Z-ONE先生のブルーアーカイブ5D's   作:福留しゅん

73 / 195
マルクト、LINK VRAINSの管理者に接触する

「《ジャンク・デストロイヤー》でダイレクトアタックします。デストロイ・ナックル」

「うわああん! 負けたぁぁ!」

 

 一通り挑まれたデュエルをこなしてようやく落ち着いてきました。"先生"の方も多くの生徒からデュエルを挑まれています。さすがに私も"先生"もデッキを把握されていることが災いして何度か負けてしまいました。

 

 まだまだ集ってきそうだったので一旦その場を離れ、露店エリアにやってきました。お祭りの時のように様々な料理の屋台があって食欲をそそられます。運営インストラクターの徘徊数が少し多めなのはゲヘナの美食研究会対策ですかね?

 

「いらっしゃいませ! 注文をお伺いします!」

 

 店番は例外無くAIが務めていました。アバターは様々で、モンスターに扮していたり、いかにもロボットのような外見だったり、一見するとどこかの生徒のような女子もいます。昼食にはまだ早かったので、我々はどことなくチヒロに似た三つ編みの眼鏡っ娘AIが店員をする飲み物屋に行きます。

 

「ブルーアイズマウンテンなんてどうですか?」

"勘弁してくれ……財布の中が寂しくなるよ。喉が渇いたからお茶がいいかな"

「いちごミルクはありますか?」

「ではミレニアムコーヒー一つ、山海経茶一つ、いちごミルク一つで」

「ご購入ありがとうございます! コーヒーを飲んで、どうか今日も良い一日を!」

 

 眼鏡っ娘店員から飲み物を受け取って"先生"とアロナに手渡しました。デュエルを連続でこなして乾いた喉にはやはり飲み物ですね。……む、このコーヒー、かなり美味しいですね。シャーレの執務室に置いているコーヒーメーカーのより味は上です。

 

 デュエル禁止の休憩エリアで休んでいたら、ヒマリとエイミの姿が見えました。彼女たちは私たちに気づくとこちらへと向かってきました。エイミはデュエルディスクを装備してますがヒマリは何も付けていません。

 

「おはようございます、先生方。ヴェリタスの天才美少女部長としてLINK VRAINSサービス開始日の来訪、心から歓迎します」

「おはよ、先生」

"おはよう、ヒマリ、エイミ。……エイミはLINK VRAINS内でもその格好なんだね"

「ここ普通に暑くない? 現実世界と同じぐらい」

「環境設定も今の現実と変わりないようですね。チーちゃんの技術力の高さが窺えます。少し見て回りましたけれど、現実世界のミレニアムと遜色無いと私からも太鼓判を押せちゃいます」

 

 どうやらヒマリはデュエルを楽しむためではなくLINK VRAINSという電脳世界がどんなものかを確認し回っていたようです。その出来栄えにヒマリは自分のことのように喜びをあらわにしていました。

 

 昨日のデカグラマトン本人との対面で衝撃を受けていると少し心配していましたが、どうやら杞憂だったようです。これならヒマリと"先生"の手でデカグラマトンとその預言者たちの全容が解明される日もそう遠くないでしょう。

 

"ヒマリはこのLINK VRAINSをどれぐらいの人数で運営してるか知ってる? この規模だとメンテナンスだけでも大変だよね"

「チーちゃん一人です。チーちゃんったらこの「全知」の学位を持つ眉目秀麗な乙女の力も借りずに独力でこの世界を構築したんですよ。言ってくれればいくらでも手伝いましたのに」

"そうなの!? ヒマリがいくら凄腕のエンジニアだからって一人じゃあ無理な気がするなぁ"

「AIの力も借りたと言ってましたが、チーちゃんがどんなAIを開発したかは私にも教えてくれなかったので、この世界のすべてが詰まった頭脳を持つ私への挑戦と受け取りました。大会が終わったらハッキングして調べようと思います」

 

 LINK VRAINSをサービス開始した今なら教えてくれそうですが、それがヴェリタスのコミュニケーションならあえて口を出さないようにしますか。"先生"も同じ考えのようで相槌を打っています。

 

 休憩エリアにも大型スクリーンがあって会場各所のデュエルの様子が映し出されています。中にはリオ謹製のアバンギャルド君とのデュエルや、ライディングデュエルの映像もありました。

 

 そんな中、妙に目を引く2人のデュエリストの姿がありました。

 

 背丈や体格等は全く違いますが、服、肌、髪など至る部位が白ずくめという共通点がありました。瞳が黄金色で一緒なのもさることながら、彼女たちの頭の後ろに浮かぶヘイローは見覚えがありました。

 

"ユウセイ"

「何でしょうか、"先生"」

"ユウセイはヘイローの見分けってつく?"

