◆三人称視点◆
"(目を開ける)"
「せ、先生!? 目が覚めたんですね……!」
"(身体を起こす)"
「まだ動いては……と言っても聞きませんか。ご無事で何よりです、先生」
"先生"が目を覚ますと視界にセナの姿が映った。
彼女は"先生"を支えながら起き上がらせる。
"先生"が《赫聖の妖騎士》の剣で受けた傷は治っていない。痛みは鎮痛剤で抑えているだけ。本来なら絶対安静ではあるが、この場にミネはいないので"先生"は誰にも止められない。
"先生"は自分が病室にいることを確かめ、周囲を見渡した。セナの他にはチナツ、アコ、イオリの姿が見られた。
"セナのおかげだよ"
「いえ。大人の治療は初めてでしたが、どうにかなって何よりです」
「"先生"……」
「アコちゃん、まだ動いちゃ……ぐっ!」
"アコもイオリも、怪我はともかく無事で良かった……"
「委員長がいなくなってしまい……。部室にもおらず、連絡もつかなくて……。"先生"、委員長を……」
"うん、任せて"
"先生"はヒナを探しに向った。
少し経って見つけ出したヒナは明かりをつけない部屋の中で意気消沈したシナシナな状態で静かにしていた。
「"先生"……無事だった、のね……良かった……。どうやってここを……? まあ、"先生"には今更か……」
"ヒナ……"
「ごめん、"先生"……私には、もう無理。ガッカリさせて悪いのだけれど……。今は、帰ってほしい……」
"……ヒナ、違うよ。私はここに、お礼を言いに来た"
「"先生"を助けたことについてなら、気にしなくて良い……」
"ううん。いつも頑張ってくれてありがとうって。もう頑張りすぎなくても良いって、早く言ってあげたかった。ヒナは、ずっと頑張ってたから"
「……っ! ……。私……。私は……小鳥遊ホシノみたいには、なれない……」
"……ホシノ?"
「私はあの、アビドスの副会長みたいな……強い人じゃない……」
ヒナとホシノに接点がある、というよりヒナがホシノを知っていることはアビドスで2人が対面した際の様子から察せられた。しかし、情報として識っているだけに留まっていなかったとまでは思っていなかった。
「2年前に亡くなったアビドスの生徒会長……その遺体を発見したのは、小鳥遊ホシノだった。すごく、すごく大切な人だったはずなのに……」
2年前のアビドスは既に衰退していたため、当時の生徒会長の公式記録はそれほど残っていない。たまにデュエルモンスターズの大会に参加して優秀な成績を収めたぐらいだろうか。当時一年生だったホシノはよくその生徒会長を慕い、懐いていたな、とZ-ONEに見せられた映像記録を見た際に感想を抱いた。
そんなアビドスの生徒会長を失ったホシノの嘆きは、悲しみは、絶望はどれほどのものだったか。"先生"には分からないし、ホシノも同情はしてほしくないだろう。"先生"に出来ることはホシノが倒れそうになった時に支えになれるよう傍にいるだけだ。
「あれだけの苦しみを味わっておきながら、彼女はまだアビドスで戦ってる……。私にはそんなことできない……。私は、そこまで強くなれない……」
"ヒナ……"
「私だって頑張った! いつも頑張って、どうにかしようとして……。分かってもらえなくても、それでも……」
それはヒナの魂からの叫びだった。普段は風紀委員会委員長として頼られる存在……否、依存されている存在。誰もがヒナを慕い、ヒナを恐れる。そこにヒナが弱さを見せられる隙など許されない。暇など与えられない。
いかに"先生"よりはるかに強くても、ヒナはまだ子どもで、生徒なのだ。
「私だって、小鳥遊ホシノや補習授業部みたいに……先生に構ってほしかった、褒められたかった!」
"……"
「あっ。ご、ごめんなさい……今のは、その……」
"ヒナ。ヒナも今度補習授業しよう! それで成績がよかったらもちろん、沢山褒めるから!"
「……。え、いや、私……元々成績は良いし……だいたい満点だけど……」
"それとも水着パーティする!? すぐにでも準備するよ!"
