◆三人称視点◆
彼女の傍には救護騎士団のミネも控えている。本来のティーパーティホストの登場にパテル派の面々は頭を垂れるしかない。
「おかえりなさいセイアちゃん!」
「我々ティーパーティー一同はセイア様のご帰還を歓迎いたします」
「未来に諦めて寝てばかりいるな、と神に叱咤されてしまってね。ま、あいにく付き添い付きではあるが、この場を収めるぐらいは務められるだろう」
「決して無理はなさらないように。まだ安静にしていなければならないほど体力が戻っていないんですから」
さて、と続けてセイアはパテル派の幹部たちを見渡した。
「色々と言いたいことはあるだろうし私も語り合うのは好きなのだけれど、ミカから話が長いと怒られそうだからね。ここは公平に決めようじゃないか」
セイアは左手に装備したデュエルディスクを展開する。これには一同が騒然となる。セイアがテーブルでのデュエルに興じている光景を目にしたことのある者はいたが、セイアが物事に白黒つける形での決闘をする場面は初めてだった。
「私が勝てばアリウス事変が収束するまで騒がず大人しくしててもらおうか。君たちが勝てば私の名においてゲヘナへの宣戦布告をしよう」
「……! そのお言葉、本当ですね?」
「私の名、そしてティーパーティーホストとしての立場にかけて、約束しよう」
「……。その決闘、受けて立ちます!」
パテル派のうち会議室にいた中で一番位の高い幹部がデュエルディスクを展開し、セイアと対峙する。他のパテル派の幹部たちは「やってしまえ」等のエールを最高幹部に送るが、画面向こうのミカは呑気にお茶を飲み始めた。
「ねえサオリちゃん。セイアちゃんってどんなデッキ使うか知ってる?」
「え、と。確か天使族・地属性モンスターを主軸にした、デッキ破壊で勝ちに繋げる【現世と冥界の逆転】だったかと」
「ぶっぶー。50点」
「本来のデッキは違うんですか?」
「セイアちゃんはね、キヴォトス最強だよ」
「……は?」
話半分だな、とサオリは一瞬思ったが、ミカの表情を見て違うと悟った。
ミカは一見優雅な素振りをしていたが、どこか恐怖を覚えているようだった。
「ツルギちゃんもナギちゃんも私も、Z-ONE先生すら絶対にセイアちゃんには勝てない。どんな強力な神のカードを持っててもセイアちゃんには無力だよ」
「そこまでなんですか?」
「見てれば分かるよ。セイアちゃんのデュエルはとんでもないから」
セイアとパテル派幹部は互いのデッキをシャッフル。手札を5枚取る。
「「デュエル!」」
そしてデュエルが始まった。
いや、これは果たしてデュエルと呼べるものだろうか?
なぜならこれから行われるのは一方的な圧勝なのだから。
「先攻は譲ろう。好きなようにやりたまえ」
「その傲慢に伸びた鼻をへし折ってさしあげます! 私の先攻! 私は――」
「《光天使ウィングス》を召喚、だろ?」
「「「……!?」」」
その場にいた一同の反応はミカにとって実に見ものだった。
対戦相手が自分だったらたまったものじゃないが。
パテル派最高幹部なんて手札から抜こうとしたカードを持つ手が振るえている。
「ひ、卑怯な! 私の手札をカンニングしているのでしょう!」
「カンニングか。そうとも言えるかもしれない。ある種の予知夢で見た、と言ったところで信じてもらえないだろうからね。それとも勘が働いたと主張すれば納得してもらえるのかな? もちろんカード名を宣言したことに意味はない。《マインドクラッシュ》はデッキに入れてないしそもそも――」
「なにをごちゃごちゃと! 《光天使ウィングス》を召喚! 続いて《光天使ウィングス》の効果を発動! 手札から――」
「《光天使ブックス》を特殊召喚、だろ? 手札から《朱光の宣告者》を墓地に送って効果発動。《光天使ウィングス》の効果を無効にして破壊する」
「なっ!?」
手札誘発カードで初動を潰されたパテル派最高幹部は声を上げた。
しかし、彼女にとっての悪夢はまだ始まってすらいない。
「《朱光の宣告者》と共に墓地に送った《古尖兵ケルベク》の効果発動。互いのデッキからカードを5枚墓地に送る」
「デッキ破壊!?」
「墓地に送られたカードの効果を処理しよう。《古衛兵アギド》の効果発動、チェーンして《シャドール・ビースト》の効果発動、チェーンして《ティアラメンツ・レイノハート》の効果発動、チェーンして《壱世壊に奏でる哀唱》の効果発動」
「???」
「順に処理していこう。まず《壱世壊に奏でる哀唱》の効果で《ティアラメンツ・シェイレーン》を手札に。次に《ティアラメンツ・レイノハート》を特殊召喚。次にカードを1枚ドロー。最後に《古衛兵アギド》の効果で互いのデッキからカードを5枚墓地に送る。おや、また《古尖兵ケルベク》が墓地に落ちたようだね。また互いのデッキからカードを5枚墓地に送ろうか」
「はああ!?」
セイアのデッキの要になっている《古尖兵ケルベク》と《古衛兵アギド》によってデッキから次々とカードが墓地に送られ、更に「ティアラメンツ」モンスターが怒涛のように墓地効果を発動。セイアの場が整っていく。その間パテル派最高幹部は手札誘発カードを握れていないのか、何も出来ていない。
「墓地に眠る《ティアラメンツ・シェイレーン》の効果発動。墓地のこのカードと《ティアラメンツ・レイノハート》をデッキの下に戻し、融合召喚を行う。融合召喚、レベル5、《ティアラメンツ・キトカロス》」
