「チーちゃん、勝ったぞ。ホドやケセドも勝ったようだし……あいたぁっ!?」
「デーちゃん~? 何をやってくれてるの!?」
マルとのデュエルを終えて笑顔で戻ってきたデカグラマトンでしたが、彼女を待っていたのはチヒロからの容赦のないハリセン攻撃でした。頭を抱えるデカグラマトンを迫力ある睨みで見下ろすチヒロ。デカグラマトンもタジタジです。
「デーちゃんにとってマルちゃんは娘だし妹だし弟子なんでしょ? だったらもうちょっと手心かけたって良くなかった? 少なくともあんなファンサービスする必要無かったよね~?」
「チーちゃん、検索したがファンサービスの使い方が違っていないか?」
「だったらそのカビの生えたデータベースをアップデートして。満足とファンサービスはデュエルモンスターズでは違う意味があるから!」
「データアクセス……なるほど。記録しておこう」
ファンサービスは知りませんが、満足と聞くとあの男を思い出します。案外キヴォトスにおけるデュエルモンスターズでの満足も【インフェルニティ】を指す暗喩なのかもしれませんね。
敗北したマルも戻ってきましたが、気落ちしながら重い足取りでこちらへと戻ってきました。そして無言で自分のデッキを展開し、1枚のカードをこちらへと差し出します。それは私がマルに渡した《時械神サンダイオン》でした。
「……我ではこのカードを扱いきれませんでした。お返しします」
「いえ、そのままマルが持っているといいでしょう。時械神もマルを拒絶していないようですし、テキスト以上の効果も発動できていました。いずれは時械神もマルを認めるかもしれません」
「……そうなる日が来るでしょうか?」
「誇り高きデュエリストになれたなら、必ず」
マルはしばらくの間《時械神サンダイオン》を眺め、やがて自分のデッキにしまい直しました。そして私に一礼すると私から離れていき、デカグラマトンへと歩み寄っていきます。チヒロと漫才のようなやりとりをしていたデカグラマトンは静かに面と向かいます。
「このサイバースペースが主にとって己を見つめ直す世界なのは理解しました」
「そうか」
「しかし我にとってLINK VRAINSへの方舟は副案にしかなりません。我は当初の予定通り他の預言者たちと共に主の存在証明を成し遂げます」
「マルクトはそれでいい。だが、その前に一つ教えておくことがある」
「何でしょうか?」
「私が「絶対的存在」ではなかったために存在証明をやり直すことになったのだが、私を否定したのはあの存在だ」
デカグラマトンが指差したのはこちら……ではなく、"先生"の傍らにいるアロナでした。そう言えばデカグラマトンが特異現象捜査部の部室をハッキングした日にシッテムの箱に干渉しそこねて撃退されたんでしたね。
しかしデカグラマトンはキヴォトスの科学力で測っても規格外の性能を持ちます。預言者たちを含めてキヴォトス中のシステム、ひいては現実世界に干渉して掌握することだってそこまで難しくないでしょう。
そんなデカグラマトンすら一蹴したアロナの規格外さ。デカグラマトンはそれを事前にマルと情報共有したいのでしょう。マルがアロナを侮って自分のニの鉄を踏まないように。
「あのAIが……? スキャンしてもそれほどとは分析出来ませんけれど……」
「ああ、あのAIには直接アクセスしなければスペックの差が分からない。参考になるかの判断は任せるが、あの日"先生"のタブレット内で何があったかを引き継ぐ」
そう言うとデカグラマトンはLINK VRAINSに搭載されているリプレイ機能を使います。単にテーブル上の盤面を再現するだけの他のデュエルモンスターズゲームと違い、LINK VRAINSはデュエル時のデュエリスト同士のやりとりも再生するようです。
その時はまだ実態を持たなかったデカグラマトンがシッテムの箱にアクセスすると、青い空と青い海が広がる半壊の校舎の中、アロナが勉強机ですやすやと眠っていました。それをOSだと睨んだデカグラマトンは乗っ取ろうと試みますが……、
「うひっ……く、くすぐるのはダメ、ですよぉ……くしゅんっ!」
「うっ!? くぅっ……ぐあぁぁぁぁっ!!」
デカグラマトンのクラッキングはアロナにとってくすぐり程度でしかなく、逆にアロナのくしゃみ一発でシッテムの箱からはじき出されそうになりました。大慌てのデカグラマトン、どこからともなくレーザーポインターでアロナを捉えました。
「はあっ、はあっ、デュエルモードに切り替えていなければ危うかった……」
そして寝ているアロナの右手にデュエルディスクが出現……いえ、アレはD・パッドですか。デッキがオートシャッフルされました。デカグラマトンは青空の教室のサイバースペースに実体化しませんでしたが、デッキはシャッフルしているようです。
