講義も2日目になりましたので、次にどのようにデッキを組めばいいかの説明に移ります。私も始めの頃は失敗しましたので、そんな誰もが経験した失敗談からも語っていくとしましょう。
「まず、他のデュエリストのデュエルを見ていてこう思ったことでしょう。あのカードも入れたい、このカードも入れたい。そうしてカードをデッキに詰め込んでいき、最終的に60枚のデッキになる。これはまず止めておくべきです」
「カードを1枚ずつ入れる構築をハイランダーとTCG界隈では言いますが、極力デッキの枚数は絞って最小の40枚で構築するよう心がけましょう。そしてキーカードは最大の3枚を投入するのです。これは初期手札に目当てのカードが来る確率、そしてドローする確率を計算すれば自ずと分かります」
「そしてデッキに入れるカードはそれぞれシナジーが取れるものにしましょう。例えば《ブラック・マジシャン》、《暗黒騎士ガイア》、《デーモンの召喚》を同じデッキに入れると事故を起こします。《ブラック・マジシャン》であればせめて《ブラック・マジシャン・ガール》を同じデッキに入れる、に留めるべきです」
「では《超魔導剣士-ブラック・パラディン》を使いたいから《ブラック・マジシャン》と《バスター・ブレイダー》の両方を入れるか? これは難しい質問です。デッキを上手く機能させたいなら【ブラック・マジシャン】デッキか【バスター・ブレイダー】デッキにし、どちらかもう一方は融合素材代用モンスターで補うべきでしょう。正規融合したいのでしたら運命力にかかっています」
「なので、デッキを構築する場合、まずは何が目的かをはっきりさせてください。ただ単に勝ちたいのでしたら大会で実績を残すデッキ構築をそのまま真似し、デッキを回して練習するのが近道です。あるモンスターを召喚したいのでしたらそのモンスターをいかに生かすか、に絞って他のカードを選定してください」
「ここで一つよくある話を。《い》というカードを使いたいので、《ろ》や《は》といったカードを入れました。デッキが上手く回らないので《に》、《ほ》を追加しました。勝つために《へ》や《と》なども加えました。邪魔になった《い》を抜かしてデッキは完成しました。いつの間にか目的が失われていますね」
「昨日配布したストラクチャーデッキはそういった意味でデュエルモンスターズを始めるのにとても役立ちます。しかしストラクチャーデッキは普通1枚ずつ多くのカードが入っているので、最大限活かしたいのでしたらストラクチャーデッキを3つ購入し、カードを厳選することです」
「まずは二人一組になり、昨日お渡ししたストラクチャーデッキのままでデュエルしてみてください。そして他の人ともデュエルし、3マッチしてください。終わったところで同じストラクチャーデッキをもう2個追加で配布しますので、午後3時までデッキの再構築の時間とします」
「長すぎる、と思った方もいるかもしれませんが、デッキにあるカードを2枚入れるか3枚入れるかで徹夜して悩むデュエリストもいます。どのカードを入れればエースモンスターを活躍させられるか、無駄なドローをせずに済むか。一人で悩む必要はありません。この教室にいる仲間と相談し合うのがいいでしょう」
そうしてこの日はストラクチャーデッキを使ったデッキの回し方、再構築に専念してもらいました。最初のうちは慣れなかったものの次第にコツを掴んできたのか思考時間が目に見えて減っていました。一日の講義が終わる頃には皆新人デュエリストとして出発してもいいぐらいに成長していました。
◇◇◇
3日目に入ったので、この講義に備えてキヴォトス中のストレージをかき集めてきました。流石に整理が面倒だったのでミレニアムに依頼してテーマごとに機械で分けてもらいましたけれどね。複数個の段ボールいっぱいに詰め込んだ大量のカードに子たちは目を輝かせます。
