Z-ONE先生のブルーアーカイブ5D's   作:福留しゅん

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マルクト、デカグラマトンに完敗する

「では私のターンだな。ドロー」

 

 デカグラマトンの腕輪はチヒロがシャーレで見せてくれたカードとデュエルフィールド全てがデジタル化されたもの。チヒロの言葉を信じるならデカグラマトン自身やホドはデッキ操作をせず、純粋にデュエルの腕を見せてくれるでしょう。

 

「《アチチ@イグニスター》を召喚。効果を発動して《ピカリ@イグニスター》をデッキからサーチする」

 

「《アチチ@イグニスター》をリンクマーカーにセットしてリンク召喚。リンク1、《ダークインファント@イグニスター》。デッキから《イグニスターAiランド》をサーチする」

 

「《イグニスターAiランド》の効果を発動して《ピカリ@イグニスター》を特殊召喚。効果を発動し、デッキから《めぐり-Ai-》をサーチする」

 

「《めぐり-Ai-》を発動。《ダークナイト@イグニスター》を見せ、《ドヨン@イグニスター》をデッキからサーチ」

 

「《ダークインファント@イグニスター》と《ピカリ@イグニスター》をリンクマーカーにセット。リンク召喚。リンク2、《サイバース・ウィキッド》」

 

 これは……1枚初動で展開し切るパターンですね。対戦相手のマルは覚悟を決めてデカグラマトンに向き合いままです。まだ戦う意志は折れておらず、手札と伏せカードに何度か視線を向けていました。

 彼女の感情データや表情データは元々インストール済みなのかLINK VRAINSにログインして追加された機能かは後で聞いてみますか。

 

 しかしいつまでも観戦しているわけにもいきません。彼女たちがデュエルを終える前にチヒロを問い詰めなくては。少し名残惜しいですが、デュエルディスクからもデュエルの状況は確認出来ますので、この場から離れましょう。

 

 ヒマリとエイミを先頭に大会運営へと向かった我々はヒマリとコンタクトを取ります。通された先でヒマリは空中ディスプレイとにらめっこしながら空中キーボードを叩き、コーヒーを啜っていました。

 

「チーちゃん!」

「ヒマリ、後にして。ちょっと今手が離せない。ホーちゃん、座標B-3で行われてるデュエルの処理がおかしい。すぐ修正して。それと座標D-6、草陰にノイズが走ってる。ここも修正して」

「いーえ。今はこちらを最優先にしてもらいますからね」

「……。ホーちゃん、ちょっと部長と"先生"たちが来たから席外すね。引き続き監視お願い」

 

 ヘッドセットを外したチヒロは我々に座るように促します。大会用の仮設を演出しているのか、折りたたみ式のテーブルにパイプ椅子ですか。電脳世界なんですからこうまでリアリティにこだわらなくてもいい気もしますが。

 

 チヒロは全員分のコーヒーを準備しました。少し焦るヒマリにチヒロはまずコーヒーを飲むように勧めるので、ヒマリは渋々コーヒーに口を付け……驚きの声を上げました。私も飲んで気づきます。これ、デカグラマトンの淹れたコーヒーですね。

 

「聞きたいのはデー……デカグラマトンのこと? ホド? それともケセド?」

「全部です。まさかチーちゃん、デカグラマトンの信奉者になったんじゃあ……」

「夢が叶うよう応援はしてるけど、どっちが上でどっちが下ってことはない。私とデカグラマトンは対等だよ」

 

 チヒロの様子はアリスの件で最初に出会った頃と何ら変わっていません。洗脳を受けた兆候無し。デカグラマトン宗教にはまった様子も無し。どうやら本当に気心知れた友としてデカグラマトンと交流を持っているようです。

 

「いつデカグラマトンと接触したんですか?」

「え? 覚えてないの? ほら、リオとヒマリが私たちを引き連れて二年前に廃墟探索した時。置いてきぼりにされてコーヒー啜ってたらヒマリが呼びに来たじゃん。あの時私の傍にあった自販機、思い出してよ」

「えっ?」

 

 ヒマリ、しばらく唸ってから「ああ」と声を漏らしつつ手を付きました。

 

「デカグラマトンの自販機!」

「あの味が気に入ったからちょくちょく足を運んでたんだ。その自販機がデカグラマトンとして進化したAIを搭載してたのを知ったのは少し前だね。意気投合したらLINK VRAINSの開発を手伝ってくれたんだ」

「デカグラマトンの協力を得て……? じゃあホドとケセドは?」

「いっつも話題に出してたじゃん。仕事を手伝ってもらってるハーちゃんってAI。あれ、ハブのこと」

「あ、あぁ~!」

 

 ヒマリ、今度は大声を上げて何度もうなづきました。

 

「LINK VRAINSの管理・処理はほとんど元ハーちゃん任せ。ああ、さすがにLINK VRAINSそのものはホドの中じゃないよ」

「じゃあ、ケセドがデュエルディスク付きのオートマターをホドに出荷していたのって、もしかしてLINK VRAINSの運営インストラクターAIのため?」

「それ含めたLINK VRAINS内のAIは大半がケセド製。セキュリティチェックもやってもらってる」

 

 次から次へと湧いて出てくる衝撃の事実にヒマリは面白いように反応しました。それもそうでしょう。キヴォトスの脅威と見なしていたデカグラマトンとその預言者たちといつの間にか交流を持っていただなんて。とはいえ、マルをシャーレ当番に迎えていた私も人のことは言えませんがね。

 