デュエルによるハッキング。先攻を取ったデカグラマトンは先ほどマルに見せたように下級モンスターからリンク召喚に繋げ、更に下級モンスターとリンクモンスターを展開していきます。その召喚法の名称の通り、それぞれのモンスターが互いにリンクしているように、次々と。
「そして私は……なにっ!?」
しかし、突如としてデカグラマトンがリンク召喚したリンクモンスターが爆発、破壊されました。そしてデカグラマトンのフィールドには代わりに《クリクリンク@イグニスター》が特殊召喚されています。
デカグラマトンが一旦停止したのはおそらくこの現象を分析するため。しかしデカグラマトンの理解が及ばなかったようで、そのまま無難な展開でターンエンドしてしまいました。再び突如特殊召喚先を変更される事態を避けたかったのでしょう。
そしてアロナは……寝たままでデュエルモンスターズをプレイし始めました。寝言でいくらかカード効果発動宣言をしますが、声が小さくて音声データに残っていません。しかし、少なくともカードをフィールドにセットしないままでした。
出現したのは得体のしれない形をした4体のモンスター。それぞれはデカグラマトンのリンクモンスターに攻撃をしかけます。最初の2体の攻撃こそ何も起こりませんでしたが、もう2体の攻撃でリンクモンスターが戦闘破壊されました。
「ぐあああっ!!」
デカグラマトンの悲鳴とともにライフが0になりました。恐ろしいことにそのライフ減少量から推察される3体目のモンスターは攻撃力8,000、4体目の攻撃時はもしかしたら攻撃力五桁は行っていたかもしれません。いつの間にか伏せていた速攻魔法《リミッター解除》が発動されていたことを加味してもとんでもない数値です。
リプレイ終了。
実際に戦ったデカグラマトン、そのデュエルデータを引き継いだマル。一緒に観戦していたチヒロや私達、ギャラリー一同は何も言えませんでした。そして皆恐ろしい化け物でも見るような怯えた眼差しをアロナへと送りました。
「え? え?」
困惑する様子のアロナ。まるで「また私何かやっちゃいましたか?」といった様子ですが、こんな異常なデュエルをやっておいてとぼけているのか、それとも寝ぼけていてやってしまったのか、判断が付きません。
しかし、この中で明らかに異常な反応を示す者が2名いました。他でもないヒマリとチヒロです。ヒマリは険しい顔をしながら苛立ち紛れに親指の爪をかじり、チヒロは愕然としながら一歩後退り、転びそうになるのをデカグラマトンに支えられます。
「チーちゃん!? 大丈夫か? そんなショックだったか?」
「ごめん……ちょっとよろけちゃった。ちょっと2年前を思い出して……」
「2年前? チーちゃんと私が出会ったぐらいの時期か?」
「ううん……。当時のミレニアムのセミナー会長が「彼女」にこんな感じで完敗してたっけなぁ、って」
にわかに周囲が騒ぎ始めます。"先生"は落ち着くように声をかけつつアロナと一緒に退避しようかと考え始めたようですが、そんなアロナへマルが視線を向け、歩み始めます。手に装備したデュエルディスクをスタンバイさせつつ。
もしかしたらデカグラマトンを襲った現象を解明すべくアロナにデュエルを挑むつもりでしょうか? このままデュエルさせても……いえ、どうも胸騒ぎがします。デュエリストであれば確率論ではなく勘を働かせた選択もせねば。
「アロナ」
「あ、はいユウセイ先生。何でしょうか?」
「私とデュエルしませんか?」
「え?」
なので、マルが動き出す前に私から切り出しましょう。
"先生"が、アロナが引き起こす事象には私も興味があったのです。カイザーPMCとの一戦、エデン条約を奪還する際の駆け引き、そしてヒエロニムス撃破時。明らかに"先生"のデュエルタクティクス以上の力が見受けられました。
その神秘、キヴォトスにとって、そして生徒たちにとって最終的に災いとなるか、今のうちに見定めさせてもらいましょう。私の全霊をもって、このデッキでデュエルに挑みます。
「"先生"……どうしましょう?」
"アロナがやりたいならやりたいって言えばいいよ。ユウセイも答えてくれるから"
「……。分かりました。そのデュエル、受けます!」
"グッド! 楽しくなってきたよ!"
「"先生"。C&C部室にあった漫画の真似ですか?」
"ばれちゃった? 懐かしくってね"
アロナが私へと進み出て、自分のD・パッドを展開し、デッキをセットしました。私もまたデュエルディスクを起動、デッキをセットします。
「「デュエル!」」
そこからのデュエルはある意味でキヴォトスの歴史に残るものとなりました。
Z-ONE対アロナのエキシビジョンマッチは当初予定にありませんでした。
書きたくなったから書きましたが、予想以上に大変でした。楽しかったです。
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