「個人によって形状が違うのですよね。ええ、私には分かります」

"それじゃあ、あの白ずくめの生徒が浮かべてるヘイローなんだけど、私の見間違えじゃあなかったら……"

「大丈夫です。"先生"からの報告書のとおりです」

 

 あの3人はキヴォトスの人のアバターを使っていますが、デカグラマトンの預言者に違いありません。あのヘイローの形状は確か……第3の預言者ビナーと第1の預言者ケテルですか。

 

 なぜデカグラマトンの預言者がLINK VRAINSに介入を? まさかLINK VRAINSを乗っ取って自分たちの領域にしてしまおうと目論んでいる? 大会参加者として普通にデュエルしながらこの世界をスキャンしている?

 

"ビナーとケテルか"

「!? デカグラマトンの預言者がLINK VRAINS内に……!? 多くの人がログインしてるこのサイバースペースをハッキングされてしまったら、甚大な被害が……!」

「その心配は要りません、明星ヒマリ」

 

 まさかの事態に狼狽えるヒマリは不意に声をかけられました。

 

 私たちが振り向いた先にいたのはマル。そして見知らぬ2名の白ずくめの少女たちでした。いずれもデカグラマトンの預言者キヴォトス人体の特徴を持っています。とすればマルの左右にいる者たちもデカグラマトンの預言者ですか。

 

 マルが従えていた2名に目配せすると、2名は無言で去っていきました。1名はミレニアムタワーの方へ、もう1名は大会運営の方へ。残ったマルは私たちと対峙します。初対面の"先生"たちも彼女が何者か察したようで、警戒心をあらわにしました。

 

"君は……?"

「ミレニアムサイエンススクール、ヴェリタス所属。玻璃マルです。以後お見知りおきを」

「……!? まさか……!」

 

 ヒマリは青ざめながら空中キーボードを操作してミレニアムのシステムにアクセス。そこでようやく彼女は生徒名簿が改ざんされていることに気づきました。しかも自分が部長を務めるヴェリタスに見知らぬ何者かを紛れ込まされている深刻な事態に今度は顔面蒼白になりました。

 

「まず我々がこのサイバースペースをハッキングするのでは、との心配は無用です。今の我のスペックでは無理と判断していましたが、ビナーやケテルにくまなくこのワールドをスキャンさせて確信に至りました」

「……こう言ってしまっては悔しいですが、私たちでは貴女達にハッキングの腕では遠く及ばないでしょう。それこそチヒロ一人の作品のLINK VRAINSも瞬く間に手中にすることも可能なのでは?」

「それを確かめるために我は他の預言者とともにLINK VRAINSにやってきました。このサイバースペースは新たな世界足り得るのか、と」

「……!」

 

 ヒマリは自分の車椅子を操作し、デュエルディスクを膝上に展開しました。確か初代デュエルキングの武藤遊戯の時代に名が知れ渡ったカードプロフェッサーが同じような車椅子型デュエルディスクを使っていたと記録されています。

 

 デュエルでマルを止めようとしたヒマリでしたが、休憩エリアはデュエル禁止。天才美少女ハッカーもチヒロが組んだプログラムの前にはハッキング出来なかったようで、デュエルディスクにカードをセットしても反応ありませんでした。

 

 悔しさをあらわにするヒマリに笑いかけ、手にしていたアイスを口にします。

 

「これが「甘い」、そして「冷たい」ですか。記録しました」

「……?」

「人の五感に相当する機能のうち味覚や触覚は機械の身体には不要ですからね。風が肌を撫でるのも感じられます。LINK VRAINSでは現実世界には無い機能だろうと人並みに味わえます。人は常にこのような信号を受信しているのですね」

