◆三人称視点◆
「初めまして。自己紹介は不要のようですね」
「貴方のことは十年前から警戒、そして注目していました。貴方が召喚した時を統べる神によって私は計画の修正を余儀なくされましたからね。何故黒服たちは貴方より"先生"の方を注目しているのかが理解に苦しみますよ」
「本題を。サオリたちをあまり待たせたくありません」
「我々ゲマトリアの仲間になりなさい。これは要望ではなく貴方の義務です」
今度発砲したのはミカだった。目障りなソリッドビジョンの投影をかき消すための攻撃だったが、依然としてベアトリーチェはその場に立ち続ける。
「誘えると思った根拠を聞きましょう」
「貴方も"先生"も誤解しているようですが、ゲマトリアは決してキヴォトスを支配したいわけでも破壊したいわけでもありません。重ねて言いますが我々は研究者。この正体不明な世界は理解などが一切及ばない、神秘と恐怖が入り混じった崇高の転炉。それは貴方の世界で畏れられた神、三幻神や三幻魔を使役する生徒がいたことからも分かるでしょう」
「つまり研究の場として最適な環境を自分たちで壊す真似はしない、と」
「むしろ我々はキヴォトスを保護しようとしています。例えば……そうですね。Z-ONE先生が対処した「名もなき神々の王女」とて黒服が対処法を検討していたのですよ。そして私が今回手に入れた聖徒会の複製も脅威に対抗する手段の一つです」
「どうやら貴女は明確に脅威とみなす存在がいるようですが、差し支えなければ教えていただいても?」
「知りたければ仲間に、と言いたいところですが、それぐらいでしたら。実は私たちも「アレ」については分からないのです。解釈も理解も疎通もされず、ただ到来するだけの不吉な光……」
ふと、Z-ONEは彼をキヴォトスに招待した存在を思い浮かべたが、彼女は違うだろうとすぐに否定する。アレもキヴォトスにとって脅威には違いないが、手出しはしてこないだろうという確信もあった。何故頑なに観劇者の立場を貫くのかは不明だが。
ソリッドビジョンのベアトリーチェが天へと視線を向けた。本体が別の場所にいるのなら果たして彼女は何を見上げているのだろうか? その強い意志がこもった眼差しはサオリも見たことがなかった。
「ゲマトリアの宿敵……私たちはそれを「色彩」と呼んでいます」
色彩。Z-ONEはその単語を頭の中に深く刻み込んだ。
「さて、お分かりでしょう。生徒の面倒を見るのは"先生"に任せればいいのです。神に認められたZ-ONE先生はいちいち子どもに構ったりなどせず、我々とともに来たるべき脅威に備えるべきでしょう。それが最終的にキヴォトスのためにもなります」
ベアトリーチェの誘いは続く。一部の生徒はZ-ONEがベアトリーチェの誘いに乗るのではないかと心配した様子だったが、ミカやサオリはそんな甘言にZ-ONEが乗るかと呆れ果てる。
Z-ONEは案の定頭を横に振った。ベアトリーチェは気分を害してわずかに口元を歪めた。頭部を差し引いても見た目は淑女なのになぁ中身と思想がなぁ、とサオリは素直に感想を抱く。
「せっかくの誘いですがお断りします。私は先生としてキヴォトスに呼ばれました。その役割は全うしなくてはいけません」
「それは守らねばならない契約なのですか?」
「いえ、契約などではありません。おそらくですがこれは彼女と私との決闘なのでしょう。私が無力なまま終わるようであればキヴォトスは絶望へと沈む……そんな類のものかと」
「……。貴方をキヴォトスへ招待した何者かに興味が湧いてきましたが、今は置いておきましょう。では貴方は引き続き先生ごっこに興じる、と? 何でしたらこのキヴォトスがどんな場所なのか、真実を教えて差し上げましょうか?」
