◆三人称視点◆
ユスティナ聖徒会のシスターたちとアツコが融合して誕生した《赫焉竜グランギニョル》はデュエルモンスターズのカードプレイングを全て無効にしてくるとんでもないカードテキスト外効果を発動してきた。これにより《赫焉竜グランギニョル》相手に生徒たちは自分自身のみでの戦闘を余儀なくされた。
「前は私に任せて」
「支援のタイミング、逃しません!」
「皆さん、確実に対処していきますよ」
「目標捕捉。撃ち抜くっ!」
「うふ、これはどうでしょう~」
"スズミ、今相手をひるませて! ミネ、そこで飛び込んで奇襲を! ハナコ、そろそろホシノに回復を!"
しかしそうなると"先生"指揮下の生徒たちにアツコは全く歯が立たない。攻撃という攻撃を全て見切られてしまい、"先生"が指揮した生徒が妨害と反撃をタイニングをうまい具合に入れてくるものだから、ダメージの蓄積が進んでいく。
《赫焉竜グランギニョル》の見えざる効果でカードの効果が使えないのはアツコも同じ。しかるに《グランギニョル》の巨体を活かして蹴散らそうとするも、盾役のホシノとミネを突破できない。
「なら、戦争では司令塔を先に潰すのは定石だよね」
《グランギニョル》の口が大きく開かれた。向けられた先は後方で指揮をする"先生"。その意図に気付いた後方支援のマシロやアコが"先生"を庇おうと動く。阻まれる前に掟破りの直接攻撃を強行しようとしたアツコだったが……、
「ペロロ様! お願いします!」
ヒフミがペロロ鞄から出したのは最初期のデュエルディスクでは内蔵されていなかったソリッドビジョン投影機。ソリッドビジョン体で出現したのは人の身長よりも大きなでかペロロ様人形だった。
ペロロ様人形の効果はデュエルモンスターズで例えれば攻撃対象の変更。《グランギニョル》が放った破壊光線はペロロ様人形に直撃し、皆を守る。ホシノは見事な盾役に関心し、コハルはまさかのペロロの大活躍に苦笑い。
"大技の後で隙が出来た! ヒナ! イオリ!"
「ターゲットは確認した。実力行使でいく」
「ゲヘナ風紀委員会のスナイパーを、舐めるな!」
「ぐっ……!?」
苛烈な攻撃を受けて《グランギニョル》を構成するユスティナ聖徒会の複製が次々と消滅していく。本来なら無尽蔵の補給で無限の再生をしたのだろうが、戒律が乱れた現状ではダメージを受ければ受けるだけ《グランギニョル》は弱体化していく。
「こうなったらとっておきよ」
《グランギニョル》は無数の手でアツコを捕まえ、自分の身体へと取り込んでいく。《グランギニョル》に埋まって一体化したアツコは胸部と頭部と肩が露出するだけの状態となった。
"遊戯王ではよくあるデュエリストとモンスターの合体か……!"
「さあ"先生"、私の全力全開を受け止めてね!」
《グランギニョル》は翼を広げて突進を開始。前衛のホシノやミネの上を飛び越えていく。その間生徒たちの集中砲火を受けて身体中に銃弾を受けてもお構いなしだ。自分自身を砲弾とみなしての質量攻撃が止められない。
"スズミ!"
「閃光弾、投擲!」
止められないなら、回避すればいい。
スズミの閃光弾で視界を奪われた《グランギニョル》は"先生"がいた場所へと突撃するしかなかった。"先生"は《グランギニョル》が通過する既のところでノノミに抱えられてその場を脱する。
"アズサ!"
「……アツコ。これで終わりにしよう」
《グランギニョル》が通過する際に見せた無防備な腹部、そして埋もれたアツコに向けて銃口を構えたアズサは、一発の銃弾を放った。それは見事にアツコの胸部に命中して穿つ。
アツコの制御を失った《グランギニョル》は形を保てなくなり、ユスティナ聖徒会の複製へとバラけてしまった。更には実体を維持する力も尽きたらしく、次から次へと消えていく。まるで初めから何もいなかったかのように。
「アツコ……!」
「アツコさん……!」
アズサとスズミがアツコへと駆け寄る。地面を転がったアツコは気を失っている。髪の色は純白から薄紫に戻っており、瞳を確認しても血のような真っ赤ではなくなっていた。その事実にアズサは胸をなでおろす。
「良かった……《赫の聖女カルテシア》化が解けてる」
「彼女が一体化した《赫焉竜グランギニョル》を撃破して呪縛から解き放たれたのでしょうか?」
「なら一刻も早くアツコの救護を……!?」
しかし、アズサが抱き上げたアツコの身体が薄くなっていき、蜃気楼のように消えていった。先程までアツコが倒れていた地面と自分の手を交互に確認してもアツコはいない。理解できない現象に混乱し、やがて焦りで狼狽えだす。
"やられた……!"
