Z-ONE先生のブルーアーカイブ5D's   作:福留しゅん

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シュロ、デュエル講義に参加させられる

 6日目。この日はこれまでの授業の総決算。小規模ながら大会を開催しました。成績優秀者には初日に配布したのとは別のストラクチャーデッキを贈呈されます。私とワカモはジャッジ役のためこの日は一切デュエルしませんでした。

 

 ちなみに、講義への参加は任意です。都合が悪ければ欠席してもいいですし、1日だけの参加でも結構。逆に後からの参加も大歓迎です。なのでこれまで目にしなかった顔を見ることも珍しくありません。

 

 この日、初めて顔を出した少女は、酷く退屈そうでした。

 モンスターを召喚する際も、相手のモンスターを撃破した時も、相手の戦術を見破って返り討ちにしても、一喜一憂することはありませんでした。

 

「はぁ、どうして手前がこのようなお遊戯をしなくては……」

 

 彼女が嫌々この講義に参加しているのは明白でした。

 そんな私の視線に気づいた彼女はぺこりとお辞儀をしてきます。

 

「これはこれは。お初にお目にかかります、シャーレの先生。手前は箭吹シュロと申します。以後お見知りおきを」

 

 小柄でやせぎすな少女は顔を上げ、見た目は可愛らしい笑顔をこぼしました。

 

「随分と気乗りがしない様子ですが、何か理由が?」

「デュエルモンスターズには風流がありませんので。ああ、決してデュエルモンスターズを馬鹿にしているわけではございませんよぉ。ただ花札や百人一首をつまらないと感じるのと同じで、手前の性に合わないとでも言いましょうか」

「別に参加は強制していませんが、講義に顔を出したのは何か理由が?」

「あぁ、コク……手前の師匠のような方にこの講義に参加して勉強してこいと命じられまして。手前の琴線に触れる奥深さを発見出来ればなぁ、と期待しているわけですよぉ」

「成程。それで、シュロが望むものは何ですか?」

「そうですねぇ、あえて言葉にするなら、恐れ、そして畏れでしょうか」

 

 恐れと畏れ。それは人間が生命体である以上は切り離せない本能。

 そしてデュエルモンスターズでは普段あまり味わう機会の無いものです。

 それでは確かにシュロが退屈だと思うのも仕方がありません。

 

「別に夜の散歩程度の些細なものでも良いのです。しかしデュエルモンスターズはゲームとして成立させる以上、効果はハッキリしていますでしょう? 神々だろうと妖怪だろうと、全て理解出来る存在に成り下がっています。ほら、よく言うでしょう? 人は見えず、理解できぬ存在ほど畏れ敬うものだと」

 

 デュエルモンスターズも黎明期はTRPGのように互いのプレイヤーがルールに従うかぎりで知恵を絞り合って決闘したそうです。ルールが整備されたことで不安定さと不公平さが無くなった代わりに規格外の手が打てなくなりましたね。

 

「成程。カードとして明示されたならいかに強大な力を持つ神だろうとモンスターに過ぎない、と。その考え方は間違っていませんね」

「でしょう? でしょう? 正体不明だから、理解出来ぬから神は神だし妖は妖なのに! 故に手前はデュエルモンスターズは好きではありませんし、出来るだけ触りたくもありませんねぇ。ああ嫌だ嫌だ」

 

 デュエルモンスターズに嫌悪感を隠さないシュロの様子に周囲の受講者たちがざわつきました。中には明らかに気分を害した者もいるようです。シュロはその様子を気にする様子も無く……いえ、むしろ楽しそうに眺めます。

 

「ですがコク……師匠の言うことは正しいですから、手前がデュエルモンスターズの真髄を知ることには必ず意味はある筈なのですよぉ。是非教えていただきたいですねぇ」

「シュロの言う真髄と合致するかは分かりませんが……」

「あらあら、デュエルモンスターズの真髄を知りたい。そう仰るのですね」

 

 少し迷う私の言葉を遮ってワカモが会話に割り込んできました。能面を被ったワカモの表情は伺い知れませんが、どうもシュロに興味を抱いたようです。一方のシュロは逆に邪魔されたことに苛立ってあからさまに不機嫌になりました。

 

「手前さんは……七度ユキノでしたか? ええ、そうですとも! 手前の琴線に触れるような恐れを、そして畏れを味わわせてくれると?」

「ええ、ええ。構いません。どうせ明日の講義最終日に手本を見せようと思っていたところでしたので。相手はあなたがやっていただけますか?」

「あっははは! 是非とも手前を楽しませてくださいな! あらかじめ言っておきますけど、どんなおどろおどろしい化け物を召喚したって手前は怯えやしませんからねぇ」

「そんなことは百も承知です。忘れられない一戦を堪能させて差し上げます」

 

 シュロは楽しみ半分、嘲り半分で私とワカモから距離を離し、別の受講者とデュエルをし始めました。やはりというかどんな相手でも淡々とデュエルをこなすばかりでちっとも心躍らない様子です。

 

 一方のワカモ、まるで獲物を見つけ出したみたいな獰猛な気配を発しています。これまで大人しくしていた分なおさら普段との違いが分かってしまいました。ワカモがシュロに何を見出したかを今聞くのは野暮でしょう。明日のデュエルを観戦すれば分かるでしょうから。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 7日目。一週間のデュエル講習も終わりを迎えました。集大成のデュエル大会は昨日催してしまったので、今日は一般デュエリストが踏み込んではいけない領域についての説明、そして警告をするつもりでした。

