Z-ONE先生のブルーアーカイブ5D's   作:福留しゅん

66 / 195
"先生"、再び補習授業部を受け持つ

 ◆三人称視点◆

 

 アリウス自治区に残されたアリウスの生徒たちはユスティナ聖徒会の複製が消え去り、ベアトリーチェと連絡が取れなくなった挙げ句、トリニティとゲヘナの増援の部隊が到着したことを受けて完全降伏した。

 

 事態の収集にはセイアとサオリが取り仕切った。ベアトリーチェの支配下に置かれたアリウス自治区の住人はトリニティ目線では決して恵まれた環境ではなく、生活が安定するにはしばらく時間がかかるだろう。

 

 トリニティとアリウスの統合は連邦生徒会から許可を受けて正式に執り行われた。アリウスの生徒がトリニティに所属するかは個人の自由選択となった。先日のトリニティ襲撃に加担した生徒を含めると全校生徒の半数近くがトリニティへの編入を拒絶した。ティーパーティーはトリニティや古聖堂へのテロ行為に関わった生徒は矯正局行きにし、残りは旧アリウス自治区に留まるかトリニティ自治区へ移住するなら援助することを約束した。

 

 そう聞くと生活資源に乏しく土地も痩せている旧アリウス自治区はもう見捨てられるしかないように聞こえるが、温泉開発部が地下深くまで掘り進めたところある場所では温泉、ある場所では水源を掘り当てることに成功。部長のカスミ曰く、

 

「掘り当てるだけなら簡単だぞ。例え都心のど真ん中だったとしてもな。問題はどこまで掘り進めたら温泉や水が湧くか、あと地上まで湧き上がる圧力があるかだ。ロマンは無いが温泉のある地中深くからポンプで組み上げてもいい」

 

 そのため、旧アリウス自治区の復興は少しずつだが進んでいくことだろう。いかに虚しさばかり味わった土地とはいえ生まれ育った故郷。滅びるよりは細やかながら活気に満ちた方がいいに決まっている。

 

 エデン条約はというと、元の形では結ばれなかった。良くも悪くも古聖堂やアリウス自治区での一件で合同の組織を発足させなくても自治権を超えた騒動も対処可能なのでは?との話が持ち上がったからだ。結果として平和条約のみ結び、今後とも協力関係でいこう、という元のエデン条約よりは一歩引いた関係となった。それでも互いに手を取り合えるようになったことは両校の歴史に刻まれるイベントだろう。

 

 連邦生徒会防衛室長カヤの推薦でトリニティに協力したSRTだったが、その連邦生徒会が下した最終決断によって問題は結局収束することはなかった。やがて騒動へと発展して"先生"とZ-ONEを巻き込んでいくこととなる。

 

 ティーパーティーは引き続きナギサ、セイア、ミカの三巨頭態勢が維持されていくことになった。ナギサはセイアの復帰に伴ってホストの座から降りようとしたが、セイアが固辞したため引き続きナギサが続けていくことになった。

 

「セイアちゃん最近体調が良いみたいだけど、何かあったの?」

「ユウセイ先生から《時械神ラフィオン》を借りてから調子がいいんだ。予知夢を見る頻度も少なくなったし、きっと時に関する能力を時械神が抑えてくれているんだろうね。多少動き回っても問題ないぐらいに体力がついてきたよ」

「そうでしたか。サオリさんはアリウス分派の件に専念させてあげないといけませんから、サンクトゥス分派はセイアさんがきちんと取りまとめてくださいね」

「ああ、私不在の間は彼女に任せっきりだったからね。自分の役割はきちんと果たそう」

 

 その日は久しぶりに三人だけのティーパーティーとなった。他の分派のメンバーも三大派閥の幹部たちもいない。なので生徒会相当の機構としての政治的な話はあまりなく、菓子と茶を囲って他愛ないお喋りを楽しむ本来の意味でのティーパーティーとなっていた。

 

「ところでミカ。パテル派のメンバーから畏怖されているのだけれど、どうにかならないかな? あの時デュエルした幹部なんて私の顔を見るなり悲鳴をあげてきてね。さすがに傷つく」

「無理だよ。いくらお仕置きのためだからって【セイアティアラメンツ】はやりすぎだと思うんだ。いくらシナジーがあっても今度から【ティアラメンツ】は混ぜないでよ。ね、ナギちゃんもそう思わない?」