真っ先に回答にたどり着いたのは"先生"だった。
彼は自分のDパッドで表示させた空中ディスプレイを皆に見せる。それは《赫の聖女カルテシア》のカードテキスト。"先生"が指し示したのは《カルテシア》の(3)の効果で、融合モンスターが墓地に送られている場合のエンドフェイズに墓地から《カルテシア》を手札に加えるというもの。
"融合モンスターの《赫焉竜グランギニョル》が戦闘破壊されたことで《赫の聖女カルテシア》の効果を発動してアツコを回収したんだろうね……。アリウスのプレイヤー、ベアトリーチェが"
「そんな! アツコは《赫の聖女カルテシア》化が解けたんじゃないのか!?」
"分からない。まだアツコを《赫の聖女カルテシア》たらしめる要素が残ってるのかもしれない。それを解かないことには……"
「じゃあ、今すぐにでもマダムのいるアリウスに行かないと……!」
アズサは身体に鞭打つように動かして古聖堂のカタコンベ入口へと向かおうとするも、既にアツコとの死闘で疲労の蓄積が限界に達していた彼女の足元はおぼつかない。ついには自分の足に自分で引っかかり、転びそうになった。
そんなアズサの身体をヒフミとコハルが抱き留めた。
「駄目ですよアズサちゃん! 少し休憩しないと……!」
「そ、そうよ! 無茶しすぎだって!」
「アズサちゃん。焦ってはいけません。古聖堂からカタコンベへのアクセスルートはハスミさんたちが昨日の撤退戦で塞いでしまいました。まずはそれを掘り起こすまでは傷の手当に専念してください」
"進路を塞がれたカタコンベを抜けてくる筈だったアリウスの部隊も行方が分からなくなってる。アリウス自治区には戻ってないってサオリが言ってたそうだから、迂闊に今カタコンベに飛び込むと彼女達と遭遇するかもしれない"
ヒフミとコハルが必死に止めるのにハナコと"先生"も賛同する。
「だからアズサちゃん、今はペロロ博士のぬいぐるみを抱きしめて待つのに専念しましょう」
「……ん、そうする」
アズサは大人しくその場に座り、しまっていたペロロ博士のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。ヒフミからもらった友情の証と言っていい大切なもの。相手の油断を引き出すためにこれを利用する最悪の手段も考えていたが、しなくてすんで良かった、とアズサは心から安堵した。
ユスティナ聖徒会複製の生き残りを処理して古聖堂を制圧したトリニティとゲヘナ一同は、まずは負傷者の手当から着手した。並行してカタコンベ入口の瓦礫の撤去を進めていく。バケツリレーの要領で運び出していき、そう時間も置かずに開通した。まずはツルギがカタコンベ側の様子を窺うも、どうやら誰もいないようだった。
「"先生"、我々トリニティは準備が整い次第サオリたちの加勢に向かうよ。"先生"はどうするつもりだい? 向こうにはZ-ONE先生もいるから彼に任せてしまうのも一つの手だとは思うよ」
"いや、勿論引率するよ。この案件は元々私が担当だからね。ユウセイと合流出来てから今後の方針を彼と相談するよ"
「ユウセイ……? ああ、すまない。Z-ONE先生の本名だったか」
"先生"に今後の方針を聞いたら思いもよらぬ名詞が返ってきたのでセイアは少し考え込む。
「うん、そうだね。Z-ONE、最後の一人だなんて洒落にならないコードネームを名乗るようになった経緯を私たちが探る資格は無い。必要ならきっと自分から打ち明けてくれるだろう。けれどキヴォトスに赴任してからもZ-ONEを名乗るのはいただけないな。言霊は百鬼夜行の考え方だが、ミレニアムでもアファメーションや自己成就的実現として証明されてるように、キヴォトスの行く末を暗示するようで些か不吉だろう。私も今後は彼のことはユウセイと呼ぶようにしようか」
「そう、トリニティがそうするのなら私も遠慮なく彼をそう呼ぶようにする」
「ん、もう一人の先生はユウセイって名前なんだ。今度会ったらそう呼ぼ」