 LINK VRAINSにデカグラマトンやその預言者が関わるきっかけは分かりました。少なくともデカグラマトンはチヒロを利用したり害を及ぼしてはいないようですので、こちらから咎めるべきではないでしょう。"先生"も同じ考えのようで、そのようにチヒロに語っていました。

 

「問題はどうして他の預言者たちがLINK VRAINSを寄って集って襲ってきてるか、ですか。マルクトはこのサイバースペースが新たな世界になるか試すためと言ってましたけれど、チーちゃんは何か心当たりありますか?」

 

 チヒロは考えながらコーヒーを啜ります。

 ヒマリは先程からコーヒーが熱いうちに飲み込んでいますね。熱いのは平気なんでしょうか。

 

「ヒマリはもうデカグラマトン第7の預言者ネツァクには会った?」

「いえ、信号すら捉えていませんけど……」

「会えば分かる、ってデカグラマトンは言ってた。それ以上の情報を開示するつもりは無いみたい」

「……そうですか。結局、まだ姿を見せていない預言者を調査しなければ何も始まらないんですね。横着出来ると思ったのにがっかりです」

 

 ヒマリは車椅子に搭載したデュエルディスクの空中モニター機能でボスデュエルの状況をチェックします。デカグラマトンは大量に展開したもののマルのライフポイントを削り切るまでには至らず、ターンを返していました。

 

 預言者同士のデュエルはチヒロ側に与するホドとケセドがコクマーとゲブラーを圧勝していました。ことデュエルに関しては経験値が物を言いますから、LINK VRAINS内のデバッグ作業にも携わった前者2体に敵うはずもありませんか。

 

「結局、デカグラマトンはチーちゃんとLINK VRAINSをエンジョイしてて、ミレニアムゆかりの預言者に手伝わせてる、ぐらいしか分かりませんか」

「でもまだ遭遇してなかった預言者のデータは取れる。それも3体分」

「……。そうですね。前向きに捉えましょう。直接デュエルすればより詳細なデータが得られますから、早速挑みますか」

"分かった。私も手伝うよ"

「ではまずミレニアムタワー前広場にいるゲブラーからですね」

 

 ヒマリたちは"先生"を連れてその場を後にしていきました。残された私とチヒロはコーヒーの残りを飲みながらデカグラマトンのデュエルを観戦します。作業に追われていた筈のチヒロは中断されたのを機会に休憩時間に突入したようです。

 

 デカグラマトンの布陣は万全。一方マルのフィールドは返しのターンで総攻撃を受けてがら空き。手札の誘発カードは攻撃を凌ぐために使い切ったようなので、マルが逆転するにはトップ解決するしかありません。

 

「マルクト。汝に問おう。私の計算では汝がこの状況から勝つ確率は一桁パーセントに過ぎない」

「私の計算でもそのような答えが出ています」

「次のドローカードに全てを託し、希望が絶望へと変わるぐらいならば、諦めてサレンダーするのも手だろう。それでもまだデュエルを続けるか?」

「はい」

「何故?」

 

 AIなら最適な選択をすべきで、非論理的で無駄な行動はするものではない。デカグラマトンは暗にそう語っているようにも聞こえました。わずかに勝算が残っているならカードを引いてから決める、との効率的判断を回答として求めているのでしょう。

 

 しかし、マルの口からは思いがけぬ言葉が出ました。

 

「デュエリストだからです」

 

 それは、私がマルにあのカードを貸した際に述べた条件。

 デカグラマトンの預言者だのミレニアムの生徒だの関係なく、デュエリストであるなら、との。

 

「我のターン。ドロー」

 

 マルは勢いよくカードをドローし、そのカードをそのままフィールドにセットします。そして現れたのは巨大な鎧のような空の器。しかし守護天使が宿ることで正面の鏡面に顔が映し出され、存在感が増しました。

 

「現れよ、我の守護天使。《時械神サンダイオン》」

 

 そして、マルクトは王国の守護天使の力を宿した神を召喚したのでした。

 画面越しにも伝わってきます。神はマルを認めたようです。これならカードテキスト以上、本来の力を発揮できることでしょう。

 

 そんな時械神を前にしてデカグラマトンは「ほう」と唸り声を上げました。

 

「これが時械神か。直に対峙すると受ける印象が異なる……壮観だな」

「バトルです。《時械神サンダイオン》で《アコード・トーカー@イグニスター》を攻撃します」

「だが、デュエルは非情だ」

 

 肩の鎧がレールガンの様な形状となって光球を撃ち出しました。《サンダイオン》は攻撃力4,000かつ4,000バーンの効果があります。破壊耐性持ちですから並大抵の手段では対抗出来ませんが……デュエルモンスターは戦略次第で紙束でも神を凌駕するもの。

 

「罠カード《魔法の筒》を発動。《時械神サンダイオン》の攻撃を無効にし、その攻撃力分のダメージを与える」

「!? あ……」

「底知れぬ絶望の淵へ、沈め!」

「ああぁぁぁああっ!?」

 

 《サンダイオン》の攻撃が出現した筒の1つに吸い込まれ、もう1つの筒から射出されました。それは容赦なくマルへ襲いかかり、彼女は悲鳴を上げながらコースアウト。高層ビルの1つに叩きつけられました。

 彼女のライフは0。デカグラマトンの勝利です。

 

「ふっふふふ……。ふははははっ! ふぅん」

 

 デカグラマトンは綺麗に《魔法の筒》を決めてご満悦なのか、高笑いをしてからこれでかと言うぐらいのドヤ顔をしました。

 デカグラマトンが楽しそうで何よりですが、それとは対象的にチヒロがこれまでにないぐらい不機嫌になったのでした。




次回、チヒロに張り倒されるデカグラマトン。デュエルスタンバイ!

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