◆三人称視点◆
同時刻、ミレニアム。
ミレニアムサイエンススクールはシンクロ召喚の普及のために各学校間を結ぶ幹線道路をデュエルレーンを構築できるよう改造。Dホイールと呼ばれるバイク型デュエルディスクに乗りながらデュエルするライディングデュエルをキヴォトス中で可能とした。
そんなキヴォトス中のライディングデュエルはミレニアムにてリアルタイムで管理運営されている。当然そのデュエルの内容、そしてどの決闘者がどんなカードを使ったかも逐次監視されている。
「D.U.~アビドス間のハイウェイでライディングデュエルが申請されました。デュエルレーンを展開します」
「ミレニアムの外でライディングデュエルの申請なんて珍しいわね。申請者は誰?」
「確認出来ました。シャーレのZ-ONE先生です」
「Z-ONE先生は自前のDホイールを持っていたからライディングデュエルをしても不思議じゃないけれど……最初にやるならミレニアムに来てからだと思ってたのに」
監視室に偶然居合わせていたのはミレニアムサイエンススクール生徒会、セミナーの役員達。そのうち"先生"やZ-ONEとも面識のある会計のユウカは興味深げにモニターを眺める。
そんな衛星からの監視下で行われた決闘はほぼ一方的だった。Z-ONEは最初のワンショットキルを初めとしてヴァルキューレの生徒達を全く寄せ付けない展開を続ける。
Z-ONEのデュエルタクティクスを分析するユウカにもう一人の役員が寄った。
「ヴァルキューレ公安局の生徒が全く太刀打ち出来ませんね」
「しかも色んな種類のシンクロモンスターを使い分けてる。これこそシンクロデッキって展開の見本を見ているようね」
「そもそもヴァルキューレ標準デッキの【ゴヨウ】では近頃の環境だとデッキパワーが足りてませんし」
「かと言ってもう一つの標準デッキの【ワルキューレ】もカジュアル寄りじゃないの。そろそろ本格的に改めればいいのに」
セミナーで書記を務めるノアが微笑む。ユウカは若干呆れてため息を漏らしながらもモニターを眺め続ける。Z-ONEは短い時間で大半の追跡者を返り討ちにし、とうとう残りは最後に応援に駆けつけた一人だけになった。
ヴァルキューレの「狂犬」という通称が広まっている公安局の局長、カンナがZ-ONEとのデュエルを開始する。
「あら、カンナさんがハイウェイ・セキュリティの応援で出動してくるなんて珍しいですね」
「緊急で呼び出されたみたいね。デッキも自分のじゃなくてヴァルキューレ標準の【ワルキューレ】だし」
「でも速度で振り切れないようきちんとDホイールを引っ張り出してきてますよ」
「あら本当ね。予算不足で配備が後回しにされてるとばっかり思ってた」
「賑わっているようね」
そんな二人のデュエルをミレニアムで見守るユウカ達に二人が思いもよらぬ声が投げかけられた。
二人が思わず振り返った先にいたのはモデルのような体型をした長身の凛々しい女性。タブレットを片手にモニターに視線を向けたまさかの人物にユウカは驚きの声を上げた。
「リオ会長! ここに顔を出すなんて珍しいですね」
「足を運ばないだけでキヴォトスで行われるライディングデュエルには全て目を通しているわ。ここに来たのは少し興味のあるデュエルが行われているからよ」
ミレニアムの生徒会長、リオは前に垂れて鬱陶しくなった長い髪を手でなで上げる。もう片方の手で器用にタブレットを操作し、監視中のデュエルの分析を続ける。
「新しくシャーレに赴任したZ-ONE先生が気になりますか?」
「ユウカがシャーレに当番に行った日の報告書は読ませてもらったわ。Z-ONE先生にミレニアムが研究中のアクセルシンクロを説明した時、知っていそうな様子だったのよね」
「ええ。モンスターエクシーズのランクアップは知らなかったようですが、アクセルシンクロについては既にご存知のような反応でした。それでいてこちらの進捗状況に興味があるようでして」
「……ただシンクロモンスターとシンクロチューナーを揃えただけでは駄目。モーメントを安定して加速させるもっと別の要素が必要なのよ。その手がかりが分かればいいのだけれど」
ミレニアムにおいてアクセルシンクロはリオが主体となって研究されている。"透き通った世界"が見えるようになることが条件、と仮説を立てたのも。
しかしこの仮説はミレニアムに在籍する生徒の何割かから疑問視されている。精神論で語るなどビッグシスターも地に落ちたか、とまで陰口を叩かれるほどに。
何故リオがアクセルシンクロにこだわるのかリオは語らない。まるで自分で突き止めてみろと言わんばかりに口を閉ざし続ける。
しかしリオは本気だ。それをユウカもノアも分かっている。故に二人を含めたセミナー一同はリオを支持する。
あとはこの仮説をどう立証するか、だが、もし先生という外部の大人から手がかりがもたらされるなら僥倖だろう。ゲヘナの美食研究会あたりなら棚からぼた餅との表現を使うぐらいに。
モニターの向こう、デュエルを続けるZ-ONEは《スターダスト・ドラゴン》をシンクロ召喚していた。細めの人型をしたドラゴンとしては異形の体躯なれどそのスマートな出で立ちはキヴォトスにおいても格好いいと良く評価されている。
「《スターダスト・ドラゴン》……。レベル8の優秀なドラゴン族シンクロモンスターね」
「そう言えば一時期この《スターダスト・ドラゴン》を素体にしてシンクロの先を研究してましたっけ」
「それは言わないで頂戴。コレジャナイ感が漂った過去の失敗もいずれ来るだろう成功の礎になるだけよ」
ユウカとリオが話題にしている失敗とは、具体的にはシンクロモンスターを通常の大型モンスターに回帰させる《バスター・モード》、そしてシンクロモンスター同士を融合させる《ミラクルシンクロフュージョン》のこと。どちらもそれなりに強力な進化先となったものの、方向性の違いからリオは失敗扱いしている。
しかしこの《スターダスト・ドラゴン》、単に打点や突破力に拘るなら《レッド・デーモンズ・ドラゴン》の方が上。何ならZ-ONEがこのデュエルで召喚したジャンクシンクロモンスターの方が性能が良い。なのに何故《スターダスト・ドラゴン》を召喚したのだろうか?
「コンボに繋げるつもりですかね?」
「ちょっと待って頂戴。今Z-ONE先生がシンクロ召喚したモンスターは何?」
「え? あ、ちょっと待ってください。衛星画像を解析します」
考察している間にZ-ONEがシンクロ召喚したモンスターを見るのはセミナーの三名も初めてだった。
レベル1の《スターダスト・シャオロン》にレベル1の《アンノウン・シンクロン》をチューニングしてシンクロ召喚された《フォーミュラ・シンクロン》はこのデュエルで初めてキヴォトスで召喚された。
「レベル2のシンクロモンスター《フォーミュラ・シンクロン》……このモンスターはチューナーです!」
「シンクロチューナー! Z-ONE先生も持っていたんですね……」
「まさか、Z-ONE先生は既に見えているの? "透き通った世界"が……!」
この辺りは次のパヴァーヌ編の序章扱いです。アクセルシンクロを重要視しているのは本概念でのとあるキャラとその設定が関係しています。
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