◆三人称視点◆
一夜明けたアリウス自治区。アリウス攻略部隊は引き続きデスピアモンスターとユスティナ聖徒会複製の軍勢と戦っていた。しかしデスピアモンスターもついに素材となった卒業生が枯渇したのか、占める割合が徐々に少なくなっている。
アルの《セイヴァー・デモン・ドラゴン》等で戦いの途中にデスピア化を解除されたアリウスの卒業生たちは回収されて随伴した救護騎士団によって救護を受けている。死者こそいないものの意識が戻らなかったり混濁する者が大多数を占めており、復帰には膨大な時間がかかるだろう。
引き続き《ヴォルカニック・エンペラー》、《悪夢の拷問部屋》、《連鎖爆撃》のバーン効果で範囲内に自然発生する聖徒会複製はすぐさま処理されている。デスピアモンスターもメインデッキ主体の対処に切り替えて排除が比較的容易になった。
そんな中、朝日が昇り始めた頃だった。シスターたちの何割かが突如として消失する現象が発生する。更には《ヴォルカニック・エンペラー》の射程圏外で複製が顕現する頻度も目に見えて落ちたようだ。
「サオリ、これは……」
「ああ。セイア様方が古聖堂で上手いことやってくれたんだろう」
「なら今が好機。敵の勢いが戻らないうちに攻勢に転じよう」
ユキノがSRTの各小隊に指示を出す前に動き出したのは温泉開発部だった。部員たちがここぞとばかりに塹壕から飛び出て突撃していく。何を勝手にと思った者は少なくなかったが、しかし攻め時だとは誰もが認識していたため、正義実現委員会とSRTも温泉開発部に同調して塹壕からの前進を選択する。
もはやアリウス側の軍勢の壊滅は時間の問題、と思われた時、空の向こうから飛来してくるドラゴンの姿を確認する。いや、それを果たしてドラゴンと呼んでいいかは誰にも判断がつかない。悪魔ともいい難き白き禍々しい怪物。それが不愉快な雄叫びをあげながら接近してくる。
戦場にいた誰にも分からない怪物の正体は《深淵の神獣ディス・パテル》。
亜竜の脅威が迫りつつあった。
「アレは……!?」
「知ってるのサオリちゃん?」
「姫……アリウススクワッドのアツコが使う【ドラグマ】デッキの儀式モンスター《凶導の白き天底》に似ていますが……あそこまで悍ましい姿ではなかったはず。まさか「ビーステッド」との融合体、もしくはシンクロ体……?」
「でもアレだったらそこまで強くなさそうじゃん。厄介な効果持ちの「デスピア」モンスターの方がよっぽど嫌らしかったよ」
それを目の当たりにしたサオリは身体的特徴から推察し、ミカは純粋に見た目と雰囲気の印象からそこまでの強敵ではないと判断する。しかし一般生徒にとっては恐怖と絶望をもたらすには充分で、動揺が広がり始めていた。
「何にせよ早く片付けた方が良さそうだね。私が《ドラゴアセンション》で……」
「いえ、ここは私が《ライズ・ファルコン》で……」
「私はレベル1《アネスヴァレット・ドラゴン》とレベル6《スピードローダー・ドラゴン》にレベル1《ヴァレット・シンクロン》をチューニング」
ミカとサオリがどちらが出向くかを言い争っているうちにいち早く行動に移したのはユキノだった。彼女は迅速にフィールドにモンスター展開し、シンクロ召喚へと繋げる。
キヴォトス中の深刻な問題を解決するために連邦生徒会長が組織した直属の武力機関SRT。ゲヘナやトリニティの大型モンスターやミレニアムのシンクロモンスター等に対抗すべく、SRTではあらゆる召喚法への対策が講じられている。
ユキノの【ヴァレット】デッキもまた様々な召喚法を駆使し、騒動を鎮圧することに長けている。
「雄々しき竜よ。その獰猛なる牙を今、銃弾に変え撃ち抜け! シンクロ召喚! いでよレベル8! 《ヴァレルロード・S・ドラゴン》!」
ユキノが召喚したのはリボルバーの銃身とドラゴンが一体化したようなモンスターだった。しかし決して機械竜のようではなく、光の翼を生やした姿はサイバース族にも近い。
「シンクロ召喚に成功した《ヴァレルロード・S・ドラゴン》の効果発動。これまでの戦闘で墓地に送られている《ヴァレルロード・ドラゴン》を装備カード扱いでこのカードに装備。リンクマーカーの数だけこのカードにヴァレルカウンターを置き、その半分の攻撃力分攻撃力をアップする」
ユキノのデュエルディスクの墓地から4つの光の弾が浮かび上がり、銃弾のように《ヴァレルロード・S・ドラゴン》のシリンダーに装填されていく。それと共に《ヴァレルロード・S・ドラゴン》が咆哮を上げ、迫力を増した。
そんな《ヴァレルロード・S・ドラゴン》に対して《深淵の神獣ディス・パテル》は効果を発動し、効果破壊を狙おうとする。しかし《ディス・パテル》が口から怪光線を発射する直前、逆に《ヴァレルロード・S・ドラゴン》の口から発射された光弾に阻止されてしまった。
「無駄だ。《ヴァレルロード・S・ドラゴン》はヴァレルカウンターを1つ取り除いて相手モンスターの効果の発動を無効にできる」