セイアがいい出したのをきっかけにヒナとシロコが同調し、やがてその場にいた全員に伝わっていく。今後Z-ONEがZ-ONEを名乗ろうとも生徒からはユウセイと呼ばれ続けることだろう。何故なら世界滅亡後最後の生き残りだなんて言いたくないから。
"先生"も"先生"で口を滑らせたことは反省するが、しかし彼もまた頑なにZ-ONEを名乗り続けることをあまり良く思っていなかったので、特に何も言わない。本人はユウセイと呼ぶと多少気にはするが抵抗はなさそうだし。
入口を塞いでいた瓦礫の撤去も完了し、正義実現委員会が先行して安全を確保。現時点でのアリウスまでのルートは既にサオリが解明済み。とは言えアリウス討伐部隊が出発してからルートが切り替わっているようなので、改めて全員の携帯端末に情報を渡して共有する。
「さて、ヒナ委員長、ホシノ副会長。我々トリニティの生徒はそろそろアリウスに向けて出発する。ゲヘナとアビドスはどうするかい?」
「派遣した温泉開発部と便利屋68の様子を見て、何かとんでもないことをやっていたら止めないと」
「んー、おじさんたちはもういいかなー。元々ヒフミちゃんの手助けに来ただけだしねぇ。帰ってもうひと眠りするよ」
「そうかい。トリニティを代表して今回の助太刀に感謝しよう」
ホシノ達アビドスの面々はヒフミたちと挨拶を交わし、古聖堂を後にした。
ゲヘナの風紀委員会は撤収準備をする者は重傷者のみ。消費した物資の補給や怪我人の治療など引き続きの進行準備中だ。共に戦った仲だからか、ぎこちなさはあるもののトリニティの正義実現委員会委員と打ち合わせる者も中にはいた。
「ヒナ委員長。じきに公式に宣言するが、トリニティはアリウスを今度こそ統合する方針だ。アリウスの罪と罰はトリニティが背負っていく。エデン条約をどうするかやこの調印式を台無しにした謝罪は後ほどさせてもらうよ」
「政治的な話なら私たち風紀委員会じゃなくて万魔殿を通して頂戴」
「なら、万魔殿のマコト議長にはこう伝えておいてほしい。我々が提供した優雅な空の旅は快適だったかな?と。ああ、誤解のないように言っておくと我々と言ったのはアリウスがトリニティと一緒になるからだね」
「……! はあ、そういうこと……」
本来ティーパーティーホストのナギサと調印を交わす相手は万魔殿議長のマコト。そんな彼女は会場に姿を表さなかった。それは彼女がアリウスと結託してトリニティをはめようとしたから。
当然ゲヘナも憎むアリウスがマコトを騙していたわけで。
アリウスが提供した飛行船に乗って古聖堂に向かっていた万魔殿ご一行は飛行船の爆発墜落に巻き込まれて今頃仲良く入院中だ。もしかしたらあの床まで垂れる滝のような髪が巨大なアフロになってるかも、と想像したセイアは笑いたくなった。
そんなマコトの悪巧みは捕まえたアリウススクワッドのミサキとヒヨリの自白でトリニティ側に情報が渡っている。マコトのことだからアリウスの言いがかりだとすっとぼけるつもりだろうが、迂闊に強くは出れまい。
「それで、今それを打ち明けるのは、これからのアリウス攻略はトリニティ内の内乱として処理する、と言いたいの?」
「アリウスの問題はトリニティ総合学園発足時に臭いものに蓋をした結果、悪い大人に発酵させられて噴出した形さ。トリニティがアリウスと共に明日を歩みだすために彼女らの全てを受け入れるつもりだ」
「あまり政治的な方針に口出す気は無いけれど、悪い大人や現体制支持者に全責任を押し付けることも出来る筈。責任を全て背負いこなくてもいいんじゃない?」
「……。それは未来を変えてくれたミカやサオリに申し訳がたたないよ」
ヒナは「そう」とだけ呟いて踵を返す。
セイアは空の向こうを見つめた。今もアリウスで戦う2人を思い描きながら。
《赫焉竜グランギニョル》相手にデュエルモンスターズを使うと攻撃力2500耐性なしであっさり処理出来るので封印。
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