「本日より特別授業の講師を務めます連邦捜査部のZ-ONEです。一週間よろしくお願いします」
「助手を務めますSRT特殊学園の七度ユキノです」
そんなわけで私たちは陰陽部が準備した教室へと足を運びました。既に授業を受ける子どもたちや生徒、そして大人までが詰めかけていて、大変賑わっています。彼女らの期待を裏切らないように丁寧で分かりやすい授業を心がけたいものです。
……どうやらワカモはこの講義期間中は自分が七度ユキノであると押し通すつもりのようです。本物のユキノが百鬼夜行に派遣されることはまず無いでしょうが、後でどう説明すべきか今のうちに考えておいた方が良さそうですね。
参加者には事前に名簿に氏名と所属を記入してもらった際にスターターパックを一つ配っています。「マシンナーズ・コマンド」、「ドラグニティ・ドライブ」、そして「オーバーレイ・ユニバース」から一つ選択してもらいました。いずれもキヴォトスで一般流通している構築済みデッキですね。
「ではまず、実際にカードに触れる前に、デュエルモンスターズとは何か?について講義します。退屈ですので興味のない方は中座していただいて問題ありません。しかしキヴォトスでデュエルモンスターズのカードに触れていくのなら聞いておいて損はありません」
あいにく私は黒板にチョークで実際に書くのは面倒なので、プロジェクターでパソコンの画面をスクリーンに投影します。それでレーザーポインターを使って強調したい部分を指し示します。
「そもそもトレーディングカードゲームの始まりはテーブルロールプレイングゲームを簡略化して出来上がりました。そのTRPGも元々は古の決闘を現代に再現したものです。世界中の神話に神、悪魔に相当する存在、奇跡や魔法に相当する超常現象が記録されていて、デュエルモンスターズとはその決闘を蘇らせたものなのです」
「例えばこの《青眼の白龍》は数千年前に古代の砂漠の国に現れた白き龍の魂を持つ少女の記録からデザインされました。アビドスに伝わる三幻神、ゲヘナの三幻魔なども言い伝えられる伝説、神話を元にデザインされています。中には本物の神、悪魔の力を持ったカードが生まれる場合もあります」
「リアルソリッドビジョンが開発されてデュエルは更に臨場感あふれる娯楽になりましたが、時にはリアルソリッドビジョン無しで現実世界に影響を及ぼす場合があるでしょう? それはカードを依代とした精霊の力によるものです。我々はデュエルを介してモンスターの精霊を使役している、と解釈しても構いません」
「二年前にゲヘナの雷帝が使役したと言われる《降雷皇ハモン》の効果を画面に表示させましたが、ご覧の通り単体ではただ召喚が面倒で耐性も無い重いだけのモンスターに過ぎません。これはゲームとして成立させるためにカード効果の調整したのもありますが、あまりに本物の降雷皇ハモンをカード効果に再現しすぎることを防いだという理由もあります」
「何故か? 神は唯一にして絶対の存在。神の力を使うのに相応しくない一般庶民が神の怒りに触れ、神罰を受けることを避けるためです。神の怒りに触れない程度の一端に留めた力にカード効果を制限し、一般に流通させているのですね。おかげでご覧の通り最上級の神とまで言い伝えられる《ラーの翼神竜》は目も当てられない惨状になっていますね」
「デュエルでは時々テキスト外効果が発動される場合があります。それはモンスターの神秘をテキスト効果というリミッター以上に、つまり本来の力を行使しているためです。これは精霊との相性だったりと不確定要素が多く、まだ研究中の分野になります。これを頼りに戦術を組むのは危険でしょう」
「最後に、デュエルモンスターズは古の決闘の再現です。どんなに強大なモンスターであろうと攻略の術はあります。桁違いの攻撃力を持ち鉄壁の耐性を兼ね備えるモンスターを召喚されても決してデュエルを諦めないでください。次にドローするカードが起死回生の一手に繋がるかもしれませんから」
ここからはデュエルモンスターズの基本的なルールやカード効果の説明、どのような種族や召喚法があって、実際にデュエルするとどんな風になるかを講義しました。勿論ただの座学では退屈で眠くなるだけなので、実際にスターターパックのデッキを使ってもらいながら。
