Z-ONE先生のブルーアーカイブ5D's   作:福留しゅん

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サオリ、ベアトリーチェと問答する

 ◆三人称視点◆

 

 部隊を二手に分けてアリウス市街地に接近したアリウス攻略部隊の面々だったが、道中これといって戦闘にはならなかった。点在する居住地域も抵抗されずに無血開城。結果として充分に余裕を持ったまま一同は市街地へと突入する。

 

 既に市街地では温泉開発部が建物を破壊しての温泉開発に着手しており、それを阻もうとするアリウスの部隊は軒並み温泉開発部に排除されているようだった。そのためサオリ達は正面から堂々とアリウスへと攻め入ることが出来た。

 

「あは☆ まるで凱旋するみたいだね」

「どうせアリウス自治区内はマダムの手のひらの上です。迂回しても知られていない抜け道を使おうと把握されてることでしょう。なら正面から叩き潰す方がはるかに危険性は少ない」

「てっきりこっちがびっくりする防衛兵器でも準備してるかと思ったのに。もしかしてデスピアモンスターで打ち止めだったのかな?」

「いえ、マダムに限ってそんな浅い戦術を取るはずが……」

 

 だからと油断はしない。進路は正義実現委員会とSRTで安全を確保してから進んでいる。奇襲を試みるアリウスの部隊はサオリやミカの視界に入る前に処理されているが、銃声や爆発音は各所から聞こえるので、散発的な戦闘は行われているようだ。

 

 そんな慎重な進軍の途中、先行していたSRTの隊員から敵影を捉えたとの報告がユキノに上がってきた。それもアリウスの生徒ではなくユスティナ聖徒会の複製だというのだ。その証拠に遠くから甲高い悲鳴のような鳴き声が聞こえてくる。

 

「これは……アリウスが使役してた戦術兵器「アンブロジウス」の声?」

「それではアリウスは今もなお複製を顕現させられるのか?」

「妙っすねー。古聖堂はセイア様たちが奪還したって通信を貰ってるんっすけど。再度古聖堂でアリウスが何かしたって報告は無いっすよ」

「じゃあ複製生成の方法をコピーできたのかな?」

「やはり……マダムにとってアリウスのトリニティやゲヘナへの復讐は二の次。アリウスの生徒を都合よく操るためのガス抜きでしかなかったか……」

 

 そうしてアリウスの市内の大通りを直進するサオリ達だったが、その足は途中で止まった。先行していた正義実現委員会ならびにSRTの部隊は銃を構えて臨戦態勢。向き合うのは大量のユスティナ聖徒会複製やアンブロジウス、そして……。

 

「マダム……」

 

 アリウスを支配する現生徒会長、ベアトリーチェ。

 しかし彼女本人はこの場にいない。ソリッドビジョンを用いてリアルタイムでその真っ赤な肌と真っ白なドレスの貴婦人の姿を投影している。

 

「おや、貴女のことは私とのデュエルに負けてアリウスを永久追放した筈ですが?」

 

 頭部の複数の目が目の前にいるかつての敗北者へと向けられる。

 

「あいにく今の私はトリニティのティーパーティーメンバーとしてここにいる。アリウス自治区への立ち入り許可は連邦生徒会に事前申請済みだ。アリウスの生徒会長を名乗るなら連邦生徒会の勅許には従ってもらう」

「……。ふむ、三年足らずでここまで賢くなれるとは。よほどトリニティは学ぶ環境が良かったようですね。執行官からの報告で満喫していたと聞いています。他のアリウスの生徒たちがどんな生活を送っていたかも忘れて、ね」

「マダム。私は貴女と世間話をしに戻ってきたわけじゃない。マダムの残った手駒ではもう我々を押し返せないのは明白。大人しく引退してくれ」

「いいですよ」

「そうか……えっ?」

 

 ベアトリーチェからの意外な回答にサオリは間の抜けた声を発してしまった。

 

「構わない、と言いました。そうですね……明日の夜明けを区切りとしてアリウスの全てをサオリに引き継ぎましょう」

「……戯言を。この期に及んで騙せると思っているのか?」

「書面にしたためても良いですし、我が名ベアトリーチェに誓っても良いですよ」

「何を考えている? 十年に渡ってアリウスから搾取してきた貴女にとってここはもう用済みなのか?」

「取り繕ってもしょうがないのではっきりと言ってあげます。その通りです」

「……!」

 

 サオリは自然と拳に力がこもった。

 

「キヴォトスで「崇高」に至る実験をするにあたって自治区丸ごと我が物にすることは大変魅力的でした。ああ、勘違いしないでくださいね。私がアリウスに目をつけたのはここが外界から隔離された箱庭だったからで、しかも内戦で恐怖と絶望が渦巻いていたからです」

「……そうか。内戦はやはりマダムが裏で糸を引いていたんじゃなかったんだな」

「内戦の発端でしたらそこのSRTの隊長が始末した反乱軍首魁のせいですよ。当時の生徒会長がアリウスはこのままでは衰退して滅亡するだけだから開国が必要だと唱え、トリニティと接触しようとした裏切り行為に反発したからです」

「なっ……!?」

 

 サオリは思わずミカの方を見てしまった。ミカも目を丸くして驚きを隠していない。まさか長年に渡って憎悪を蓄積させてきたアリウスの方が未来に向けて大きな一歩を歩みだそうとしていたなんて思いもよらなかったから。

 

「何故……」

「何故知っているか? 私は研究者であって支配者ではありません。研究の場と材料さえ確保できればそれで良かったから、私は生徒会長とその一族、つまりロイヤルブラッドの者たちと接触していたのです。アリウスの平定に力を貸す代わりに私に協力すること。そう生徒会長や一族の当主と契約しました。ちなみに私が今アリウスの生徒会長として連邦生徒会にも認定されているのはこれが根拠ですね」