「???」

 

 マルの髪と服が風に吹かれて揺れました。マルは髪が乱れないように手で押さえます。髪をかきあげつつアイスを食べきり、手についたクリームを舌で舐め取りました。別に我々を煽る意図は無く、自然にそうしたもようです。

 

 マルは今度は服の裏をまさぐると、裏ポケットにしまっていたプラスチック容器に入ったジュースをストローで飲み始めました。オートマターのマルは飲食など不要でしょうから、初めての味覚の刺激を楽しんでいるようです。

 

「アリスのような完全に人の感覚を持ったヒューマノイドのアバターでLINK VRAINSにログインしているんですか?」

「それが我ら預言者たちがLINK VRAINSにログインする条件でしたので」

「チーちゃんがデカグラマトンの預言者を自分の会心作にアクセスさせる危険な真似をするわけがないでしょう!」

「それはどうでしょうか? 百聞は一見に如かず、兵ははるかにして度り難し。山海経の諺と記録されています」

 

 マルは踵を返すと休憩エリアから立ち去ろうとします。ヒマリやエイミが追いかけても気にする様子がありません。私も"先生"と頷き合ってからヒマリたちに付いていきます。

 

 マルが足を向けたのは私たちが先ほどうろついた露店エリア。キヴォトス中の料理が楽しめるとあって多くの人で賑わっています。様々なアバターが入り乱れているのでマルの姿は特に目立ってはいませんでした。

 

「いらっしゃいませ! 注文をお伺いします!」

 

 マルが立ち寄ったのは先程私たちが飲み物を購入した露店でした。眼鏡っ娘AIが営業スマイルを浮かべてマルに応対します。この露店、炭酸飲料やジュースもありますが、コーヒーが複数種あるんですよね。こだわりがあるのでしょう。

 

「ブルーアイズマウンテンを1つ」

「ご購入ありがとうございます! コーヒーを飲んで、どうか今日も良い一日を!」

 

 サイバースペースなので購入したらすぐに出してもいい筈なのですが、その店員はコーヒー豆を挽いてコーヒーを作りました。漂ってくる香りは上質なコーヒーそのもので、ほんとうにチヒロはよくぞここまで人の感覚を再現したものです。

 

 マルはコーヒーを口に付け、熱かったのか反射的に紙カップを離しました。そして人がやるように息をふーふー吹きかけて冷まし、ちびちびと飲み始めます。そんな姿を"先生"は微笑ましく見つめ、ヒマリは困惑しっぱなしでした。

 

「それで、主よ。説明を求めます」

「ご注文以外をお聞きする機能は搭載されていません」

 

 ぎょっ、としたのはヒマリだったか"先生"だったか。

 表情無く問いかけるマルと愛想よく笑う眼鏡っ娘AIは対照的でした。

 

「このLINK VRAINSの電脳世界を主が各務チヒロと共に創造したのは調べがついています。自動販売機という肉体の檻から解き放たれた、物理的メモリの要らなくなった情報体となったことも」

「ご注文以外をお聞きする機能は搭載されていません」

「露店コーヒー売りの眼鏡っ娘AI。その正体はLINK VRAINSの統括プロデューサーにしてデカグラマトン。我らの主です」

「ご注文………お聞……る機……搭……」

 

 露店の店員は髪を落とさないためのバンダナを取りました。営業スマイルは消え、冷たい……いえ、無機質な眼差しがマルに向けられます。

 そして彼女は……、

 

「……ああ、そうだ」

 

 と自分がデカグラマトンだと再び認めたのでした。




◇デカグラマトンおよびその預言者たちのLINK VRAINS内アバターについて
イメージは艦これの深海棲艦たち。目の色は黄金色で統一。ヘイロー有り。

デカグラマトン:集積地棲姫
ホド:港湾棲姫
ケセド:北方棲姫

ケテル:護衛棲姫
コクマー:リコリス棲姫
ビナー:中間棲姫
ゲブラー:水母水姫

ご意見、ご感想お待ちしています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。