「えっと、それも別に……」
とは言うが、心折れかけていたヒナには"先生"の励ましの言葉が身にしみた。要は風紀委員長という立場に追われ続ける自分だって青春を楽しもうよと言っているのだ。補習授業や水着パーティも自分には不要だが、実際やってみると楽しいかもしれない。そう思うとヒナは自然と笑顔になれた。
「ふふっ……。そうね。それも悪くはないかも。……ところで"先生"、私に頼みたいことがあるんじゃない?」
"ヒナ、引退も考えてたみたいだけれど……"
「……少し、みんなに甘えてみたかっただけ」
ヒナはゆっくりと立ち上がり、クローゼットから制服を取り出した。もはや先ほどのか弱さは消え、風紀委員長として求められる自分へと切り替える。弱音は消えて力とやる気が溢れてきた。
「行こう、"先生"」
ゲヘナ、出撃。
◆◆◆
「Ave Maria, gratia plena~♪
Dominus tecum~♪
benedicta tu in mulieribus~♪
et benedictus fructus ventris tui Jesus~♪」
巡航ミサイルによって崩壊した古聖堂跡地にて、一人の少女がくるくると回りながら歌を歌う。透き通った美しき歌声は雨の中でも遠くまで聞こえるほど。信心深い者がこの場面に遭遇したら跪いて祈りを捧げるに違いない。
しかし、ユスティナ聖徒会の複製を除けばリスナーはたった2人だけ。それも讃美歌には似つかわしくない武器を手にし、少女ことアツコと対峙する。アツコは来客ことアズサとスズミの来訪に心躍らせ、微笑んだ。
「いらっしゃい、アズサにスズミ」
「私は、アツコを止めてみせる」
「傷は……癒やしたようですね」
「回復札は使い切っちゃったけれどね。だからこれが正真正銘最後の戦いになるんじゃないかな」
「ミサキとヒヨリは捕まえた。あとはアツコだけだ」
古聖堂跡地に次々とユスティナ聖徒会の複製が発生していく。そしてアツコに従うように集結していく。スズミはまだ回復しきれておらず《烈風の結界像》を張って複製の出現を封じられない。この場に来たのも決死の覚悟の上だ。
「それで、どうやってこの無限に湧く兵力と戦うつもりかな? 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》や《The tyrant NEPTUNE》は単体性能に優れてるけれど大多数相手には不向きだし。サオリがいたら《RR-ライズ・ファルコン》で一掃出来たのにね」
「決まってる。強引に活路を切り開いてアツコを倒す」
「ここで止めます。トリニティの安全のためにも、アリウスの未来のためにも」
「そう。それは楽しみ。二人共、さあ踊りましょう」
アズサとスズミはアツコに向けて飛び出した。
戦いは熾烈を極めた。アツコはその場から一歩も動かないが、次々とドラグマモンスターや聖徒会の複製が襲いかかる。それらを2人は巧みな連携でしのぎ、少しずつ距離を詰めていく。
スズミの召喚した《The tyrant NEPTUNE》が《教導枢機テトラドラグマ》を両断し、アズサの《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》が《赫灼竜マスカレイド》を粉砕した。
「《白の聖女エクレシア》を特殊召喚するね。それから《白の聖女エクレシア》をリリースしてデッキから《アルバスの落胤》を特殊召喚。《アルバスの落胤》の効果を発動。手札を1枚捨てて、《アルバスの落胤》とスズミの《The tyrant NEPTUNE》を融合」
「な……!」
「融合召喚。レベル8《灰燼竜バスタード》。このカードの攻撃力は融合素材モンスターの元々のレベルの合計×100アップする。だから攻撃力は3,900になる」
「だが《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》の効果で……!」
「《灰燼竜バスタード》はエクストラデッキから特殊召喚されたモンスターが発動した効果を受けない。《灰燼竜バスタード》で《ダーク・リベリオン》を返り討ちにするね」
「ぐ……!」
しかし、二人がかりでもアツコを攻めきれないでいた。2人はユスティナ聖徒会の複製を処理する合間を縫ってプレイングするものの、元々エクストラデッキ主体のデッキ構築な2人では【ドラグマ】デッキと相性が悪かった。
「レベル8の《教導の騎士フルルドリス》にレベル4の《赫の聖女カルテシア》をチューニング。赫然と輝きし白百合の騎士、古の聖女たちの魂纏い、断罪の一太刀を振るわん。シンクロ召喚。レベル12、《赫聖の妖騎士》」
「フルルドリス……アツコのエースモンスター……!」
「ソードソウル・パニッシュメント」
「リバースカードオープン! 罠カード《幻影騎士団ウロング・マグネリング》を発動して、《赫聖の妖騎士》の攻撃を無効にする!」
それでもアツコの使役するモンスターからのダイレクトアタックだけは防ぎ続ける。今もまた《赫聖の妖騎士》がアズサに剣を振り下ろそうとしたところを罠カードでしのいだ……と思われた。アツコが笑みをこぼすのを目撃するまでは。
「チェーンして罠カード《ドラグマトゥルギー》を発動。シンクロモンスターの《赫聖の妖騎士》を生贄に捧げる」
「なっ……!? アツコがフルルドリスを……!?」
「いえ、おそらくは……」
「儀式召喚、《凶導の白き天底》」
アツコの背後に姿を見せる巨大な白き化け物。天使のような翼とヘイローはかえって禍々しい。目も鼻も耳も無い顔にただ一つだけある口からは長い舌が伸びた。アズサとスズミを圧倒する存在感を放つ異形の化け物はゆっくりと腕をふるい、アズサの罠モンスターを破壊した。
「墓地に送られた《赫聖の妖騎士》の効果を発動して、デッキの《妖眼の相剣師》を特殊召喚するね」
「やはりフルルドリスはフィールドに残しますか……」
再びアズサの傍らに控える騎士の聖女は鋭い眼光でアズサとスズミを牽制した。
超大型の儀式モンスターが立ちはだかり、少しでもアツコに意識を集中しすぎればユスティナ聖徒会の複製から一斉射撃を受けるような絶体絶命の状況。既に2人の身体は激しい死闘の末に酷く傷つき、段々と足もおぼつかなくなった。
とうとう踏ん張れなくなったアズサの身体がふらつき、倒れようとしたその時だった。後ろから現れた何者かがアズサを支えた。彼女はアツコではなくただアズサをじっと見つめる。
「……!?」
「……」
「ヒフ、ミ……?」
ここにアズサとスズミの孤独な戦いは終わりを迎えた。
ここから始まるのは青春の大逆転劇……の筈だが、迎え撃つはずのアツコは口元を緩めた。
ここからは原作では屈指の熱い展開のシーンです。ちなみに本概念のアツコは某掲示板の黒幕アツコ概念にかなり影響を受けてます。
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