「結構です。研究者なら分かるでしょう。答えは自分で見つけ出すものだ、と。それともデュエリスト風に言えばわかりやすいですか? 答えはデュエルの中で見つけ出すしかない、と」
「そうですか。よろしい」
ベアトリーチェは落胆したのか軽くため息を漏らした。しかし彼女自身もZ-ONEが誘いに乗るとはそれほど思っていなかったようで、衝撃を受けた様子は無かった。ただ冷静に、そして冷酷な眼差しでZ-ONEを見つめる。
「あなたは、私の敵です」
ベアトリーチェの宣言と共にユスティナ聖徒会の複製が動き出す。
「始末なさい」
そして、ベアトリーチェが通信を切ったと同時に両軍の戦闘が開始される。個々の強さは圧倒的にアリウス討伐部隊の方が勝っていたが、アリウス側は実質無尽蔵に兵士が湧いて出てくる。なので制圧してからの前進が出来ず、多少強引にでも強行突破していくしかなかった。
背後から強襲されないよう少しずつ部隊を分けて応戦する正義実現委員会とSRT。アリウス分校の構内までたどり着いた頃には既に半数以下にまで減っていた。校舎内に突入してサオリ達はそのまま進もうとするが……、
「私たちSRTはここに残って外からの敵の増援を食い止める」
SRTの部隊はユキノの指示で分校敷地の入口付近で散らばり、配置についた。そして群がる聖徒会の複製に向けて一斉に射撃する。
「しかし、温泉開発部が散らばって撹乱しているとはいえアリウス自治区中に発生する聖徒会の複製の大半をSRTだけで相手するのは……」
「我々は武器。任務を遂行するために最も効率的な選択をしたまでだ」
「……分かった」
「サオリ。武運を祈る」
「ユキノ……感謝する」
サオリは敬礼するユキノに敬礼し返し、奥へと進んでいく。
それからも熾烈な戦闘は続き、サオリたちに続いていた正義実現委員会も班を分けて数を減らしていく。バシリカ建物様式の大聖堂内部で大量の聖徒会複製および戦術兵器アンブロジウスと対峙する頃には十人を下回っていた。
サオリとミカが前に出て立ちはだかる者たちを一掃しようとするが、そんな彼女たちの前に割り込んだのはアルとイチカだった。便利屋68社員と正義実現委員会委員は既に戦闘態勢に突入している。
「先生。ここは私たちに任せて先を行きなさい!」
「げっ。先に言われたっす。とにかく、露払いは私たちの役目なんで、サオリ様はサオリ様のやるべきことをやってください」
「特別ボーナスと危険手当は期待させてもらうわよ」
「あー、私らはこの一件が落ち着いたらスイーツ屋でケーキでもごちそうしてもらいたいっすねー」
アルとイチカは軽口を叩きながらもサオリたちの進路を切り開く。サオリとミカは互いに顔を見合わせ、頷いてから駆け出した。Z-ONEを含めて3人だけになったサオリたちは長い通路を抜け、目の前の大扉を開き、ついに目的の場所に到着する。
「ここが……バシリカの至聖所……」
厳かな空間は荒れ果て、ステンドグラスは半分以上が割れている。瓦礫が積み重なって足の踏み場に困る箇所もあった。しかし2つのステンドグラスだけは昨日も磨いたかのように光を浴びて色鮮やかな絵柄を映し出していた。
一つは「色彩」、もう一つは「崇高」。
どちらもベアトリーチェにとっては目的であり使命であり悲願である。
そんな「崇高」のステンドグラスの前で、アツコが磔にされていた。
アツコに絡まった茨がまるで血や生命力を吸い取っているかのようだった。
「姫……!」
「落ち着いてサオリちゃん。気を失ってるだけみたい」
「だからといってあのままにしておけません。早く助け出さないと……!」
「お待ちしておりました、Z-ONE先生。――私の敵対者」
いつの間にか、アツコの磔台の下には深紅の貴婦人が現れていた。
そしていくつもある眼で招かれざる来訪者たちを見据える。
「……ですが、遅かったですね。儀式は既に進行しています」
「……!」
