◆三人称視点◆
「さ、て」
感動の再会はそこそこにして、Z-ONEは大人の役目を果たしに行く。
具体的には意識が戻ってうめき声を上げるベアトリーチェへと歩み寄った。
元の姿に戻っていたベアトリーチェの複数個ある目はまだ諦めていないのか光を宿している。
「もう貴女は終わりですね」
「よくも……わ、私はまだ……まだ! 一度儀式を妨害した程度で図に乗らないでください! まだ私には……」
「何を頼りにしているのですか? 聖女バルバラと聖徒会複製はミカが完勝しました。アリウスの兵力はこれまでのサオリの工作で削りに削られ風前の灯。デスピアモンスターは儀式の時間を稼ぐために捨て駒にしたではありませんか。貴女を守る者、手足となって働く駒はもうありませんよ」
「ええ。このお話はこれで終わりです」
不意に男性の声が至聖所で聞こえてきた。
サオリが周囲を見渡すと、いつの間にかか厚手のコートに身を包んだ男性……かは頭部が無く首元も影に覆われていて分からないが……が紳士の背面を映した写真を収めて遺影のような額縁を手にする者が佇んでいた。
サオリとミカがとっさに銃口を向けるが、謎の存在は戦う意志を見せない。
「ああ、落ち着いてください。驚かせたなら申し訳ありません」
「貴方は何者ですか?」
「私は「ゲマトリア」のゴルコンダ。挨拶は省略しましょう。私は戦いにきたのではなく、マダムを連れ戻しに来たのです」
「私を……!?」
「それに、戦闘で勝てる自信もありません。我々はマダムの言った通り研究者。「ゲマトリア」が皆マダムのように怪物に変われるわけではないですからね」
「まさか、その選択を我々が許容するとでも思っているのですか?」
Z-ONEはDホイールからデュエルディスク部分を取り外して装備。その際にデッキを入れ替える。
ベアトリーチェを担ぎ上げたゴルコンダは焦る様子を見せない。
「もしかして私の邪魔をするつもりでしょうか? どうかそのような決断はなさらないでください、先生」
「ほう、それは私たちがどのような手に出てこようがいくらでも対処する、と聞こえますが?」
「たとえば……私は様々な道具を生産できます。マダムに譲ってアリウスの生徒たちが用いた「ヘイローを破壊する爆弾」も私の作品ですので」
「……!」
サオリは拳を強く握りしめた。アリウスはつくづく悪い大人に利用されていたのだと思い知らされるようで、怒りをこらえるのが精一杯だった。ミカも同じようで静かに怒りをたたえてゲマトリアの者たちを見据えている。問答無用で発砲しないのは相対するZ-ONEがどう出るか様子を窺っているからだ。
「ああ……もちろん、それをここで爆発させたりするつもりはありません。あなたやあなたの神には効果がありませんからね。マダム、今回の実験は失敗です。帰りましょう」
「ゴルコンダ……!」
「失礼しました、先生。それでは……」
「あいにく、見逃すつもりはありませんよ」
Z-ONEはゴルコンダが一礼する瞬間を狙ってデッキから手札になる5枚のカードをドローし、すぐさま1枚のカードをモンスターゾーンにセットした。するとソリッドビジョンでモンスターが顕現し始めた。いや、その存在をモンスターと呼んでいいものだろうか?
「自分フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードはリリース無しで召喚できます」
「これは、まさか……」
「降臨せよ、《時械神サンダイオン》」
モンスターではなく、神。
十年ほど前に神を目撃したというアリウスの生徒たちが次々と離反し、サオリに至っては反逆までしてきた。話半分とは捉えなかったベアトリーチェは神に認められたデュエリストがシャーレの先生だと突き止めると最大限に警戒したが、実際に目の当たりにすると段違いだった。
巨大な空っぽの器の正面に守護天使の顔が映し出されると、その存在感は辺りを支配せんとばかりに増大した。初体験ではないサオリたち3名は圧倒されて見惚れたのだが、対峙するゴルコンダとベアトリーチェは蛇に睨まれた蛙だろう。そうサオリは思ったのだが、意外、2人は大いなる存在を前に歓喜したようだった。
「素晴らしい、これが貴方の神ですか! 本性を現しましたね、Z-ONE! やはり貴方はシャーレの先生なんかよりも私たちゲマトリアの一員としてこのキヴォトスを救う研究に従事すべきです!」
「マダム、静かに。なるほど、これが時械神……私がやってきた世界でも時械神の名は伝説級のモンスターとして知れ渡っていますよ。あいにく今の私の手札ではとても敵いそうもありませんね」
「知っているのなら大人しくアリウスの生徒会長を引き渡してもらいたいのですが」