「ま、まだ私の先攻1ターン目ですよ……。何故貴女様の方が融合召喚を!?」
「この程度で驚かれてると困るのだけれどね。お楽しみはこれからさ。こちらの墓地は存分に肥えてしまったからね。私は墓地に眠る《ティアラメンツ・メイルゥ》の効果を発動して――」
「ひ、ひいいっ!?」
このあと、セイアは次々とモンスターを揃えていき、完璧な布陣にした。初動を止められたパテル派最高幹部は《G》を投げてドローした手札に望みをかけるが、尽く潰されてしまう。パテル派最高幹部のフィールドは焼け野原どころかそもそも種植えすら出来ずじまいに終わってしまった。
「融合召喚。レベル8、《ティアラメンツ・ルルカロス》。私はもう少し展開出来るけれど、どうする?」
「サレンダー、します……。お願いします、謝罪いたします。私が悪かったです。ですからどうかこれ以上私に惨めな思いをさせないで下さい……」
結局、パテル派最高幹部は先攻1ターン目が終わらないままでデッキに手を置いて降参した。あまりに一方的で成すすべがないままに終わったパテル派最高幹部の心は完全に折れてしまい、膝を崩して泣き出す始末だった。
「【セイアティアラメンツ】……。私はもう絶対に、二度とそのデッキとはデュエルしないからね」
「そのデッキ名は止めてくれないかな? ミカが言いふらすせいでトリニティ中に広まってしまって困る」
こうしてセイアは後攻0ターンキルでデュエルに勝利した。パテル派の幹部たちはもはや一方的な蹂躙をしてみせたセイアに平伏するしかなかった。
セイアの号令でたちまちトリニティに秩序が戻っていく。そしてゲヘナを含む皆で力を合わせてこの騒動を終わらせようと宣言したのだった。
◆◆◆
「やあナギサ」
「セイアさん……? 私は……」
日付は変わったがまだ夜が明ける前の時間帯。ナギサが目を覚ますと程なくセイアが姿を見せた。目を腫れぼったくして擦るセイアの様子から、まだ彼女が一睡もしていないと推察できた。
「《大天使クリスティア》を維持して力を使い果たしてたんだ。まだ夜明け前だし、もう少し寝ているといい」
「そうもいきません……。ユスティナ聖徒会の複製を止めるには私が……」
「それは自警団のスズミの活躍もあって一時的に落ち着いてる。ただ特殊召喚が再開されるのは時間の問題だろう。トリニティ内の混乱は私が収束させた。今無事な者を集めて古聖堂に向かう部隊を編成してる途中さ」
「古聖堂に……? 複製の増殖を止める手立てが?」
「というよりその複製の顕現の要になってるアリウススクワッドの一人、秤アツコを無力化しようとしているのさ」
「……! あの現象にはユスティナ聖徒会の系譜、ロイヤルブラッドが必要なんですね……!」
ナギサは無理やり起き上がろうとするが、まだ身体に力が入らずベッドに倒れ込んでしまった。これでは自ら古聖堂に向かうどころか、事態を取りまとめるために会議室に向かうことすら出来ないではないか。
「無茶はしないでくれたまえ。ナギサの出番はもっと後にたっぷりあるのだから。なに、《大天使クリスティア》なら私だってそれなりに扱えるさ」
「ですが……」
「自分の手足や頭を動かすことだけが責任の取り方ではないよ。テラスで優雅にティータイムと洒落込んで吉報を待っていたって構わないんじゃないかな。他の人たちを信じて、ね」
「……。そうですね」
ナギサは再び目を閉じた。安心したからではなく疲労感がまだ抜けておらず眠気が再び襲ってきたからだ。
「セイアさん、しばらくトリニティをお願いします……」
「任された。未来は変えられないものだとふて寝してた分は働くよ」
「……――」
「おやすみなさい。良い夢を」
ナギサが再び眠りについたのを見届けてセイアは立ち上がった。傍らにはミネが付き従い、病室から出た廊下にはツルギとハスミが待機していた。
セイアの歩行に合わせて一同が随行する。
「セイア様。部隊の再編成が整いました。いつでも出立できます」
「了解した。サオリの話だと秤アツコは傷を癒やした後に古聖堂に戻り、ユスティナ聖徒会の顕現を再開できるよう戒律を更新する筈とのことだ。私たちはそれを阻止しつつ秤アツコを無力化する」
「現地で合流するゲヘナの風紀委員会で《デモンズ・チェーン》を使い、秤アツコを拘束するとのことです」
「いざとなればミネの《D-HERO Bloo-D》の出番だね。秤アツコが再び効果を発動出来なくしてしまおう」
「承知しました」
「それで、秤アツコの行方は掴めているかな?」
「いえ。なのでスズミが我々に先行して古聖堂に向かいました」
セイアの耳がわずかに動く。
セイアはスズミの経歴についてはサオリから報告されている。サオリがアリウスの攻略部隊に参加する際に彼女にトリニティのことを任せたことも。そして、スズミが並々ならぬ思いでアリウスと決着をつけようとしていることも。
「すぐに古聖堂に向かおう。スズミは私たちを待たずに決着をつけようとしているかもしれない」
「分かりました。直ちに」
「スズミ、アズサ……早まらないでくれたまえよ」
トリニティ、出陣。
◇百合園セイア
使用デッキは【現世と冥界の逆転】
エースモンスターや切り札は無い。デッキ破壊に勝ち筋を絞っている。
本気を出すと「ティアラメンツ」と混ぜた通称【セイアティアラメンツ】を使う。
エースモンスター兼切り札は《ティアラメンツ・ルルカロス》。
このデッキはキヴォトスにおいて最強。
ご意見、ご感想お待ちしています。