っていた。
「ハーッハッハッ! 検証不足だったなぁ先生!」
「面目ありませんでした。助かりましたよ」
「救世竜は確かに強力みたいだけれど、ここは堅実に防衛した方がよさそうね」
「ええ。アリウスの卒業生たちを元に戻すのは戦闘不能にしてからも遅くはなさそうですしね」
この後、アリウス攻略部隊は派手に打って出ることはなく戦線を維持。アリウスの軍勢を寄せ付けなかった。
しかし無尽蔵に湧いてくるユスティナ聖徒会の複製を処理するために《ヴォルカニック・エンペラー》と《悪夢の拷問部屋》のコンボを維持し続けなければならず、攻めに転じることも出来ない。
結果、戦いは膠着状態に陥ってしまった。
◇下倉メグ
使用デッキは【ヴォルカニック】
エースモンスター兼切り札は《ヴォルカニック・エンペラー》
主に他の温泉開発部部員にチェーンバーンさせるために構築したデッキ
◇仲正イチカ
使用デッキはM・HERO主体の【HERO】
エースモンスターは《M・HEROダーク・ロウ》、《M・HERO闇鬼》
切り札は《C・HEROカオス》
主に他の正義実現委員会委員に《マスク・チェンジ・セカンド》や《フォーム・チェンジ》を使わせるのが目的で構築したデッキ
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