「今日は実際に自分の好きなようにデッキを構築してみましょう。どのようなデッキを作りたいかイメージが沸かない人は気軽に相談してください。くれぐれも欲しいカードを取り合わないように」
子どもたちが賑やかにカードを触る中、生徒と大人の半数近くはストレージのカードに見向きもしませんでした。どうやら彼女たちは自分のデッキを所持しているようです。現にデュエルディスクを持ち込んでいる者がほとんどですからね。
そしてまた二人一組になってデュエルをしてもらい、普段はあまりしない将棋やチェスで言う感想戦もやってもらいました。次のデュエルに向けてまたストレージをあさって欠点を補うカードを見つけ出す。別の人と再戦。これを繰り返してもらいました。
最初のうちは考えなしにカードを出していた子も徐々に長考するようになっていきました。どのカードを出せば盤面を盤石に出来るか、逆転出来るかを大いに悩み、これだと繰り出したカードがもたらす結果に一喜一憂します。
こうして3日目も何事もなく終わりました。
◇◇◇
4日目からは教室内ではなく校庭を借りることにしました。デュエル出来るようになったら独り立ち、と見なしてもいいのですが、お小遣いの少ない子どもにそうするのは大海原に旅立たせるのと同じ。もう少し面倒を見なくては。
「では、今日からはテーブルでのデュエルではなく、実際にデュエルディスクを使ったデュエルを体験してみましょう。陰陽部の厚意で旧型の中古ではありますが参加者全員分のデュエルディスクが準備出来ましたので、配布します」
陰陽部から支給されたデュエルディスクは見た目がワカモのと同じく扇型でした。重なった状態のデュエルフィールドが扇のように広がって展開される様子は空中デュエルフィールドとは違った趣があります。
各カードの効果やチェーンがデュエルディスクで正確に処理されるようになったので、中には「あれ? おかしいなぁ」と首を傾げる者もいました。そして履歴とカードテキストをじっくりと見つめ、自分の間違いに気づいて「あ~!」と声を上げます。
初心者の大半は昨日組んだデッキや一昨日のストラク3個デッキを引き続き使ってくれています。一部は私のアドバイス通り大会で実績を残したデッキを真似てきているようです。そして残りのデュエリストは自分のデッキを持ち出しているようでしたが、中には自分のことしか考えていない独りよがりな輩が混ざっているようです。
「そこの方。相手は3日前に始めたばかりの初心者なのですから、手心を加えろとは申しませんが、相手のレベルアップに繋がる立ち回りを心がけてくださいませ」
「は? なんでだよ? 気持ちよくデュエルして悪いか?」
ストラク3個デッキを1ターンキルした不良生徒を見かねたワカモが注意しますが、相手は自分は悪くないと正当化して開き直ってきます。ワカモはそれ以上口では注意しようとせず、実力で黙らせることにしたようです。
「《ヴァレルロード・S・ドラゴン》でダイレクトアタック! 雷のヴァレルファイア!」
「ぎゃあぁぁああっ!?」
しかもご丁寧にユキノの【ヴァレット】デッキを真似てくる徹底ぶり。慣れた自分のではないデッキを使いこなせるデュエリストは中々いません。そう言った点からもワカモは優れたデュエリストのようです。
「《Sinサイバー・エンド・ドラゴン》で攻撃。エターナル・エヴォリューション・バースト。続けて《Sinレインボー・ドラゴン》でダイレクトアタック。オーバー・ザ・レインボー」
「そんなあぁぁああっ!!」
私もたまには別のデッキを使います。アポリア、アンチノミーのデッキは渡してしまったので、残ったのはパラドックスの【Sin】デッキのみ。どうやら「Sin」カードは私も彼のように一定レベルのテキスト外効果は使えるようですね。
不良生徒に教育的指導を行った後、1マッチ終えたユカリがこちらへと歩み寄ってきました。彼女は自分のデッキを持参していましたが、これまではストラク3個デッキとストレージデッキでデュエルしていたようです。