《ヴァレルロード・S・ドラゴン》の口が大きく開き、喉の奥から銃身が生えだした。そしてエネルギーが急速に収束していく。照準はもちろん《深淵の神獣ディス・パテル》に定まっている。
「バトルだ! 《ヴァレルロード・S・ドラゴン》で敵モンスターに攻撃! 迅雷のヴァレルファイア!」
《ヴァレルロード・S・ドラゴン》から発射されたエネルギー砲が亜竜に直撃。絶叫を上げて地面へと落下、巨体が轟音を立てて這いつくばる。存在を維持できないのか、その身体が徐々に四肢から崩壊し始める。
ユキノはFOX小隊を初めとして各SRT小隊に《深淵の神獣ディス・パテル》を包囲するよう命じ、様子を窺う。ここで《ディス・パテル》を生贄にさらに強力なモンスターを召喚されることを警戒してだが、杞憂に終わった。
《ディス・パテル》だった者はおそらく二十代後半の女性だろうか? しかしかろうじて人としての原型を保っているだけで髪を初めとする体毛が失われ、呼吸をしているだけで意識があるかも分からない。生きる屍、との単語が相応しいか。
「こ、こいつは……!」
そんな変わり果てた彼女を目の当たりにしたサオリは口元を押さえてふらついた。倒れそうになるのをミカが支える。あまりの衝撃で気絶しそうだったのをミカが頬を軽く叩いて正気を保たせる。
「この大人、見覚えあるの?」
「大人……そうか、そうですね……。もうあれから十年強も経ってるんですから、当時子どもの生徒であっても大人になってしまってますか」
「……! じゃあコイツもアリウスの卒業生?」
「いえ……厳密には彼女は卒業してません。彼女は……当時アリウスで内戦を巻き起こした相手側の首魁です」
「「「……!」」」
アリウスが内戦の末にベアトリーチェの支配下に収まったのは情報共有されている。アリウス以外の生徒にとっては過去の出来事でしかなかったが、彼女達にとって首魁の成れの果てはそれがいきなり今になって姿を表した形だった。
「マダムが開いた戦勝パレードと言う名の市中引き回しでコイツが晒し者にされてるのを見ました……。まさか、マダムは敵側まで自分の手駒に……?」
「皆さん、それより彼女を早くこの機械の中に」
元首魁を取り囲む一同にZ-ONEが駆けつけて注意する。彼は巨大な機械をDホイールで牽引してきた。その巨大な機械はオウムガイのような形をした乗り物で、定員は一名だろう。機械の後ろ側には何やら液体に満ちたシリンダーが複数本刺さっており、中には《モウヤンのカレー》などの回復札が浮かんでいる。
「え、と。Z-ONE先生。これ何かな? 安眠ポット?」
「生命維持装置です。このままだと生命力が枯渇して衰弱死してしまうでしょう。病院まではこの中に入れて運んで下さい。性能は私自身が体験済みなので大丈夫です」
そこまではっきりと言われてしまったら従わざるを得なかった。SRTの隊員たちが元首魁を担ぎ上げて生命維持装置の中へと押し込める。Z-ONEがデュエルディスクで表示させた空中デュスプレイを操作すると生命維持装置が元首魁を囲い、作動したようだった。
更にZ-ONEが操作すると生命維持装置は浮かび上がり、空の遥か彼方へと飛んでいった。サオリが方位磁針で確認すると向かう先はトリニティ自治区。どうやら病院へ直行させるよう指示を出したようだ。
ユキノが周囲の状況を見渡す。どうやらゲヘナの温泉開発部はデスピアモンスターを蹴散らしてとっとと先に行ってしまったらしい。トリニティの正義実現委員会は掃討作戦に移行してデスピアモンスターの無力化に注力しているようだ。SRTはユキノの新たな指示が出ていないのでこの場に留まっている。
「サオリ。どうする? アリウスを制圧するならゲヘナの温泉開発部の後を追って市街地と校舎に乗り込むべきだ」
「……いや、我々の目的はアリウスの生徒を旧体制から解放することだ。アリウスの制圧はその手段に過ぎん。まだ戦闘不能にした先輩たちの救護が終わらないままで先に進むのはありえない」
「だからって総出で取り掛かるのは無駄っすよね。進軍する本隊と前線基地に留まってアリウス卒業生の救護に当たる別働隊の二手に分かれるのはどうっすか?」
「私は賛成だ。勿論本作線の指揮官はサオリだから、決定権はサオリにある。我々SRTは兵隊、進言するだけだ」
「なら、すぐに班分けしよう」
アリウス攻略部隊とアリウス防衛部隊の戦いはアリウス攻略部隊が勝利した。
しかしまだ前哨戦が終わったに過ぎない。
サオリにとっての本当の戦いはこれからとなる。
◇七度ユキノ
使用デッキは【ヴァレット】
エースモンスターは《ヴァレルロード・ドラゴン》
切り札は4体の《ヴァレルロード・ドラゴン》の進化形態
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