「それはお断りします。マダムは私たちの仲間ですので。無論デュエルの結果は重んじます。マダムはアリウスを放棄する、何も持ち出さない。これはゲマトリアの名にかけて厳守させましょう」
「……」
Z-ONEはデュエルディスクを操作してソリッドビジョンで空中デュエルフィールドを出現させ、それをサオリの方へとスライドさせた。モンスターゾーンに《時械神サンダイオン》が1枚。サオリが攻撃命令を出せば直ちにベアトリーチェたちに神の鉄槌が下るだろう。
サオリは《サンダイオン》に触れようとしたが、手を置いたのはデッキの方だった。サレンダー。戦わない意志を見せたことで《時械神サンダイオン》はZ-ONEのデッキへと帰還していく。
サオリがベアトリーチェに抱く念は様々だ。何ならアツコたち幼い頃からのかけがえのない家族同然の友人たちやトリニティで新たに築いた親しい関係者よりも強くベアトリーチェを想っている。愛憎入り交じり、激しく渦巻いている。
「マダム。私にとって貴女は凄惨だった内乱を終わらせた救世主だし、混乱して資源の乏しい中でやりくりしたリーダーだし、子どもを自分のエゴに利用した悪人で、アツコたちを苦しめ続けた宿敵だ」
「……それで?」
「今までありがとう、そしてお疲れさまでした」
「……!」
しかし、やはりあの地獄のような日々を終わらせてくれた時の救われたとの思いは今も鮮明に思い出せる。盲目的に従う日はもう決して訪れないが、大罪を犯したからと恩まで無かったことにはしたくなかった。
「次にキヴォトスで悪さをしてみろ。今度はデュエルで勝ってみせる」
「……馬鹿で単純ですこと。ちょっとだけ優しくした程度でそんな慕うだなんて」
ベアトリーチェは胸の間に挟んでいたカードを抜き出すと、サオリに向けて投げ放った。受け取ったカードを目にしたサオリが驚きの声を上げる。本当にあのマダムがこれを自分に?と目を擦ってもカードを貰った事実は変わらなかった。
1枚目:新たなランクアップマジック《ファントム・フォース》
2枚目:まさかのリンク2《RR-ワイズ・ストリクス》
3枚目:ランク12《RR-ファイナル・フォートレス・ファルコン》
いずれも今のサオリのデッキに入れても強化に繋がるカードだった。
特にランク12モンスターエクシーズの担い手はキヴォトス中を探してもあの連邦生徒会長を含めて極少数だと言われるほどだ。
「私が勝って貴女をこき使う際に支給しようと目論んでましたが、こうなってはゴミですね。処分しておきなさい」
「……大切に使わせてもらう」
ベアトリーチェはゴルコンダとともに去っていった。
「ミカ様、Z-ONE先生。2人のおかげでアリウスは新しい明日への一歩を踏み出せそうです」
「何言ってるのかな? 一歩を踏み出せるようにエスコートするのはサオリちゃんの役目だもんね。きっと当分は忙しいから頑張ってね」
「古聖堂での事態を収集させたトリニティとゲヘナの一同がこちらに向かっているそうです。救護騎士団も同行しているそうですから、アツコはミネに委ねればいいでしょう」
「ありがとうございます。ミカ様、すみませんがこの場は任せていいですか?」
「えー。後でサオリちゃんのごちそうでパフェ奢ってくれるならいいよ」
「是非そうさせてください。《ライズ・ファルコン》!」
サオリが召喚した《ライズ・ファルコン》へアツコをお姫様抱っこしたサオリが颯爽と飛び乗った。そしてけたたましく鳴った《ライズ・ファルコン》が先程まで虚無の孔が空いていた「色彩」のステンドグラスを破って大空へと飛び立った。
「お疲れさまでした、ミカ」
「お疲れさま、Z-ONE先生。サオリちゃん、王子様みたいで格好良かったね。さっきのアツコの顔見た? あー、そう言えば暴れたから疲れちゃったなー」
「私のDホイールに乗っていなさい」
「え? Dホイールに2人乗り? じゃあ髪がタイヤに絡まらないよう結わえてよ」
「櫛はあいにく自分用のしか持っていません。構いませんか?」
「いいよ。やってやって」
Z-ONEは手際よくミカの髪を団子状に結わえてからスペアのヘルメットを貸し、Dホイールを低速で走らせ、その場を立ち去っていった。
「……見つけた。我の力。我の守護天使、サンダルフォンを」
そのため、至聖所の片隅から聞こえてきたそんな少女の声は誰も聞いていなかった。
こうしてアリウス事変は幕を下ろした。
しかし事変そのものは終わっても後片付けはまだまだ続く。
ミカはうんざりするだろう事務仕事は考えないことにして、Dホイールに2人乗りしたZ-ONEの大きな背中を抱きしめ、しばし安らぎを求めることにした。
これで長かったエデン条約編もあとはエピローグだけとなります。もう少しお付き合いくださいませ。
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