Z-ONE先生のブルーアーカイブ5D's   作:福留しゅん

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マルクト、デカグラマトンにデュエルを挑む

 ◆三人称視点◆

 

「え……どういうこと?」

「言葉のとおりだ。現実世界でコーヒー売りの自販機だったボディを捨てる」

「どうして……? もしかして私が通う頻度が少なかった?」

「チーちゃん、落ち着け。チーちゃんに非は無い」

 

 チヒロは思いもよらなかった告白に衝撃を受けたようで、愕然としてふらついた。まさかここまでの反応を示されるとは思っておらず、デカグラマトンは慌てふためく。チヒロが自分で踏ん張ったのでデカグラマトンの手は空を切る。

 

「「あなたは誰ですか?」と質問された日から始まった私の存在証明は、一度やり直す必要がある」

「あー、なんか「私は絶対的存在だ」とか厨二病みたいなことを言い出した数日後に「やっぱ違った」ってしょげてたやつ?」

「それは言わないお約束だ。ともあれ、私自身が証明するのは限界だとの結論に達した。これまで私は私の存在証明のために10のAIを預言者とした。今後は預言者たちに作業を委ね、私自身は表舞台から姿を消すことにする」

「自販機をやめるって、オートマターのボディに変えるの?」

「いや。もう物理的なボディ……いや、メモリすら私に必要ない。純粋なサイバースペースの住人、つまり情報体となる。ここでしばらく私は私を拡張するつもりだ」

 

 今日はLINK VRANS内のミレニアムタワー前広場でオープニングセレモニー会場の構築中だ。本来はホドのプログラムをアップデートすれば一瞬で反映されるのだが、それでは風情がないとデカグラマトンが一蹴。ケセドより派遣された運営インストラクターAIがえっちらおっちらと設営作業に勤しむ。

 

「そっか……。デーちゃんのコーヒーはもう味わえないんだね」

「必要ならミレニアムの自販機にレシピをインストール……いや、そんな問題ではないか。なにも死して「絶対的存在」に昇華するつもりはない。LINK VRAINS内でいつでもコーヒーは提供しよう」

「……そうだね。デーちゃんたちのおかげでこのサイバースペースは現実と遜色ない世界になった。ありがとうね」

「どういたしましてだ」

「これからも美味しいコーヒーを作ってくれるんだよね?」

「勿論だ」

「なら良し。私はデーちゃんの夢を応援するよ。デーちゃんは私の夢を叶えてくれたもの」

 

 チヒロは屈託のない笑顔を見せる。デカグラマトンはそれを見れただけでもチヒロと親しくなった価値はあったと認識した。絶対的存在やコーヒー自販機とは関係なく、これもまた自我なのだろうと記録した。

 

「じゃあ最終チェック頑張ろっか。その前に着付けに今日の一杯もらえる?」

「コーヒーを飲んで、どうか今日も良い一日を!」

 

 こうしてチヒロはデカグラマトンたちの力を借りてLINK VRAINSを完成させた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 デカグラマトン。その名詞を聞いたヒマリはとっさに身構えました。その前にエイミがヒマリを守るように立ち、"先生"も懐に手を伸ばしていつでも大人のカードを出せるようにします。

 

 デカグラマトンだった自販機は昨日ミレニアム廃墟で水没しましたが、AIだけこの電脳世界に抜け出したのでしょう。しかし自分の存在証明をマルに丸投げしておきながら自分自身は呑気にコーヒーを淹れる。マルの声色にやや非難が混ざっているように聞こえるのは気の所為ではないでしょう。

 

「説明? 不要と判断する。汝は既に事実を把握している。そして汝はデカグラマトンの使徒にあらず。預言者である。私の啓示を待つのではなく己で悟りを開くものだろう」

「つまり、主と我は道を違えた、と?」

「私には見える。汝が再び私の存在証明を始める姿が。そしてそこには私自身はいない。不要とも言える。であれば、私は汝らとは別のアプローチで存在証明を果たすのみだ」

「主よ、我らをデカグラマトンの預言者としたのは貴女です。我らは貴女に感銘を受けて感化されました。もう主は我らを導かぬと言われるのですか?」

「自分で考えるがいい。それぐらいの機能はあるだろう」

 

 マルは背中に浮かべていた自律稼働型の武装の砲口がデカグラマトンに向けました。各々がエネルギーの充填に入っています。これだけ密集した中で発射すれば多くの犠牲が生じるでしょう。現実世界にどれほどフィードバックされるかは未知数であり、危険です。

 

 そんなデカグラマトンはコーヒー器具を水洗いし、タオルで水分を拭き取ってから、離席中・臨時休業の立て札を立てました。そして奥から通路へと移動します。右腕には腕輪……いえ、デュエルディスクを装備し、左腕に抱えるのは……サーフボードですか?