「お初にお目にかかります、ユウセイ先生! 身共は勘解由小路ユカリと申します!」
「初めまして。既に一人前のデュエリストでありながら基本を学び直す姿勢、関心していました」
「恐縮です。ここでお会いしたのも何かの縁、次は身共と決闘をしていただきたく、お願いに参りました!」
「いいでしょう。お手柔らかにお願いします」
私はデュエルディスクにセットしたデッキを入れ替えました。指導は別として受講者を相手する場合は同じ条件でと決めていたので、ストラク3箱で組んだ【ドラグニティー】デッキを使うとしましょう。
一方のユカリもデュエルディスクからセットしていたデッキを外し、制服の裏ポケットに入れていたデッキをセットしました。ユカリはどうやら自分のデッキで私に挑んでくるようです。
「ちなみにユウセイ先生どんな札を使うつもりですの? やはり【しんくろん】ですの? それとも「りんくぶれいんず」で見せた【時械神】ですの?」
「シンクロテーマの【ドラグニティ】です」
「なるほど、2日目の講義の手本を見せていただくのですね! では身共は【鴉天狗】でお相手いたしますわ!」
「【鴉天狗】……?」
鴉天狗と聞いて思い浮かべたのは初期の通常モンスター《カラス天狗》、それから遊城十代の時代に三沢大地が使ったデッキの一つ【妖怪族】デッキの《破魔のカラス天狗》ですか。
私とユカリ、双方がソリッドビジョンでモンスターを実体化させられる充分な間隔を開けて対峙。先攻と後攻はコイントスで、と思ったらユカリからじゃんけんでと提案されたので快諾。私が先攻になりました。
「「決闘/デュエル!」」
ふむ。それなりに展開できる手札にはなりましたが、とりあえずリンク2リンクモンスター《ドラグニティナイト-ロムルス》とレベル10シンクロモンスター《ドラグニティナイト-アスカロン》でも並べ、《煉獄の落とし穴》をセットしておきますか。ターンエンドしてユカリに渡します。
「ふふふっ! 【どらぐにてぃ】やユウセイ先生の【しんくろん】も凄まじい展開力ですが、身共の【鴉天狗】こそがきぼとす最強最速の「しんくろでっき」です!」
「【鴉天狗】が最強最速のシンクロ……? っ!? まさか……!」
「それを今から見せて差し上げましょう! 魔法札《黒羽の宝札》を発動! 手札の「BF」1枚を墓地に送り、札を2枚!」
ブラックフェザー。不動遊星の時代にシグナーの一人クロウ・ホーガンが使用したデッキテーマ。そう言えばブラックフェザー、つまり黒翼の鳥人たちは鴉天狗からデザインされたとの説もあるのでしたね。ならクロウ・ホーガンはさしずめ鴉天狗にゆかりのある源九郎判官(くろうほうがん)義経だな、と冗談交じりに思ったものです。
なるほど。【BF】デッキであればその展開力と爆発力は【遊星】デッキ以上。しかもさり気なく《黒羽の宝札》をキヴォトスのテキストではなく私たちの世界の効果で発動してましたね。
だとしたら……既に勝敗は決しているかもしれません。私の敗北をもって。
「《BF-あーむず・うぃんぐ》で直接攻撃します!」
「ぐ……! 見事です……!」
「うふっ! まさに完全勝利! ユカリ伝説の始まりですのよ!」
この後5体のシンクロモンスターを並べられて後攻1ターンキルされました。
いかに【ドラグニティ】と言えども妨害が薄くては【BF】の猛攻には耐えられませんので。
◇勘解由小路ユカリ
使用デッキは【鴉天狗(BF/ブラックフェザー)】
エースモンスターは《BF-アーマード・ウィング》、《BF-アームズ・ウィング》、《ABF-驟雨のライキリ》
切り札は《BF-フルアーマード・ウィング》、《ABF-神立のオニマル》
ポリシーからか本話時点で《ブラックフェザー・ドラゴン》は入れてない。
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