 

「さて、皆さま。デュエルモンスターズの基本は学んだかと思います。あとは自分でデッキを調整し、大会に参加し、他のデュエリストと戦い、交流を深めるのがいいでしょう。ですが、ルールを守って楽しくデュエル!といかないのがこのキヴォトスでのデュエルモンスターズ事情です」

 

「デュエルモンスターズは古の決闘、古の儀式の再現。デュエルを積み重ねれば自ずと勘が鋭くなりますから、そういった命の危険に晒される機会も回避出来るでしょう。ですが、どうしても巻き込まれてしまった場合でも焦らず、恐れる必要はございません。決闘や儀式は無法ではなく手順、段取りが重要ですので」

 

 予定では私とワカモが双方特殊なデッキを使って受講者に少々危険なデュエルを見せるつもりでしたが、ワカモに考えがあるようだったので彼女に譲りました。

 猫被っていた、と表現したら怒りそうですが、これまでと全く雰囲気が異なるワカモに受講者一同は大小の差はあれど怯えているようでした。

 

「ですので、最終日の今日は私がそういった闇の決闘をお見せしましょう。ではお相手を務めていただく方は……」

「勿論手前ですよぉ」

 

 ワカモが指名する前にシュロが手を上げて前へと歩み出てきました。既に扇形デュエルディスクは展開済み。ワカモも扇形デュエルディスクを展開し、自分のデッキを収めました。すぐさまオートシャッフルされます。

 

 私は後ほど皆の前で解説するためにデュエルの記録を始めます。互いのデュエルディスクからデータを収集すればソリッドビジョンで再現出来ますので。あとパソコンには自分の所感をメモ書き出来るようスタンバイしています。

 

 受講者は大半が一体どんなものか興味津々。半数近くが話半分だと捉えたようで気楽に観戦しています。ユカリや他にシャーレ当番に来たことある生徒たちも概ねそんな反応でした。

 

「では、お覚悟はよろしくて?」

「手前さんこそ手前を失望させないでくださいねぇ」

「「デュエル!」」

 

 二人がデュエル開始の宣言をしたと同時でした。周囲の空気が一変したのは。

 何と言うか、急に冷えてきたようですし、重苦しくなった気もします。

 気温と気圧を計測しても先ほどと変わっていませんので、精神的なものですか。

 

「私の先攻。フィールド魔法《宵闇の聖域》を発動」

 

 ワカモがフィールド魔法を展開すると、周囲から色が失われました。まだ昼前なのに雷雲が立ち込めたかのように周囲が薄暗くもなります。まるで異界へと迷い込んだかのように不安がよぎりました。

 

 周囲に動揺が走りました。少し涼しいそよ風が頬を撫でただけで軽く悲鳴を上げる子もいます。カラスが鳴いただけでびっくり仰天する子もいました。得体のしれない恐怖が一同を包み始めたのです。

 

「続いて儀式魔法《幻魎百物語・黄昏夕顔花》を発動」

「……は?」

「手札のレベル10《魔妖仙獣 大刃禍是》を生贄に捧げます」

 

 ワカモ側のフィールドにレベル10の超大型モンスターと呼ぶに相応しい緑色の体をした妖怪が姿を現しますが、そのモンスターの前に突如古書が現れ、勝手に頁がめくられて開き、突然開いた古書から生えた無数の触手に《魔妖仙獣 大刃禍是》は絡め取られました。そして絶叫を上げながら本の中へと引きずり込まれてしまいます。

 

 すると古書から闇のように黒く、血のように朱い液体が地面へと流れていき、水たまりを作っていきました。その水たまりはやがて盛り上がり、破裂し、中から漆黒の妖猫が姿を現しました。決して自然動物では発しない鳴き声を発すると、妖猫の四方に黒く塗られた石灯籠のような封印がされ、鎖で妖猫は拘束されました。

 

「儀式召喚! さあおいでなさい! レベル10、《魔妖仙獣 猫鬼黒影》!」

 

 先攻1ターン目から出現した超大型儀式モンスターを前にシュロは動揺し、しかし動揺をそれ以上の怒りで塗りつぶしました。顔が歪んで激昂した彼女は唾を吐きながら大声を張り上げます。

 

「てめえぇ、どうして「百物語」の「怪談」を使役してるんですかねえぇ!?」

「ふふふ、それは後でお師匠様とやらに聞けばいいでしょう。もっとも、生きて帰れれば、ですがね」

「っっ!」

「カードを1枚伏せてターンエンド。さあ、シュロのターンですよ」

 

 妖艶に笑ったワカモに気圧されたシュロは、しかしかぶりを切って闘志を奮い立たせました。それでも既に彼女はワカモが作り上げた空気に飲み込まれているように思えてなりません。

 




《宵闇の聖域》
とあるOCGカードが化けただけ。どのカードか推理してみてください。

《幻魎百物語・黄昏夕顔花》
儀式魔法
「魔妖仙獣 猫鬼黒影」の降臨に必要。
(1):自分の手札・フィールドから、
レベルの合計が10以上になるようにモンスターをリリースし、
手札から「魔妖仙獣 猫鬼黒影」を儀式召喚する。

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