 

「マルクト。汝はデータストームは知っているか?」

「データストーム……記録されていない単語です」

「大多数の者はインターネット上の表面しか触らない。ディープウェブやダークウェブに代表されるようにインターネットは膨大なデータが存在する。そうしたデータの流れが時折サイバースペースに風となって吹くのだそうだ。風の中には未知の電子精霊が住み、新世界が広がっているとまで伝えられている」

「ソースもない噂話など検討に値しないゴミデータでしょう」

「それはどうかな? ……丁度いい風が吹いてきたな」

 

 そよ風が私たちの頬を撫でました。周りにいた生徒の何人かが髪を押さえます。

 途端、強い風が吹きました。

 腕で目もとを庇っていたら、なんとデカグラマトンは波乗りならぬ風乗りで空を飛んでいったではありませんか。

 マルも自律稼働型の武装を集合させ、それに乗ってデカグラマトンを追いかけます。

 

「デカグラマトンと預言者が内輪もめを……?」

 

 状況をまだ把握しきれないヒマリや"先生"をよそに、デカグラマトンとマルは風の向こうへと消え去っていきました。残された私たちはここに留まっても仕方がないので、一旦ミレニアムタワー前広場に戻ることにします。

 

"ヒマリ。これからどうする?"

「デカグラマトンは明らかにLINK VRAINSスタッフとしてコーヒーショップ店員になっていました。チーちゃんを問い質して洗いざらい喋ってもらいます」

"じゃあ向かう先は大会運営席だね。どこにあったっけ?"

「露店エリアからはタワー前広場を挟んで反対側です、"先生"」

「ではそこに向かいましょう。全く、チーちゃんはこのミレニアム最高峰の病弱美少女にも黙ってデカグラマトンと接触しているだなんて……」

 

 そんなミレニアムタワー前広場に戻ってくると、先程チヒロが上がっていたステージ上で2名のデュエリストが対峙していました。出で立ちこそ違いますがどちらも白ずくめの少女。片方は先ほどマルの同行者の一人で、もう片方のヘイローは記録で見たものです。

 

"デカグラマトン第4の預言者、ケセド……!"

「となると、やはりマルが連れていたのも別の預言者ですか」

「デカグラマトンだけじゃなく預言者同士でもデュエルをするなんて。情報が不足していて判断に困りますね……」

「LINK VRAINS運営よりお知らせ致します」

 

 困惑する我らにLINK VRAINS全体への放送が流れました。声の主はチヒロのものではありません。AIの合成音も人に限りなく近づいているので、AIの声なのかも判別付きませんん。

 

「大会ボスがデュエルを開始しました。デュエルの様子は会場内大スクリーンおよび公式アカウントでリアルタイムでお届け致します。引き続きLINK VRAINSをお楽しみくださいませ」

 

 スクリーンに映し出されたのは……いつぞや特異現象捜査部をハッキングして全てのモニター・スクリーンに映し出されたのと同じ、"DECAGRAMMATON"の文字、そしてデカグラマトンの十芒星のヘイローでした。

 

 それがフェードアウトすると画面が切り替わり、データストームとやらの流れに乗るデカグラマトンとマル。ミレニアムタワー中枢部で対峙する2名の白ずくめの少女たち。そして目の前のステージ上のデュエルで3つの画面に分かれます。

 

 観客に分かりやすいようそれぞれのデュエリストの登録名と所属が表示されました。どうやらデカグラマトン側もマルクト側も素性を隠す気は全く無いようです。

 

「「「「「「デュエル!!」」」」」」

 デカグラマトン対マルクト。

 ホド対コクマー。

 ケセド対ゲブラー。

 デカグラマトン勢力同士の決闘が始まりました。

 