私のデッキはシンクロ召喚を主体にした【遊星】、ワカモのデッキはペンデュラム召喚を主体にした【妖仙獣】でした。互いにデモンストレーションを兼ねているので展開も最小限に留めます。
「私はレベル2《スピード・ウォリアー》にレベル3《ジャンク・シンクロン》をチューニング。集いし星が新たな力を呼び起こす。光さす道となれ! シンクロ召喚! いでよ、《ジャンク・ウォリアー》!」
「私はスケール3《妖仙獣 左鎌神柱》とスケール11になった《妖仙獣 右鎌神柱》でペンデュラムスケールをセッティング。万物に宿りし八百万の神々よ。現し世にてその大いなる力を示し、私どもを導きたまえ! ペンデュラム召喚! おいでなさい、《魔妖仙獣 大刃禍是》!」
さすがに手本を見せるのがシンクロ召喚とペンデュラム召喚だけでは足りないので、他の召喚方法にも秀でた別のデッキも準備してきました。と言っても同じスターターパックを3つ買ってカード枚数を調整したお手軽デッキですがね。
「現われなさい、未来を導くサーキット。アローヘッド確認、召喚条件は効果モンスター2体以上。私は《サイバース・ウィザード》、《バックアップ・セクレタリー》をリンクマーカーにセット、サーキットコンバイン。リンク召喚。リンク2《コード・トーカー》!」
「え、と? 私は魔法カード《影依融合》を発動? 手札の《シャドール・ファルコン》とフィールドの《シャドール・リザード》を融合? 創造の神に身を捧げし薫風の巫女、その躯傀儡として破壊の神降臨をもたらさん。融合召喚、《エルシャドール・ウィンダ》! ……これ、回し方合ってますかねえ?」
あとは受講者の席を回って個別に指導していきます。初心者用と銘打ったのもあって初めてデュエルモンスターズのカードに触れた子どももいました。細かいルールの間違いを指摘していたら楽しめないので、その場の雰囲気に合わせて助言していきます。
意外にもワカモは真面目に受講者を指導していました。前評判からはとても想像できない光景に内心驚きますが、"先生"はワカモを向き合えば一途な良い子だと評していましたっけ。単に少し暴走しがちなだけかもしれません。
さて、受講者の中には既に自分のデッキを持っている百鬼夜行の生徒もいるのですが、その中でもひときわ熱心に勉強をする生徒がいました。百鬼夜行の生徒名簿を閲覧すると……ありました。
「ユウセイ先生。彼女が気になりましたか?」
「ええ。他の誰よりも真面目に授業を受けて自分の血肉にしようとしているので」
「彼女は勘解由小路ユカリですね。勘解由小路家の娘が百花繚乱紛争調停委員会に憧れているとは聞いていましたが、本当に百花繚乱に加わっているとは……」
「百花繚乱?」
百花繚乱という言葉自体は私も知っています。しかしその後に続く単語から察するに様々な花が咲き乱れるさまを表すのではなく、華やかで才能ある優れた人物が数多くいる様子を意味しているのでしょう。
「ゲヘナの風紀委員会、トリニティの正義実現委員会に相当する、と言えば分かりやすいでしょうか。百鬼夜行が連合を組む前、各自治区で勃発する紛争を調停していた治安維持組織ですね」
「なるほど。勉強熱心なのは良いことです」
「ですが百花繚乱ほどの委員会ならユウセイ先生の授業を受けなくてもお手本がいっぱいいるでしょうに。ぱっと思いつく限りでも委員長と副委員長のアヤメやナグサ、あと有望株の幹部はキキョウとレンゲですか」
「身内以外の戦術を取り入れたいのでは?」
「単純にそれだけであればよろしいのですが……」
ワカモは胸騒ぎがするようですが、初日から深い事情を聞き出そうとすれば警戒されるだけです。講義は一週間ありますから、徐々に打ち解けていけば事情を話してくれるかもしれません。
初日はこうしてデュエルモンスターズとは何か、そしてルールはどんなものかの説明で終わりました。やはり実際にカードを触ってみると興味を示す子が多く、デュエルディスクでモンスターを召喚した際の感動した顔は見ていてこちらも嬉しくなってきたものです。
◇狐坂ワカモ
普段使うデッキは【妖仙獣】
エースモンスター兼切り札は《魔妖仙獣 大刃禍是》と《魔妖仙獣 独眼群主》
しかし上記の情報はほんの一部でしかない。
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