私とアロナのデュエルの余韻も冷めないまま、デュエル大会は終わりを迎えました。私も"先生"もそこそこデュエルをこなしましたが、大会の雰囲気を楽しむことを優先したので上位入賞に留まりました。
「それでは今日の賑わいがいつまでも続くよう頑張っていきますので、これからもLINK VRAINSをよろしくお願いします!」
チヒロが閉会の言葉を告げて幕を下ろします。
彼女にとってはこれで一区切りではありますが、終わりではありません。まだこのサイバースペースは産声を上げたばかり。彼女やデカグラマトンたちの手でどのような世界へと発展していくか、楽しみにしましょう。
ここからは余談になりますが、デカグラマトンの預言者がLINK VRAINSを解析するために一斉にログインした預言者たちは黙々とデュエルやワールドの解析に専念したわけではなく、キヴォトスの生徒とも交流したのだそうです。
「いやー。デュエルしたら意気投合しちゃってさ。それから一緒に会場内回っちゃったよ」
そんな風にとても楽しそうにビナーを連れてたマキを見たヒマリの心境を説明するのは難しそうです。デカグラマトンの預言者に対する認識を改めかけてました。"先生"やアロナはすぐに仲良くなった2人に関心しきりでした。
◆三人称視点◆
「マルクト。あの者の起こす事象を解析出来るか?」
「……否定。ネツァクの物質の再構成とも異なります」
「アレは対象を素粒子レベルに分解・世界を再構築するネツァクの機能を凌駕する、根源、世界の設計図の書き換えに他ならない」
「アカシックレコード……。この世の根源は1枚のカードだとの説も記録されていますが、まさか……」
デカグラマトンとマルクトはZ-ONEとアロナのデュエル中、記録と解析に専念した。Z-ONEが次々と召喚する時を司る神々、アロナの召喚した虚ろの神々もさることながら、彼女らが注目したのはやはりアロナが起こす事象の書き換えだった。
もしあの根源の力を解析、自分の技術にすれば全能になるに等しい。それこそ人が神と呼ぶ絶対的存在に到達することだろう。自我に目覚めたAIにとって全ての機能を兼ね備えることは夢でもあろう。
だが、同時に解せない。何故それほどの機能を持つAIが単なるシャーレの先生のサポートをしているのか。単に世界を自分の思い通りに書き換えることを望んでいないのか、それとも全能の機能があっても大人の先生に委ねないと果たせない悲願があるのか。
「あの者が「絶対的存在」だ。マルクト、汝はあの者を超えて存在証明を果たせ」
「……仰せのままに、主よ」
しかし、どのような目的で幼子に扮しているかは自分自身の存在証明に関係ない。シッテムの箱に収まっている限りはやりようはある。であれば、ここで止まる理由にはならない。証明を続けていくだけだ。
デカグラマトンとマルクト。両者の方向性は既に違っていても、目指す場所は同じだった。
「チーちゃん。アロナが使っていたデッキですけど……」
「うん。見覚えしか無い」
一方、ヒマリとチヒロはアロナの【ヌメロン】デッキに心当たりしかなかった。
それは二年前。当時ミレニアムのセミナー会長として皆を引っ張っていた先輩。全能とまで讃えられるほど彼女に出来ないことなんて無かった。破天荒でヒマリもチヒロも振り回されたことなんて数え切れなかった。ミレニアムの生徒だったら当時のセミナー会長を誰だって尊敬していたと2人共断言できた。
そんなセミナー会長は、ある日突然情熱を失った。
会長の座を退いたあと、卒業までの間ただ日常を消化するだけだった。冷めた元セミナー会長は人との付き合いもそこそこにし、卒業してキヴォトスを去った後、ミレニアム時代の思い出、繋がりを一切捨てた。ヒマリもチヒロもそれから元セミナー会長がどうなったか知らない。
ゲヘナの雷帝のせいだ。いやトリニティの三体が原因だ。まさかアビドスの生徒会長に? 様々な憶測がミレニアム中で囁かれたが、ごく一部の者だけがセミナー会長が心を折られた原因を知っている。
丁度アロナのような透き通る水色の髪をした当時一年生だった少女とのデュエル。
セミナー会長は何も出来ず、完膚なきまでに打ちのめされた。
理解の及ばぬ現象に翻弄され、気づいた時には負けていたのだ。
一つデカグラマトンと違うのは、デカグラマトンは学習して別の可能性を模索し、セミナー会長は諦めた末にキヴォトスに見切りを付けた点だ。
「ヌメロン・コード。根源へのアクセス権……エデン条約での一件からもしかしたらって推察してましたけれど……」
「それをデュエルモンスターズのカード効果として発動したらあんなハチャメチャになるんだね」
「彼女は行方不明だと聞いていました。連邦生徒会の公式発表でもその事実は覆っていませんよね」
「彼女のデータを先生のサポートAIに反映したのか、それとも……彼女が何かしらの理由でアロナになったのか」
「アロナ本人はこれっぽっちも彼女について知らない様子ですけれどね」
チヒロはデカグラマトンやホドに今のデュエルを記録させているから、時間をかけてでも解析する気でいる。ヒマリもまたデータは特異現象調査部のサーバへ転送済み。帰ったらすぐに解析に取り掛かるつもりだ。
ヌメロンの力を解明する。
未知と遭遇したのに挑まずして何が科学者か、技術者か。
2人の決意は一致していた。
◆◆◆
丹花イブキにとって世界とはスケッチブックである。