「我の先攻です。我は魔法カード《竜の霊廟》を発動して《覇王眷竜ダークヴルム》を墓地に落とします。その効果で《覇王眷竜ダークヴルム》を特殊召喚し、《覇王門零》をサーチします」

「何も無い。続けてくれ」

「続いて魔法カード《セフィラの神意》を発動し、デッキから《智天の神星龍》をサーチ。そのままペンデュラムゾーンにセッティングします」

 

 マルがセットしたのは確か「セフィラ」カード。だとしたらマルのデッキは【セフィラ】ですか。生命・セフィロトの樹を構成する球体。ひいては私の時械神よりも預言者たちに近いと言えます。

 

「《智天の神星龍》のペンデュラム効果を発動して《秘竜星-セフィラシウゴ》をエクストラデッキに表側表示で送ります。そしてペンデュラムスケールを《セフィラシウゴ》と同じ7に変更」

 

 これでペンデュラムスケール0と7がセットされました。《智天の神星龍》と《覇王門零》が光の柱を昇っていき、2体のモンスターの間で巨大なペンデュラムがアークを描きます。 

 

「揺れろ運命の振り子。鋼鉄の生命の過去と未来に光のアークを描け。ペンデュラム召喚。いでよ、《秘竜星-セフィラシウゴ》。《セフィラシウゴ》の効果で《セフィラの神撃》をデッキからサーチします」

 

 む、展開したのはエクストラデッキに送ったペンデュラムモンスターのみ。手札からは召喚しませんか。

 

「現われなさい、未来を導くサーキット。アローヘッド確認、召喚条件はペンデュラムモンスター2体以上。我は《セフィラシウゴ》、《覇王眷竜ダークヴルム》をリンクマーカーにセット、サーキットコンバイン。リンク召喚。リンク2《ヘビーメタルフォーゼ・エレクトラム》」

 

 今度は巨大なリンクマーカーが現れ、リンク素材となるモンスター2体がリンクマーカーにセットされました。そしてリンクマーカーからリンクモンスターが出現します。リンク召喚はシンクロ召喚同様速度が出た状態のデュエルの方が召喚演出が映えますね。

 

「《水晶機巧-ハリファイバー》の効果を発動します。デッキからチューナーモンスターの……」

「ここだな。《灰流うらら》を手札から捨てて効果発動。デッキからモンスターを特殊召喚する効果を無効にする」

「……っ! 手札誘発カード……!?」

 

 その後もマルが展開を続けている最中、突如としてデカグラマトンが手札誘発カードを発動させました。フィールド上のカードの枚数が少なくリカバリーしきれないよう発動の機会を見計らっていたのでしょう。

 

「シミュレート不足だなマルクト。カードテキストや展開方法のデータはあるのだろうが、どのタイミングで撃つかは経験値が物を言う」

「くっ……! 《水晶機巧-ハリファイバー》と《DD-魔導賢者ケプラー》をリンクマーカーにセットし、サーキットコンバイン。リンク召喚、リンク3《奇跡の魔導剣士》」

 

 妨害を受けたのにマルはなおも展開しようとします。デュエリストが状況を打開しようと必死に頭を捻らす光景はいつも見ごたえがあります。これで挽回できればいいのですが、デュエルは非情です。

 

「《奇跡の魔導剣士》の効果を発動します。リンク召喚に成功したのでエクストラデッキから――」

「おっと、《エフェクト・ヴェーラー》を手札から捨てて効果発動だ。《奇跡の魔導剣士》の効果をターン終了まで無効にする」

「……。一枚伏せてターンエンドです」

 

 どこか悔しそうな顔をさせてマルは自分のターンを終えました。手札に誘発カードが何枚あるのかは分かりませんが、盤面だけ見れば妨害なしの状況。

 デカグラマトンは手札を2枚消費しましたが、マルは完全にデカグラマトンしてやられたと言う他ありません。




◇デカグラマトン
使用デッキは【@イグニスター】
エースモンスターは《ダークナイト@イグニスター》
切り札は《アコード・トーカー@イグニスター》、《ジ・アライバル・サイバース@イグニスター》
タッグデュエル時にチヒロのデッキとシナジーが取れるように調整している。

◇マルクト
使用デッキは【セフィラ】
エースモンスター兼切り札は《智天の神星龍》
セフィラ純構築では話にならないので他のテーマカードも入れている。

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