「セイアさんのデッキの問題は決して【ティアラメンツ】との相性に限らないと思いますよ。せめて《古尖兵ケルベク》《古衛兵アギド》の使用は自重してはいかがですか?」

「止めてくれ。ただでさえ《現世と冥界の逆転》をエラッタ前効果で発動しようとしたら対戦相手含む周りから全力で止められるんだ。パーツまで禁止指定されたらたまらないよ」

 

 一時期はもうこのような和やかな時間を再び送れるだなんて考えもしなかった。ナギサも、セイアも、そしてミカも。神に感謝を、と述べようとして、ふと教会で信仰される神にすべきか、それとも自分たちが授かった時械神にすべきか、一瞬迷う。

 

「みんなの頑張りに、でいいじゃん。2人の先生に私たち、トリニティやアリウスの子たち。何ならゲヘナの連中だって加えてあげなくもないよ。あのゲマトリアって悪い大人たち以外全員に祈るね」

「ゲマトリア……ヒフミさんから話を聞くとアビドスにも彼らの手が伸びていたそうです。それに"先生"は何度かゲマトリアの構成員から接触されていて、シャーレ当番の生徒と一緒に撃退したと報告が上がってました」

「「崇高」を目的に掲げているけれど、その解釈の仕方は各々で違っているようだね。サオリがベアトリーチェを見逃したことが後に火種にならなければいいのだけれど」

「その時はサオリちゃんが返り討ちにしてやるって意気込んでるんだし、警戒してたら大丈夫でしょ」

「だといいのですが……」

 

 ナギサはトリニティの情報網を駆使して行方をくらませたゲマトリアを名乗った秘密結社を追っていたが、全くと言っていいほど手がかりが掴めなかった。ここまで痕跡が見つからないと普段はキヴォトスの外にいるのでは?とすら思えてならない。

 

 アリウスの乱の元凶がゲマトリアにある、とはトリニティ、ゲヘナ、シャーレ、連邦生徒会、SRTで意識を共有している。今後有事があった際は速やかにシャーレが中心となって対応することで合意されている。

 

 結局はゲマトリアが再び姿を表したら対処する、受け身に回らざるを得なかった。

 

「そう言えば、前回の学力試験でサオリは最終日に寝てしまって赤点を取ったそうだね。アリウスへの対処、エデン条約締結に向けての準備、そして自分の試験勉強。忙しくて睡眠時間も削ったのが原因だったけれど、今は前回よりもやることが多いじゃないか。今度の学力試験は大丈夫だったのかな?」

 

 話題を変えようとセイアが話を振ってみたら、ナギサは溜息を零してミカは苦笑いを浮かべる始末。少しの間その反応を自分の中で整理し、ある可能性へと行きつき、セイアは軽く頭を抱えてしまった。

 

「まさか、サオリはまた居眠りしたのかい?」

「あー、うん。近いけどちょっと違うかなー。眠気に襲われたのは事実なんだけど、眠りはしなかったよ。うん」

「サオリさんは眠気をこらえるために自分の手の甲にペンを突き刺して、救護騎士団に連れ出されました。おかげで一日分丸々無回答扱いとなっています」

「はあ……何をやっているんだか」

 

 サオリは最後まで試験を受けさせてくれと主張したが、最終的に駆けつけたミネに救護されてしまった。保健室でも手当てだけで済ませてくれと願うも、ペンは血肉どころか骨を割ってしまっており、即入院となった。

 

「それで、また補習授業は開催するのかな?」

「はい。またシャーレの"先生"に依頼しています」

「けれどあの時はトリニティの「裏切り者」探しって裏任務もあったじゃん。普通の補習授業にわざわざシャーレから"先生"を呼ぶ必要無くない?」

「補習授業対象者の名簿を見れば分かります」

 

 サオリはあらかじめ準備しておいた新たな補習授業部入り生徒の名簿をミカとセイアに見せた。テーブル越しに前のめりになって名簿を眺めたミカとセイアは「あー」と納得の声を被らせて自分の席に腰を落ち着ける。

 

「これじゃあしょうがないよね」

「後で"先生"は労おう。今頃卒倒してるかもしれない」

「もちろんです。極上の菓子と茶でもてなしましょう」

 

 3人だけのティーパーティーは続く。まるで天を覆う清々しい青空のように。

 

 

 ◆◆◆

 

 

"えっと……前の補習授業部は一旦全員卒業したはずで……"

「"先生"の認識で合ってます」

"今度はまた新たに補習授業部が、って聞いて来たんだけれど……?"