「ロイヤルブラッドの神秘を搾取し、キヴォトス外から到来する力を借りて……私は自分の存在をより高位のものへと昇華しています」
「……まだ夜明けを迎えていない筈だ。契約で嘘を付いたのか?」
「儀式が完遂するのが太陽が昇る頃だと予定を立てているだけです。儀式を初めましたハイお終い、といくわけがないでしょう。もっとも、ロイヤルブラッドの命がどこまで保つかは彼女次第、といったところですが」
「なら……!」
サオリはデュエルディスクを展開して構えた。
それに対してベアトリーチェは何の動作もしない。
「マダム、貴女にデュエルを申し込む。私が勝ったらアリウスの生徒たちと卒業生たちに謝ってからアリウスを出て行ってもらう」
「ふむ。興が乗ればサオリとのデュエルに応じても良かったのですが、あいにく今日は実力行使といきましょう」
ベアトリーチェが指を鳴らすと、サオリたちの左側からウィンプルとガスマスクとラバースーツ、そして二丁の重火器両手装備の大女が姿を見せ、一方の右側からは禍々しい銀と赤の鎧と大剣を装備したアツコと同じ髪色をした女騎士が現れる。
「左側のは聖徒会の複製かな? でも今までのとは違うみたいだけど」
「そちらは聖徒会の最も偉大な聖女バルバラの複製。あの人工天使シリーズより強力なはずです。マエストロの言う通り、この方式に美学はないかもしれませんが、「兵器」には兵器なりの機能美というものがありますから」
「右側のはレベル12シンクロモンスターの《赫聖の妖騎士》ですか」
「その《赫聖の妖騎士》は特別製ですよ。ドラグマの聖女の集合体だった《赫焉竜グランギニョル》をフルルドリスが制御したのが《赫聖の妖騎士》ですが、今の彼女は言わばロイヤルブラッドの集合体。言わばアリウスの歴史そのものなのですから」
バルバラが銃口をサオリに向け、《赫聖の妖騎士》が飛び込んでサオリに斬りかかる。そんなバルバラへと殴りかかったのはミカで、《赫聖の妖騎士》へ割り込んだのはZ-ONEが召喚した《ジャンク・ウォリアー》だった。
「サオリちゃん、彼女は私が食い止めるから!」
「サオリの決闘の邪魔はさせません。決着を付けてきなさい」
「ミカ様……先生……。ありがとうございます」
サオリは改めてベアトリーチェと向き合った。
もはや互いの仲間、駒は尽きた。後は一対一で戦うだけだ。
ベアトリーチェは持っていた扇を広げるとデュエルフィールドが実体化した。
「さあ、その目にしかと映しなさい。これが私……アリウスでの研究の果てに高位の存在となった姿です!」
「……!?」
「儀式魔法《凶導の福音》を発動! ロイヤルブラッドのライフポイントをコストに世界に孔を開けます!」
ベアトリーチェが儀式魔法を発動すると、「色彩」のステンドグラスの前に孔が空いた。全ての光を飲み込まんとする真っ黒な穴は万物であり虚無、混沌であり秩序である。見つめていると安心すると同時に恐怖する、しかし目が離せない。そんな恐ろしい異物が今目の前に顕現していた。
そんな孔からベアトリーチェに何か流れ込んだのか、ベアトリーチェの身体が変化し始めた。身体とドレスが一体化してか細くなりつつ巨大化し、枯れ木のような翼が生え、顔は花が咲いたように裂けた。そして、背後には巨大なヘイローを背負う。
「それが……大人としての貴女の姿か、マダム」
「そう、これこそが偉大なる大人の姿なのです!」
「だったら、アリウスからはたった今卒業してもらうぞ!」
サオリとベアトリーチェ、二人の戦いが始まった。
ベアトリーチェは本当に名悪役です。好き放題することでこいつは倒すべき敵だと認識させて、最後は本人をゲーム的にフルボッコ出来るのですから。
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