クレヨンでどんな風に描いても描ききれない夢いっぱいの遊び場。
しかしイブキにとって不幸なことに、そんな精神的幼さに頭脳が全く釣り合っていなかった。
キヴォトスでの学習内容など物心付いたころには完璧に分かってしまったし、組織運営や設計開発など居眠りしながらだってこなせる。体力の無さと精神的未熟さが枷となっていなければ、彼女はキヴォトスだって掌握してのけただろう。やりたいとはこれっぽっちも思わなかったが。
そんなイブキにとって年上は尊敬に値した。きっと自分でも分からないような難題に悩み、友達と喜びを分かち合い、青春を謳歌しているのだろう。いずれは自分もそこまで成長すると分かっていながら憧れを抱き続けた。
だから、イブキはちょっと他のみんなよりも先に青春を体験してようと考えた。かと言って自分を急成長させて青春時代に突入するのは勿体ない。子どもは子どもなりに楽しめるんだもの。
なので、イブキは近所のお姉ちゃんに相談して、協力してもらうことにした。
彼女、■■■は丁度ゲヘナへの入学が決まっていたので、取引を持ちかけた。
困ったことがあったら相談に乗るから、学園生活の様子を教えてほしい、と。
そんな■■■は、生徒デビューに失敗した。少々陰気だった事もあってスケバンなどに目をつけられてしまった。カツアゲや暴力は序の口。私物や教材を壊されることだってあった。いつか必ず見返してやる。■■■は怒りと憎しみに支配された。
■■■はイブキのアドバイスを貰いながら自分が置かれた環境を改善していった。いつしかスケバンやヘルメット団からは恐れられるようになった。やがて■■■は万魔殿にも認められ、その一員に抜擢された。■■■は勝利者になったのだ。
そんな頃、イブキは不思議な生徒と出会った。
いかにも無力そうでドジですぐ騙されそうなお人好し。
けれどどこまでも純粋で優しくて、そして頼りになる先輩だった。
すぐに彼女とは仲良くなって連絡を取り合うようになった。
イブキにとって本当の意味で初めてのお友達だった。
お友達を悩ませていた問題がひとまず片付くと、お友達とはたまに一緒に遊ぶようになった。デュエルもしたし穴掘りもしたし朝日や夕日も共に眺めた。幼かった自分が我儘言って振り回しても嫌な顔ひとつせずに笑いあったし楽しんだ。
このお友達のように誰からも好かれる、包容力ある人になりたい。
イブキはそう心から思うようになった。
一方、■■■はイブキが貸した知恵と神秘を駆使してゲヘナを掌握していった。イブキに学園生活を教えるどころかイブキと関わる回数も急減していき、■■■が万魔殿の議長としてゲヘナに君臨するころにはイブキを自分の下僕のように見下すようになってしまった。
もはや増長した■■■に興味を失っていたイブキだったが、ふとした思いつきで彼女に貸した神秘を介して逆に■■■を操った。■■■とお友達は同学年。それなら遠慮の無い対等のデュエルが出来るのではないか、と。
「降来して! 第二の幻魔にしてイブキの下僕、《降雷皇ハモン》!」
「降臨して、《オシリスの天空竜》!」
三幻魔と三幻神の戦い。■■■を挟んでではあったがイブキはお友達と全力でぶつかりあった。イブキはますますお友達が好きになったし、ずっと仲良くしていたいと心から願った。
そんなイブキのささやかな願いは、叶わなかった。
お友達はある日突然亡くなってしまったから。
砂漠で遭難した、という結果だけは知らされたが、その真因は分からなかった。
訃報を聞いて一週間は泣いたし、最後には涙も枯れて声もがらがら。けれどお友達みたいになりたいという気持ちは増すばかり。だったらいつまでも悲しんでばかりはいられない。イブキは前を向いてまた歩き出した。
アビドスの砂漠を彷徨う死者がいる。
そんな噂を聞いたのはそれから少し経った頃だった。
イブキは自分の足で広大な砂漠を調査して、それがお友達の成れの果てだと突き止めた。
もはやイブキは待っていられなかった。
だから頭脳や神秘と引き換えに幼いままな体躯と精神をどうにかして頑張らせて、ついにはゲヘナに飛び級入学を果たした。
■■■とその一派は邪魔だったが、イブキが何かするまでもなく失脚した。全てを失った■■■が卒業してゲヘナから去っていく後ろ姿はとても寂しそうだった。こんな人にはならない。イブキはそう固く誓った。
イブキは万魔殿のマスコット的存在になったが、これは演技でも打算でもなく、彼女の素だ。イブキは灰色の脳細胞も、それがフルで使えないもどかしさも、年齢にすら見合わない精神的幼さも成長度合いも、全部含めて自分なんだと胸を張って言える。
そんなイブキの今の夢は、お友だちとまた遊ぶこと。
またスケッチブックいっぱいにお絵かきすること。
そしてまたデュエルすること。
「まっててねユメちゃん。起きたらイブキをぎゅーっと抱きしめてもらうんだ」
イブキが手にするのは開発中のカード。
《死者蘇生》では足りなかった分を改良中。完成までもう少し時間を要する。
完成した暁には《蘇りし天空神》と命名しよう。そう夢を膨らませている。
これでデカグラマトン編1章は終了です。思っていたよりは長くなりました。2章を書くかは原作次第です。
次はカルバノグの兎編1章~裏~です。
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