「皆まで言わないでください。慈悲を」

 

 ナギサに呼ばれて再びトリニティにやってきた"先生"。アリウスの騒動による混乱も収束してトリニティ全体も落ち着きを取り戻している。まだ統合した旧アリウス生と馴染むには時間がかかるだろうが、それは一歩ずつ前進していけばいい。

 

 そしてナギサからの依頼は再び補習授業部の顧問となること。快く引き受けて教室に向かった先生は補習授業部所属の生徒たちを見渡して……一瞬目眩がして足元がふらついてしまった。

 

"同じメンバーだね!?"

 

 そう、なんと旧補習授業部のメンバー5名が全員参加していたからだ。

 あの時の苦労、そして感動は一体何だったのだろうか?

 そう思わずにはいられない"先生"だった。

 

「あ、あはは……それが、その……ペロロ様のコンサートと試験日が重なってしまいまして……」

「次の試験範囲はまだ習ってない」

「えっと、その……3年製の試験を受けてみたんだけれど……」

「ひとりだけ放置プレイなんて、寂しいじゃないですか♪」

「眠気を堪えるための自傷行為で救護対象になりました……」

 

 恥ずかしそうなヒフミ、当たり前のように告げたアズサ、またごまかすコハル、楽しそうなハナコ、申し訳無さそうなサオリ。補習授業部への参加理由もまた前回と同じで、彼女たちの辞書に反省という単語はあるのだろうか?

 

 ただ、この5人に加えてもう3名が補習授業対象者として教室で待っていた。彼女たちとの再会がこんなに早くになるとは"先生"も思っていなかったようで、軽く驚きをあらわにした。

 

"アツコ、ミサキ、ヒヨリ。君たちも?"

「うん。そうだよ"先生"。こんにちは」

「……これでも頑張ったんだ。サオリ姉さんに任せっきりには出来ないからね」

「えへへ。勉強は苦手ですけれど、頑張ります……」

 

 3人共服装が違った。いずれもトリニティ標準のものではない。アツコはシスターフッド、ミサキは正義実現委員会、ヒヨリは救護騎士団の制服だった。どうやら3人はそこで活動し始めているようだ。

 

 頑張ったとのミサキの発言に"先生"は首を傾げかけたが、サオリが補足説明する。これまでベアトリーチェの教育方針でほぼ兵隊としての必要な知識しか教え込まれていなかったせいでトリニティとの学力とは完全に隔たりがある。なので特別カリキュラムで学んでいる最中だが、成績優秀者はトリニティの授業に参加出来るようになる。

 

「つまりアツコもミサキもヒヨリも、補習授業をクリアすればトリニティの教育水準に追いつける、と判断されたんです。一年浪人した私からしたら羨ましい限りの成長ぶりですよ」

"なるほど。元アリウス分校生……今はアリウス分派生だったっけ? アツコたちは彼女たちの手本になるんだね"

「手本……そっか。そうなるんだね」

 

 アツコはもうガスマスクを付けていない。ベアトリーチェから支給されたのでいかにも怪しい装備だったのだが、意外なことにアツコを保護する機能が備わっていた。しかしもうアリウス分校が無くなりユスティナ聖徒会の、そして生徒会長の系譜も大した意味を持たなくなった。顔や声を隠しておく必要はどこにも無い。

 

「今回は退学もありませんし、試験範囲もちゃんと普通の……!」

"これは……ショックで倒れてる場合じゃないね。やるからにはちゃんとやるよ"

「では"先生"。今度もよろしくお願いします」

"畏まらなくてもいいよ。それじゃあ、みんな一緒に頑張ろうか"

 

 サオリが深々と頭を垂れたのを止めた"先生"は教壇に立ち、鞄からタブレットと教科書を取り出した。生徒一同も自分の教科書とノート、筆記用具を机の上に並べる。ヒフミがペロロの人形を机の隅においたのはご愛嬌だ。

 

 彼女たちが広げた教科書を眺めた"先生"は顔をほころばせた。サインペンでの色染めや付箋紙、そしてメモ書きもされていて、あらかじめ勉強をしたあとが見られたからだ。最初からやり直すんじゃなく成長が見られて"先生"は嬉しかった。

 

"それじゃあ補習授業を始めようか。まずはこの教科書の◯◯ページを開いて――"

 

 こうして補習授業は始まった。

 今度は子どもを脅かす大人の悪意も無く、青春の1ページが綴られる。

 "先生"は約束された補習授業の成果に思いを馳せた。




これでエデン条約編は終わりになります。原作と被るシーンはダイジェストになってますが、それでも思った以上に長丁場になりました。原作での山場の一つなのでこうして自分なりに再構成が出来たこと嬉しく思います。

次はデカグラマトン編1章になります。
ご意見、ご感想お待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。