「まさか……アツコの家族を手に掛けたのか!?」

「そういう発言のことを下衆の勘繰りと言うのですよ。覚えておきなさい。彼女たちを守るのは契約外でしたし、怒りの矛先なら後で彼女達を暗殺した反乱軍首魁に向ければ宜しいでしょう。存分にね」

 

 ベアトリーチェが笑う。耳まで届くのではと思うぐらいに口が裂けた笑いを。

 

「ふむ。子どもが相手とはいえ己の成果の公表は高揚しますね。"先生"相手にはしゃぐマエストロやゴルコンダのことを馬鹿にしていましたが、考えを改めますか。いいでしょう、他に何か聞きたいことは?」

「……アリウスの生徒たちに洗脳教育を施してたのは?」

「誤解なさらないように。私も自分に忠実な駒の育成のために多少は歪曲、誇張はしたものですが、その骨子は元からアリウスに根付いていたもの。誇りなさい、アリウスがトリニティやゲヘナに抱いた憎悪は私のものではありません。アリウスのものだとこの私が保証しましょう」

「卒業生たちをモンスター化したのはどうしてだ?」

「アレ、すなわち《凶導の福音》はユスティナ聖徒会に伝わる秘伝ですよ。契約に基づいて私が頂きました。モンスター化とサオリは表現しましたが、厳密には違います。アレは「崇高」の高みに昇ろうとして失敗した結果に過ぎません。聞きたいのは理由でしたね。私の実験のためです」

「実験、だと……!?」

「いちいち反応してくれるとは喋りがいがありますよ。キヴォトスの生徒は一人一人、それこそスケバンだろうがヘルメット団だろうが外の子どもとは比べ物にならないほどの神秘を持っています。ならキヴォトスの生徒を素体にすれば「崇高」へと至る生徒が現れるのではないか? 《凶導の福音》はその手段として利用しました」

 

 しかし、十年という決して短くない年月をかけてもベアトリーチェが望む結果にはついに至らなかった。それなりに強力な《デスピアン・クエリティス》や《デスピアン・プロスケニオン》は誕生させられたが、キヴォトスで神と畏怖される領域まで到達する生徒はついに現れなかった。反乱軍首魁に至っては《深淵の神獣ディス・パテル》などという化け物に成り果てたではないか。

 

「そういった点で評価したなら《赫の聖女カルテシア》や《赫焉竜グランギニョル》にまで上り詰めたアツコは及第点です。生徒会長一族当主も芳しい結果でしたね。やはりロイヤルブラッドが重要だったのか、私の検証が不足していたのか、今となってはもうどうでもいいことです。これ以上の進展が見込めないのでこの実験場を放棄しても良い。それがアリウスを譲ってしまって構わない理由ですよ」

「……。そうか、よく分かった」

「それで、返答は?」

「条件を追加してほしい」

 

 サオリは銃口をベアトリーチェへと向けた。サオリの目の前にいるのはただのソリッドビジョンでの投影なのでベアトリーチェは痛くも痒くもないのだが、サオリにとって自分の意思表示としての意味がある。

 

「アツコを解放しろ。今すぐにだ」

「何を言っているのやら。アツコでしたらサオリと内通していた他のアリウススクワッドとともに古聖堂に行っていますよ」

「化かし合いは抜きだ。《赫の聖女カルテシア》をマダムが回収したのは分かっている。明日の朝アリウスの全てを放棄するならそんな真似をしなくたって良かったはずだ。アツコを使って何をするつもりだ、ベアトリーチェ!」

「サオリはまだ研究者という存在がどんなものか理解していないようですね。実験が完了したなら次の段階は実践あるのみでしょう。ロイヤルブラッドで《赫の聖女カルテシア》や《赫聖の妖騎士》を誕生させられるなら、ロイヤルブラッドを生贄に捧げて《凶導の福音》で穴を開け、私自身が「崇高」に至るのです」

 

 サオリは発砲したが、弾丸はソリッドビジョンのベアトリーチェをすり抜けて奥にいた聖徒会の複製に命中する。それに端を発して両軍が戦闘開始する、と何人かは思ったが、アリウス……いや、ベアトリーチェ側は全く動こうとしない。

 

「そんな真似は私がさせない!」

「では、サオリが要求した条件にこちらからも一つ追加します。サオリが私に勝てたなら、とね。いかがですか?」

「望むところだ。私は必ずアツコを取り戻す」

「サオリのものではないでしょう」

「だったら反逆者らしく、いただいていく!」

「宜しい。ではZ-ONE先生。この条約が有効であることを連邦生徒会の立会人として認定を」

「分かりました」

 

 Z-ONEは静かにうなづく。

 

 アリウス生徒会長ベアトリーチェとトリニティティーパーティー所属サオリの名において条約が結ばれた。タイムリミットは明日の夜明けまで。それまでにアツコを救い出さなければベアトリーチェの儀式の生贄となってしまうだろう。

 

 しかしベアトリーチェ側はなおも動かない。代わりにベアトリーチェはサオリから視線を外し、Z-ONEへと顔を向けた。後方でDホイールを押した姿勢のままだった彼はDホイールをスタンドで立たせ、ヘルメットを脱いだ。

 

「さて。子どもとのじゃれ合いはここまでにして……初めまして、Z-ONE先生」

 

 ここからは大人同士の会談、探り合いの時間だ。




こういう問答シーンとか考察シーンとか解説シーンとかは書いてて凄く楽しいです。

ご意見、ご感想お待ちしています。
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